フィルタードベントシステムに関する研究
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カテゴリ: 第10回
1.緒言
東日本大震災に伴い発生した福島第一原子力発電所事故では、大量の放射性物質が周辺環境に飛散した。放射性物質をフィルターで除去し、格納容器内の蒸気を大気に放出することができるフィルタードベントが設置されていれば、周辺環境に甚大な影響を及ぼさなかったと考えられる。またフィルタードベントはヒートシンクの確保にもつながり、炉心冷却能力の向上につながると考えられる。現在国内の原子力発電所においてフィルタードベントの導入が進められているが、放射性物質の除去能力や信頼性は国内で検証されておらず、作動状態に関するデータが不足している。そこで本研究では欧州で開発されている様々なフィルタードベントを模擬・実験しその性能評価を実施することを目的としている。また研究から得られた知見より、より高度なフィルタードベントシステムを開発することを目標としている。
2.可視化試験 2.1 概要 本研究は、①ゼオライトが事故時に想定される圧力や温度、pHと放射性核種吸着特性、②ゼオライトを投入したカラム容器内における実機条件での蒸気供給時フィルターカラム試験、③水素爆発を防ぎ、適切なタイミングでベントを行うベントシステムの成立性評価を行い、本発表では②について発表する。 図1に実験装置の略図・概観図を示す。蒸気ボイラより一定圧の蒸気を供給し、装置下部のノズルから水中に蒸気を注入する。装置円筒部はポリカーボネート製の円筒を使用し、内部の水フィルター、サンドフィルターの挙動を観察できるよう可視化されている。装置内部各点において、圧力・温度を測定し、蒸気の挙動を測定した。その結果、蒸気を下部から上部へ流入させる体系では水フィルター温度が沸点に近づくと。急激に沸騰し間欠的に液が吹き上げられるガイセリングが発生することを確認した。初期実験では、フィルターの性能向上や崩壊熱の除去を考え、水フィルターと砂フィルターを混合したフィルターを用いていたが、ガイセリングの影響を考慮しこれらを分離したフィルターを用いて実験を実施した(図2)。分離したフィルターを用いた実験では、サンドフィルターの粒径やフィルター厚さ、水フィルターの有無、入口蒸気圧力を変更し実験を実施した。 BoilerMist SeparatorZeoliteand Water filterWater FilterABDFECPorous NozzleFig.1 Experimental Equipment 1 Wet typeDry typeZeoliteWater filterWire NettingMist SeparatorPTPTPTPTFig.2 Experimental Equipment 2 2.2 実験結果 可視化試験の結果の一例を図3,4,5に示す。実験開始後、サンドフィルター入口部において圧力が上昇していき、サンドフィルター間の差圧が徐々に大きくなること測定した(図3)。サンドフィルターの粒径を小さくした場合、サンドフィルターの厚さを増やした場合、入口圧力を大きくした場合にサンドフィルター間の差圧が大きくなることを確認した(図4,5)。内部挙動の観察から、ガイセリングによって吹き上げられた水フィルターがサンドフィルター内に蓄積、または蒸気がサンドフィルター内部で凝縮していくと、水筒圧に相当する差圧が発生することを確認した。これは凝縮水による水封現象により流路が狭められているためと考えられる。 Fig.3 Pressure of each Point Fig.4 Differential Pressure Fig.5 Differential Pressure (effect of thickness) 3.TRAC解析 3.1 解析モデル 現在、放射性物質の除去性能を向上させるために、ベンチュリスクラバーやゼオライトを用いたフィルター(モレキュラシーブ)を組み合わせたフィルタードベントシステムの開発が進められている。作動条件を満たし、より性能の高い設計を行うためセシウムやヨウ素、希ガスなどの発熱を考慮したモデルを構築し解析を行った。解析モデルを図6に示す。本解析では湿分離器の影響を考慮するためにモデルを2分割し解析を実施した。 Venturi NozzleMist SeparatorOrificeWater filterAgXFig.6 Analytical Model 3.2 ソースタームと崩壊熱計算 フィルタードベントに流入し水フィルター部や装置内部での崩壊熱を考慮するため、北海道大学で現在開発中の汎用炉物理計算コードCBZを使用し、原子炉停止後比較的短い時間スケールにおける崩壊熱を算出した(図7,8)。 0510152025303540050100150200250300Radioactivity [1018Bq/core]Time after shutdown [hour]1/27時間後48時間後72時間後5/97hours later24hours later24hours laterFig.7 Radioactivity of Noble Gas 図8に解析結果の一部を示す。装置に流入した蒸気はベンチュリを通過し霧吹効果により吸込まれた水と混合し、放出される。崩壊熱により、蒸気は過熱蒸気になるが、水フィルターを通過することで飽和蒸気に戻る。 02040608010012014016005001000150020002500Temperature[℃]Z [mm]Water FIlterVenturiSuper HeatedFig.8 Temperature 4.結言 福島第一原子力発電所事故を拡大させた要因の一つとして、ベント実施の遅延があげられる。すみやかにベントを実施し格納容器内を減圧することができれば、炉心の冷却をより効果的に行うことができたと考えられる(フィードアンドブリード)。フィルタードベントを設置してあれば、格納容器から放出される恐れのある放射性物質を最小限にとどめながら速やかなベントを実施することができ、消防ポンプを用いた格納容器代替冷却も容易であったと思うと残念である。ゼオライトのサンドフィルター内部の水分濃度が上昇すると水封現象による内部圧力上昇に伴い、フィルター間の差圧が大きくなりゼオライトとの接触時間などが短くなる恐れがある。また除染効率を向上させた銀ゼオライトは、表面に水膜が形成されると放射性物質の吸着性能が低下する恐れが指摘されている。試験結果などの知見を反映した十分なシステム特性評価が今後重要であると考えられる。 参考文献 [1] 奈良林直,杉山憲一.「東日本大震災に伴う原子力発電所の事故と災害 福島第一原子力発電所の事故の要因分析と教訓」原子力学会誌「ATOMΣ」,vol.53,No.6,(2011),PP.387-400. [2] 日本原子力研究開発機構核データ評価研究グループ,日本原子力学会崩壊熱推奨値の表,http://wwwndc.jaea.go.jp/DHTable/index.html [3] 上澤ら,「ベンチュリ管内気泡微細化現象における気泡挙動と流動特性」, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjmf/26/5/26_567/_pdf (平成25年6月21日)
“ “フィルタードベントシステムに関する研究 “ “藤井 康弘,Yasuhiro FUJII,奈良林 直,Tadashi NARABAYASHI,佐藤 修彰,Nobuaki SATO,辻 雅司,Masashi TSUJI,千葉 豪,Go CHIBA,川本 洋右,Yosuke KAWAMOTO“ “フィルタードベントシステムに関する研究 “ “藤井 康弘,Yasuhiro FUJII,奈良林 直,Tadashi NARABAYASHI,佐藤 修彰,Nobuaki SATO,辻 雅司,Masashi TSUJI,千葉 豪,Go CHIBA,川本 洋右,Yosuke KAWAMOTO
東日本大震災に伴い発生した福島第一原子力発電所事故では、大量の放射性物質が周辺環境に飛散した。放射性物質をフィルターで除去し、格納容器内の蒸気を大気に放出することができるフィルタードベントが設置されていれば、周辺環境に甚大な影響を及ぼさなかったと考えられる。またフィルタードベントはヒートシンクの確保にもつながり、炉心冷却能力の向上につながると考えられる。現在国内の原子力発電所においてフィルタードベントの導入が進められているが、放射性物質の除去能力や信頼性は国内で検証されておらず、作動状態に関するデータが不足している。そこで本研究では欧州で開発されている様々なフィルタードベントを模擬・実験しその性能評価を実施することを目的としている。また研究から得られた知見より、より高度なフィルタードベントシステムを開発することを目標としている。
2.可視化試験 2.1 概要 本研究は、①ゼオライトが事故時に想定される圧力や温度、pHと放射性核種吸着特性、②ゼオライトを投入したカラム容器内における実機条件での蒸気供給時フィルターカラム試験、③水素爆発を防ぎ、適切なタイミングでベントを行うベントシステムの成立性評価を行い、本発表では②について発表する。 図1に実験装置の略図・概観図を示す。蒸気ボイラより一定圧の蒸気を供給し、装置下部のノズルから水中に蒸気を注入する。装置円筒部はポリカーボネート製の円筒を使用し、内部の水フィルター、サンドフィルターの挙動を観察できるよう可視化されている。装置内部各点において、圧力・温度を測定し、蒸気の挙動を測定した。その結果、蒸気を下部から上部へ流入させる体系では水フィルター温度が沸点に近づくと。急激に沸騰し間欠的に液が吹き上げられるガイセリングが発生することを確認した。初期実験では、フィルターの性能向上や崩壊熱の除去を考え、水フィルターと砂フィルターを混合したフィルターを用いていたが、ガイセリングの影響を考慮しこれらを分離したフィルターを用いて実験を実施した(図2)。分離したフィルターを用いた実験では、サンドフィルターの粒径やフィルター厚さ、水フィルターの有無、入口蒸気圧力を変更し実験を実施した。 BoilerMist SeparatorZeoliteand Water filterWater FilterABDFECPorous NozzleFig.1 Experimental Equipment 1 Wet typeDry typeZeoliteWater filterWire NettingMist SeparatorPTPTPTPTFig.2 Experimental Equipment 2 2.2 実験結果 可視化試験の結果の一例を図3,4,5に示す。実験開始後、サンドフィルター入口部において圧力が上昇していき、サンドフィルター間の差圧が徐々に大きくなること測定した(図3)。サンドフィルターの粒径を小さくした場合、サンドフィルターの厚さを増やした場合、入口圧力を大きくした場合にサンドフィルター間の差圧が大きくなることを確認した(図4,5)。内部挙動の観察から、ガイセリングによって吹き上げられた水フィルターがサンドフィルター内に蓄積、または蒸気がサンドフィルター内部で凝縮していくと、水筒圧に相当する差圧が発生することを確認した。これは凝縮水による水封現象により流路が狭められているためと考えられる。 Fig.3 Pressure of each Point Fig.4 Differential Pressure Fig.5 Differential Pressure (effect of thickness) 3.TRAC解析 3.1 解析モデル 現在、放射性物質の除去性能を向上させるために、ベンチュリスクラバーやゼオライトを用いたフィルター(モレキュラシーブ)を組み合わせたフィルタードベントシステムの開発が進められている。作動条件を満たし、より性能の高い設計を行うためセシウムやヨウ素、希ガスなどの発熱を考慮したモデルを構築し解析を行った。解析モデルを図6に示す。本解析では湿分離器の影響を考慮するためにモデルを2分割し解析を実施した。 Venturi NozzleMist SeparatorOrificeWater filterAgXFig.6 Analytical Model 3.2 ソースタームと崩壊熱計算 フィルタードベントに流入し水フィルター部や装置内部での崩壊熱を考慮するため、北海道大学で現在開発中の汎用炉物理計算コードCBZを使用し、原子炉停止後比較的短い時間スケールにおける崩壊熱を算出した(図7,8)。 0510152025303540050100150200250300Radioactivity [1018Bq/core]Time after shutdown [hour]1/27時間後48時間後72時間後5/97hours later24hours later24hours laterFig.7 Radioactivity of Noble Gas 図8に解析結果の一部を示す。装置に流入した蒸気はベンチュリを通過し霧吹効果により吸込まれた水と混合し、放出される。崩壊熱により、蒸気は過熱蒸気になるが、水フィルターを通過することで飽和蒸気に戻る。 02040608010012014016005001000150020002500Temperature[℃]Z [mm]Water FIlterVenturiSuper HeatedFig.8 Temperature 4.結言 福島第一原子力発電所事故を拡大させた要因の一つとして、ベント実施の遅延があげられる。すみやかにベントを実施し格納容器内を減圧することができれば、炉心の冷却をより効果的に行うことができたと考えられる(フィードアンドブリード)。フィルタードベントを設置してあれば、格納容器から放出される恐れのある放射性物質を最小限にとどめながら速やかなベントを実施することができ、消防ポンプを用いた格納容器代替冷却も容易であったと思うと残念である。ゼオライトのサンドフィルター内部の水分濃度が上昇すると水封現象による内部圧力上昇に伴い、フィルター間の差圧が大きくなりゼオライトとの接触時間などが短くなる恐れがある。また除染効率を向上させた銀ゼオライトは、表面に水膜が形成されると放射性物質の吸着性能が低下する恐れが指摘されている。試験結果などの知見を反映した十分なシステム特性評価が今後重要であると考えられる。 参考文献 [1] 奈良林直,杉山憲一.「東日本大震災に伴う原子力発電所の事故と災害 福島第一原子力発電所の事故の要因分析と教訓」原子力学会誌「ATOMΣ」,vol.53,No.6,(2011),PP.387-400. [2] 日本原子力研究開発機構核データ評価研究グループ,日本原子力学会崩壊熱推奨値の表,http://wwwndc.jaea.go.jp/DHTable/index.html [3] 上澤ら,「ベンチュリ管内気泡微細化現象における気泡挙動と流動特性」, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjmf/26/5/26_567/_pdf (平成25年6月21日)
“ “フィルタードベントシステムに関する研究 “ “藤井 康弘,Yasuhiro FUJII,奈良林 直,Tadashi NARABAYASHI,佐藤 修彰,Nobuaki SATO,辻 雅司,Masashi TSUJI,千葉 豪,Go CHIBA,川本 洋右,Yosuke KAWAMOTO“ “フィルタードベントシステムに関する研究 “ “藤井 康弘,Yasuhiro FUJII,奈良林 直,Tadashi NARABAYASHI,佐藤 修彰,Nobuaki SATO,辻 雅司,Masashi TSUJI,千葉 豪,Go CHIBA,川本 洋右,Yosuke KAWAMOTO