電磁診断技術による歯車摩耗量評価手法の研究

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カテゴリ: 第10回
1.緒言
歯車は、動力と運動の伝達を目的とした機械要素のひとつであり、様々な回転機械に使用されている。歯車が経年劣化すると、振動の増大や動力伝達効率の低下が起こる。 歯車に発生する損傷は、滑り接触による摩耗、繰り返し曲げ応力による歯の折損、繰り返し圧縮応力による歯面の剥離(ピッチング)、油膜切れの際に起こる摩擦熱による接触面の融着(スコーリング)等がある。 現在、歯車の摩耗、損傷程度を把握するために、油分析や振動診断、AE(アコースティック・エミッション)が用いられているが、精度と異常箇所の特定に関して問題があることに加えて、機器の使用期間の限界値の判断が困難であること、不具合の原因が特定できないこと、トラブルが必ずしも検知できていないこと、等の問題が指摘されている。 本研究ではこれらの課題に対し、回転機器の異常検知に優れた電磁診断技術[1]-[3]を適用することで解決することを目的とする。歯面損傷模擬試験を行い、歯車の損傷と電磁診断技術により測定された歯車信号との関係性を考察する。
2.電磁診断と歯面の損傷モード 電磁センサは、永久磁石等の静磁場印加部とコイル等の変動磁場検出部よりなる。歯車等の回転体を電磁センサで測定した場合の主な信号源は、磁性体の回転による磁束の変化(Fig. 1‐①)と静磁場により導体内に誘導される渦電流の変化(Fig. 1‐②)である。 電磁センサで捉えられると考えられる歯車の損傷モードは大きく分けて2種類有り、物理的形状の変化と結晶構造の変化に分けられる。物理的形状の変化とは歯車の摩耗や折損による歯面の形状の変化であり、結晶構造の変化とは疲労による磁性の変化である。 本研究では、電磁センサを用いて歯車の損傷を人口的に付与した歯車の信号を取得し、歯車の損傷と電磁信号の関係性に関するデータを蓄積した。 ①磁性体の回転による磁束の変化②静磁場により導体内に誘導される渦電流の変化Fig. 1 電磁信号の主な信号源 3.歯車損傷模擬試験 3.1 試験環境 Fig. 2に試験に使用した歯車損傷模擬試験装置(上面図)を示す。試験装置は平歯車、モータ、シャフト、軸受、カップリングで構成されている。電磁センサと歯車とのギャップ(歯先円とセンサ先端との距離)は1.0mmとし、軸回転速度は1000rpmとした。測定対象の歯車の仕様をTable 1に示す。 モータカップリングシャフト軸受電磁センサ平歯車Top Viewギャップ1mmFig. 2 歯車損傷模擬試験装置(上面図) Table 1 歯車の仕様 種類 平歯車 モジュール 2歯数 36個 歯幅 20mm 材質 S45C 3.2 歯車損傷の模擬 Fig. 3に使用した歯車と人工的に損傷を与えた歯の位置を示す。模擬した損傷は歯の一部を切欠き(歯1)と摩耗(歯10、歯19)である。Fig. 4に模擬損傷の模式図を示す。歯1の切欠きの大きさは歯幅方向に幅5.0mm深さ3mmで、歯10の摩耗は歯先幅1.5mm(正常な歯の歯先幅は2mm)で、歯19の歯先幅1.7mmである。 Fig. 3 歯車の模擬損傷位置 切欠き(歯1)正常摩耗模擬(歯10歯19)Fig. 4 模擬損傷模式図 Table 2に試験条件と試験順序をまとめる。なお、試験は全て同一の歯車を使用している。 Table 2 試験条件と試験順序 試験条件 (試験順序) センサ位置と各歯の状態 1センサ位置:歯1の切欠き上ではない位置 歯1:切欠き加工 歯10:正常(加工無し) 歯19:正常(加工無し) 2センサ位置:歯1の切欠き上 歯1:切欠き加工 歯10:正常(加工無し) 歯19:正常(加工無し) 3センサ位置:歯1の切欠き上 歯1:切欠き加工 歯10:正常(加工無し) 歯19:摩耗模擬(歯先幅1.7mm) 4センサ位置:歯1の切欠き上 歯1:切欠き加工 歯10:摩耗模擬(歯先幅1.5mm) 歯19:摩耗模擬(歯先幅1.7mm) 3.3 試験結果 Fig. 5~Fig. 8に各試験条件における時系列信号を示す。図に示した各時系列信号は測定された信号から1kHz以上の高周波を取り除いた信号である。 ○損傷位置とセンサ位置との関係(切欠き部) 試験条件1(Fig. 5)及び試験条件2(Fig. 6)どちらの場合においても切欠き加工した歯1とそれ以外の歯(正常な歯)で電磁信号に差が確認された。このことから電磁センサで歯の部分的な折損を電磁信号の変化として捉えられると言える。また、電磁センサが切欠き上の場合とそうでない位置の場合とで、歯1の電磁信号に大きく BPF0-1000Hz1turn歯1(切欠き)試験条件①Fig. 5 試験条件1時系列信号 1turnBPF0-1000Hz試験条件②歯19歯1歯10Fig. 6 試験条件2時系列信号 差があることが確認でき、このことから電磁センサと歯の部分的な折損が近い程、電磁信号の変化が大きいことがわかる。 ○摩耗量と電磁信号との関係 試験条件2(Fig. 6)と試験条件3(Fig. 7)及び試験条件3(Fig. 7)と試験条件4(Fig. 8)をそれぞれ比較した結果、摩耗模擬加工した歯(前者では歯19、後者では歯10)と加工前の歯の電磁信号に変化が確認された。このことから歯の部分的な摩耗も電磁信号の変化として捉えられると言える。 また、摩耗させた歯10と歯19は摩耗量(歯先幅を基準とした)に0.2mmの差があるが、電磁信号の変化量にも差が確認できたことから、電磁信号の変化により歯面の摩耗量を評価できる見通しが得られたものと考える。 1turnBPF0-1000Hz試験条件③歯19歯1歯10Fig. 7 試験条件3時系列信号 歯19歯1歯101turnBPF0-1000Hz試験条件④Fig. 8 試験条件4時系列信号 ○摩耗量評価手法の検討 歯車の摩耗量を定量的に評価する手法の検討を行った。Fig. 5~Fig. 8の電磁信号の主な周波数成分は「回転周波数×歯数」である600Hzであり、損傷加工した歯がセンサの近傍を通過する際にのみ振幅に変化が生じている。 以上の点に着目し、測定された電磁信号から歯面の摩耗や欠損による変化のみを取り出すため、帯域除去フィルタを用いて「回転周波数×歯数」の周波数成分を取り除き(除去帯域580Hz~620Hz)、損傷に対応する信号の振幅変化と摩耗量との関係を調査した。Fig. 9に信号処理後の電磁時系列信号(試験条件4)をFig. 10に歯車摩耗量と電磁信号変化量との関係を示す。Fig. 10より、今回の試験において摩耗量が多いほど電磁信号の変化量も大きくなる傾向があることがわかった。 歯10歯19歯1BPFDC-1000HzCut 580-620Hz1turnFig. 9 信号処理後の時系列信号(試験条件4) 00.050.10.150.20.250.30.350.40.450.500.10.20.30.40.50.6Peak to peak (V)Wear Size (mm)歯19歯10正常時Fig. 10 摩耗量と電磁信号変化量との関係 4.まとめと今後の課題 本研究では歯面損傷模擬試験を行い、歯車の損傷と電磁診断技術により測定された歯車信号との関係を調査した。その結果を以下に纏める。 . 切欠き加工や摩耗させた歯とそれ以外の歯(正常な歯)で電磁信号に差が確認され、歯の部分的な折損や摩耗を電磁信号の変化として捉えられることが示された。 . 電磁センサが切欠き上とそうでない位置とで、切欠き部の電磁信号に大きく差があることが確認されたことから、電磁センサと歯の部分的な折損が近い程、電磁信号の変化が大きいことがわかった。 . 歯の摩耗の程度により電磁信号に差があることが確認され、電磁信号の変化により歯面の摩耗量を評価出来る見通しが得られた。また、今回の試験条件においては、摩耗量が多いほど電磁信号の変化も大きくなる傾向が見られた。 本試験において、ギアの歯の摩耗・欠損と電磁信号との間に関係性があることは確認できたが、データが不足しており定量的評価には至っていない。摩耗・欠損の定量的評価法を確立するには様々な摩耗・欠損状態を模擬したギアの電磁信号取得試験によるデータの拡充と、数値解析による試験結果との照合が必要である。 参考文献 [1] 黄皓宇、宮健三、遊佐訓孝、小阪大吾、回転体異常の電磁検出、日本非破壊検査協会第10回表面探傷シンポジウム、東京都城南地域中小企業振興センター、2007/01/25-26 [2] S. PERRIN, S. MAWATARI, R. KAYATA, K. MAKI and K. MIYA. “Characterization of Wear-Out of Friction Bearings with an Electromagnetic Sensor”, ISEM 2009, September 20-24, 2009. [3] 萱田良、馬渡慎吾、S. PERRIN、角皆学、高瀬健太郎、電磁診断技術によるすべり軸受摩耗量評価手法の研究、日本保全学会第9回学術講演会、2012/07/25-27 (2013年6月21日)
“ “電磁診断技術による歯車摩耗量評価手法の研究 “ “萱田 良,Ryo KAYATA,堀 輝人,Teruhito HORI,角皆 学,Manabu TSUNOKAI,ペラン ステファン,Stephane PERRIN“ “電磁診断技術による歯車摩耗量評価手法の研究 “ “萱田 良,Ryo KAYATA,堀 輝人,Teruhito HORI,角皆 学,Manabu TSUNOKAI,ペラン ステファン,Stephane PERRIN
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