電磁逆解析に基づく複雑形状部材中の表面欠陥評価
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カテゴリ: 第10回
1.緒言
産業機器や構造物は主に強磁性体で構成されているため、漏洩磁束法等の電磁気的手法を用いた非破壊損傷評価法が有効である。 著者らはフラックスゲートセンサ(FGセンサ)を用いて、強磁性材料であるSS400の平板に設けた様々な欠陥形状について測定を行い、従来よりも大きなリフトオフで欠陥検知が可能あることを示し[1]、また、測定より得られた欠陥近傍の漏洩磁束密度分布に対してTikhonovの正則化法[4]やL-curve法等の逆解析手法を適用することにより、欠陥の具体的な形状を復元させ,寸法も評価可能であることを示した[2]。さらにはこの手法を円筒形状部材へ適用した[3]。
本研究では、円筒形状部材の拡張として、これらの手法をボルト部材に適用し、FGセンサで測定したねじ部の欠陥近傍の漏洩磁束密度分布から欠陥断面形状および寸法を求め、実際の欠陥と比較した。 2.磁気双極子モーメントと磁束密度の関係定式化 Fig.1に示す円筒座標系と直交座標系の間にx= rcosθ、y= rsinθの関係が成り立つことから、空間上の任意点の位置ベクトルをと表記する。このとき、円筒表面から一定のリフトオフを保持する曲面上の磁束密度のz軸方向成分と、欠陥断面上に分布する磁気双極子モーメントベクトル(以下、磁気双極子と呼ぶ)の間には式(1)の関係が成り立つ。ここでは応答関数と呼ばれ、式(2)で示される。式(1)を離散化して式(3)を得る。 (),,rzθ(),,xyz(),,xyz=aa()Ba()zBa(),,xyz′′′′′=aa()′=mma()Fa-1zB()F(')m(')d'=.∫aaaaa-2()(){}522222220F()x2yz4xyzμπ=.+++a-3==zBFmFig.1 Coordinate system 3.FGセンサによる磁束密度測定と可視化 試験片をFig.2に示す。試験片はS45Cのボルト材であり、外形寸法はφ16.0×100.0mmである。試験片表面から最大深さ3.0mm、幅0.3mmとなるように、半円状の欠陥を加工した。試験片は加工後に消磁を行い、ネオジム磁石を用いて長手方向(z軸方向)に着磁したのち、漏洩磁束密度を測定した。 漏洩磁束密度の測定に用いた磁気センサは約1.0×3.0mmのFGセンサであり、磁束密度測定範囲は±5.0×10-4T、分解能は1.0×10-7Tである。測定範囲は、周方向に360°、z軸方向に欠陥断面を中心とする±20.0mmとした。また測定間隔は、周方向に4.0°、z軸方向に0.2mmとした。リフトオフは1.0mmである。 測定した漏洩磁束密度を、ボルト材のz軸方向及び周方向にプロットした分布をFig.3に示す。欠陥に起因する漏洩磁束密度分布の隆起が中央部に観察されている。一方、ボルトのネジ溝に起因する磁束密度の周期的な繰り返しがz軸方向に生じていることがわかる。 4.逆解析による欠陥形状の復元 Fig.3の磁束密度分から欠陥面上の磁化分布を求めることは、式(3)のからを求めることに対応する。しかしを直接求めようとするとその解は振動解となりやすいため、式(4)で表されるTikhonovの正則化法に基づく逆解析[4]をFig.3の漏洩磁束密度分布に対して行った。また、L-Curve法を用いて、その折れ曲がり位置付近に位置する適切な正則化パラメータを求めることにより、振動を抑制させつつ、過度に平滑化されていない解を得ることができる。 zBmmαm-4T1T()zα.=+mFFIFBなお、磁気双極子の配置はボルト材の中心軸から外表面に向かうにつれて計算点を周方向に増加させ、表面近傍に多くの計算点が配置されるようにした。このように表面部を密に、中心部を疎にするような粗密付けを計算点配置に設けることで、高精度と高効率を両立した解析が可能となる。 逆解析の結果得られた磁気双極子の分布をFig.4に示す。点線が実際の欠陥の境界である。特に表面部分では欠陥の形状を精度よく得られていることがわかる。 5.結言 ネジ溝に半円型欠陥部を有するボルト材を用いて非破壊検査を行った。漏洩磁束密度はフラックスゲートセンサで測定し、ボルト長手方向及び周方向角度に対して磁束密度分布をプロットしたところ、ボルトのネジ溝に起因する磁束密度の周期的な繰り返しが観察された。TIkhonovの適切化法を用いて逆解析を行い、欠陥形状を適切に評価することができた。 Fig.2 Specimen of stud bolt Fig.3Magnetic flux density distribution of bolt Fig.4Magnetic dipole moment distribution obtained by inverse analysis from measured magnetic flux density 参考文献 [1]鈴木、寺崎、笹本、西村、寺本、“FGセンサを用いた磁性構造材料の損傷評価”、第16回MAGDAコンファレンスin日立講演論文集、2007、pp.331-334. [2] 鈴木、蓮見、黒田、寺本、“フラックスゲートセンサを用いたSS400の欠陥断面形状の解析・評価”、日本AEM学会誌、 Vol.19,No.2、2011、pp.342-347. [3] 鈴木、蓮見、中住、寺本、“フラックスゲートセンサを用いたS45C円筒材の欠陥断面形状の評価“、日本保全学会第8回学術講演会要旨集、2011、pp.114-116. [4] C. Hansen, “Analysis of Discrete Ill-Posed Problems by Means of the L-Curve”, Society for Industrial and Applied Mathematics, Vol.34, No.4, 1992, pp.561-580.
“ “電磁逆解析に基づく複雑形状部材中の表面欠陥評価 “ “中住 昭吾,Shogo NAKASUMI,鈴木 隆之,Takayuki SUZUKI“ “電磁逆解析に基づく複雑形状部材中の表面欠陥評価 “ “中住 昭吾,Shogo NAKASUMI,鈴木 隆之,Takayuki SUZUKI
産業機器や構造物は主に強磁性体で構成されているため、漏洩磁束法等の電磁気的手法を用いた非破壊損傷評価法が有効である。 著者らはフラックスゲートセンサ(FGセンサ)を用いて、強磁性材料であるSS400の平板に設けた様々な欠陥形状について測定を行い、従来よりも大きなリフトオフで欠陥検知が可能あることを示し[1]、また、測定より得られた欠陥近傍の漏洩磁束密度分布に対してTikhonovの正則化法[4]やL-curve法等の逆解析手法を適用することにより、欠陥の具体的な形状を復元させ,寸法も評価可能であることを示した[2]。さらにはこの手法を円筒形状部材へ適用した[3]。
本研究では、円筒形状部材の拡張として、これらの手法をボルト部材に適用し、FGセンサで測定したねじ部の欠陥近傍の漏洩磁束密度分布から欠陥断面形状および寸法を求め、実際の欠陥と比較した。 2.磁気双極子モーメントと磁束密度の関係定式化 Fig.1に示す円筒座標系と直交座標系の間にx= rcosθ、y= rsinθの関係が成り立つことから、空間上の任意点の位置ベクトルをと表記する。このとき、円筒表面から一定のリフトオフを保持する曲面上の磁束密度のz軸方向成分と、欠陥断面上に分布する磁気双極子モーメントベクトル(以下、磁気双極子と呼ぶ)の間には式(1)の関係が成り立つ。ここでは応答関数と呼ばれ、式(2)で示される。式(1)を離散化して式(3)を得る。 (),,rzθ(),,xyz(),,xyz=aa()Ba()zBa(),,xyz′′′′′=aa()′=mma()Fa-1zB()F(')m(')d'=.∫aaaaa-2()(){}522222220F()x2yz4xyzμπ=.+++a-3==zBFmFig.1 Coordinate system 3.FGセンサによる磁束密度測定と可視化 試験片をFig.2に示す。試験片はS45Cのボルト材であり、外形寸法はφ16.0×100.0mmである。試験片表面から最大深さ3.0mm、幅0.3mmとなるように、半円状の欠陥を加工した。試験片は加工後に消磁を行い、ネオジム磁石を用いて長手方向(z軸方向)に着磁したのち、漏洩磁束密度を測定した。 漏洩磁束密度の測定に用いた磁気センサは約1.0×3.0mmのFGセンサであり、磁束密度測定範囲は±5.0×10-4T、分解能は1.0×10-7Tである。測定範囲は、周方向に360°、z軸方向に欠陥断面を中心とする±20.0mmとした。また測定間隔は、周方向に4.0°、z軸方向に0.2mmとした。リフトオフは1.0mmである。 測定した漏洩磁束密度を、ボルト材のz軸方向及び周方向にプロットした分布をFig.3に示す。欠陥に起因する漏洩磁束密度分布の隆起が中央部に観察されている。一方、ボルトのネジ溝に起因する磁束密度の周期的な繰り返しがz軸方向に生じていることがわかる。 4.逆解析による欠陥形状の復元 Fig.3の磁束密度分から欠陥面上の磁化分布を求めることは、式(3)のからを求めることに対応する。しかしを直接求めようとするとその解は振動解となりやすいため、式(4)で表されるTikhonovの正則化法に基づく逆解析[4]をFig.3の漏洩磁束密度分布に対して行った。また、L-Curve法を用いて、その折れ曲がり位置付近に位置する適切な正則化パラメータを求めることにより、振動を抑制させつつ、過度に平滑化されていない解を得ることができる。 zBmmαm-4T1T()zα.=+mFFIFBなお、磁気双極子の配置はボルト材の中心軸から外表面に向かうにつれて計算点を周方向に増加させ、表面近傍に多くの計算点が配置されるようにした。このように表面部を密に、中心部を疎にするような粗密付けを計算点配置に設けることで、高精度と高効率を両立した解析が可能となる。 逆解析の結果得られた磁気双極子の分布をFig.4に示す。点線が実際の欠陥の境界である。特に表面部分では欠陥の形状を精度よく得られていることがわかる。 5.結言 ネジ溝に半円型欠陥部を有するボルト材を用いて非破壊検査を行った。漏洩磁束密度はフラックスゲートセンサで測定し、ボルト長手方向及び周方向角度に対して磁束密度分布をプロットしたところ、ボルトのネジ溝に起因する磁束密度の周期的な繰り返しが観察された。TIkhonovの適切化法を用いて逆解析を行い、欠陥形状を適切に評価することができた。 Fig.2 Specimen of stud bolt Fig.3Magnetic flux density distribution of bolt Fig.4Magnetic dipole moment distribution obtained by inverse analysis from measured magnetic flux density 参考文献 [1]鈴木、寺崎、笹本、西村、寺本、“FGセンサを用いた磁性構造材料の損傷評価”、第16回MAGDAコンファレンスin日立講演論文集、2007、pp.331-334. [2] 鈴木、蓮見、黒田、寺本、“フラックスゲートセンサを用いたSS400の欠陥断面形状の解析・評価”、日本AEM学会誌、 Vol.19,No.2、2011、pp.342-347. [3] 鈴木、蓮見、中住、寺本、“フラックスゲートセンサを用いたS45C円筒材の欠陥断面形状の評価“、日本保全学会第8回学術講演会要旨集、2011、pp.114-116. [4] C. Hansen, “Analysis of Discrete Ill-Posed Problems by Means of the L-Curve”, Society for Industrial and Applied Mathematics, Vol.34, No.4, 1992, pp.561-580.
“ “電磁逆解析に基づく複雑形状部材中の表面欠陥評価 “ “中住 昭吾,Shogo NAKASUMI,鈴木 隆之,Takayuki SUZUKI“ “電磁逆解析に基づく複雑形状部材中の表面欠陥評価 “ “中住 昭吾,Shogo NAKASUMI,鈴木 隆之,Takayuki SUZUKI