SCC内部導電率分布を考慮したECTによる 深さサイジング技術高度化

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カテゴリ: 第10回
1.緒言
渦流探傷法(ECT:Eddy Current Testing)を用いた応力腐食割れ(SCC:Stress Corrosion Cracking)の検査技術において、SCCの深さサイジング精度の向上は重要な課題の一つである。これまでに、逆解析や順解析手法を用いた様々な試みにより深さサイジングの手法が研究されてきたものの、その精度には一定の限界が存在し、実用に耐えうる精度に達した技術は確立されていないのが現状である。この原因として、数値解析を行う際のSCCモデルに現実のき裂性状が反映されていないことが挙げられ、これは、SCC部の実際の導電率分布を知る手段が無かったためである。 そこで本研究では、腐食液を用いて製作した複数の人工SCCを準備し、実験的にこれらの内部導電率分布を直接測定し、その結果を解析モデルに反映させることにより深さサイジング精度の向上を図った。手法としては、 初めに順解析により計量曲線図(データベースの意味を持つマップ)を用意しておき、このマップの上にECT測定結果をプロットすることで、SCCの最大深さと内部導電率(最小値)を同時に推定する方法を取った。その結果、導電率分布に関する実験的知見が無かった過去の計量曲線図に比べ、本研究で新たに作成した図による深さサイジングの精度は向上していることが確認できた。
2.SCC内部導電率分布の実験的調査
2.1 精密機械加工による切り出し SCC内部導電率調査のため、腐食液を用いてSUS304の母材に5本の人工SCC(深さ10mm程度)を導入した。これらの人工SCCに対し、ワイヤーカットにより厚さ1mmの薄板をSCC長手方向に3mm間隔で取り出した(横断面)。この薄板をエポキシ系の樹脂に冷間で埋め込んだ後、精密切断機を用いてSCC開口表面にあたる端から約1mm間隔で8回(8層)切り出した(水平断面)。これらの精密加工手順をFig.1へ示す。この手順により得られた試料は、約1mm角の金属角柱の中央にSCCの一部を含んだ状態となる。 Fig.1 Precise mechanical processing of SCCs 2.2 四端子法による抵抗値測定 前節に示した手順により準備した各試料に対し、抵抗値精密測定器(HIOKI 3541Resistance HiTester)を用いて四端子法による抵抗値測定を行った(Fig.2)。測定値は母材そのものの抵抗値も含んでいるため、SCC部のみの抵抗値に換算した値(等価的抵抗値)に直し、各人工SCCに対してその内部分布(縦断面)をまとめた。そのうちの一つをFig.3に示す。 C:\Users\hori\all documents\from高瀬さん\DSC_0101.JPGFig.2 4 terminal resistance measurement C:\Users\hori\ECT、関電\ECT\data\導電率測定結果\figs-converted\with_bg_scc3-2a.pngFig.3 Measured resistance (mΩ) distribution of a SCC 5本の人工SCCから得られた抵抗値分布結果に対し、深さ方向に関する変化傾向を分析したところ、概ね2次曲線でフィッティング出来ることが分かった。この結果をFig.4へ示す。 00.511.522.533.5400.20.40.60.81SCC3-1 DSCC3-2 DSCC3-3 GSCC3-3 HSCC3-4 DSCC3-5 DRelativeposition (depth) to the bottom edgeLocal equivalent resistanceof the part of the crack (mΩ)Fig.4 Local resistance transition toward the depth 3.計量曲線図による深さサイジング 前章で得られた結果を解析モデルに適用し、深さサイジングを行うための計量曲線図を順解析により作成した。 解析におけるSCCモデルとして、輪郭は半楕円のものを用い、開口部中央から輪郭に向けて半楕円形状で3層に区切り、各層の導電率比に本研究で得られた変化傾向を適用した(過去の研究では、仮定的に指数関数変化による比を適用していた)。抵抗値の変化が2次関数的であるため、今回のモデルを2次曲線モデルと呼び、過去のモデルを指数関数モデルと呼ぶ。 2次曲線モデルを用いて得られた計量曲線図によるSCC深さサイジング例を、Fig.5に示す。計8本の人工SCCに対してECT測定を行い、リサージュの頂点座標を(規格化した後)図内にプロットすることでサイジングを行う。図の横方向には主に導電率の差が現れ、図の縦方向には主に最大深さの差が現れる。また、サイジング精度の判断基準として、各人工SCCに対する超音波探傷(UT) による推定深さの値を用いた。UTでの推定値と比較すると、複数の人工SCCに対し非常に高精度で深さサイジングが出来ており、その他の人工SCCに対しては、ほぼ保守的な推定値が得られている。 また、この結果を指数関数モデルによる計量曲線図と比較したところ、特に深いSCCに対してサイジング精度が大きく向上していることが確認できた。 -0.6-0.4-0.200.20.40.60123456789d=0.5mmd=2.0mmd=3.5mmd=5.0mmd=6.5mmd=8.0mmd=10.0mmImaginary part (V)Real part (V)ECT frequency : 10kHzcrack width=0.04mmParabolic curve modelSCC-5(UT2.1mm)SCC-4(UT2.2mm)SCC-6(UT1.9mm)SCC3-5(UT8.8mm)SCC3-4(UT10.2mm)SCC3-1(UT9.0mm)SCC3-2(UT10.6mm)SCC3-3(UT10.8mm)d=12.0mmd=14.0mmd=16.0mmσ=0.3%σ=1%σ=3%σ=6%σ=10%σ=20%relative conductivityσ at theopening surface of the crack(to the basemetal)depth of the crackFig.5 New standard map for SCC depth-sizing 4.結言 SCCの内部導電率分布を実験的に調査することにより、その変化傾向の一般性を見出し数値解析モデルに反映させることで、ECTによるSCC深さサイジング技術の高度化を行うことができた。また、実験による知見を適用しているため、これまでの仮定に頼ったモデル設定とは異なり、具体的な科学的根拠のあるサイジング技術になったと言える。 今後の課題としては、推定値の基準としてUTによる推定値でなく、破壊試験等による直接的な測定値との比較を通して精度の議論を行う必要があることと、3mm以下の浅いSCCに対するサイジング精度の向上が挙げられる。 参考文献 [1] N. Yusa and H. Hashizume, “Four-terminal measurement of the distribution of electrical resistance across stress corrosion cracking”, NDT&E International, Vol44, 2011, pp.544-546. [2] W. Cheng, S. Kanemoto, I. Komura and M. Shiwa, “Depth sizing of partial-contact stress corrosion cracks from ECT signals”, NDT&E International, Vol.39, 2006, pp.374-383. [3] N. Yusa, L. Janousek, M. Rebican, Z. Chen, K. Miya, N. Dohi, N. Chigusa and Y. Matsumoto, “Caution when applying eddy current inversion to stress corrosion cracking”, Nuclear Engineering and Design, Vol.236, 2006, pp.211-221. (平成25年6月28日)
“ “SCC内部導電率分布を考慮したECTによる 深さサイジング技術高度化 “ “堀 輝人,Teruhito HORI,高瀬 健太郎,Kentaro TAKASE,越智 文洋,Fumihiro OCHI,佐藤 友康,Tomoyasu SATO“ “SCC内部導電率分布を考慮したECTによる 深さサイジング技術高度化 “ “堀 輝人,Teruhito HORI,高瀬 健太郎,Kentaro TAKASE,越智 文洋,Fumihiro OCHI,佐藤 友康,Tomoyasu SATO
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