次世代炉用構造材料のクリープ・疲労特性評価及び劣化損傷キャラクタリゼーション
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カテゴリ: 第10回
1.緒言
次世代炉においては、構造材料は高温、長期間にわたって、構造健全性を確保する必要がある。特に起動停止時には繰り返し荷重、機器稼働時にはクリープ荷重を受けるため、クリープ・疲労 (クリープ疲労、疲労) 特性を評価するとともに、その劣化損傷メカニズムを明らかにすることが重要な課題である。 我々は次世代炉において使用を検討されている構造材料を用いて、クリープ・疲労試験をはじめとする耐久性試験を実施してきた[1][2]。本研究においては特にMod. 9Cr-1Mo鋼を用いて、クリープ荷重保持時間を変化させたクリープ・疲労試験を実施するとともに、マクロ、ミクロレベルの様々なキャラクタリゼーションを行い、クリープ荷重保持のクリープ・疲労劣化損傷に及ぼす影響を明らかにした。
2.材料および実験方法
材料にはMod. 9Cr-1Mo鋼を用いた。その化学成分をTable 1に示す。1040℃で焼きならし、730℃で焼き戻し後、Fig. 1のような形状に加工した。 試験には電気油圧式疲労試験機、薄型大気炉からなる高温耐久性評価試験装置を用いた。クリープ・疲労試験(クリープ疲労試験、疲労試験)は荷重制御のもと、最大応力490 [MPa]、応力比-0.5の条件にて、荷重保持時間を30、10、0 [min.]と3段階変化させ、実施した。各々の試験片の試験条件をTable 2に示す。 試験は、ひずみがおおよそ7.8%に達した段階で中断した。 試験片中央部よりφ8X1mm程度の試料を作成し、 Table 1 Chemical composition (wt%) Fig. 1 Shape and dimensions of specimen. SpecimenMaximum stress[MPa]Stress ratioHolding time[min.]Specimen 130Specimen 210Specimen 30Specimen 4490-0.5As received0246810050010001500Nominal strain %Number of cycles490MPa, 30 min., R=-0.5490MPa, 10 min., R=-0.5490MPa, 0 min., R=-0.5Specimen 1 (H. T. 30[min.])Specimen 2 (H. T. 10[min.])Specimen 3 (H. T. 0[min.]) Specimen Stress holding time[min.]Vickers hardness Hv0.5Specimen 130231Specimen 210231Specimen 30237Specimen 4-206-2.5-2-1.5-1-0.500.511.522.5-750000-600000-450000-300000-1500000150000300000450000600000750000Specimen 1Specimen 2Specimen 3Specimen 4MagneticfluxdensityT Magnetic field X106 A/m Table 2 Creep-fatigue test conditions ビッカース硬さ、試料振動型磁力計によるB-H特性等のマクロキャラクタリゼーションや走査型プローブ顕微鏡、磁気力顕微鏡、透過型電子顕微鏡等によるマイクロキャラクタリゼーションを行った。 3.実験結果および考察 3.1 クリープ・疲労特性 Fig. 2に各々の試験片のひずみと繰り返し数の関係を示す。ひずみが7.8%に達するまでの繰り返し数はクリープ荷重保持時間により大きく異なる。クリープ荷重保持により、ひずみ速度が増加していることがわかる。また、Specimen 1の場合にはひずみ速度はほぼ一定であるのに対し、Specimen 2、Specimen 3の場合には2次曲線的に増加している傾向が確認できる。 Fig. 2 Relationship between nominal strain and number of cycles of creep-fatigue damaged specimens for Mod.9Cr-1Mo steel. 3.2 マクロキャラクタリゼーションおよびマイクロキャラクタリゼーション 3.2.1 マクロキャラクタリゼーション 1) 硬さ試験 Table 3に各試験片の硬さ試験結果を示す。マイクロビッカース硬さHv0.5の測定結果では、Specimen 4 (納入材)と比較し、いずれの試験片の場合にも硬さが増加していることが確認できる。また、Specimen 3の疲労損傷材の場合が、Specimen 1、Specimen 2のクリープ疲労損傷材の場合よりも硬さが増加していることが確認される。 2) マクロ磁気特性 Fig. 3に各試験片のB-H特性を示す。各試験片ともほぼ同傾向を示すが、Specimen 4と比較して、クリープ・疲労試験を行ったSpecimen 1、Specimen 2、Specimen 3の場合には飽和磁束密度、透磁率が低下していることがわかる。また、その変化の程度は、硬さ試験の場合と同様にSpecimen 3の場合が最も大きい。 Table 3 Vickers hardness of creep-fatigue damaged specimens for Mod.9Cr-1Mo steel. Fig. 3 B-H characteristics of creep-fatigue damaged specimens for Mod.9Cr-1Mo steel. 3.2.2 マイクロキャラクタリゼーション 1) 磁気力顕微鏡観察 Fig. 4に各試験片の磁気力顕微鏡像を示す。いずれの場合も迷路状の磁区構造が観察され、顕著な差異は認められない。しかしながら、磁気力顕微鏡データより標準偏差を計算すると、Specimen 1、Specimen 3、Specimen 4の標準偏差はそれぞれ0.24°、0.22°、0.26°であり、クリープ・疲労損傷により標準偏差は低下すること、特にSpecimen 3の疲労損傷材の場合が最も低下の程度が大きいことがわかる。 2) 透過型電子顕微鏡観察 Fig. 5 にクリープ・疲労損傷材の透過型電子顕微鏡像を示す。クリープ・疲労損傷材では、いずれの場合も転位の増加が認められた。Mod.9Cr-1Mo鋼では納入材ではラスマルテンサイトが観察される[3]が、クリープ・疲労損傷材では、等軸状の副結晶粒も一部観察される。また, Specimen 3では副結晶粒内において転位が観察されるものの、Specimen 1では、粒内では転位がほとんど観察されない。これはクリープ荷重保持中に転位密度が減少したためと考えられる。 他のキャラクタリゼーション結果との対応を考えると、硬さに関してはクリープ・疲労損傷材では転位密度の増加に伴い硬さも増加し、またクリープ荷重を保持した場合には副結晶粒内の転位密度が減少するため硬さは減少することがわかる。磁気特性に関してはクリープ・疲労損傷材では転位が磁化の障害となるため、飽和磁束密度、透磁率、磁気力顕微鏡データの標準偏差とも減少すること、その程度は疲労損傷材の方が顕著であることがわかる。 すなわち、クリープ・疲労損傷材におけるクリープ荷重保持の硬さ、磁気特性への影響は、それぞれの転位密度、転位組織の相違により説明することができる。 10μm (a) Specimen 1 (b) Specimen 3 (c) Specimen 4 Fig. 4 Magnetic force microscope images for Mod.9Cr-1Mo steel. 0.5μm (a) Specimen 1 (b) Specimen 3 Fig. 5 TEM micrographs of creep-fatigue damaged specimens for Mod. 9Cr-1Mo steel. 4. 結言 1) 荷重保持時間を変化させたクリープ・疲労試験(クリープ疲労試験、疲労試験)を行った結果、クリープ荷重保持によりすることに、クリープ・疲労損傷は増加することがわかった。 2)クリープ・疲労損傷材においては、ビッカース硬さの増加、飽和磁束密度、透磁率の減少、磁気力顕微鏡像の標準偏差の減少が見られた。また、その程度はいずれの場合もクリープ保持を行わなかった疲労損傷材の方が顕著であった。 3) 透過型電子顕微鏡による転位組織の観察より、クリープ・疲労損傷材においては、等軸状の副結晶粒が観察されること、またクリープ荷重保持により、転位密度の減少が認められた。このような転位密度、転位組織の変化により、ビッカース硬さや磁気特性に差異を生じることがわかった。 参考文献 [1] T. Suzuki , R. Hashidate, T. Toide and Y. Harada, ““Microcharacterization of creep damage for energy structural materials using magnetic force microscope”, Proceedings of the 20th MAGDA con- ference in Pacific Asia, 2011, pp.436-440. [2] 鈴木隆之、橋立竜太、原田佳久、“エネルギー機器用構造材料の溶接部のクリープ・疲労劣化損傷過程における電磁特性評価”、第21回MAGDAコンフェレンスin 仙台、2012、 pp.175-180. [3] 遠藤孝雄 他、”改良9Cr-1Mo鋼のクリープ変形にともなう硬度と下部組織の変化”、鉄と鋼、2002、 pp. 48-55. 謝辞 本研究は、特別会計に関する法律(エネルギー対策特別会計)に基づく文部科学省からの受託研究として、福井大学が実施した平成24年度「「もんじゅ」における高速増殖炉実用化のための中核的研究開発」のうち、独立行政法人産業技術総合研究所が福井大学から再委託を受けて 実施した成果です。
“ “次世代炉用構造材料のクリープ・疲労特性評価及び劣化損傷キャラクタリゼーション “ “鈴木 隆之,Takayuki SUZUKI,村松 眞由,Mayu MURAMATSU,槌田 雄二,Yuji TSUCHIDA,中曽根 祐司,Yuji NAKASONE“ “次世代炉用構造材料のクリープ・疲労特性評価及び劣化損傷キャラクタリゼーション “ “鈴木 隆之,Takayuki SUZUKI,村松 眞由,Mayu MURAMATSU,槌田 雄二,Yuji TSUCHIDA,中曽根 祐司,Yuji NAKASONE
次世代炉においては、構造材料は高温、長期間にわたって、構造健全性を確保する必要がある。特に起動停止時には繰り返し荷重、機器稼働時にはクリープ荷重を受けるため、クリープ・疲労 (クリープ疲労、疲労) 特性を評価するとともに、その劣化損傷メカニズムを明らかにすることが重要な課題である。 我々は次世代炉において使用を検討されている構造材料を用いて、クリープ・疲労試験をはじめとする耐久性試験を実施してきた[1][2]。本研究においては特にMod. 9Cr-1Mo鋼を用いて、クリープ荷重保持時間を変化させたクリープ・疲労試験を実施するとともに、マクロ、ミクロレベルの様々なキャラクタリゼーションを行い、クリープ荷重保持のクリープ・疲労劣化損傷に及ぼす影響を明らかにした。
2.材料および実験方法
材料にはMod. 9Cr-1Mo鋼を用いた。その化学成分をTable 1に示す。1040℃で焼きならし、730℃で焼き戻し後、Fig. 1のような形状に加工した。 試験には電気油圧式疲労試験機、薄型大気炉からなる高温耐久性評価試験装置を用いた。クリープ・疲労試験(クリープ疲労試験、疲労試験)は荷重制御のもと、最大応力490 [MPa]、応力比-0.5の条件にて、荷重保持時間を30、10、0 [min.]と3段階変化させ、実施した。各々の試験片の試験条件をTable 2に示す。 試験は、ひずみがおおよそ7.8%に達した段階で中断した。 試験片中央部よりφ8X1mm程度の試料を作成し、 Table 1 Chemical composition (wt%) Fig. 1 Shape and dimensions of specimen. SpecimenMaximum stress[MPa]Stress ratioHolding time[min.]Specimen 130Specimen 210Specimen 30Specimen 4490-0.5As received0246810050010001500Nominal strain %Number of cycles490MPa, 30 min., R=-0.5490MPa, 10 min., R=-0.5490MPa, 0 min., R=-0.5Specimen 1 (H. T. 30[min.])Specimen 2 (H. T. 10[min.])Specimen 3 (H. T. 0[min.]) Specimen Stress holding time[min.]Vickers hardness Hv0.5Specimen 130231Specimen 210231Specimen 30237Specimen 4-206-2.5-2-1.5-1-0.500.511.522.5-750000-600000-450000-300000-1500000150000300000450000600000750000Specimen 1Specimen 2Specimen 3Specimen 4MagneticfluxdensityT Magnetic field X106 A/m Table 2 Creep-fatigue test conditions ビッカース硬さ、試料振動型磁力計によるB-H特性等のマクロキャラクタリゼーションや走査型プローブ顕微鏡、磁気力顕微鏡、透過型電子顕微鏡等によるマイクロキャラクタリゼーションを行った。 3.実験結果および考察 3.1 クリープ・疲労特性 Fig. 2に各々の試験片のひずみと繰り返し数の関係を示す。ひずみが7.8%に達するまでの繰り返し数はクリープ荷重保持時間により大きく異なる。クリープ荷重保持により、ひずみ速度が増加していることがわかる。また、Specimen 1の場合にはひずみ速度はほぼ一定であるのに対し、Specimen 2、Specimen 3の場合には2次曲線的に増加している傾向が確認できる。 Fig. 2 Relationship between nominal strain and number of cycles of creep-fatigue damaged specimens for Mod.9Cr-1Mo steel. 3.2 マクロキャラクタリゼーションおよびマイクロキャラクタリゼーション 3.2.1 マクロキャラクタリゼーション 1) 硬さ試験 Table 3に各試験片の硬さ試験結果を示す。マイクロビッカース硬さHv0.5の測定結果では、Specimen 4 (納入材)と比較し、いずれの試験片の場合にも硬さが増加していることが確認できる。また、Specimen 3の疲労損傷材の場合が、Specimen 1、Specimen 2のクリープ疲労損傷材の場合よりも硬さが増加していることが確認される。 2) マクロ磁気特性 Fig. 3に各試験片のB-H特性を示す。各試験片ともほぼ同傾向を示すが、Specimen 4と比較して、クリープ・疲労試験を行ったSpecimen 1、Specimen 2、Specimen 3の場合には飽和磁束密度、透磁率が低下していることがわかる。また、その変化の程度は、硬さ試験の場合と同様にSpecimen 3の場合が最も大きい。 Table 3 Vickers hardness of creep-fatigue damaged specimens for Mod.9Cr-1Mo steel. Fig. 3 B-H characteristics of creep-fatigue damaged specimens for Mod.9Cr-1Mo steel. 3.2.2 マイクロキャラクタリゼーション 1) 磁気力顕微鏡観察 Fig. 4に各試験片の磁気力顕微鏡像を示す。いずれの場合も迷路状の磁区構造が観察され、顕著な差異は認められない。しかしながら、磁気力顕微鏡データより標準偏差を計算すると、Specimen 1、Specimen 3、Specimen 4の標準偏差はそれぞれ0.24°、0.22°、0.26°であり、クリープ・疲労損傷により標準偏差は低下すること、特にSpecimen 3の疲労損傷材の場合が最も低下の程度が大きいことがわかる。 2) 透過型電子顕微鏡観察 Fig. 5 にクリープ・疲労損傷材の透過型電子顕微鏡像を示す。クリープ・疲労損傷材では、いずれの場合も転位の増加が認められた。Mod.9Cr-1Mo鋼では納入材ではラスマルテンサイトが観察される[3]が、クリープ・疲労損傷材では、等軸状の副結晶粒も一部観察される。また, Specimen 3では副結晶粒内において転位が観察されるものの、Specimen 1では、粒内では転位がほとんど観察されない。これはクリープ荷重保持中に転位密度が減少したためと考えられる。 他のキャラクタリゼーション結果との対応を考えると、硬さに関してはクリープ・疲労損傷材では転位密度の増加に伴い硬さも増加し、またクリープ荷重を保持した場合には副結晶粒内の転位密度が減少するため硬さは減少することがわかる。磁気特性に関してはクリープ・疲労損傷材では転位が磁化の障害となるため、飽和磁束密度、透磁率、磁気力顕微鏡データの標準偏差とも減少すること、その程度は疲労損傷材の方が顕著であることがわかる。 すなわち、クリープ・疲労損傷材におけるクリープ荷重保持の硬さ、磁気特性への影響は、それぞれの転位密度、転位組織の相違により説明することができる。 10μm (a) Specimen 1 (b) Specimen 3 (c) Specimen 4 Fig. 4 Magnetic force microscope images for Mod.9Cr-1Mo steel. 0.5μm (a) Specimen 1 (b) Specimen 3 Fig. 5 TEM micrographs of creep-fatigue damaged specimens for Mod. 9Cr-1Mo steel. 4. 結言 1) 荷重保持時間を変化させたクリープ・疲労試験(クリープ疲労試験、疲労試験)を行った結果、クリープ荷重保持によりすることに、クリープ・疲労損傷は増加することがわかった。 2)クリープ・疲労損傷材においては、ビッカース硬さの増加、飽和磁束密度、透磁率の減少、磁気力顕微鏡像の標準偏差の減少が見られた。また、その程度はいずれの場合もクリープ保持を行わなかった疲労損傷材の方が顕著であった。 3) 透過型電子顕微鏡による転位組織の観察より、クリープ・疲労損傷材においては、等軸状の副結晶粒が観察されること、またクリープ荷重保持により、転位密度の減少が認められた。このような転位密度、転位組織の変化により、ビッカース硬さや磁気特性に差異を生じることがわかった。 参考文献 [1] T. Suzuki , R. Hashidate, T. Toide and Y. Harada, ““Microcharacterization of creep damage for energy structural materials using magnetic force microscope”, Proceedings of the 20th MAGDA con- ference in Pacific Asia, 2011, pp.436-440. [2] 鈴木隆之、橋立竜太、原田佳久、“エネルギー機器用構造材料の溶接部のクリープ・疲労劣化損傷過程における電磁特性評価”、第21回MAGDAコンフェレンスin 仙台、2012、 pp.175-180. [3] 遠藤孝雄 他、”改良9Cr-1Mo鋼のクリープ変形にともなう硬度と下部組織の変化”、鉄と鋼、2002、 pp. 48-55. 謝辞 本研究は、特別会計に関する法律(エネルギー対策特別会計)に基づく文部科学省からの受託研究として、福井大学が実施した平成24年度「「もんじゅ」における高速増殖炉実用化のための中核的研究開発」のうち、独立行政法人産業技術総合研究所が福井大学から再委託を受けて 実施した成果です。
“ “次世代炉用構造材料のクリープ・疲労特性評価及び劣化損傷キャラクタリゼーション “ “鈴木 隆之,Takayuki SUZUKI,村松 眞由,Mayu MURAMATSU,槌田 雄二,Yuji TSUCHIDA,中曽根 祐司,Yuji NAKASONE“ “次世代炉用構造材料のクリープ・疲労特性評価及び劣化損傷キャラクタリゼーション “ “鈴木 隆之,Takayuki SUZUKI,村松 眞由,Mayu MURAMATSU,槌田 雄二,Yuji TSUCHIDA,中曽根 祐司,Yuji NAKASONE