日本原子力発電の安全対策強化の取り組み

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カテゴリ: 第10回
1.緒言
原子力発電所の維持および運転にあたっては、その根幹となる安全に対する取り組みは不可欠であり、当社は、これまでも、アクシデントマネジメント対策として、適宜、ハードおよびソフトの対策を講じてきた。 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震では、東京電力福島第一原子力発電所(以下「福島第一」)1号機~4号機において、長期間の外部電源喪失および大津波の襲来による非常用電源の喪失による原子炉および格納容器が損傷するシビアアクシデント状態に陥った。 当社東海第二発電所(以下「東海第二」)においても、津波の襲来を受けたが、非常用発電機の冷却を担う3台の海水ポンプのうち、2台の海水ポンプは津波対策として防護壁の設置および壁貫通部が封止済みであったことから、その機能が維持され、これにより原子炉の冷却を継続した。その後、外部電源が復旧し、3月15日に原子炉冷温停止状態に移行した。 本報では、福島第一事故の事故に関する多くの機関における事故調査結果および東海第二における経験に基づく、シビアアクシデントを想定した当社発電所の安全対策の取り組みについて報告する。
2.見出しの数字は一桁全角、二桁半角
2.福島第一事故および東海第二の経験から得られた知見 2.1 福島第一事故から得られた経験 福島第一の事故については、国内外の多くの機関における事故調査が行われ、その原因および教訓が報告されている。(1)(2)(3)(4)(5)これらの報告において、地震および津波による発電所設備への影響が主に以下のように整理されている。 (1)地震による影響 ・運転中の発電所の原子炉は正常に自動停止した。また、非常用発電機が正常に自動起動し所内電源系は維持されたため、原子炉の冷却は正常に行われた。 ・地震により送電鉄塔が損傷し、長期間にわたって外部電源が喪失した。 (2)津波による影響 ・建屋内の非常用発電機および電気設備(配電盤,バッテリー等)が被水し所内非常用電源系に影響が生じた。 ・非常用の海水ポンプが被水により機能が喪失し、残留熱除去機能を喪失した。 2.2 東海第二における経験 東海第二における地震および津波による建物および設備への影響は、以下に示すとおり、安全上重要な設備等への影響はなかったと評価している。 (1)地震による影響 ・運転中の東海第二は、地震によるタービン警報「軸振動大」により、原子炉自動停止した。 ・その後、非常用発電機が正常に自動起動し、安全保護系の作動により原子炉を冷却した。 ・原子炉建屋内の原子炉を冷却する設備の機能への影響は認められなかった。 (2)津波による影響 ・襲来した津波高さは、発電所敷地内の痕跡より、最大T.P.+5.3mと評価された。(当時の東海第二の基準津波高さ:T.P.+5.7m,防護壁設置高さ:T.P.+6.1m) ・非常用発電機の冷却のための3台の海水ポンプのうち、海水ポンプの防護壁の設置および壁貫通部の封止が完了していた2台の海水ポンプが冷却水送水機能を維持し、これにより非常用発電機の運転を継続した。 ・港湾設備と取水口設備の一部に損傷が確認されたが、建屋内の海水の浸水によって原子炉冷却に影響するものはなかった。 3.当社発電所における対策の基本方針 各機関の報告より、福島第一の事故は、これまでの想定を大幅に超えた状態・環境が、既設設備の機能喪失を引き起こしたことにより、シビアアクシデント状態に至ったと考えられる。これより、すでに公開されている新規制基準の内容はもちろんであるが、、現在、当社発電所における安全対策については、以下の方針で検討を進めている。 3.1 冷却・注水設備の多重化 従来のアクシデントマネジメント対策に加えて、深層防護の各層において想定される状態を、福島第一事故および東海第二の経験に基づいて保守的に設定し、これらの状態においても、既設設備が機能を発揮できるか検討し、必要に応じて既設設備を改造する。 さらに、重要な既設設備が作動できない場合を想定し、その設備が要求される状態を仮定してその十分な性能を有する恒設あるいは可搬式の設備を設置することにより、設備の多重化(必要に応じて多様化)を図る。 また、深層防護の考え方を踏まえ、種々の状態において機能を維持する対処設備を確保する。 加えて、これらの設備を確実に操作できるように、基準津波高さに基づいて、安全上重要な設備への浸水回避の対策を実施する。具体的には、建屋の水密化(建屋壁貫通部の密閉化,建屋壁扉の水密化,建屋内堰の設置,排気口の周囲の防護壁設置,海水ポンプ防護壁の設置等)を実施する。 3.2 実効性の確保 原子炉および格納容器の冷却のための設備の多重化や多様化に加えて、これらの設備(可搬式設備も含む)を、シビアアクシデント環境も含むいかなる状況においても確実に操作できるように、設備仕様や配置等の観点で考慮するとともに、訓練等の適切な手段により、検証,評価,改善する。 また、東海第二の被災の経験から、通信設備の多重化の必要性を強く感じたことから、社内関係箇所(発電所内,発電所-本社間)および社外関係箇所との通信手段の多重化および多様化を図る。 4.安全対策の取り組み状況 東海第二および敦賀発電所における安全対策の取り組み状況の概要を図1および図2に示す。 現状における主な対策のいくつかを記載する。現状はの原子炉冷却のための設備の仕様等、検討をすすめている状況であり、まだ、十分な設備の多重化・多様化を達成している状況ではないが、再稼動に向けて今後も検討を継続していく。 ・電源の強化(多重化)として、東海第二,敦賀1号機および敦賀2号機の原子炉および使用済燃料プールの冷却に必要な容量を有する電源車を津波に影響を受けない高台に配備した。 ・原子炉注水機能の強化(多重化)として、東海第二および敦賀1号機については、原子炉および非常用復水器に外部から直接に注水する配管を設置した。また、敦賀2号機については、蒸気発生器を介して原子炉(一次冷却材)と冷却するタービン動補助給水ポンプの多重化として、既設の電動補助給水ポンプを即時起動できるように、電源車への接続を容易にできるようにケーブルを常時敷設した。 ・原子炉冷却機能の強化(多重化)として、東海第二,および敦賀2号機において、原子炉および使用済燃料プール(ピット)の残留熱を除去するに必要な海水送水量となる、海水ポンプの代替として、大容量送水車を配備した。 ・使用済燃料プール注水機能の強化(多重化)として、東海第二,敦賀1号機および敦賀2号機の使用済燃料 プール(ピット)に、外部から直接に注水できる配管を設置した。 5.結言 福島第一事故および当社東海第二の被災の経験から、設計基準を超える事故において原子炉および格納容器ならびに使用済燃料プールを安定して冷却するために必要な多くの経験が得られている。 近く、新規制基準が施工されるが、当社は、規制要求の事項だけでなく、得られた経験に基づく知見および教訓ならびに国内外の多くの関係機関の安全への取り組みを、当社発電所への適用について、適宜検討を行い反映していく所存である。 また、当社のこれらの取り組みについては、適宜社会に発信し、社会的に認められた安全対策を構築する活動を継続していく。 5.参考文献 [1] 「東京電力福島原子力発電所 事故調査委員会」報告書,国会事故調(平成24年7月5日公表) [2] 「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」最終報告,政府事故調(平成24年7月23日公表) 図1 東海第二の安全対策の概要(抜粋) 図2 敦賀発電所の安全対策の概要(抜粋) [3] 「福島原子力発電所事故調査報告書」,東京電力(平成24年6月20日公表) [4] 「福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書」民間事故調(平成24年2月28日公表) [5] 「Special Report on the Nuclear Accident at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Station」,INPO(平成24年8月公表) [6] 「東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた敦賀発電所2号機の安全性に関する総合評価(一次評価)の結果について(報告)」,日本原子力発電(平成24年4月19日原子力安全・保安院提出) [7] 「東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた東海第二発電所の安全性に関する総合評価(一次評価)の結果について(報告)」,日本原子力発電(平成24年8月31日原子力安全・保安院提出)
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