大間原子力発電所の安全対策強化の取り組み

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カテゴリ: 第10回
1.はじめに
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による津波に起因する福島第一原子力発電所事故においては、全電源が喪失するとともに原子炉及び使用済燃料貯蔵プールの除熱機能が喪失し、シビアアクシデント(過酷事故)に至った結果、大量の放射性物質が環境中に放出された。今回の事故を重く受け止めて、現在建設中の大間原子力発電所において、安全確保に万全を期すべく必要な対策の検討を進めている。 本稿では、福島第一原子力発電所事故の発生以降、大間原子力発電所の安全強化対策として取り組んでいる内容について紹介する。なお、安全強化対策の工事については、所要の許認可手続きを経た上で実施していく予定である。また、今回紹介する内容については、今後変更の可能性があることをあらかじめお断りしておく。
2.大間原子力発電所計画の概要 大間原子力発電所計画は、平成7年8月の原子力委員会決定によって、国及び電気事業者の支援の下、当社が責任を持って取り組むべきとされた全炉心でのMOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料利用を目指した改良型沸騰水型軽水炉(フルMOX-ABWR)であり、軽水炉でのMOX燃料利用計画の柔軟性を拡げるという政策的な位置付けを持つものである。 Fig.1 Overview of Ohma nuclear power project Fig.2 Location and the present condition 大間原子力発電所計画の概要をFig.1、建設地点及び現況をFig.2に示す。 大間原子力発電所計画は、平成20年4月23日には「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」に基づく原子炉設置許可、5月27日には電気事業法に基づく工事計画認可(第1回)を経済産業大臣から受け、着工に至ったが、平成23年3月11日に発生した東日本大震災の影響により、環境保全や設備維持等に必要な保安工事を除き、本体の建設工事を休止した。その後、平成24年9月14日に国の革新的エネルギー・環境戦略が決定され、建設中の原子力発電所の取り扱い及び核燃料サイクル政策の継続が明確になったことから、平成24年10月1日に建設工事を再開した。なお、再開にあたっては、福島第一原子力発電所事故を踏まえた安全強化対策を建設工事に反映し、運転開始前までに必要な対策を確実に実施することとしている。 Fig.3 Measures for reinforcing safety at the Ohma nuclear power plant 3.大間原子力発電所における安全強化対策 福島第一原子力発電所事故の教訓については、さまざまな観点からの分析がなされているところであるが、事故から得られた代表的な教訓として、以下の4点が挙げられる。 (1) 設計想定を超える津波により、発電所設備の多くが機能喪失したこと (2) 特に、電源設備が機能喪失したことにより、安全設備の広範な機能喪失に至ったこと (3) 安全機能の喪失により、原子炉の冷却・除熱を行えず、炉心溶融に至ったこと (4) 設計想定を超えるシビアアクシデントに対応するための手順・設備の整備が十分でなかったこと よって、大間原子力発電所の安全強化対策として、以下の検討に取り組んでいる。 (1) 津波等、自然現象に対する施設の頑健性強化 (2) 安全設備の機能喪失に備えた、代替設備の整備(電源・冷却) (3) シビアアクシデントに対応するための手順・設備の整備 これまでに検討している大間原子力発電所の安全強化対策の概要をFig.3に示す。 以下、検討している対策内容の一部を紹介する。 3.1 津波対策 原子炉設置許可における想定津波については、文献調査をもとに敷地に影響を及ぼしたと考えられる既往津波及び今後発生することが想定される最大規模の津波の波源を設定し、数値シミュレーション等の検討の結果、敷地における津波最高水位は、朔望平均満潮位を考慮するとT.P.+4.4m(T.P.は東京湾平均海面)程度と評価している。想定津波に対して、原子炉等の冷却に必要となる設備(原子炉補機冷却海水系の海水ポンプ等を含む。)は、T.P.+12mの主建屋(原子炉建屋、タービン建屋等)内に設置することから、原子炉施設の安全性が津波によって損なわれることはないと評価している。しかしながら、福島第一原子力発電所の津波の浸水高さ(約+14~15m)を踏まえ、大間においてもT.P.+15mを考慮した津波防護対策を講じる。 津波の衝撃を緩和するとともに、発電所の主建屋への浸水を防止し、建屋内の機器を海水から守るための対策として、以下を実施する。 ・主建屋周りへの防潮壁の設置 ・主建屋の外扉等の防水構造化 ・安全上重要な機器を設置する部屋の水密性向上 ・油タンクの防油堤等の嵩上げ 津波の衝撃を緩和し、海水の浸入の可能性を低減するため、主建屋周りに高さ3m程度の防潮壁を設ける。さらに、主建屋への海水の浸水対策として、主建屋の外扉、主建屋に繋がるトレンチ及び建屋貫通部等を防水構造化し、重要な安全機能を有する設備を設置する部屋に対しては、水密化の向上を図る(Fig.4参照)。 また、T.P.+12mの主建屋の周辺に配置する屋外タンク周りのコンクリート製の防油堤又は遮へい壁の高さを3m程度に嵩上げ・補強するとともに、重油タンクは基礎ボルトで固定することによる転倒・漂流防止策を施す。 Measures to improve the watertightness Waterproofing of doors in exterior walls Important rooms for safety purposes Fig.4 Measures to improve the watertightness of important rooms for safety purposes (example) 3.2 電源確保の対策 外部電源としては500kV送電線2回線と66kV送電線1回線がある。また、非常用ディーゼル発電機はT.P.+12mの原子炉建屋内(地上1 階)に3台設置する計画である。 これらの交流電源が使用できない状況においても、緊急時の電源を確保する対策として、以下を実施する。 ・津波の影響を受けない高台への非常用発電機、燃料タンクの設置 ・非常用発電機からの電源ケーブルの本設化 ・電源車等の配備 ・蓄電池の大容量化 ・電源盤の上層階への追加設置 緊急時においても電源が確保できるよう、高台に非常用発電機及び燃料タンク(30日程度稼動可能な容量)を設置する。非常用発電機は、原子炉及び使用済燃料貯蔵プールの冷却を担うポンプ等の負荷を賄うのに十分な容量とし、予め高台に設置する電源盤を介して常設の電源盤とケーブルで繋ぎ、速やかに給電できるよう対策を講じておく。また、常設の電源盤やケーブルが津波等により損傷した場合は、電源車、可搬式発電機及びケーブルを配備し、必要な設備への給電を行う。 Fig.5 Additional installation and relocation of power panel on upper floor and increase in capacity of storage batteries T.P.+12m Control building Reactor building Additional installation of power panel Power building (additional) Relocation of power panel (partly) Increase in capacity of storage batteries 上記の交流電源が使用できない状況においても、直流電源により制御され原子炉で発生する蒸気の一部を利用して駆動する原子炉隔離時冷却系により一定時間の原子炉への注水が可能なよう、直流電源設備の蓄電池の容量を、現行の8時間から24時間に強化する。 上記の対策に伴い新たに設置する交流電源盤及び直流電源盤(蓄電池を含む)は、津波の影響を受ける恐れのない建屋上層階に設置する(Fig.5参照)。 3.3 最終的な除熱機能確保の対策 全交流電源喪失時は、原子炉で発生する蒸気の一部を利用して駆動する原子炉隔離時冷却系により注水して原子炉を冷却するが、本系統が停止した場合の緊急時においても原子炉や使用済燃料貯蔵プールを冷却するための機能を確保するため、以下の対策を実施する。 Fig.6 Reinforcement of alternative water injection equipment Reactor building Nuclear reactor Water tank Spent fuel storage pool Reactor containment vessel Portable power pumps or fire engines New installation of water storage tank ・代替の水源の確保(水タンクの補強、貯水槽の新設など) ・代替注水設備の強化 ・可搬式動力ポンプ、消防自動車の配備 ・代替海水ポンプの配備 ・海水ポンプ電動機等の予備品の配備 原子炉及び使用済燃料プールへの代替注水は、状況に応じて、復水移送ポンプ、ディーゼル駆動消火ポンプ、可搬式動力ポンプ又は消防自動車により行い、水源として、復水貯蔵タンク、貯水槽、貯水タンク等を使用する(Fig.6参照)。なお、原子炉への注水は、主蒸気逃がし安全弁を開放することにより原子炉の圧力を十分に減圧して行う。可搬式動力ポンプや消防自動車は、注水に必要な加圧力を備えるとともに、崩壊熱除去に必要な容量・ 台数を配備する。また、貯水タンク等の水又は海水を、可搬式動力ポンプ等を用いて移送可能とすることで、注水に必要な水を確保する。これらの水源を確実に確保できるよう、貯水タンク等の信頼性を向上するため、タンク本体の補強を行う。 崩壊熱や機器から生じる熱を除去するための海水ポンプはタービン建屋内に設置されるため、津波の影響を受ける可能性は低いが、万一の設備の被水等に迅速に対応するため、海水ポンプの電動機を予備品として配備する。また、海水ポンプ復旧までの代替冷却機能として、代替海水ポンプと海水系への接続に必要なホース等を確保する。海水系の冷却機能が復旧後、原子炉及び使用済燃料貯蔵プールから崩壊熱を除去する残留熱除去系を復旧し、通常の冷却状態に復帰させる。 3.4 シビアアクシデント対応の対策 万一シビアアクシデントが発生した場合でも迅速に対応するため、以下の対策を実施する。 ・格納容器フィルタベントの設置 ・格納容器の冷却の強化 ・原子炉建屋水素ベント装置、建屋内水素検知器の設置 ・中央制御室の作業環境の確保 ・免震重要建屋の設置 ・資機材倉庫の設置 ・通信手段の強化 ・高線量対応防護服等の資機材の配備、放射線管理の体制整備 ・がれき撤去用の重機の配備 上記対策のうち、本稿では格納容器フィルタベントの設置について紹介する。 シビアアクシデントが発生し、格納容器の圧力が異常に上昇した場合において格納容器破損を防止するため、放射性物質除去効果を有するフィルタ付格納容器ベント システム(Filtered Containment Venting System:FCVS)を設置する(Fig.7参照)。FCVSのベントラインは、他の系統と独立した構成にする。また、福島事故における水素爆発事象を踏まえ、可燃性ガスの爆発防止対策を講じる。福島事故では、現場の隔離弁操作が困難を極めたことから、ベントラインに設置する隔離弁は、電源喪失時においても人力等により容易かつ確実に開閉操作ができる設計とするとともに、使用時に高線量となることから、被ばくを低減するため、遮へい等の放射線防護対策を施す。 Reactor building Reactor containment vessel Wet well Dry well FCVS Fig.7 Filtered Containment Venting System 4.おわりに 当社は、これまで大間原子力発電所における津波対策、電源確保、最終的な除熱機能確保及びシビアアクシデント対応等の安全強化対策に関する検討を進めてきている。今後、規制基準を踏まえた安全強化対策(特定安全施設、火災防護の強化等)についても検討していく他、青森県内事業者間の連携強化等による防災への取り組みを進めるとともに、引続き、より優れた安全技術を積極的に導入し、必要な対策については適切に反映することで、地域の皆さまから信頼される安全な発電所の建設につなげていく所存である。 (平成25年6月21日)
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