原子力発電所の配管減肉管理における 肉厚検査への期待と検査技術の開発
公開日:
カテゴリ: 第10回
1.緒言
国内の原子力発電所および火力発電所の配管減肉管理は、日本機械学会が策定した「発電用原子力設備規格 沸騰水型/加圧水型原子力発電所配管減肉管理に関する技術規格」(2006年)および「発電用火力設備規格 火力設備配管減肉管理技術規格」(2009年)に基づいて実施されている。 これらの規格における配管減肉管理の基本的な考え方は、“配管検査による減肉状況の把握と適切な配管取替え時期の設定”であり、配管肉厚測定結果に基づく減肉率を用いて、必要最小厚さに到達するまでの期間(世寿命)を評価し、計画的に配管取替えを行うものである。 これより、配管取替え時期の正確な予測のためには、検査精度の確保(向上)が不可欠であり、これを達成する検査技術の向上および新たな検査技術の開発が求められている。 本報では、配管減肉管理の安全性を確保し且つ合理的な管理を達成するため、現状の配管減肉管理の改善点を検討するとともに、それを達成する配管検査技術の開発状況について、日本機械学会「配管減肉管理高度化に向けた最新技術知見適用化のための調査研究分科会」(2010年度~2011年度)(1)で収集した知見および情報を整理した。
2.配管検査の現状と減肉管理の改善 2.1 配管減肉管理における配管検査の状況 現在の配管減肉管理における配管肉厚測定は、発電所の停止時に実施することが前提である。これは、系統水がドレンされた状態であれば、配管検査が労働安全上望ましい環境で実施でき、また、これまでの運転経験より、減肉速度がある一定の速度で進行することから、発電所の停止中に検査を行えばある程度の精度で減肉率を算出できることによる。 しかし、発電所の運転期間の増加に伴う減肉の進行により、配管検査の対象部位数が増加する傾向があり、定期検査への影響を考慮する必要が生じている。さらに、近年は、配管分岐合流部の穴の周囲に設置してある補強板の下部領域において減肉が進行した事例に鑑み、当該部の適切な減肉管理を遂行するために、補強板下の配管やクロッチ部(主管と枝管の接合部)においても配管肉厚を測定することが求められている。前述のとおり、現行の配管減肉管理は、配管肉厚検査に基づく管理であることから、現在、主に用いられている超音波厚さ検査の精度および実施要領の改良だけでなく、その他の配管検査技術の導入によって、安全性を高め且つ合理的な管理に向けた取り組みが必要である。 2.2 新しい検査技術への期待 前項に述べたように、近年は、配管減肉の進行に伴い、肉厚測定検査数が増加していることから、労働安全上のリスクを考慮したうえで、肉厚検査を停止時に限らず運転中においても実施することができれば、配管肉厚検査による定期検査への影響を抑制できる。また、現行では配管肉厚検査は、減肉の進行が予想される偏流発生部位(エルボー,オリフィス等)を対象として実施しているが、海水配管等、直管部においても減肉の進行が考えられる場合もあることから、広範囲の減肉状況(肉厚測定値)を把握するスクリーニングを目的とした配管検査手法を適用することも必要である。 また、補強板の下部領域等の現行の超音波厚さ測定法では測定が困難な部位においても配管肉厚を測定できれば、これらの部位においても、その他部位と同様のレベルで管理を行うことができ、安全性が向上する。 表1 定点監視に関する配管検査法 このように、複数の検査手法を所有して、各配管部位に対して適切な検査手法を適用することによって、より高次な配管減肉管理の遂行が期待できる。 3.新検査技術の開発状況 3.1 定点監視で期待される新検査技術 現行の配管減肉管理で用いられている超音波厚さ測定法は定点監視であり、その要領はJIS Z 2355「超音波パルス反射法による厚さ測定方法」に定められている。 近年は、超音波厚さ測定法の他にも、下記表1に示すとおり、定点監視に係わる多くの検査技術が開発されており、幾つかの手法については、実機適用性を検討する段階に到達している。[2] また、定点監視のうち、補強板下を測定可能である検査手法を表2に示す。 3.2 広域監視で期待される新検査技術 前項の定点監視に係わる検査法に対して、近年開発されている広域検査については、表3に示す検査手法が挙げられる。[2]これらの検査技術については、試験対象範囲が広域となることから、従来はその測定精度にやや難があり、定性的な減肉傾向の把握、すなわち、減肉の有無程度の測定であったが、近年は測定装置の開発も進んだことから、定量的な測定が可能となっている。 4.結言 本報では、現在、配管減肉管理に用いられている配管検査技術と、今後期待される配管検査技術を、定点監視の検査手法と広域監視の検査手法のカテゴリーに分けて、その原理・特徴および現在の開発状況(実機適用性)について整理した。 配管減肉管理において、各配管検査技術が測定原理等の特徴を踏まえて、用途に応じて選択され、広く適用されるように、今後も各技術が開発されていくこと期待する。 5.参考文献 [1] 日本機械学会著「配管減肉管理高度化に向けた最新技術知見適用化のための調査研究分科会」報告書,2012年 [2] 小島史男他「配管減肉管理に関する最新知見(4)検査モニタリングの新知見」日本機械学会2012年度年次大会,2012年9月 表3 広域監視に関する配管検査法 表2 定点監視に関する配管検査法(補強板下部領域の検査法)
“ “原子力発電所の配管減肉管理における 肉厚検査への期待と検査技術の開発 “ “大平 拓,Taku OHIRA“ “原子力発電所の配管減肉管理における 肉厚検査への期待と検査技術の開発 “ “大平 拓,Taku OHIRA
国内の原子力発電所および火力発電所の配管減肉管理は、日本機械学会が策定した「発電用原子力設備規格 沸騰水型/加圧水型原子力発電所配管減肉管理に関する技術規格」(2006年)および「発電用火力設備規格 火力設備配管減肉管理技術規格」(2009年)に基づいて実施されている。 これらの規格における配管減肉管理の基本的な考え方は、“配管検査による減肉状況の把握と適切な配管取替え時期の設定”であり、配管肉厚測定結果に基づく減肉率を用いて、必要最小厚さに到達するまでの期間(世寿命)を評価し、計画的に配管取替えを行うものである。 これより、配管取替え時期の正確な予測のためには、検査精度の確保(向上)が不可欠であり、これを達成する検査技術の向上および新たな検査技術の開発が求められている。 本報では、配管減肉管理の安全性を確保し且つ合理的な管理を達成するため、現状の配管減肉管理の改善点を検討するとともに、それを達成する配管検査技術の開発状況について、日本機械学会「配管減肉管理高度化に向けた最新技術知見適用化のための調査研究分科会」(2010年度~2011年度)(1)で収集した知見および情報を整理した。
2.配管検査の現状と減肉管理の改善 2.1 配管減肉管理における配管検査の状況 現在の配管減肉管理における配管肉厚測定は、発電所の停止時に実施することが前提である。これは、系統水がドレンされた状態であれば、配管検査が労働安全上望ましい環境で実施でき、また、これまでの運転経験より、減肉速度がある一定の速度で進行することから、発電所の停止中に検査を行えばある程度の精度で減肉率を算出できることによる。 しかし、発電所の運転期間の増加に伴う減肉の進行により、配管検査の対象部位数が増加する傾向があり、定期検査への影響を考慮する必要が生じている。さらに、近年は、配管分岐合流部の穴の周囲に設置してある補強板の下部領域において減肉が進行した事例に鑑み、当該部の適切な減肉管理を遂行するために、補強板下の配管やクロッチ部(主管と枝管の接合部)においても配管肉厚を測定することが求められている。前述のとおり、現行の配管減肉管理は、配管肉厚検査に基づく管理であることから、現在、主に用いられている超音波厚さ検査の精度および実施要領の改良だけでなく、その他の配管検査技術の導入によって、安全性を高め且つ合理的な管理に向けた取り組みが必要である。 2.2 新しい検査技術への期待 前項に述べたように、近年は、配管減肉の進行に伴い、肉厚測定検査数が増加していることから、労働安全上のリスクを考慮したうえで、肉厚検査を停止時に限らず運転中においても実施することができれば、配管肉厚検査による定期検査への影響を抑制できる。また、現行では配管肉厚検査は、減肉の進行が予想される偏流発生部位(エルボー,オリフィス等)を対象として実施しているが、海水配管等、直管部においても減肉の進行が考えられる場合もあることから、広範囲の減肉状況(肉厚測定値)を把握するスクリーニングを目的とした配管検査手法を適用することも必要である。 また、補強板の下部領域等の現行の超音波厚さ測定法では測定が困難な部位においても配管肉厚を測定できれば、これらの部位においても、その他部位と同様のレベルで管理を行うことができ、安全性が向上する。 表1 定点監視に関する配管検査法 このように、複数の検査手法を所有して、各配管部位に対して適切な検査手法を適用することによって、より高次な配管減肉管理の遂行が期待できる。 3.新検査技術の開発状況 3.1 定点監視で期待される新検査技術 現行の配管減肉管理で用いられている超音波厚さ測定法は定点監視であり、その要領はJIS Z 2355「超音波パルス反射法による厚さ測定方法」に定められている。 近年は、超音波厚さ測定法の他にも、下記表1に示すとおり、定点監視に係わる多くの検査技術が開発されており、幾つかの手法については、実機適用性を検討する段階に到達している。[2] また、定点監視のうち、補強板下を測定可能である検査手法を表2に示す。 3.2 広域監視で期待される新検査技術 前項の定点監視に係わる検査法に対して、近年開発されている広域検査については、表3に示す検査手法が挙げられる。[2]これらの検査技術については、試験対象範囲が広域となることから、従来はその測定精度にやや難があり、定性的な減肉傾向の把握、すなわち、減肉の有無程度の測定であったが、近年は測定装置の開発も進んだことから、定量的な測定が可能となっている。 4.結言 本報では、現在、配管減肉管理に用いられている配管検査技術と、今後期待される配管検査技術を、定点監視の検査手法と広域監視の検査手法のカテゴリーに分けて、その原理・特徴および現在の開発状況(実機適用性)について整理した。 配管減肉管理において、各配管検査技術が測定原理等の特徴を踏まえて、用途に応じて選択され、広く適用されるように、今後も各技術が開発されていくこと期待する。 5.参考文献 [1] 日本機械学会著「配管減肉管理高度化に向けた最新技術知見適用化のための調査研究分科会」報告書,2012年 [2] 小島史男他「配管減肉管理に関する最新知見(4)検査モニタリングの新知見」日本機械学会2012年度年次大会,2012年9月 表3 広域監視に関する配管検査法 表2 定点監視に関する配管検査法(補強板下部領域の検査法)
“ “原子力発電所の配管減肉管理における 肉厚検査への期待と検査技術の開発 “ “大平 拓,Taku OHIRA“ “原子力発電所の配管減肉管理における 肉厚検査への期待と検査技術の開発 “ “大平 拓,Taku OHIRA