女川原子力発電所における震災後の点検活動

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カテゴリ: 第10回
1.はじめに
女川原子力発電所は,1 号機および3 号機が通常運転中、2 号機が原子炉起動中のところ、東北地方太平洋沖地震(女川町:震度6 弱)の発生に伴い、平成23 年3 月11 日14 時46 分、全号機の原子炉が自動停止した。その後、全ての原子炉を冷温停止状態に移行し、現在はその状態を維持しつつ、地震後の設備健全性確認, 設備復旧工事,安全対策工事等を実施中である。 2.震災以降に実施した点検・機能確認の概要 今回の復旧にあたっては、かつて経験したことがない大きな地震後の復旧となることから、設備の損傷を見落すことがないよう、より一層確実な点検が求められる。よって今回の復旧のための点検計画は、平成17 年8 月16日に発生した宮城県沖地震後の女川原子力発電所1~3 号機の復旧経験をもとに、平成19 年7 月に発生した新潟県中越沖地震にて被災した東京電力株式会社柏崎刈羽原子力発電所で採用された手法を参考とする等、さまざま知見を取り入れたものとしている。以下、これまでの点検活動について紹介する。地震直後の初期対応として、①地震直後のパトロール、②安全機能確認、③プラントメーカーによるウォークダウンを実施し、地震による発電所設備への影響の早期把握、安全確保に必要な設備の運転状況の確認を実施した。今回の地震では、一部周期で基準地震動Ssを超える地震加速度を観測していることから、特別な保全計画として地震後の健全性確認の計画を策定し、より詳細な点検を実施している。Fig.1 Flow of the inspections
地震後の初期対応地震発生-2011.3①地震直後のパトロール②主要機器の健全性確認③プラントメーカーによるウォークダウン詳細点検地震後の健全性確認点検フェーズ1 現在-2013.6プラント起動プラント起動後の点検①地震後の健全性確認点検フェーズ2 (起動時) ②地震後の健全性確認点検フェーズ3 (運転時) 2.1 地震直後の状況およびパトロール 地震による1 号機高圧電源盤の火災、津波による屋外重油貯蔵タンクの倒壊、2 号機海水ポンプ室・原子炉建屋補機エリア地下階への浸水等の復旧対応に並行して、度重なる余震の中、所内要領に基づき、地震直後のパトロールを実施した。主要設備等への軽微な被害はあるものの、重要な設備に対し安全上問題となる損傷は確認されなかった。2.2 安全機能確認 保安規定に基づき,停止時の安全確保に必要な主要設備(工学的安全施設等)について各種サーベランス等を実施し、運転状態に異常がないこと等の健全性を確認した。2.3 プラントメーカーによるウォークダウン プラント設計者によるウォークダウンにおいては、基礎グラウト部のヘアクラック等の所見が確認されたものの軽微な事象であった。2.4 地震後の設備健全性確認 設備健全性確認は,主に「機器レベル」と「系統レベル」の点検・評価に分けられる。「機器レベル」の点検・評価は、すべての設備に対して実施する「基本点検」(56 分類の機器種別ごとに要求機能と地震による損傷の想定を行い、それぞれの損傷形態に応じて点検手法を選定)および耐震安全上重要な設備に対して実施する「地震応答解析」が基本となる。なお必要に応じて、さらなる状況確認のため分解点検等の「追加点検」の実施により損傷の詳細確認を行うこととした。Fig.2 Flow of the inspections for confirming the soundness . Phase 1 Fig.3 Cause failure modes and inspection items for the horizontal pumps また,基本点検等の結果によって実施するものとは別に、プラント停止中に基本点検ができない設備や知見拡充の目的から分解点検を行うことが望ましい設備等については、予め対象を選定して追加点検を実施している。基本点検の対象には、ポンプや電動機等個々の機器のほか配管や電線管、ケーブルトレイ等も含まれており、これらの点検は「長物点検」と通称される。長物点検は、通常アクセスすることのない天井付近の配管類等の点検を含むため、すべてのエリアにおける大掛かりな足場の設営・管理が必要であった。(足場量は、2 号機において延べ約170,000m3) Fig.4 Situation of the scaffolding for inspections この足場は、配管点検や電路点検、空調ダクト点検等複数の点検グループが共同で使用するため、その管理は非常に煩雑で膨大な作業量となることから、効率的な足場運営管理を行うためプラントメーカーによる一元管理を採用した。 3.設備健全性確認の進捗状況 設備健全性確認は先述のとおり、主に「機器レベル」と「系統レベル」の点検・評価に分けられるが、2 号機については平成24 年12 月末、3 号機については平成25 年3 月末で、「機器レベル」の点検が概ね終了しており、現在は点検結果の取り纏めを実施しているところである。これまでのところ、2 号機と3 号機のタービン動翼の損傷等が確認されたものの、重要な設備に対して安全上問題となる損傷は確認されていない。4.国際原子力機関による調査 平成24 年7 月30 日~8 月9 日にかけて、東日本大震災による女川原子力発電所の構築物、系統および機器への影響について国際原子力機関(IAEA)による調査が行われた。平成25 年4 月に公表された最終報告書では、「女川原子力発電所は、地震動の大きさ、震源からの距離、継続時間等の厳しい状況下でも、構築物、系統及び機器は大きな損傷を受けず、要求された機能を発揮した。この結果は、耐震設計された設備が過酷な地震の揺れに対しても頑健性があることを証明している。女川原子力発電所の施設は、地震の規模、揺れの大きさ、長い継続時間にかかわらず驚くほど損傷を受けていない」と結論づけられている。Fig.5 Investigation by IAEA 5.今後の展開 現在実施している系統・設備の保管を適切に行うとともに、機器レベルの設備健全性確認結果に基づく評価を実施し、系統レベルの点検に移行していく。5.1 長期保管対策 プラントの長期停止に伴い機能要求がない設備については、劣化を抑制するため、満水あるいは水抜き乾燥等の保管対策を実施している。これらの設備については,今後の設備復旧に合わせて健全性を確認していく。また、プラントの停止中においても機能要求があり、運転または待機している設備については、計画的な点検により機能を維持していく。配管 足場 5.2 機器レベルの設備健全性確認 長期保管状態になっている設備については、これらの復旧に合わせて行う基本点検(漏えい試験、作動試験等)を実施していく。また、現在実施している基本点検が完了次第、耐震応答解析の結果と合わせて機器レベルの設備健全性の評価を実施していく。5.3 系統レベルの設備健全性確認 系統内の機器レベルの点検および評価が完了次第、次のステップである「系統レベル」の点検に移行していく。系統レベルの点検では、系統の運転等によって,インターロック,警報の作動,弁の作動,系統流量等の状況を確認し,各系統に要求される機能が健全であることを確認する。この系統レベルの点検では,プラントが長期停止していることを考慮に入れた各種試験も合わせて実施していく。6.まとめ 女川原子力発電所は、東北地方太平洋沖地震の震源に最も近く、非常に大きな地震にさらされたことから、先述の点検や評価を実施することによって、地震後においても設備が健全であるということを確認するとともに,プラントの長期停止を考慮した安全機能維持と設備の劣化抑制のために適切な点検と保管状態の維持に努め、耐震裕度向上工事やさらなる安全性向上対策に継続して取り組んで参りたい。(平成25 年6 月21 日) “ “女川原子力発電所における震災後の点検活動 “ “河上 晃,Akira KAWAKAMI,佐藤 徹,Toru SATO,田村 耕平,Kohei TAMURA,佐藤 幹夫,Mikio SATO,阿部 貴光,Takamitsu ABE
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