初心者向けビジュアル型手順書チェックシートの提言
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カテゴリ: 第10回
1.緒言
プラント産業界では、設備の保守、補修のために行わる作業については、作業者の安全を守るとともに、作業の品質を確保するために作業手順書(以下、手順書という)が事前に作成され、作業の準備から後片付けまで手順書に基づき作業が進められる。ここでいう手順書は、作業体制、緊急時の連絡体制などの管理上の書類は含めず、作業の手順などを示したものに限定している。手順書の詳細な形態は作業現場により異なるが、基本的な点は共通している。一般的には、作業手順、注意事項と各責任者のチェック欄で構成されており、図や写真などの活用は少なく、テキスト主体である。本一連の研究においては、このテキスト主体の従来型手順書に対して、図や写真などを多用したビジュアル型手順書について検討した。空気式作動調節弁駆動部の組立作業を対象に、従来型とビジュアル型の2種類の手順書がそれぞれ作業内容にどのような影響を与えるかについて、観察・評価実験を行うことにより、ビジュアル型手順書の方が作業員のパフォーマンス(所要時間、作業内容の質)が良い可能性のあることが示唆された[1]。さらに詳細な検討を行うために、小型横型ポンプの組立作業を対象にした観察・評価実験と作業者への質問紙調査[2]を行うことにより、ビジュアル型手順書の有用性と作成にあたっての留意点が明らかとなった。本研究は、これまでの研究成果を踏まえて、初心者向けビジュアル型手順書を評価するためのチェックシートについて提言する。
2.手順書に対する実験及び質問紙調査結果
4 名の被験者(作業者)による小型横型ポンプの組立作業の実験及びアンケート調査結果[2]から、ビジュアル型手順書は、従来型手順書に比べて以下の点で評価が高いことがわかった。 【実験結果:ベテラン評価者の評価】 ・作業の所要時間が短い(評価者が、手順書に関係のない時間は差し引いた)(表1) 表1 作業の所要時間 実験 手順書 所用時間 A Ⅰ.従来型 [手順+注意事項+目的] 70 分 B Ⅱ.ビジュアル型 [手順+注意事項+目的] 42 分 C Ⅲ.ビジュアル型 [Ⅱを1作業ステップ1枚にしたもの] 53 分 D Ⅳ.ビジュアル型 [Ⅱを蛇腹折にしたもの] 64 分 ・被験者(作業者)の「ぎこちなさ」「手間取り」「取り越し苦労」が少ない(表2) 表2 手順書の悪評量※ 手順書Ⅰ 手順書Ⅱ 手順書Ⅲ 手順書Ⅳ ぎこちなさ 517 155 248 430 手間取り 492 112 191 324 取り越し苦労 396 133 188 374
※ 悪評量:評価者が作業ステップごとに、「ぎこちなさ」「手間取り」「取り越し苦労」の視点で評点を付け、それに所要時間を掛け合わせた指標で、数値が大きいほど好ましくない 【アンケート調査結果:被験者(作業者)の評価】 ・読みやすさ、理解のしやすさなど合計31 項目のアンケート調査の平均値がよい評価を得ている(図1) 図1 手順書のアンケート調査結果※ ※ アンケート調査結果:本アンケート調査では、項目ごとに評点1~4 点で評価することとし、評点が高いほど問題があるとしている また、ビジュアル型手順書に対する40 名の作業者に対する質問紙調査[2]においては、以下のような事柄がわかった。調査にあたっては、手順書の使用目的として、「新人(初心者)向け」と「現場作業向け」の2種類に分けて回答を求めた。 【新人(初心者)向け】 ・電気設備と機械設備では、望まれるビジュアル型手順書のタイプが異なった (実験者評価:作業時の移動量や、対象設備・部品のアフォーダンス※の多寡によるものと考えられる) ※ アフォーダンス:物が、それを使う者に訴えている、物から人への情報 【現場作業向け】 ・電気設備、機械設備ともビジュアル型手順書の評価が高い (実験者評価:新人(初心者)向けだけではなく、現場作業でも有効との評価であり、作業者の確認上の負担軽減を考慮してのことと考えられる) また、自由記述として以下の項目が挙げられた。 【新人(初心者)向け】 ・急な作業で初めての作業の場合は、図面だけではわかりにくいので写真などがあると良い ・トラブル事例を盛り込むと良い ・電力会社で統一してほしい ・始めからわかりやすい資料だと勉強にならない 【現場作業向け】 ・熟練者が少なくなっている現状では、ビジュアル型手順書が必要となってくるが、作成は大変 ・全ステップをビジュアル型手順書にする必要はなく、文章で表現しにくい部分、理解しにくい部分のみでよい。すべてのステップをビジュアル化すれば、手順書が分厚くなって扱いにくいことになる ・現場にはあまり細かすぎるものは必要ない ・元請会社も下請会社も使いやすいようにしないといけない 3.チェックシートの検討、提言 作業手順書は、作業者の安全を守るとともに、作業品質を確保することが大きなねらいである。一般的には、当該作業を熟知した者が作成し、定期点検作業などではそれらが標準手順書として保存され、以降の作業ではそれが雛形となる。すべての作業手順を手順書に記載することは現実的には無理があり、記載内容は制限される。基礎的なこと、当然のことと思われている事項は、省略される傾向にある。したがって作業者が代わったり、新人または当該作業の初心者が担当したときに、何らかのトラブルが発生し、その対策として手順書に抜けていた作業ステップなどを追記することが行われる。 一方、ベテラン作業者においては、作業のすべてが頭に入っているので、手順書を見るまでもなく、作業を進めることができる。この場合は作業内容の確認というよりは、作業ステップの抜け落ちに重点を置いた使われ方になる。しかしながら、ベテラン作業員といえども、いつもとは違った作業環境条件に気づかずに、いつも通りと認識し、作業を行い、トラブルとなることがある。 ベテラン作業者、新人(初心者)に対しても、何らかの有用な情報を手順書に記載し、それらがわかりやすく表示されている必要がある。その観点で、ビジュアル型手順書は、有用であると考えている。 先の質問紙の自由記述にもあったように、現場作業向けではすべてをビジュアル化する必要はないとあった。冗長なツールを持ち込んだ場合に、それらが形骸化するということはありうるので、本研究では、第一ステップとして新人(初心者)向けのビジュアル型手順書を作成することとし、そのためのチェックシートについて検討していくこととした。 チェックシートの検討にあたっては、行待・永田が開発したGAP-W型PSFのリファレンスリスト[3] ※を基礎にして、今までの実験結果および質問紙調査結果を反映していくこととした。その結果を図2[4]に示す。 ※GAP-W型PSFリファレンスリスト:作業情報( Gestalt, Affordance, Preview ) と作業負担(Workload)ごとにPSF(Performance Shaping Factor:行動形成因子)を整理したリストで、本研究の初期段階で行った保全に関するトラブル分析の背後要因リストとしても活用したものである[5] 図2 初心者向けビジュアル型手順書用のチェックシート(一部を抜粋表示) Workload 略称および解説 基本的意味 経験からの読み 経験からの予測や見当づけなどの意思決定が難しい 「読み」の方法は概して記述 .実物を見るのが初めての人を意識していない記述がある が難しいので、手順書上では限界があるが、難しさを訴えるのも良い .十分か否かの程度に不安が残る 劣確認性 確認・照合がしづらい作業・構造が配慮されていない 初心者は、表面や隙間など、 .慎重さを要する確認・照合に強調が不足している よく見れば確認できると一旦思い込むと、さらなる注意書きを忘れる .慎重さを要する確認・照合を促す書式が整っていない Preview 略称および解説 基本的意味 劣予測性 予測性・見通しが悪い作業局面の説明不足 .写真や図に部品説明指示、動作説明指示がない、または不十分 初心者にとってはどのステップも見通しが悪いので、それを補うのがビジュアル型の効能となる .当該ステップ以外はページをめくらないと何も判らない慎重さ不足 トラブルやエラーを生む可能性に対する予防的記述が弱い.予防的記述に強調化が施されていない、または強調が曖昧 このPSF は本質的には予測能力に依存するが、記載上は強調やレイアウトなどの適切さに依る .予防措置の記述法が統一性に欠ける Affordance 略称および解説 基本的意味 意図把握性 作業内容を把握しにくい文書や図、写真がある 電気部品などにアフォーダン .写真や図解が掲載目的を満たしていない スが少ない物があり、その場合は形状より存在位置を示す方がよい .アフォーダンス不足に対する説明不足がある 仕上がり判定難 節目ごとの仕上がり状態に対する判定基準が頼りない .状態確認方法の説明が節目に当たるステップで省かれている .目を凝らして見ないと読み取れない書式の手順書である 初心者は節目がどこか判らず、判定基準が頭に描けてもいないので、絶えず手順書に頼ろうとする。仕上り状態の節目は手順で誘導するとよい .同種繰り返しの作業が続く場合の留意点に欠けている Gestalt 略称および解説 基本的意味 不定形性 作業手順・方法に独自の判断に依存する不定形な部分がある .手順書の中に不鮮明な写真がある .詳細説明写真や図による表現が不適切 文書だけの説明では初心者は不定形に映るので、ビジュアル型を勧めるが、写真や図が判りにくいと不定形さが緩和されない .詳細説明が過剰に丁寧すぎ、長々しい 思い込み 思い込みによる不十分または不当な判断を招きやすい 矢印や吹き出しが指す位置が .部品説明指示の矢印が不適切 ずれていたりすれば、初心者は意外な思い込みをする可能性がある .動作説明指示の矢印が不適切 4.まとめビジュアル型手順書が、従来型手順書に比べて、色々な利点があることや、ビジュアル型手順書作成時の留意点が、実験及び質問紙調査結果から示された。本研究では、新人(初心者)向けのビジュアル型手順書に焦点を当て、手順書を作成するにあたっての留意点の提供と、手順書作成後の評価のためのチェックシートを検討し、提言した。5.今後の課題 ビジュアル型手順書の作成には、従来型手順書に比べて膨大な作業量が発生する。しかしながら、ベテラン作業者が退職し、技能伝承の問題がクローズアップされている現況では、このような取り組みは既に各所でなされていると思われる。 その取り組み内容の一部を手順書の形に落とし込み、使いやすい形に整理できれば、新人または初心者にとっては、素晴らしい教育訓練テキストになるのではと考えている。その時に、今回提言したチェックシートが役立ち、より良い手順書の作成に貢献できることを期待している。また、手順書作成で得られた知見をチェックシートに反映していくサイクルを回すことによって、手順書がさらに良いものに近づくのではないかと考えている。 今回の検討では、紙ベースの手順書を作成したが、電子ツールを使えば、動画なども容易に張り付けることができる。今の時点でベテラン作業者の作業状況を記録、保存しておく価値は十分に高いと思われる。 謝辞本研究は、平成17 年度は独立行政法人原子力安全基盤機構-独立行政法人日本原子力研究開発機構より、平成18 年度~21 年度は独立行政法人原子力安全基盤機構より受託した「品質保証等のソフト面を含む保全管理に係る技術基盤の整備に関する研究」により実施したものの一部である。ここに謝意を表す。 参考文献[1] 作田博、行待武生、“空気式作動調節弁駆動部の組立作業における作業手順書の影響に関する検討”、日本保全学会第5回学術講演会要旨集、水戸、2008、 pp.205-209. [2]作田博、“ヒューマンファクターから見た手順書・マニュアルのあり方”、第9回「原子力の安全管理と社会環境」ワークショップ報告書、2011、 pp.56-70. [3]行待武生、永田学、“GAP-W 型PSF によるリファレンス・リストと一事例研究”、ヒューマンファクターズ、Vol.9、 No.1、 2004、pp.46-62. [4](株)原子力安全システム研究所“平成21年度「品質保証等のソフト面を含む保全管理に係る技術基盤の整備」に関する研究”、2010、pp.59-62. [5]作田博、行待武生、”保全に係る事故・トラブル情報分析に基づく提言について“、日本保全学会第4回学術講演会要旨集、福井、2007、pp.379-381. (平成25 年6 月21 日) “ “初心者向けビジュアル型手順書チェックシートの提言 “ “作田 博,Hiroshi SAKUDA,行待 武生,Takeo YUKIMACHI
プラント産業界では、設備の保守、補修のために行わる作業については、作業者の安全を守るとともに、作業の品質を確保するために作業手順書(以下、手順書という)が事前に作成され、作業の準備から後片付けまで手順書に基づき作業が進められる。ここでいう手順書は、作業体制、緊急時の連絡体制などの管理上の書類は含めず、作業の手順などを示したものに限定している。手順書の詳細な形態は作業現場により異なるが、基本的な点は共通している。一般的には、作業手順、注意事項と各責任者のチェック欄で構成されており、図や写真などの活用は少なく、テキスト主体である。本一連の研究においては、このテキスト主体の従来型手順書に対して、図や写真などを多用したビジュアル型手順書について検討した。空気式作動調節弁駆動部の組立作業を対象に、従来型とビジュアル型の2種類の手順書がそれぞれ作業内容にどのような影響を与えるかについて、観察・評価実験を行うことにより、ビジュアル型手順書の方が作業員のパフォーマンス(所要時間、作業内容の質)が良い可能性のあることが示唆された[1]。さらに詳細な検討を行うために、小型横型ポンプの組立作業を対象にした観察・評価実験と作業者への質問紙調査[2]を行うことにより、ビジュアル型手順書の有用性と作成にあたっての留意点が明らかとなった。本研究は、これまでの研究成果を踏まえて、初心者向けビジュアル型手順書を評価するためのチェックシートについて提言する。
2.手順書に対する実験及び質問紙調査結果
4 名の被験者(作業者)による小型横型ポンプの組立作業の実験及びアンケート調査結果[2]から、ビジュアル型手順書は、従来型手順書に比べて以下の点で評価が高いことがわかった。 【実験結果:ベテラン評価者の評価】 ・作業の所要時間が短い(評価者が、手順書に関係のない時間は差し引いた)(表1) 表1 作業の所要時間 実験 手順書 所用時間 A Ⅰ.従来型 [手順+注意事項+目的] 70 分 B Ⅱ.ビジュアル型 [手順+注意事項+目的] 42 分 C Ⅲ.ビジュアル型 [Ⅱを1作業ステップ1枚にしたもの] 53 分 D Ⅳ.ビジュアル型 [Ⅱを蛇腹折にしたもの] 64 分 ・被験者(作業者)の「ぎこちなさ」「手間取り」「取り越し苦労」が少ない(表2) 表2 手順書の悪評量※ 手順書Ⅰ 手順書Ⅱ 手順書Ⅲ 手順書Ⅳ ぎこちなさ 517 155 248 430 手間取り 492 112 191 324 取り越し苦労 396 133 188 374
※ 悪評量:評価者が作業ステップごとに、「ぎこちなさ」「手間取り」「取り越し苦労」の視点で評点を付け、それに所要時間を掛け合わせた指標で、数値が大きいほど好ましくない 【アンケート調査結果:被験者(作業者)の評価】 ・読みやすさ、理解のしやすさなど合計31 項目のアンケート調査の平均値がよい評価を得ている(図1) 図1 手順書のアンケート調査結果※ ※ アンケート調査結果:本アンケート調査では、項目ごとに評点1~4 点で評価することとし、評点が高いほど問題があるとしている また、ビジュアル型手順書に対する40 名の作業者に対する質問紙調査[2]においては、以下のような事柄がわかった。調査にあたっては、手順書の使用目的として、「新人(初心者)向け」と「現場作業向け」の2種類に分けて回答を求めた。 【新人(初心者)向け】 ・電気設備と機械設備では、望まれるビジュアル型手順書のタイプが異なった (実験者評価:作業時の移動量や、対象設備・部品のアフォーダンス※の多寡によるものと考えられる) ※ アフォーダンス:物が、それを使う者に訴えている、物から人への情報 【現場作業向け】 ・電気設備、機械設備ともビジュアル型手順書の評価が高い (実験者評価:新人(初心者)向けだけではなく、現場作業でも有効との評価であり、作業者の確認上の負担軽減を考慮してのことと考えられる) また、自由記述として以下の項目が挙げられた。 【新人(初心者)向け】 ・急な作業で初めての作業の場合は、図面だけではわかりにくいので写真などがあると良い ・トラブル事例を盛り込むと良い ・電力会社で統一してほしい ・始めからわかりやすい資料だと勉強にならない 【現場作業向け】 ・熟練者が少なくなっている現状では、ビジュアル型手順書が必要となってくるが、作成は大変 ・全ステップをビジュアル型手順書にする必要はなく、文章で表現しにくい部分、理解しにくい部分のみでよい。すべてのステップをビジュアル化すれば、手順書が分厚くなって扱いにくいことになる ・現場にはあまり細かすぎるものは必要ない ・元請会社も下請会社も使いやすいようにしないといけない 3.チェックシートの検討、提言 作業手順書は、作業者の安全を守るとともに、作業品質を確保することが大きなねらいである。一般的には、当該作業を熟知した者が作成し、定期点検作業などではそれらが標準手順書として保存され、以降の作業ではそれが雛形となる。すべての作業手順を手順書に記載することは現実的には無理があり、記載内容は制限される。基礎的なこと、当然のことと思われている事項は、省略される傾向にある。したがって作業者が代わったり、新人または当該作業の初心者が担当したときに、何らかのトラブルが発生し、その対策として手順書に抜けていた作業ステップなどを追記することが行われる。 一方、ベテラン作業者においては、作業のすべてが頭に入っているので、手順書を見るまでもなく、作業を進めることができる。この場合は作業内容の確認というよりは、作業ステップの抜け落ちに重点を置いた使われ方になる。しかしながら、ベテラン作業員といえども、いつもとは違った作業環境条件に気づかずに、いつも通りと認識し、作業を行い、トラブルとなることがある。 ベテラン作業者、新人(初心者)に対しても、何らかの有用な情報を手順書に記載し、それらがわかりやすく表示されている必要がある。その観点で、ビジュアル型手順書は、有用であると考えている。 先の質問紙の自由記述にもあったように、現場作業向けではすべてをビジュアル化する必要はないとあった。冗長なツールを持ち込んだ場合に、それらが形骸化するということはありうるので、本研究では、第一ステップとして新人(初心者)向けのビジュアル型手順書を作成することとし、そのためのチェックシートについて検討していくこととした。 チェックシートの検討にあたっては、行待・永田が開発したGAP-W型PSFのリファレンスリスト[3] ※を基礎にして、今までの実験結果および質問紙調査結果を反映していくこととした。その結果を図2[4]に示す。 ※GAP-W型PSFリファレンスリスト:作業情報( Gestalt, Affordance, Preview ) と作業負担(Workload)ごとにPSF(Performance Shaping Factor:行動形成因子)を整理したリストで、本研究の初期段階で行った保全に関するトラブル分析の背後要因リストとしても活用したものである[5] 図2 初心者向けビジュアル型手順書用のチェックシート(一部を抜粋表示) Workload 略称および解説 基本的意味 経験からの読み 経験からの予測や見当づけなどの意思決定が難しい 「読み」の方法は概して記述 .実物を見るのが初めての人を意識していない記述がある が難しいので、手順書上では限界があるが、難しさを訴えるのも良い .十分か否かの程度に不安が残る 劣確認性 確認・照合がしづらい作業・構造が配慮されていない 初心者は、表面や隙間など、 .慎重さを要する確認・照合に強調が不足している よく見れば確認できると一旦思い込むと、さらなる注意書きを忘れる .慎重さを要する確認・照合を促す書式が整っていない Preview 略称および解説 基本的意味 劣予測性 予測性・見通しが悪い作業局面の説明不足 .写真や図に部品説明指示、動作説明指示がない、または不十分 初心者にとってはどのステップも見通しが悪いので、それを補うのがビジュアル型の効能となる .当該ステップ以外はページをめくらないと何も判らない慎重さ不足 トラブルやエラーを生む可能性に対する予防的記述が弱い.予防的記述に強調化が施されていない、または強調が曖昧 このPSF は本質的には予測能力に依存するが、記載上は強調やレイアウトなどの適切さに依る .予防措置の記述法が統一性に欠ける Affordance 略称および解説 基本的意味 意図把握性 作業内容を把握しにくい文書や図、写真がある 電気部品などにアフォーダン .写真や図解が掲載目的を満たしていない スが少ない物があり、その場合は形状より存在位置を示す方がよい .アフォーダンス不足に対する説明不足がある 仕上がり判定難 節目ごとの仕上がり状態に対する判定基準が頼りない .状態確認方法の説明が節目に当たるステップで省かれている .目を凝らして見ないと読み取れない書式の手順書である 初心者は節目がどこか判らず、判定基準が頭に描けてもいないので、絶えず手順書に頼ろうとする。仕上り状態の節目は手順で誘導するとよい .同種繰り返しの作業が続く場合の留意点に欠けている Gestalt 略称および解説 基本的意味 不定形性 作業手順・方法に独自の判断に依存する不定形な部分がある .手順書の中に不鮮明な写真がある .詳細説明写真や図による表現が不適切 文書だけの説明では初心者は不定形に映るので、ビジュアル型を勧めるが、写真や図が判りにくいと不定形さが緩和されない .詳細説明が過剰に丁寧すぎ、長々しい 思い込み 思い込みによる不十分または不当な判断を招きやすい 矢印や吹き出しが指す位置が .部品説明指示の矢印が不適切 ずれていたりすれば、初心者は意外な思い込みをする可能性がある .動作説明指示の矢印が不適切 4.まとめビジュアル型手順書が、従来型手順書に比べて、色々な利点があることや、ビジュアル型手順書作成時の留意点が、実験及び質問紙調査結果から示された。本研究では、新人(初心者)向けのビジュアル型手順書に焦点を当て、手順書を作成するにあたっての留意点の提供と、手順書作成後の評価のためのチェックシートを検討し、提言した。5.今後の課題 ビジュアル型手順書の作成には、従来型手順書に比べて膨大な作業量が発生する。しかしながら、ベテラン作業者が退職し、技能伝承の問題がクローズアップされている現況では、このような取り組みは既に各所でなされていると思われる。 その取り組み内容の一部を手順書の形に落とし込み、使いやすい形に整理できれば、新人または初心者にとっては、素晴らしい教育訓練テキストになるのではと考えている。その時に、今回提言したチェックシートが役立ち、より良い手順書の作成に貢献できることを期待している。また、手順書作成で得られた知見をチェックシートに反映していくサイクルを回すことによって、手順書がさらに良いものに近づくのではないかと考えている。 今回の検討では、紙ベースの手順書を作成したが、電子ツールを使えば、動画なども容易に張り付けることができる。今の時点でベテラン作業者の作業状況を記録、保存しておく価値は十分に高いと思われる。 謝辞本研究は、平成17 年度は独立行政法人原子力安全基盤機構-独立行政法人日本原子力研究開発機構より、平成18 年度~21 年度は独立行政法人原子力安全基盤機構より受託した「品質保証等のソフト面を含む保全管理に係る技術基盤の整備に関する研究」により実施したものの一部である。ここに謝意を表す。 参考文献[1] 作田博、行待武生、“空気式作動調節弁駆動部の組立作業における作業手順書の影響に関する検討”、日本保全学会第5回学術講演会要旨集、水戸、2008、 pp.205-209. [2]作田博、“ヒューマンファクターから見た手順書・マニュアルのあり方”、第9回「原子力の安全管理と社会環境」ワークショップ報告書、2011、 pp.56-70. [3]行待武生、永田学、“GAP-W 型PSF によるリファレンス・リストと一事例研究”、ヒューマンファクターズ、Vol.9、 No.1、 2004、pp.46-62. [4](株)原子力安全システム研究所“平成21年度「品質保証等のソフト面を含む保全管理に係る技術基盤の整備」に関する研究”、2010、pp.59-62. [5]作田博、行待武生、”保全に係る事故・トラブル情報分析に基づく提言について“、日本保全学会第4回学術講演会要旨集、福井、2007、pp.379-381. (平成25 年6 月21 日) “ “初心者向けビジュアル型手順書チェックシートの提言 “ “作田 博,Hiroshi SAKUDA,行待 武生,Takeo YUKIMACHI