低炭素ステンレス鋼溶接部の高温水中SCC き裂進展に及ぼす δ-フェライトの影響

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カテゴリ: 第10回
1.緒言
沸騰水型軽水炉(BWR)の低炭素ステンレス鋼製再循環系配管溶接継ぎ手部における応力腐食割れ(SCC) は、母材から発生、残留応力に従って溶接金属に向かって進展しており、き裂が溶接金属内部にまで及ぶものが発見されてきている。また、発見されたき裂の大部分は、プラント稼働時間に依らずその先端が溶融境界近傍に位置していたことから、溶融境界近傍におけるき裂の停留(あるいは進展遅延)が指摘されている1)。筆者らは、SUS316NG 製400A 配管溶接部を供試材として、溶融境界近傍における高温水中SCC 進展挙動を調査し、き裂の先端位置と経路長さを微視組織毎に統計処理することによってき裂進展遅延効果を評価し、母材のpartially melted zone の粒界に分布する島状δ- フェライト(以下、δ 相)がき裂進展遅延をもたらす微視組織要因であることを指摘している2)。一方で、溶接部では成分、硬さやミクロな応力分布3)など、SCC き裂進展挙動に影響すると考えられる因子は多く、δ 相のみの影響を評価するのは困難である。 本研究では、著者らがこれまでに実施した溶接金属ならびに溶接熱影響部を対象としたSCC試験結果について、微視組織の観点から横断的に考察すると共に、溶接模擬熱処理によって溶融境界近傍組織を再現した試験片を用いて、SCC き裂進展挙動に及ぼすδ 相の影響を評価した。本稿では、後者について述べる。
2.試験方法
2.1 供試材 SUS316L 板材を供試材として用いた。化学組成を表1 に示す。また、供試材のCr 当量/Ni 当量比を算出したものを図1 に示す。SUS316L の成分規格範囲内において、4 種類の凝固モードが存在することが分かる。本研究で用いた供試材はFA モード凝固領域にあり、これまでの知見に基づけば溶融境界極近傍と同じ溶接熱履歴を与えることで、partially melted zone の粒界における島状δ 相の晶出が見込めると判断した。 2.2 熱処理方法・条件 供試材から10mm 角、高さ60mm の角柱試験片を採取し、高周波誘導加熱によって溶接熱を模擬した熱処理を実施した。熱処理条件の一例を図2 に示す。昇温速度は30℃/s とし、降温速度は既報のデータ4)を参考に決定した。ピーク温度とピーク温度保持時間が熱処理後の組織に与える影響を評価するため、これらにつ
いては複数の条件を選定した。SUS316L の融点は一般に1370-1400℃程度と考えられているため、ピーク温度1325~1350℃の範囲で設定した。またピーク温度保持時間は、2~10s の範囲で設定した。 2.3 高温水中SCC 感受性評価試験方法 粒界に島状δ 相が広く分布した試験片を対象として、隙間付き低ひずみ曲げ(CBB: Creviced Bent Beam)試験によりSCC 感受性を評価した。熱処理後の角柱からW10*L30*T2 の板状試験片を採取した。試験片表面は湿式エメリー紙で#500 研磨仕上げとし、試験片と隙間形成材(グラファイトウール)を治具に挟み込んで1% 曲げひずみを付与し、高温高圧水(温度:288℃、圧力、9MPa、溶存酸素濃度:8ppm、水質:100ppb SO42-添加水)中に750h 浸漬した。試験後、試験片を長手方向に板厚の1/2、1/4 の位置で切断し断面方向から観察することで、き裂進展挙動ならびに微視組織との関係を調査した。 3.試験結果ならびに考察 3.1 溶接模擬熱処理後の組織的特徴 溶接模擬熱処理後の組織観察結果を図3 に示す。ピーク温度1350℃条件下において、熱処理中に試験片全体が溶融する事があった。熱処理後も原形が維持されていた場合においても、大部分が溶融・凝固組織であった。一方で、ピーク温度1340℃以下では、粒界上に島状δ 相が広く分布した組織が認められたことから、partially melted zone と同様の組織が実現できたと判断した。 3.2 SCC 感受性評価試験結果 試験片の断面観察から、多数の粒界応力腐食割れが認められ、き裂先端がδ 相に位置しているものが多く認められた(図4)。き裂進展経路上にδ 相が存在しているき裂の数と、その内先端がδ 相に位置しているき裂の数を計測した結果を表2 に示す。これから、き裂進展経路に占めるδ 相の割合が極めて小さいにもかかわらず、き裂先端の70%程度がδ 相に位置していることが分かる。き裂先端位置とき裂経路の割合をδ/γ 界面とγ/γ界面に分けてそれらの比をとり、き裂進展速度の相対値とすると、δ/γ界面ではγ/γ界面に比べき裂進展速度が0.0019 倍との結果を得た。よって、粒界上に分布する島状δ 相がSCC き裂停留効果を有することが明らかになった。 Table 1. Chemical composition of 316L SS plate (wt%) C Si Mn P S Ni Cr Mo N Fe 0.014 0.44 1.18 0.021 0.0010 12.18 17.04 2.84 0.014 Bal. 16 18 20 22 24 101112131415161718Ni equivalent Cr equivalent A mode or AF mode FA mode F mode SUS316L(standard value) (0 = [wt %N] = 0.06) Cr / Ni equivalent = 1.48 Cr / Ni equivalent = 1.95 316L SS (base metal) Cr equivalent = [wt%Cr]+1.5 [wt%Si]+ [wt%Mo]+ 0.5[wt%Nb]+2 [wt%Ti] Ni equivalent = [wt%Ni]+0.5 [wt%Mn]+ 30[wt%C] +30[wt%N-0.06] Fig.1 Solidification mode predicted by Schaeffler diagram 020040060080010001200140016000 50 100 150 200 250 300 350 400 Temperature, oC Time, s 30 oC/s 11.3 oC/s 4.4 oC/s 2.1 oC/s 0.24 oC/s Fig.2 Example of condition of induction heat treatment Fig.3 Example of microstructure of samples after heat treatment (peak temperature: 1340 oC, holding time: 2s). .-ferrite islands were widely distributed on grain boundary. 結言 316L ステンレス鋼を対象として、溶接模擬熱処理によって溶融境界近傍組織を再現した試験片を用いて、SCC き裂進展挙動に及ぼすδ 相の影響を評価した。 (1) 高周波誘導加熱を用いて、ピーク温度を融点直下近傍に設定した溶接模擬熱処理によって、粒界に島状δ 相が広く分布した組織が作製出来ることが明らかになった。 (2) 上記で作製した試験片を用いて、高温水中SCC 進展挙動を評価した。粒界上に分布する島状δ 相がSCC き裂停留効果を有することが明らかになった。 謝辞 本研究は科研費(22246092)の助成を受けたものである。 参考文献 [1] K. Kumagai, et al., Proc. Of 2004 ASME/JSME Pressure Vessels and Piping Conference, ASME PVP-Vol.479, (2004), 217-223. [2] H. Abe and Y. Watanabe, Journal of Nuclear Materials, 424, (2012), 57-61. [3] T. Arai, et al., Proc. of the 14th Int. Conf. on Environmental Degradation of Materials in Nuclear Power Systems, 2009, 660-670. [4] 水野 亮二、西川 聡、溶接・非破壊検査技術センター 技術レビュー Vol.7, (2011), 42-46 Table 2. Relationship between SCC behavior and .-ferrite Peak temperature -Holding time Number of cracks where .-ferrite located on crack path Number of cracks which tip located at .-ferrite Ratio of cracks which tip located at .-ferrite 1340 oC -2 s 174 120 69.0 % 1325 oC -10 s 90 67 74.4 % Fig.4 Cross-sectional view of the cracked specimen.
“ “低炭素ステンレス鋼溶接部の高温水中SCC き裂進展に及ぼす δ-フェライトの影響 “ “阿部 博志,Hiroshi ABE,水野 峻,Shun MIZUNO,渡邉 豊,Yutaka WATANABE“ “低炭素ステンレス鋼溶接部の高温水中SCC き裂進展に及ぼす δ-フェライトの影響 “ “阿部 博志,Hiroshi ABE,水野 峻,Shun MIZUNO,渡邉 豊,Yutaka WATANABE
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