非常用復水器を用いた過酷事故防止策に関する研究

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カテゴリ: 第10回
1.緒言
2011年3月11日の福島第一原子力発電所における事故の教訓は、津波に起因する全交流電源喪失時においても炉心を冠水維持しなければならないということである。1号機には全交流電源喪失時に原子炉を冷却することが出来る非常用復水器(Isolation Condenser)ICが設置されていたが、電源喪失時に隔離弁が閉鎖する設定をされていたため、作動することができなかった。本研究では、最初に福島第1原子力発電所に装備されていたICの冷却能力を定量的に評価し、そして次にICの性能や有効性を確かめるために、非常用復水器を模擬した高圧可視化実験装置を用いて冷却実験を行った。
2.崩壊熱の評価
ICの冷却能力を評価する為には炉心の崩壊熱を正確に計算する必要がある。そこで、崩壊熱を計算するコードを作成した。コード中の計算式は米国原子 力学会の定めた簡易手法に基づいている。核燃料や
出力のデータは福島第1原子力発電所の当時の公表値を使用した。資料[6]より、燃料集合体は,高燃焼度8×8 燃料が68体,9×9 燃料(B 型)が332体装荷されていた。また資料[4]より、事故当時に装荷されていた燃料集合体の燃焼期間を計算した。これらを考慮して事故当時の燃料のウランとプルトニウムの個数密度を計算してコードに入力し、原子炉停止後に発生する崩壊熱を計算した。得られた崩壊熱を定格熱出力で除した規格化崩壊熱の時間変化をFig.1に示す。ここでは,地震発生後の全制御棒挿入時刻を0 sとした。 Fig.1 Decay heat power of plant thermal output 福島第一原子力発電所1号機の定格熱出力は138万kWであるため、各時間における炉心中の崩壊熱はTable 1のようになった。 Event Time Decay heat power[MW] IC started 0.61944444444444436.3Station black out 0.65069444444444419.8Table1 Decay heat power in core 3.1 ICモデルによる低圧可視化実験概要 実機ICの除熱能力を評価するため、原子炉過渡解析コードMini-TRACを用いる。このコードの入力データの妥当性を検証する為にICを模した可視化実験装置を製作して冷却実験を行った。実験装置の全体構造をFig.2に示す。実験装置の伝熱管部分は直径6mmのU字管で構成されており、実験ではボイラーから0.3MPaの蒸気をこの管に通す。実験において、図に示されている伝熱管の5ヵ所の部分と出入り口の温度、冷却水温度等を測定した。 Fig.2 Schematic structure of experimental apparatus 3.2 実験結果 実験によって計測された管中の温度をFig.3に示す。この結果より、T1~T4までの管中温度が133度前後であるため、T1~T4までの部分で蒸気の凝縮が行われていると判断できる。これは、実験中の伝熱管の入口からT4までの表面において表面沸騰が観察できたことからも裏付けられる。凝縮が行われる 部分で表面沸騰が発生する理由は、管内が凝縮熱伝達になることによってこの部分の熱伝達率が大きくなり、管壁を通過する熱流束が高くなるからであると考えられる。 Fig.3 experimental results 3.3 低圧可視化実験解析体系 解析には,実機解析と同様に原子炉システム過渡解析コードMini-TRACを用い、Fig.3に示す解析体系で実験装置を模擬した。U字状にベンドしている部分は5つのエルボを組み合わせることによって表現した。 Fig.4 Analysis system of experiment device 解析における境界条件は以下の通りに設定した。入口条件は圧力指定条件で圧力0.3MPa、温度406Kの飽和蒸気とし、出口条件は流速指定条件で実験時に観測された流速1.3cm/sの水となるようにした。この解析で得られた温度値と実測値を比較するとよく一致した。このことからMini-TRACコードを用いた解析手法の妥当性を確認できた。 4.実機ICの除熱解析 実機解析では、実際に福島第一原子力発電所1号機において使用されていたICの寸法を用いた。細管一本の外径は31.8mm、厚さは2.0mmである。実機ICの伝熱管はFig.5の様になっており、半円部分の半径Rの長さが4種類存在する。しかし、これらの半径部分の長さは直線部分に比べて非常に短い。よってこれらの半径部分は平均をとって統一した半径で扱うことにし、半径Rは163mmとして解析した。管の正確な本数が不明であった為、管束の断面の作図から本数を推測することにした。伝熱管の配列が三角錯列構造であると考えた時、管束の直径が690mmであることと管の直径から、1つの管束における伝熱管の本数は24本であると考えられる。IC一基に管束は2個備わっていることから、本研究ではIC一基の伝熱管の本数を48本として解析を行った。ICモデルの解析の時と同様に実機ICをFig.6の様にセルを分けて解析を行った。解析はICが起動したときと津波が到達したときの2つの条件で行った。資料[2]より事故時のICの最大流量は2基合わせて120t/hとし、圧力はIC起動時で7.2MPa,津波到達時で7MPaとした。 Fig.5 Isolation Condenser Fig.6 Analysis system of Isolation Condenser 解析の結果、各時間におけるICの除熱能力は、IC起動時においては約42MW、津波到達時においては約36MWとなり同時刻の崩壊熱出力よりも大きいことを確認した。 5 高圧可視化実験装置を用いた実験 低圧での実験が終了したため、実機相当の高圧における実験をするために非常用復水器を模擬した高圧可視化実験装置を作成した。実験装置の全体の体系は圧力容器と IC 模型部を組み合わせたFig.7のような構成になっている。IC 模型部は冷却水タンクと A 系と B 系の 2 本の U 字型伝熱管から構成されており、伝熱管には長さ1m、内径 10.9mm のステンレス鋼の管が使用されている。実機ICではICが圧力容器の上方に配置されており、圧力容器内とIC装置内の水面の高さの差による水頭差圧によって配管内の蒸気の循環が自然に駆動するようになっている。高圧可視化実験装置においてはこのIC配管内の自然循環を模擬するために、IC模型部をアキュムレータの上方約4mに配置することで水頭差圧を発生させるようにした。この実験装置に圧力容器から飽和蒸気を供給して冷却実験を行い、圧力、流量、圧力容器水位、Fig.7に示した伝熱管の 6箇所の部分の管内温度などを測定した。 Fig.7 Visualized Experimental Device 5.2 実験結果 実験中の伝熱管の表面の一部において、Fig.8の様な表面沸騰が観察できた。これは、伝熱管中において蒸気が凝縮している部分は凝縮熱伝達となり、凝縮が終了して管中が水単相になった部分よりも熱伝達率が高くなるためだと考えられる。実験において計測された管中の温度の代表として、圧力容器が1MPaの時のA系の測定結果をFig.9に示す。各実験における伝熱管温度の測定結果から、圧力容器から供給された蒸気が冷却・凝縮されていることが確認できた。また、Fig.10の様に様々な圧力をもった圧力容器の冷却実験を行った結果、各実験において圧力容器を減圧することができることを確認した。 Fig8 Photograph of the experimental Device Fig.9 Records of temperature Fig.10 Record of steam pressure 6 結論 実機ICの解析より得たICの除熱能力は同時刻の炉心から放出される崩壊熱を上回っていることを確認できた。このことから、福島第一原子力発電所の事故時に1号機のICが動作していれば十分崩壊熱を除去でき、炉心の冷却を維持して燃料の冠水を維持することが可能であったと考えられる。また、高圧可視化実験装置の実験結果より、この実験装置が実機ICと同様に電力を用いずに自然循環のみで圧力容器を冷却・減圧できることを確認した。 参考文献 [1]奈良林直,杉山憲一郎.「東日本大震災に伴う原子力発電所の事故と災害 福島第一原子力発電所の事故の要因分析と教訓」原子力学会誌「アトモス」,vol.53, No.6 , (2011),P.387-400 [2]原子力安全基盤機構 原子力システム安全部.「福島第一原子力発電所1号機非常用復水器(IC)作動時の原子炉挙動解析」(2011) [3] 東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会「中間報告書」(2011),P466-474 [4] 東京電力「福島第1原子力発電所第1号機 平成21年度(第26回)定期事業者検査 実施結果報告」(参照2012-2-6) [5] American Nuclear Society「Decay heat power in light water reactors」ANSI/ANS-5.1(2005) [6] 東京電力「東京電力原子力データライブラリ」 〈http://aoisora.org/genpatu/2011/tepco_data/20110409151130/atomfuel01-j.html〉(参照2012-2-6)
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