原子炉底部管台向け渦電流探傷システムの開発
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カテゴリ: 第10回
隙間に磁性体を配置した小型ECTセンサのプロトタイプを試作し、曲率半径5mm 曲面に存在する深さ0.5mm の
擬試験体を用いた試験結果について報告する。
放電加工(EDM: Electrical Discharge Machining)スリットに対する検出感度を向上させた[3]。ここでは、前記狭隘部BMI 管台は曲率半径約5mmの狭隘部を有し、更に三次元的に曲面が変化する複雑な形状をしている。凹面形状をした狭隘部に対しては、センサと被検査面との距離(リフトオフ)を短くして欠陥検出感度を維持するためにセンサの小型化が必要である。凸面形状部は探傷時のセンサ姿勢維持に課題があるため、センサと被検査面との傾斜角に対する欠陥検出感度の依存性が低いセンサが望まれる。これらの要求を満たすため、クロスコイルの十字の隙間に磁性体を配置したセンサを開発した[3]。従来のセンサはコイルと磁性体との間の距離が長いため、コイルと磁性体とを収納するケーシングサイズの小型化が制限を受けていた。新型センサはコイルと磁性体とが密着しているため小型化が可能になる。また、この密着構造は磁路長を短縮するためコイル周辺に磁場が集中し、被検査体表面に高密度の渦電流を誘起できることを曲率半径5mm の凹面を被検査体モデルとしたシミュレーション計算で示した[3]。
2.2 センサ駆動装置 BMI管台溶接部表面でECTセンサを走査する駆動装置には、同様にBMI 管台向けSCC 予防保全システムとして開発したポータブルレーザピーニング(PLP: Portable Laser Peening)システム[4]の駆動装置を用いた。この構成は検査と予防保全を同一駆動装置で実施できる利点がある。Fig. 1 にセンサ駆動装置の概略図を示す。PLP システムのレーザ照射ヘッドを取り外し、そこにECT センサが組み込まれたアタッチメントを取り付けることで検査システムに変更できる。センサ駆動装置はBMI のノズル上端に固定設置できる構成となっている。駆動装置は旋回、伸展および上下の各駆動軸を有し、センサアタッチメントはセンサ回転駆動軸を有す。これら4 駆動軸は同じ制御装置によりコントロールされ、ECT センサを溶接部表面で走査する。Fig.1 Schematic of sensor driving unit 3.探傷試験方法 3.1 センサ傾斜角依存性試験 凸面形状部におけるECTセンサと被検査面との傾斜角に対する欠陥検出感度の依存性を評価する試験を行った。凸面形状を模擬した試験片としてFig. 2に示す直径38mm の600 合金製円筒を用いた。本円筒試験片には模擬欠陥として試験片外面に機械加工による幅0.4mm、深さ0.5mmの全周スリットを付与した。Table 1 に示す対比試験片のEDM スリットに対する検出感度を0dB に設定した後、ECT センサを試験片の外表面に接触させ被検査面に対する傾斜角を0°から3°まで変化させながら試験周波数500kHz の条件で探傷してセンサ傾斜角と検出感度の関係を測定した。Fig.2 Convex surface specimen Table 1 Calibration block 3.2 BMI 模擬試験体探傷試験 BMI管台狭隘部に対するECTセンサの探傷性能を評価するため、BMI 管台模擬試験体に駆動装置を含むECT システムを設置して探傷試験を行った。BMI 管台模擬試験体の概略図をFig. 3 に示す。模擬試験体は炉底部にノズルを溶接した構造であり、ノズルと溶接金属の材質は600 合金である。山側の溶接部には周方向に長さを持つ人工SCC がノズル外面から10mmの位置に付与してある。対比試験片により位相角を90°に設定した後、このSCC を検出対象として試験周波数500kHz の条件で探傷試験を行った。Material Alloy 600 EDM slit width 0.3 mm EDM slit depth 1 mm φ38 mm Slit (0.4 mm width) (0.5 mm depth) 100 mm 40 mm Inclined angle θ ECT sensor Weld zone Nozzle Driving unit Circling ECT sensor ExtensionUp-and-down Sensor rotation Sensor attachmentFig.3 Schematic of BMI nozzle mock-up 4.探傷試験結果 4.1 センサ傾斜角依存性試験 探傷試験にて得られたセンサ傾斜角と検出感度の関係をFig. 4 に示す。同図から、センサ傾斜角が0°から3° に増加してもスリットに対する検出感度の低下は1dB にとどまっていることが確認できる(従来センサでは1.8dB 低下)。この結果から、開発したセンサではセンサと被検査面との傾斜角に対する欠陥検出感度の依存性が抑制されていることが確認できた。Fig.4 Relationship between inclined angle and sensitivity 4.2 BMI 模擬試験体探傷試験 BMI管台狭隘部に付与したSCC周辺領域の探傷結果として、C スコープ表示をFig. 5 に示す(赤色が高い信号を示し、寒色に向かい信号が低下する)。本C スコープではSCC 付与部分に高い指示信号が確認された。Fig. 5 中の赤色指示部分のリサージュ波形をFig. 6 に示す。本波形は約90°の位相角を示していることから、欠陥すなわちSCC による指示であることが確認できる。以上の結果から、BMI 管台狭隘部の表面検査に向けた見通しを得た。Fig.5 C scope image Fig.6 Lissajous curve 10 mmArtificial SCC on weld zone Nozzle Reactor bottom -12-11-10-9-8-7-60 1 2 3 Inclined angle (deg) Sencitivity (dB) Radial direction Circumferential direction Indication by SCC ECT output voltage : Real (V) ECT output voltage : Imaginary (V) -2-1.5-1-0.500.511.52-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 25.結言 原子炉底部のBMI管台向けECTシステムとして磁性体をコイルに密着させた小型センサとPLP システムを利用したセンサ駆動装置を開発した。BMI 管台のように三次元的に曲面が変化する複雑形状部では被検査面に対するセンサ姿勢維持に課題があるため、センサ傾斜角と欠陥検出感度の関係を測定したところ、従来センサよりも傾斜角に対する欠陥検出感度の依存性が抑制されていることが確認できた。BMI 管台狭隘部に対するECT センサの探傷性能を評価するため、BMI 管台模擬試験体にECT システムを設置して探傷試験を行った結果、山側狭隘部に付与したSCCを検出することができた。以上の結果から、BMI 管台狭隘部の表面検査に向けた見通しを得た。参考文献 [1] N. Kobayashi, T. Kasuya, S. Ueno, M. Ochiai, Y. Yuguchi, C. S. Wyffels, Z. Kuljis, D. Kurek and T. Nenno, “Utility Evaluation of Eddy Current Testing for Underwater Laser Beam Temperbead Welding”, Proceedings of the 8th International Conference on NDE in Relation to Structural Integrity for Nuclear and Pressurised Components, Berlin, 2010, We.2.B.2. [2] S. Ueno, N. Kobayashi, T. Kasuya, M. Ochiai and Y. Yuguchi, “Defect Detectability of Eddy Current Testing for Underwater Laser Beam Welding”, Proceedings of the 19th International Conference on Nuclear Engineering (ICONE19), Osaka, 2011, ICONE19-43658. [3] 野村航大、小林徳康、上野聡一、落合誠、 市川 博也、“小曲率半径部における上置コイル型渦電流探傷信号の特性”、日本保全学会第9 回学術講演会要旨集、東京、 2011、 pp.267-269. [4] I. Chida, T. Uehara, M. Yoda, H. Miyasaka and H. Kato, “Development of Portable Laser Peening Systems for Nuclear Power Reactors”, Proceedings of the 2009 International Congress on Advances in Nuclear Power Plants (ICAPP’09), Tokyo, 2009, ICAPP09-9029. (平成25 年6 月21 日)“ “原子炉底部管台向け渦電流探傷システムの開発 “ “芝 小林,小林 徳康,Noriyasu KOBAYASHI,芝 上野,上野 聡一,Souichi UENO,芝 千田,千田 格,Itaru CHIDA,芝 落合,落合 誠,Makoto OCHIAI,芝 藤田,藤田 友基,Tomoki FUJITA,芝 市川,市川 博也,Hiroya ICHIKAWA“ “原子炉底部管台向け渦電流探傷システムの開発 “ “芝 小林,小林 徳康,Noriyasu KOBAYASHI,芝 上野,上野 聡一,Souichi UENO,芝 千田,千田 格,Itaru CHIDA,芝 落合,落合 誠,Makoto OCHIAI,芝 藤田,藤田 友基,Tomoki FUJITA,芝 市川,市川 博也,Hiroya ICHIKAWA
擬試験体を用いた試験結果について報告する。
放電加工(EDM: Electrical Discharge Machining)スリットに対する検出感度を向上させた[3]。ここでは、前記狭隘部BMI 管台は曲率半径約5mmの狭隘部を有し、更に三次元的に曲面が変化する複雑な形状をしている。凹面形状をした狭隘部に対しては、センサと被検査面との距離(リフトオフ)を短くして欠陥検出感度を維持するためにセンサの小型化が必要である。凸面形状部は探傷時のセンサ姿勢維持に課題があるため、センサと被検査面との傾斜角に対する欠陥検出感度の依存性が低いセンサが望まれる。これらの要求を満たすため、クロスコイルの十字の隙間に磁性体を配置したセンサを開発した[3]。従来のセンサはコイルと磁性体との間の距離が長いため、コイルと磁性体とを収納するケーシングサイズの小型化が制限を受けていた。新型センサはコイルと磁性体とが密着しているため小型化が可能になる。また、この密着構造は磁路長を短縮するためコイル周辺に磁場が集中し、被検査体表面に高密度の渦電流を誘起できることを曲率半径5mm の凹面を被検査体モデルとしたシミュレーション計算で示した[3]。
2.2 センサ駆動装置 BMI管台溶接部表面でECTセンサを走査する駆動装置には、同様にBMI 管台向けSCC 予防保全システムとして開発したポータブルレーザピーニング(PLP: Portable Laser Peening)システム[4]の駆動装置を用いた。この構成は検査と予防保全を同一駆動装置で実施できる利点がある。Fig. 1 にセンサ駆動装置の概略図を示す。PLP システムのレーザ照射ヘッドを取り外し、そこにECT センサが組み込まれたアタッチメントを取り付けることで検査システムに変更できる。センサ駆動装置はBMI のノズル上端に固定設置できる構成となっている。駆動装置は旋回、伸展および上下の各駆動軸を有し、センサアタッチメントはセンサ回転駆動軸を有す。これら4 駆動軸は同じ制御装置によりコントロールされ、ECT センサを溶接部表面で走査する。Fig.1 Schematic of sensor driving unit 3.探傷試験方法 3.1 センサ傾斜角依存性試験 凸面形状部におけるECTセンサと被検査面との傾斜角に対する欠陥検出感度の依存性を評価する試験を行った。凸面形状を模擬した試験片としてFig. 2に示す直径38mm の600 合金製円筒を用いた。本円筒試験片には模擬欠陥として試験片外面に機械加工による幅0.4mm、深さ0.5mmの全周スリットを付与した。Table 1 に示す対比試験片のEDM スリットに対する検出感度を0dB に設定した後、ECT センサを試験片の外表面に接触させ被検査面に対する傾斜角を0°から3°まで変化させながら試験周波数500kHz の条件で探傷してセンサ傾斜角と検出感度の関係を測定した。Fig.2 Convex surface specimen Table 1 Calibration block 3.2 BMI 模擬試験体探傷試験 BMI管台狭隘部に対するECTセンサの探傷性能を評価するため、BMI 管台模擬試験体に駆動装置を含むECT システムを設置して探傷試験を行った。BMI 管台模擬試験体の概略図をFig. 3 に示す。模擬試験体は炉底部にノズルを溶接した構造であり、ノズルと溶接金属の材質は600 合金である。山側の溶接部には周方向に長さを持つ人工SCC がノズル外面から10mmの位置に付与してある。対比試験片により位相角を90°に設定した後、このSCC を検出対象として試験周波数500kHz の条件で探傷試験を行った。Material Alloy 600 EDM slit width 0.3 mm EDM slit depth 1 mm φ38 mm Slit (0.4 mm width) (0.5 mm depth) 100 mm 40 mm Inclined angle θ ECT sensor Weld zone Nozzle Driving unit Circling ECT sensor ExtensionUp-and-down Sensor rotation Sensor attachmentFig.3 Schematic of BMI nozzle mock-up 4.探傷試験結果 4.1 センサ傾斜角依存性試験 探傷試験にて得られたセンサ傾斜角と検出感度の関係をFig. 4 に示す。同図から、センサ傾斜角が0°から3° に増加してもスリットに対する検出感度の低下は1dB にとどまっていることが確認できる(従来センサでは1.8dB 低下)。この結果から、開発したセンサではセンサと被検査面との傾斜角に対する欠陥検出感度の依存性が抑制されていることが確認できた。Fig.4 Relationship between inclined angle and sensitivity 4.2 BMI 模擬試験体探傷試験 BMI管台狭隘部に付与したSCC周辺領域の探傷結果として、C スコープ表示をFig. 5 に示す(赤色が高い信号を示し、寒色に向かい信号が低下する)。本C スコープではSCC 付与部分に高い指示信号が確認された。Fig. 5 中の赤色指示部分のリサージュ波形をFig. 6 に示す。本波形は約90°の位相角を示していることから、欠陥すなわちSCC による指示であることが確認できる。以上の結果から、BMI 管台狭隘部の表面検査に向けた見通しを得た。Fig.5 C scope image Fig.6 Lissajous curve 10 mmArtificial SCC on weld zone Nozzle Reactor bottom -12-11-10-9-8-7-60 1 2 3 Inclined angle (deg) Sencitivity (dB) Radial direction Circumferential direction Indication by SCC ECT output voltage : Real (V) ECT output voltage : Imaginary (V) -2-1.5-1-0.500.511.52-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 25.結言 原子炉底部のBMI管台向けECTシステムとして磁性体をコイルに密着させた小型センサとPLP システムを利用したセンサ駆動装置を開発した。BMI 管台のように三次元的に曲面が変化する複雑形状部では被検査面に対するセンサ姿勢維持に課題があるため、センサ傾斜角と欠陥検出感度の関係を測定したところ、従来センサよりも傾斜角に対する欠陥検出感度の依存性が抑制されていることが確認できた。BMI 管台狭隘部に対するECT センサの探傷性能を評価するため、BMI 管台模擬試験体にECT システムを設置して探傷試験を行った結果、山側狭隘部に付与したSCCを検出することができた。以上の結果から、BMI 管台狭隘部の表面検査に向けた見通しを得た。参考文献 [1] N. Kobayashi, T. Kasuya, S. Ueno, M. Ochiai, Y. Yuguchi, C. S. Wyffels, Z. Kuljis, D. Kurek and T. Nenno, “Utility Evaluation of Eddy Current Testing for Underwater Laser Beam Temperbead Welding”, Proceedings of the 8th International Conference on NDE in Relation to Structural Integrity for Nuclear and Pressurised Components, Berlin, 2010, We.2.B.2. [2] S. Ueno, N. Kobayashi, T. Kasuya, M. Ochiai and Y. Yuguchi, “Defect Detectability of Eddy Current Testing for Underwater Laser Beam Welding”, Proceedings of the 19th International Conference on Nuclear Engineering (ICONE19), Osaka, 2011, ICONE19-43658. [3] 野村航大、小林徳康、上野聡一、落合誠、 市川 博也、“小曲率半径部における上置コイル型渦電流探傷信号の特性”、日本保全学会第9 回学術講演会要旨集、東京、 2011、 pp.267-269. [4] I. Chida, T. Uehara, M. Yoda, H. Miyasaka and H. Kato, “Development of Portable Laser Peening Systems for Nuclear Power Reactors”, Proceedings of the 2009 International Congress on Advances in Nuclear Power Plants (ICAPP’09), Tokyo, 2009, ICAPP09-9029. (平成25 年6 月21 日)“ “原子炉底部管台向け渦電流探傷システムの開発 “ “芝 小林,小林 徳康,Noriyasu KOBAYASHI,芝 上野,上野 聡一,Souichi UENO,芝 千田,千田 格,Itaru CHIDA,芝 落合,落合 誠,Makoto OCHIAI,芝 藤田,藤田 友基,Tomoki FUJITA,芝 市川,市川 博也,Hiroya ICHIKAWA“ “原子炉底部管台向け渦電流探傷システムの開発 “ “芝 小林,小林 徳康,Noriyasu KOBAYASHI,芝 上野,上野 聡一,Souichi UENO,芝 千田,千田 格,Itaru CHIDA,芝 落合,落合 誠,Makoto OCHIAI,芝 藤田,藤田 友基,Tomoki FUJITA,芝 市川,市川 博也,Hiroya ICHIKAWA