長期停止無線ノード間の通信における電力制御

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カテゴリ: 第10回
1はじめに
システムの状態をモニタする目的で維持されるセンサネットワークには、主にシステムの通常運転時におけるモニタと制御を目的として比較的高い頻度でセンシングを行いリアルタイムにセンサ情報を収集するalways-onタイプのものと、通常運転時には停止しているかもしくはごく低い頻度でのセンシングしか行わず、システムに障害が発生するなど長期間のモニタリングが必要な場合にバッテリで駆動されるalways-offタイプのものがある。前者を構成するセンサノードは常時給電され有線もしくは無線により近隣のセンサノードと常時接続されている。一方、後者を構成するセンサノードはバッテリにより駆動され、無線により近隣のセンサノードと通信が可能な状態に置かれている。特に長期間にわたるシステム障害時には、センサネットワークを制御するノードの停止や、近隣のセンサノードの不定期な停止も考慮しつつ、できる限り長期間にわたってモニタを継続するための工夫が求められる。 一般にマイコン技術、無線通信技術、バッテリ制御技術の向上によりセンサノード動作時の省電力性能は向上しているが、センサノードそのものもしくは無線通信機能を間歇的に動かすことで停止期間を設けることは最も有効な省電力技術の一つである。しかしながら停止しているセンサノード同士が無線通信を確立するために同時に動作を再開することは困難である。特に近隣の無線ノードが見つからない場合には発見のための動作を継続しなければならず電力を消費する。そこでセンサネットワーク向けの多くの無線ネットワーク技術では通信のタイミングを同期させるために定期的に制御情報をやりとりしている。本稿では、長期間にわたる停止状態を伴い間歇的に動作する無線ノードが、同期のために制御情報をやり取りしたり、事前の情報共有をしたりすることなく、また近隣に他の無線ノードが無い場合でも余分な電力を消費せず、長期間にわたり通信相手を発見するための動作を可能にする無線モジュールの電力制御方法について提案する。
2.間歇通信における同期方式
2.1同期コントローラ方式 同期コントローラ方式では、無線ネットワーク内の一つの無線ノードを同期コントローラとして定め、これが同期のための情報(以下、同期情報)を無線ネットワーク全体に定期的にブロードキャストする。すべての無線ノードは同期情報に従い、周期的に無線モジュールを動作させる。この方式では1分間に1秒間だけ無線モジュールを動作させるといったように任意の長さに周期を設定できるため、同期情報が行き渡っている限りは高い省電力性能を達成することができる。通信障害などにより同期情報を受け取ることができなかった無線ノードは無線モジュールの動作期間を漸次延長するが、それでも同期情報を受け取ることができなかった場合には周期的な動作を中断し、無線モジュールを常時動作させて同期情報を連続的に待ち受ける。したがって近隣に無線モジュールが無かったり同期コントローラが失われたりした場合 wireless node sync controller sync message sync message には省電力性能が悪化する。携帯電話の待ち受け電力が圏外で大きくなるのと同じ原理である。このような動作をする無線ネットワーク方式としてIEEE802.15.4ベースのDigiMeshなどが挙げられる。 Fig. 1Sync messages broadcasted by a controller 2.2半期間方式 同期コントローラが無い場合に使える手法として半期間方式がある。2つの無線ノードはお互いに相手の無線モジュールの動作しているタイミングを知らないが、それぞれが同じ周期Tと独立した位相のタイマを持っているとする。このときそれぞれの無線ノードはT/2+εの期間だけ無線モジュールを動作させれば、周期Tのうち少なくとも1900/01/01εの期間は同時に動作している期間があるため、このタイミングで同期を確立できる。 Fig. 2each node activates RF for a half of cycle この方式の変種として2つの無線ノードのそれぞれがFig.3のように断続的に無線モジュールを動作させる方法も考えられるが、この場合にはどちらの無線ノードがどのパターンを使うかについて事前の情報共有が必要である。 Fig. 3A variant of Fig. 2 2.3同期引きこみ方式 非線形振動子の同期引きこみ現象を使うと、多数の無線ノードを自律分散的に同期させることができる。それぞれの無線ノードが持つタイマの周期を少しずつ変えておき、これを振動子とみなす。振動子の位相が0になる前後εの期間にわたり無線モジュールを動作させる。各振動子の周期はすこしずつ異なるので、いずれ通信できる期間がやってくる。通信が成立したタイミングによりそれぞれの振動子が自身の位相と周期を微調整することで、振動子群は全体として同じ周期および位相で振動する完全同期状態に引き込まれる。これはホタルの群れが同期的に明滅を繰り返したり並んで歩く二人の歩調が同期したりする現象としても観察される。ただしこの方式では位相と周期を常に調整しなければならないため演算のコストがかかるうえ、完全同期状態ではなく隣接する振動子の位相が少しずつずれた準同期状態で安定することもあり、その制御はむずかしい。 3.提案方式 前章で挙げた各種の同期方式の利点と欠点を考慮し、我々は新しい同期方式を提案する。ここで対象とする無線ノードについていくつかの前提をおく。無線ノードが動作を再開したとき、それ以前に同期していたという情報は完全に失われていてよいものとする。これはバッテリが完全に枯渇し、メモリが揮発してしまった状態を考慮している。無線ノードの動作はバッテリが復帰したなどのトリガによりランダムなタイミングで再開されるものとする。動作を再開した後は内蔵のタイマにより掲示できるものとする。ただし絶対的な時刻を知る必要はないため時計は無くても構わない。 無線ノードは固定されたスケジュールにしたがって無線モジュールのオンとオフを繰り返す。無線モジュールをオンにする期間の先頭で同期情報をブロードキャストし、無線モジュールをオフにするまでの残りの期間は受信状態を維持する。こうすることで2つの無線ノードが通信可能な範囲にあり、かつ両方の無線モジュールが同時にオンになっている期間があれば、必ずお互いを認識することができる。この様子をFig.4に示す。 Fig. 4message at the beginning of ON duration 省電力性能を最大化するには、ON期間をできるだけ短くすれば良い。取りうる最短のON期間の長さがどの程度であるかは無線ネットワークによって異なるので、それを1単位時間として扱うことにする。すなわち提案手法を実装するにあたって1単位時間を1秒とするか1分とするかは無線ネットワークとアプリケーションによって自由に選んで構わない。 いま、パラメータNとして任意の自然数を選ぶ。n (N.n.1)回目のON期間の始まりをtn、次のON期間の始まりまでの時間をdn=tn+1.tnとし、ON期間の長さを1とする。ここでt1とdnを次のように定義するとすべてのtnが定まる。 (d1,d2,…,..N)=(1,..,2,...2,3,...3,…,...2..) tn={1,..=11+Σ.......1..=1,..>1 1周期はT=Σ........==1=..(..+1)/2であり、N回のON期間が含まれ、同じパターンが繰り返されるとする。例えばN=5であればON期間はFig.5のようになる。 この系列は任意の単位時間シフトさせてもT以内に少なくとも1単位時間は元の系列と同時にONになる期間を持つ。従って、この系列に従って無線モジュールをONにする2つの無線ノードは周期T以内に必ず通信が成立する。 Fig. 5Proposed RF ON/OFF duration 周期Tの中にはN回のON期間があり、1回のON期間は1単位時間である。例えば1単位時間を1秒とするとT=86736秒に対してN=416であるから、約1日のうち計416秒間だけ無線モジュールを動かせば近隣の無線ノードとの通信が成立する。これは同期コントローラを使わない同期方法としては極めて省電力性能が高い。 提案手法の最大の利点は近隣の無線ノードの有無がわからない場合であっても省電力性能を保ったまま長期間にわたって検出を繰り返すことができることにある。これは無線ノードに障害が発生しいつ回復するかわからない状態で、長期にわたって無線ネットワークの回復を待ち続ける用途に適した利点である。さらに近隣に無線ノードがあることが分かっている場合には連続して無線モジュールを受信状態にすることで、最悪でもN単位時間以内に相手を見つけることができる。なぜならN単位時間毎に少なくとも2回のON期間があるからである。以前に通信した履歴や位置情報によって近隣の無線ノードの存在を推測できる場合は少なくない。 4.まとめと今後の課題 本稿では長期間の停止を繰り返す無線ノード群が自律分散的に近隣の無線ノードを発見し通信を確立するための電力制御シーケンスについて提案した。筆者らはArduinoマイコンを使った実装により実験を繰り返しているが、本手法はN以外のパラメータが無くハードウェアのみでの実装も容易であるため、より低消費電力のチップと組み合わせることで年単位でのバッテリ稼働時間を達成したいと考えている。 (平成25年6月21日))
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