最適な原子炉保全のための燃料リークに起因するリスク評価
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カテゴリ: 第10回
1.緒言
1.1 燃料と保全 原子炉を安全に運転するためには,設計・建設段階において安全性を考慮しているだけでは不十分である.供用期間中に変化するシステムや機器の状態に応じた継続的な保全活動が必要である.実際には,原子炉システム全体の安全性を最大限に高めるために,限られたリソースを重要度の高い部分により多く割り振る必要があるため,保全を最適化する必要が生じる.その際,機器の重要度や脆弱性を考慮するために,リスク評価が必要となる.燃料は燃焼度に応じて数年で交換される消耗品である. そのため,これまで燃料そのものの保全についてはほとんど考えられていない.しかし実際には,原子炉内での使用期間中に想定外の事象,すなわち,燃料の被覆が破れて放射性物質が燃料側から炉水側へ漏えいする事象(燃料リーク)が起こる.日本国内では今でも年数件ほど報告されている.Fig.1 に燃料リークの模式図を示す. 被覆管 放射能閉じ込め機能燃料棒UO2ペレット燃料リーク被覆管破損1次冷却水(炉水) 放射性物質漏えい(I131,Xe133,・・・) Fig.1 Schematic diagram of fuel leak 保安規定においては,燃料リークに関する基準として炉水中のヨウ素131(I131)の濃度が運転上の制限値として規定されており,リーク燃料発生時の対応を決める際の重要な指標となっている.炉水中のヨウ素濃度は週1 ~3 回程度のサンプリング調査によってモニタリングされており,燃料リークが検知されると保安規定の運転上の制限値に達しなくとも,予防的に原子炉を停止するなどの措置が取られることがある.このように,燃料は放射能閉じ込めの安全上重要な機能を有しているため,燃料リーク発生時の対応がシステム全体に与える影響は非常に大きい.そのため,原子炉の最適な保全を考える上でも,リーク燃料の取扱いは重要な課題であり,リスク評価に基づいた科学的・合理的な対応が必要である. 1.2 リスク評価
原子炉機器の脆弱性・重要度等を評価する手法として確率論的リスク評価(PRA)がある.例えば,地震PRA では,地震に起因する原子炉機器の故障を考慮してリスク(炉心損傷頻度)を評価するための方法論が確立されている.Fig.2 に地震PRA の概要を示す.そこでは,発生頻度が極めて小さい地震も含めたリスク評価を行っており,地震動の強さごとの地震の発生頻度を表した地震「ハザード曲線」と,地震動の強さに対する機器の機能喪失確率を表した「フラジリティ曲線」を用いて,「リスク曲線」(炉心損傷頻度曲線)を求めている.これは,地震動の大きさに対する機器の機能喪失リスクを表したものである. 本研究では,この地震PRA のロジック[1]を参考にしつつ,燃料リークに起因する原子炉停止リスクを評価するための方法論を新たに構築し,評価を行った.リスク評価の考え方は地震PRA のように,従来はシステムに対して適用されることが多かったが,ここでは材料の機能喪失の評価そのものに応用しており,これが本研究の特色である.地震動強さ機能喪失確率フラジリティ曲線発生頻度地震動強さ地震動強さ炉心損傷頻度地震ハザード曲線炉心損傷頻度曲線(リスク曲線) 地震PRAの概要機器1 機器2 Fig.2 Procedure of seismic PRA 2.燃料リーク進展モデル まず,燃料リーク発生時の炉水中のI131 の濃度変化をモデル化した.ここでは,炉水I131 濃度変化に係る事象として,燃料被覆管の破損に伴う燃料側から炉水側へのI131 の漏えい,核壊変による減衰,原子炉浄化系装置における浄化を考慮した.これらを考慮すると炉水ヨウ素濃度の時間変化率は次式で表される[2]. -1ここで,C は1 次冷却水(炉水)中のI131 の濃度,R は燃料から炉水へのI131 の漏えい率,V は1次冷却水の水量,λはI131 の壊変定数,Fcは浄化系の流量をそれぞれ表す. 漏えい率R が時間によらず一定であると仮定すると, 式(1)を積分することにより,炉水ヨウ素濃度は次式で求められる. -2式(2)から算出した炉水ヨウ素濃度の時間変化をFig.3 に示す.このように時間の経過とともに,炉水ヨウ素濃度は増加し,やがて一定値( )に漸近する.例えば,柏崎刈羽原発6 号機の運転上の制限値は1300 (Bq/g)であるが,I131 の漏えい率R が3.76×107(Bq/s) 以下であれば時間が経過しても制限値を越えることはないと考えられる. Fig.1 に示したように,燃料リークは被覆管材料の破損に起因して起こる.そのため,漏えい率R は被覆管材料の特性を反映するパラメータであり,材料製造プロセスに起因するばらつきや多様な破損形態に依存する.被覆管材料の破損形態は損傷モードとして系統的に整理されており[3],フレッティング摩耗,塑性変形,過大腐食等の様々な損傷モードが挙げられている.このような材料の状態のばらつきを考慮すると,漏えい率R が時間平均的には一定値と考えられるとしても,そこには,短期間のうちに大量のI131 を放出する事象や,長期間かけて少しずつ放出する事象など,様々な事象が内包されていると考えられる.そこで,本研究では,漏えい率R を燃料リークに関する事象の発生頻度F と影響度I の積で表されると考えた.一定のR をとる時のF とI の組み合わせをプロットした「ハザード曲線」をFig.4 に示す.このように,R の値は不変でも,F とI には様々な組み合わせが考C VF C VR t C . .. . c d d . . . . . . ... ... .. . . . 1 exp ( ) Vt F V F C R c c . . . . c R / V. . Fえられる.少量のI131 を放出する現象は頻繁に起こるが, 多量のI131 を放出する現象は起こりにくい. 本研究では,燃料リークを発生させる事象の発生頻度と影響度(Fig.4 のようなハザード曲線)と,式(1)をモンテカルロ法を用いて積分することにより,炉水I131 濃度の時間変化を算出した.そして,その結果を基に, 燃料リークに起因する炉停止頻度曲線(リスク曲線)を導出した.方法論において地震PRA と異なる点は,Fig. 2 のフラジリティ曲線を使用する代わりにモデル式の積分を行った点である. 0 10 20 30 02004006008001000120014000.00 8.64x105 1.73x106 2.59x106 Time (s) Concentration of I131 in primary coolant water (Bq/cm3) Time (day) V Fc R. . Fig.3 Time evolution of I131 concentration in primary coolant water R = const. 0 1x1012 2x1012 3x1012 02x10-5 4x10-5 6x10-5 8x10-5 1x10-4 Frequency, F (s-1) Influence, I (Bq) Fig.4 Hazard curve of fuel leak when leak rate of I131 (R) is constant 3.結果・考察 3.1 炉水ヨウ素濃度の時間変化 本研究モデルを用いて炉水中のI131 濃度の時間変化を評価した.Fig.5 に高頻度で起こる事象,Fig.6 に低頻度で起こる事象を設定した際の計算結果をそれぞれ示す.ここで,Fig.5 とFig.6 の漏えい率R の値は同一である.発生頻度が低い事象ほどゆらぎが大きくなっていることが分かる.このような条件では,Fig.3 に示した漸近値を大きく上回ることもあり,制限値を越えるかどうかの明確な線引きをすることは難しい.そこで,様々な発生頻度と影響度を持つ事象に対して炉水I131 濃度の時間変化を計算し,燃料リークに起因する炉停止リスクを評価した. 0 10 20 30 02004006008001000120014000.00 8.64x105 1.73x106 2.59x106 Time (s) Concentration of I131 in primary coolant water (Bq/cm3) Time (day) Fig.5 Time evolution of concentration of I131 in primary coolant water at high frequency condition 0 10 20 30 02004006008001000120014000.00 8.64x105 1.73x106 2.59x106 Time (s) Concentration of I131 in primary coolant water (Bq/cm3) Time (day) Fig.6 Time evolution of concentration of I131 in primary coolant water at low frequency condition 3.2 炉停止リスク評価 1 週間に1 度の間隔でモニタリングを行い,その際に炉水I131 濃度がある設定値(管理目標値)を越えていたら原子炉を停止させ,燃料交換を行うと仮定した.この条件で,1 サイクル(13 ヶ月)原子炉を運転する間に燃料取替のために原子炉を停止させる頻度を算出した.Fig.7 は,評価に用いたハザード曲線を対数表示で示したものである.ここから様々な発生頻度と影響度の組み合わせを設定し,炉停止頻度を評価した.計算にあたっては, 炉停止頻度を算出するために各条件で1000回計算を行い, その平均値を用いた. Fig.8 にリスク曲線(炉停止頻度曲線)を示す.このように炉停止頻度曲線は漏えいに係る事象の影響度に対してピークを持つ.このようなピークを持つ理由としては, 発生頻度が高い事象は頻繁に起こるが影響度が低いため炉停止させるほどの問題にはならないこと.また,発生頻度が低い事象は,影響度が高いものの使用期間中に起こらないほど低い頻度ではリスクが顕在化しにくいことが考えられる. 漏えい率 R を変化させると,R の値が低下するほど全体的に炉停止リスクが低下するが,ピークの位置はほとんど変化していない.炉停止リスクを効果的に減らすためには,ピーク付近のリスクが高い事象に対する発生防止策が重要であると考えられる.次に,管理目標値とモニタリング頻度(炉水濃度サンプリング頻度)を変化させた時の炉停止頻度曲線を導出し,保全計画の効果を評価した. 108 1010 1012 1014 1016 1018 2019/10/122019/10/102019/10/082019/10/062019/10/042019/10/02Freaquency, F (s-1) Leakage of I131 from fuel, I (Bq) R=3.0×107(Bq/s) 2.0×107 1.0×107 3.0×106 Fig.7 Hazard curve of fuel leak for the risk assessment 0.0 2.0x1013 4.0x1013 6.0x1013 8.0x1013 1.0x1014 0510152025303540Leakage of I131 from fuel, E (Bq) Freaquency of reactor shutdown per 1cycle R=3.0×107(Bq/s) 2.0×1071.0×107 3.0×106 Fig.8 Risk curve of reactor shut-down 管理目標値を変化させた時の炉停止頻度曲線をFig.9に示す.影響度が低い事象に対しては管理目標値を厳しく設定するほど炉停止頻度が増加しており,ピークの位置も下限側へシフトしている.しかし,炉水I131 濃度を急激に上昇させるような影響度が高い事象に対してはほとんど変化がみられない.そのため,この条件では管理目標値を厳しく設定しても,重大事象のリスクを下げる効果は得られていないことが分かる. 0.0 2.0x1013 4.0x1013 6.0x1013 8.0x1013 1.0x1014 0510152025Leakage of I131 from fuel, E (Bq) Freaquency of reactor shutdown per 1cycle 1300Bq/cc 1000Bq/cc 600Bq/cc 300Bq/cc Desired value Fig.9 Risk curve of reactor shut-down when desired value was changed Fig.10 にモニタリング間隔(炉水濃度サンプリングの間隔)を1日,1 週間,2 週間,1 ヶ月と変化させた時の炉停止頻度曲線を示す.モニタリング頻度を高くするほど炉停止頻度が高まっており,管理目標値を越えた事象を見逃さず,迅速に対処出来るようになっている.また, 影響度が低い事象ほどモニタリング頻度を高めた効果が大きく表れている.一方で,影響度が高い重大事象は発生頻度が低いため,モニタリング頻度を上げた効果が表れにくい. このように本研究モデルを用いた解析によって,管理目標値やモニタリング頻度といった保全計画が,どのような事象に対して効果的なのかを検討することが可能である. 0.0 2.0x1013 4.0x1013 6.0x1013 8.0x1013 1.0x1014 024681012Leakage of I131 from fuel, E (Bq) Freaquency of reactor shutdown per 1cycle 1day 1week 2week1month Fig.10 Risk curve of reactor shut-down when monitoring distance was changed 4.結言 燃料は放射能閉じ込めの安全上重要な機能を有しているため,燃料リークが発生すると原子炉停止につながることがあり,その影響は非常に大きい.そのため,原子炉システム全体の保全を最適化するためには,このような燃料の問題に対してもリスク評価に基づいた最適な保全を考える必要がある. 本研究では,地震PRA のロジックを参考に,燃料リークに起因する炉停止リスクの評価法を新たに構築した. こうしたリスク評価手法を材料機能の評価に適用するのは,材料学の分野ではおそらく初めての試みであろう. 本研究モデルでは,燃料リークに関するハザード曲線を基に,モンテカルロ法を用いてリスク曲線(炉停止頻度曲線)を導出することが可能である.本研究モデルを用いた評価によって,以下の知見が得られた. ① 炉停止頻度は燃料リークに関する事象の影響度に対してピーク形状を持つ. ② 管理目標値を厳しく設定すると,影響度の低い事象に対しては厳しい対応を取るようになるが,影響度の高い重大事象に対しては効果がほとんど見られなかった. ③ モニタリング頻度を高くすると,管理目標値を越えた事象を見逃さずに対応を取ることが可能になるが, 発生頻度の低い重大事象ほどその効果は表れにくい. このように本研究モデルを用いることで,効果的な保全上の基準値やモニタリング頻度の検討を行うことが出来る.燃料の取扱いに対しても,このようなリスク評価に基づいた科学的・合理的な保全計画を検討することで, 原子炉システム全体の保全最適化につながることが期待される. 参考文献 [1] 日本原子力学会,原子力発電所の地震を起因とした確率論的安全評価:2007(AESJ-SC-P006:2007), 2007. [2] 石渡名澄,日本化学会誌,1981,(6),pp.1021-1026. [3] 燃料関連指針類検討小委員会,「燃料関連指針類における要求事項の整理並びに明確化について」,2010. (平成25 年6 月21 日)
“ “最適な原子炉保全のための燃料リークに起因するリスク評価 “ “山本 泰功,Yasunori YAMAMOTO,中筋 俊樹,Toshiki NAKASUJI,森下 和功,Kazunori MORISHITA“ “最適な原子炉保全のための燃料リークに起因するリスク評価 “ “山本 泰功,Yasunori YAMAMOTO,中筋 俊樹,Toshiki NAKASUJI,森下 和功,Kazunori MORISHITA
1.1 燃料と保全 原子炉を安全に運転するためには,設計・建設段階において安全性を考慮しているだけでは不十分である.供用期間中に変化するシステムや機器の状態に応じた継続的な保全活動が必要である.実際には,原子炉システム全体の安全性を最大限に高めるために,限られたリソースを重要度の高い部分により多く割り振る必要があるため,保全を最適化する必要が生じる.その際,機器の重要度や脆弱性を考慮するために,リスク評価が必要となる.燃料は燃焼度に応じて数年で交換される消耗品である. そのため,これまで燃料そのものの保全についてはほとんど考えられていない.しかし実際には,原子炉内での使用期間中に想定外の事象,すなわち,燃料の被覆が破れて放射性物質が燃料側から炉水側へ漏えいする事象(燃料リーク)が起こる.日本国内では今でも年数件ほど報告されている.Fig.1 に燃料リークの模式図を示す. 被覆管 放射能閉じ込め機能燃料棒UO2ペレット燃料リーク被覆管破損1次冷却水(炉水) 放射性物質漏えい(I131,Xe133,・・・) Fig.1 Schematic diagram of fuel leak 保安規定においては,燃料リークに関する基準として炉水中のヨウ素131(I131)の濃度が運転上の制限値として規定されており,リーク燃料発生時の対応を決める際の重要な指標となっている.炉水中のヨウ素濃度は週1 ~3 回程度のサンプリング調査によってモニタリングされており,燃料リークが検知されると保安規定の運転上の制限値に達しなくとも,予防的に原子炉を停止するなどの措置が取られることがある.このように,燃料は放射能閉じ込めの安全上重要な機能を有しているため,燃料リーク発生時の対応がシステム全体に与える影響は非常に大きい.そのため,原子炉の最適な保全を考える上でも,リーク燃料の取扱いは重要な課題であり,リスク評価に基づいた科学的・合理的な対応が必要である. 1.2 リスク評価
原子炉機器の脆弱性・重要度等を評価する手法として確率論的リスク評価(PRA)がある.例えば,地震PRA では,地震に起因する原子炉機器の故障を考慮してリスク(炉心損傷頻度)を評価するための方法論が確立されている.Fig.2 に地震PRA の概要を示す.そこでは,発生頻度が極めて小さい地震も含めたリスク評価を行っており,地震動の強さごとの地震の発生頻度を表した地震「ハザード曲線」と,地震動の強さに対する機器の機能喪失確率を表した「フラジリティ曲線」を用いて,「リスク曲線」(炉心損傷頻度曲線)を求めている.これは,地震動の大きさに対する機器の機能喪失リスクを表したものである. 本研究では,この地震PRA のロジック[1]を参考にしつつ,燃料リークに起因する原子炉停止リスクを評価するための方法論を新たに構築し,評価を行った.リスク評価の考え方は地震PRA のように,従来はシステムに対して適用されることが多かったが,ここでは材料の機能喪失の評価そのものに応用しており,これが本研究の特色である.地震動強さ機能喪失確率フラジリティ曲線発生頻度地震動強さ地震動強さ炉心損傷頻度地震ハザード曲線炉心損傷頻度曲線(リスク曲線) 地震PRAの概要機器1 機器2 Fig.2 Procedure of seismic PRA 2.燃料リーク進展モデル まず,燃料リーク発生時の炉水中のI131 の濃度変化をモデル化した.ここでは,炉水I131 濃度変化に係る事象として,燃料被覆管の破損に伴う燃料側から炉水側へのI131 の漏えい,核壊変による減衰,原子炉浄化系装置における浄化を考慮した.これらを考慮すると炉水ヨウ素濃度の時間変化率は次式で表される[2]. -1ここで,C は1 次冷却水(炉水)中のI131 の濃度,R は燃料から炉水へのI131 の漏えい率,V は1次冷却水の水量,λはI131 の壊変定数,Fcは浄化系の流量をそれぞれ表す. 漏えい率R が時間によらず一定であると仮定すると, 式(1)を積分することにより,炉水ヨウ素濃度は次式で求められる. -2式(2)から算出した炉水ヨウ素濃度の時間変化をFig.3 に示す.このように時間の経過とともに,炉水ヨウ素濃度は増加し,やがて一定値( )に漸近する.例えば,柏崎刈羽原発6 号機の運転上の制限値は1300 (Bq/g)であるが,I131 の漏えい率R が3.76×107(Bq/s) 以下であれば時間が経過しても制限値を越えることはないと考えられる. Fig.1 に示したように,燃料リークは被覆管材料の破損に起因して起こる.そのため,漏えい率R は被覆管材料の特性を反映するパラメータであり,材料製造プロセスに起因するばらつきや多様な破損形態に依存する.被覆管材料の破損形態は損傷モードとして系統的に整理されており[3],フレッティング摩耗,塑性変形,過大腐食等の様々な損傷モードが挙げられている.このような材料の状態のばらつきを考慮すると,漏えい率R が時間平均的には一定値と考えられるとしても,そこには,短期間のうちに大量のI131 を放出する事象や,長期間かけて少しずつ放出する事象など,様々な事象が内包されていると考えられる.そこで,本研究では,漏えい率R を燃料リークに関する事象の発生頻度F と影響度I の積で表されると考えた.一定のR をとる時のF とI の組み合わせをプロットした「ハザード曲線」をFig.4 に示す.このように,R の値は不変でも,F とI には様々な組み合わせが考C VF C VR t C . .. . c d d . . . . . . ... ... .. . . . 1 exp ( ) Vt F V F C R c c . . . . c R / V. . Fえられる.少量のI131 を放出する現象は頻繁に起こるが, 多量のI131 を放出する現象は起こりにくい. 本研究では,燃料リークを発生させる事象の発生頻度と影響度(Fig.4 のようなハザード曲線)と,式(1)をモンテカルロ法を用いて積分することにより,炉水I131 濃度の時間変化を算出した.そして,その結果を基に, 燃料リークに起因する炉停止頻度曲線(リスク曲線)を導出した.方法論において地震PRA と異なる点は,Fig. 2 のフラジリティ曲線を使用する代わりにモデル式の積分を行った点である. 0 10 20 30 02004006008001000120014000.00 8.64x105 1.73x106 2.59x106 Time (s) Concentration of I131 in primary coolant water (Bq/cm3) Time (day) V Fc R. . Fig.3 Time evolution of I131 concentration in primary coolant water R = const. 0 1x1012 2x1012 3x1012 02x10-5 4x10-5 6x10-5 8x10-5 1x10-4 Frequency, F (s-1) Influence, I (Bq) Fig.4 Hazard curve of fuel leak when leak rate of I131 (R) is constant 3.結果・考察 3.1 炉水ヨウ素濃度の時間変化 本研究モデルを用いて炉水中のI131 濃度の時間変化を評価した.Fig.5 に高頻度で起こる事象,Fig.6 に低頻度で起こる事象を設定した際の計算結果をそれぞれ示す.ここで,Fig.5 とFig.6 の漏えい率R の値は同一である.発生頻度が低い事象ほどゆらぎが大きくなっていることが分かる.このような条件では,Fig.3 に示した漸近値を大きく上回ることもあり,制限値を越えるかどうかの明確な線引きをすることは難しい.そこで,様々な発生頻度と影響度を持つ事象に対して炉水I131 濃度の時間変化を計算し,燃料リークに起因する炉停止リスクを評価した. 0 10 20 30 02004006008001000120014000.00 8.64x105 1.73x106 2.59x106 Time (s) Concentration of I131 in primary coolant water (Bq/cm3) Time (day) Fig.5 Time evolution of concentration of I131 in primary coolant water at high frequency condition 0 10 20 30 02004006008001000120014000.00 8.64x105 1.73x106 2.59x106 Time (s) Concentration of I131 in primary coolant water (Bq/cm3) Time (day) Fig.6 Time evolution of concentration of I131 in primary coolant water at low frequency condition 3.2 炉停止リスク評価 1 週間に1 度の間隔でモニタリングを行い,その際に炉水I131 濃度がある設定値(管理目標値)を越えていたら原子炉を停止させ,燃料交換を行うと仮定した.この条件で,1 サイクル(13 ヶ月)原子炉を運転する間に燃料取替のために原子炉を停止させる頻度を算出した.Fig.7 は,評価に用いたハザード曲線を対数表示で示したものである.ここから様々な発生頻度と影響度の組み合わせを設定し,炉停止頻度を評価した.計算にあたっては, 炉停止頻度を算出するために各条件で1000回計算を行い, その平均値を用いた. Fig.8 にリスク曲線(炉停止頻度曲線)を示す.このように炉停止頻度曲線は漏えいに係る事象の影響度に対してピークを持つ.このようなピークを持つ理由としては, 発生頻度が高い事象は頻繁に起こるが影響度が低いため炉停止させるほどの問題にはならないこと.また,発生頻度が低い事象は,影響度が高いものの使用期間中に起こらないほど低い頻度ではリスクが顕在化しにくいことが考えられる. 漏えい率 R を変化させると,R の値が低下するほど全体的に炉停止リスクが低下するが,ピークの位置はほとんど変化していない.炉停止リスクを効果的に減らすためには,ピーク付近のリスクが高い事象に対する発生防止策が重要であると考えられる.次に,管理目標値とモニタリング頻度(炉水濃度サンプリング頻度)を変化させた時の炉停止頻度曲線を導出し,保全計画の効果を評価した. 108 1010 1012 1014 1016 1018 2019/10/122019/10/102019/10/082019/10/062019/10/042019/10/02Freaquency, F (s-1) Leakage of I131 from fuel, I (Bq) R=3.0×107(Bq/s) 2.0×107 1.0×107 3.0×106 Fig.7 Hazard curve of fuel leak for the risk assessment 0.0 2.0x1013 4.0x1013 6.0x1013 8.0x1013 1.0x1014 0510152025303540Leakage of I131 from fuel, E (Bq) Freaquency of reactor shutdown per 1cycle R=3.0×107(Bq/s) 2.0×1071.0×107 3.0×106 Fig.8 Risk curve of reactor shut-down 管理目標値を変化させた時の炉停止頻度曲線をFig.9に示す.影響度が低い事象に対しては管理目標値を厳しく設定するほど炉停止頻度が増加しており,ピークの位置も下限側へシフトしている.しかし,炉水I131 濃度を急激に上昇させるような影響度が高い事象に対してはほとんど変化がみられない.そのため,この条件では管理目標値を厳しく設定しても,重大事象のリスクを下げる効果は得られていないことが分かる. 0.0 2.0x1013 4.0x1013 6.0x1013 8.0x1013 1.0x1014 0510152025Leakage of I131 from fuel, E (Bq) Freaquency of reactor shutdown per 1cycle 1300Bq/cc 1000Bq/cc 600Bq/cc 300Bq/cc Desired value Fig.9 Risk curve of reactor shut-down when desired value was changed Fig.10 にモニタリング間隔(炉水濃度サンプリングの間隔)を1日,1 週間,2 週間,1 ヶ月と変化させた時の炉停止頻度曲線を示す.モニタリング頻度を高くするほど炉停止頻度が高まっており,管理目標値を越えた事象を見逃さず,迅速に対処出来るようになっている.また, 影響度が低い事象ほどモニタリング頻度を高めた効果が大きく表れている.一方で,影響度が高い重大事象は発生頻度が低いため,モニタリング頻度を上げた効果が表れにくい. このように本研究モデルを用いた解析によって,管理目標値やモニタリング頻度といった保全計画が,どのような事象に対して効果的なのかを検討することが可能である. 0.0 2.0x1013 4.0x1013 6.0x1013 8.0x1013 1.0x1014 024681012Leakage of I131 from fuel, E (Bq) Freaquency of reactor shutdown per 1cycle 1day 1week 2week1month Fig.10 Risk curve of reactor shut-down when monitoring distance was changed 4.結言 燃料は放射能閉じ込めの安全上重要な機能を有しているため,燃料リークが発生すると原子炉停止につながることがあり,その影響は非常に大きい.そのため,原子炉システム全体の保全を最適化するためには,このような燃料の問題に対してもリスク評価に基づいた最適な保全を考える必要がある. 本研究では,地震PRA のロジックを参考に,燃料リークに起因する炉停止リスクの評価法を新たに構築した. こうしたリスク評価手法を材料機能の評価に適用するのは,材料学の分野ではおそらく初めての試みであろう. 本研究モデルでは,燃料リークに関するハザード曲線を基に,モンテカルロ法を用いてリスク曲線(炉停止頻度曲線)を導出することが可能である.本研究モデルを用いた評価によって,以下の知見が得られた. ① 炉停止頻度は燃料リークに関する事象の影響度に対してピーク形状を持つ. ② 管理目標値を厳しく設定すると,影響度の低い事象に対しては厳しい対応を取るようになるが,影響度の高い重大事象に対しては効果がほとんど見られなかった. ③ モニタリング頻度を高くすると,管理目標値を越えた事象を見逃さずに対応を取ることが可能になるが, 発生頻度の低い重大事象ほどその効果は表れにくい. このように本研究モデルを用いることで,効果的な保全上の基準値やモニタリング頻度の検討を行うことが出来る.燃料の取扱いに対しても,このようなリスク評価に基づいた科学的・合理的な保全計画を検討することで, 原子炉システム全体の保全最適化につながることが期待される. 参考文献 [1] 日本原子力学会,原子力発電所の地震を起因とした確率論的安全評価:2007(AESJ-SC-P006:2007), 2007. [2] 石渡名澄,日本化学会誌,1981,(6),pp.1021-1026. [3] 燃料関連指針類検討小委員会,「燃料関連指針類における要求事項の整理並びに明確化について」,2010. (平成25 年6 月21 日)
“ “最適な原子炉保全のための燃料リークに起因するリスク評価 “ “山本 泰功,Yasunori YAMAMOTO,中筋 俊樹,Toshiki NAKASUJI,森下 和功,Kazunori MORISHITA“ “最適な原子炉保全のための燃料リークに起因するリスク評価 “ “山本 泰功,Yasunori YAMAMOTO,中筋 俊樹,Toshiki NAKASUJI,森下 和功,Kazunori MORISHITA