異常模擬ループ試験による多点分析手法の検討
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カテゴリ: 第10回
1.緒言
日本保全学会では平成18年度以降「状態監視技術の高度化に関する調査検討分科会(CMT分科会)」を設置し、海外調査、文献調査、検証・確認試験等を通じて状態監視技術及び状態基準保全に対する様々な調査、検討を行なってきた。平成22~23年度CMT分科会(第3フェーズ)までは回転機器の軸受やカップリング等、局所的な部位を対象とした状態監視技術の検討が主に行われてきたが、平成24~25年度(第4フェーズ)では監視対象を回転機器を含むサブシステムに拡張し、圧力や流量といった各種プロセス量を用いた状態監視技術を検討することがテーマとなっている。本研究はCMT分科会第4フェーズに行われたもので、中国電力㈱島根原子力発電所研修施設の横型ポンプループにおいて実施された異常模擬試験のデータを用いて、各種プロセス量を用いた多点分析手法について検討を行ったものである。
2.異常模擬ループ試験
2.1 データ取得条件 本研究ではモーター軸受異常模擬、キャビテーション発生の2種類の試験データについて分析を行う。 Fig.1に試験ループの概要、Fig.2に試験に使用されたポンプの外観を示す。 連絡先: 角皆学、〒110-0008東京都台東区池之端2-7-17井門池之端ビル10F、電話 03-5814-5350 E-mail:tsunokai@iiu.co.jp Fig.1 Schematic of the test loop and sensors Fig.2 Multistage centrifugal pump 00.511.522.533.544.5RMS of vibration acceleration(G)Mean ofN1, N2D1D2D3D4D5At the bearing BAt the pump bearing(motor side)Motor current (ratio to N1)0.950.9550.960.9650.970.9750.980.9850.990.99511.005N1D1D2D3D4D5N2Fig.1に示したように、試験中はポンプの振動や温度だけでなく、流量、圧力、タンク水位等の各種プロセス量が取得されている。試験に使用されたセンサ一覧をTable 1に示す。なおデータはサンプリングレート100Hzで同期して取得されているが、振動加速度計のみは他のセンサと同期せず10秒おきに20kHzで取得されている。 Table 1 List of sensors ・Sampling rate 100Hz Number of sensors Temperature (pump, motor) 5Tank water level 1Suction pressure 1Discharge pressure 1System pressure 1Opening degree (control valve) 1Flow rate 1Rotation speed (pump) 1Vibration displacement (pump, motor) 10Current (motor) 1Voltage (motor) 1・Sampling rate 20kHz Vibration acceleration (pump, motor and pipes) 62.2 モーター軸受異常模擬試験 横型ポンプのモーターに損傷を付与した軸受を組み込み運転しデータ試験を行った。損傷は、軸受を分解せず保持器の隙間から電動切削工具を用いて内輪の軌道面に対して付与した。試験は損傷付与の程度を変え複数回行った。Table 2に各試験の損傷付与条件を示す。またFig.3に切削加工を行った軸受の外観の例を示す。 Table 2 Bearing test conditions Test ID Condition of bearings N1 Normal 1 N2 Normal 2 D1 About 2mm width slit shaped damage Bearing A and B *see Fig.1 (6312, 6309) D2 About 1mm width slit shaped damage Bearing A and B (6312, 6309) D3 Slightly grinded (about 3mm diameter area) Bearing A (6312) D4 Pinhole shaped damage (about 1mm diameter) Bearing A (6312) D5 Grease removed Bearing A (6312) Fig.3 Slit shaped damage (Test D2:Bearing 6312) Fig.4に各試験の振動加速度RMSを示す。図はポンプの軸受近傍に設置したセンサと、モーターの軸受近傍に設置したセンサの2箇所のデータの比較を示している。 Fig.4 RMS value of acceleration 異常を与えたモーター軸受近傍の振動加速度は、D5(グリスぎれ)以外は正常時と比較して明確に増大している。一方ポンプ軸受近傍の加速度は正常と異常の区別は困難である。 モーター軸受の加速度は最も大きい時で4Gに到達しており人が音で検知することも容易なレベルであるが、この場合においてもポンプの振動加速度に影響は現れておらず、モーター軸受の異常がポンプ側へ与える影響は小さいことが分かる。これはカップリングを介していることが主な理由と考えられる。 Fig.5に各試験におけるモーター電流の平均値を試験N1の値に対する比として表した図を示す。 Fig.5 Mean of motor current (ratio to N1) System pressureFlow rate±1m3/h±2m3/hPartial closing of the valve in the suction line to induce cavitation4 timesSignal LevelIncrease and decrease of the flow rate by operating the valve (V2)モーターの負荷が上昇した場合電流値が上昇するが、モーター軸受の異常では電流値の上昇は見られない。軸受異常の検出については軸受近傍の振動値が最も効果的であり、その他のプロセス量などから検出することは困難である。なお本試験では温度が定常状態になるまで運転が行われていないためここでは温度は分析対象外としている。 2.3 キャビテーション発生試験 ポンプ入口の弁を絞ることで入口圧力を低下させ、キャビテーションを発生させる試験を行った。試験はポンプ運転開始後、運転状態の変化を模擬する区間として手動弁の開閉により流量を変化させている。その後入口弁を絞り、キャビテーションの発生を音で検知したら弁を戻すという操作を4回行った。Fig.6に系統圧力と流量の時系列データを示す。前半の変動部分が運転状態の変化を模擬した区間、後半の系統圧力が微小に変化している区間が、キャビテーションを発生させる操作を行なっている区間である。 Fig.6 System pressure and flow rate ここで複数のセンサのデータを1つのセットとして扱う多点分析手法によりキャビテーションの発生を検出する手法を検討する。本手法は過去のCMT分科会の調査で取り上げた手法を参考にしている[1]-[3]。 まず正常時のある時刻 におけるm個の物理量のセットを1つのベクトル とし、正常時のばらつきをカバーできるだけの複数時刻のベクトルからなる行列を正常時のモデルMとする。 -1ここである時刻の物理量のセット(実測値) y を正常時のモデル . の一次結合で予測することを考える。つまり に係る重みを とするベクトルwを用いて式(2)のようyを推定する。 -2このwを以下の式から求める。 -3-4なお、ここで は -5で定義される演算とする。また は2つのベクトルの相関を評価する演算とし、ここでは(6)式を用いた。 -6仮に を内積とした場合、(3)式は最小二乗法を用いた導出と同等になる。モデルMを作成する際十分な数のベクトルをとればどのような実測値であっても原理的に . の一次結合により正確に表現可能であるが、(6)式のように非線形の演算を使うことで実測値と完全に一致する表現ではなくなり本手法の目的にとっては望ましい結果が得られる。 ここでは100Hzで取得しているデータのうち有意な変化のないものを除外、また振動変位については代表的な1点を選択し、以下の8点の物理量を1つのベクトルとして分析した。 Table 3 List of parameters for analysis Tank water level Suction pressure Discharge pressure System pressure Opening degree (control valve) Flow rate Vibration displacement (pump) Current (motor) Measured valueEstimated valueθ=3.02rθ=3.02rdisplacementTime (minutes)normalizedStart of valve(V1) closingresidual流量変動±1m3/hの区間から時間方向に40点を抽出し、正常時のモデルとした。なお全ての物理量はモデル作成期間において平均0、標準偏差1となるように規格化している。このモデルを用いて流量変動±2m3/hの区間を予測した結果の例をFig.7に示す。 Fig.7 Measured and estimated value of the system pressure 図は予測されたベクトルのうち系統圧力について表示している。モデル作成期間の変動幅に収まる領域についてはよく予測できているが、それを超える領域については予測できていないことが分かる。これにより正常時のモデルからの逸脱として異常が検出可能となる。ここでは(7)式で表される実測値と予測値の差 rを評価し、異常の有無を判定する。 -7流量変動±2m3の区間におけるrをFig.8に、また入口弁操作区間におけるrをFig.9に示す。なおしきい値θは、正常時のモデル作成期間内におけるrの平均値をμ、標準偏差をσとした時の とした。 Fig.8 Residual of measured and estimated value (period of flow rate change±2m3/h) Fig.9 Residual of measured and estimated value (period of inducing cavitation) 流量変動±2m3の区間については、流量の変化がモデル作成時よりも大きい時間にrがしきい値を超える傾向が現れている。入口弁操作区間については、4回の閉操作に対応してrの値がしきい値を超えて非常に大きくなっており、正常時からの変化を明確に捉えている。 Fig.10に1回目の閉操作区間について振動変位とrの時系列データを示す。 Fig.10 Comparison of displacement and residual 図からrが振動変位レベルよりも早期に異常を検知していることが分かる。 3 まとめ 軸受異常模擬及び入口圧力低下にともなうキャビテーション発生試験の2種類の試験データから、複数の物理量を複合的に分析する手法を検討した。 モーターの軸受異常については、モーター部で明確な振動加速度の上昇として検知されるが、ポンプ側のSystempressureABFlow rateABChanging flow rateInducing cavitationby closing the valve (V1)振動加速度に変化は見られず、またモーター電流値にも異常が見られないことから、今回与えた損傷のレベル(初期剥離程度)では影響が及ぶ範囲は限定的であり、多点的な分析手法を適用する効果は低いと言える。 キャビテーション発生試験においては、複数の物理量を1つのベクトルとし、正常時の挙動を学習させる手法により振動変位単体よりも早期に異常を検出可能であることが示された。これは系統の状態変化を検出したものであるため、キャビテーションを発生させるための操作として入口圧力を下げていることから感度が高いのは当然と言えるが、その他にも以下の様な利点を挙げることが出来る。 Fig.11のようにキャビテーション発生試験における系統圧力、流量の時系列データを比較すると、系統圧力ではA、Bの区間ともに大きく変化しているのに対し、流量はAの区間のみしか変化していない。 Fig.11 Comparison of system pressure and flow rate 例えばAの区間を正常とすると、単点で見た場合Bはどちらの信号からも異常として検出されない。Aの区間の変化の範囲内で収まっているためである。しかし2つを組み合わせて見た場合、両者の関係性が変化しているためBは異常として検出される。 すなわちこの例では単点でBがAの状態と異なることを識別できないため複数点の関係性を考慮した方が異常の検出性と事象の特定精度が向上するのは明らかである。 さらに個別のセンサによる状態監視では、1つ1つのセンサに対し経験に基づきしきい値を個別に設定しているのに対し、本手法は正常状態のデータから1つのしきい値を設定するのみで各種異常の検出が可能となる手法であり、多数の物理量を扱う系において非常に実用的であり、集中監視の高度化にとって有効なアプローチといえる。 参考文献 [1] Stephan W. Wegerich, Robert M. Pipke, ““Nonparametric Modeling of Vibration Signal Features for Equipment Health Monitoring““ Aerospace Conference, 2003. Proceedings. 2003 IEEE (Volume:7 ) [2] Stephan W. Wegerich, ““ Similarity Based Modeling of Time Synchronous Averaged Vibration Signals for Machinery Health Monitoring““ Aerospace Conference, 2004. Proceedings. 2004 IEEE (Volume:6 ) [3] Stephan Wegerich ““ Similarity Based Modeling of Vibration Features for Fault Detection and Identification““ Sensor Review, Vol. 25, No. 2. (February 2005), pp. 114-122 (平成25年6月28日)
“ “異常模擬ループ試験による多点分析手法の検討 “ “角皆 学,Kazuyuki DEMACHI,Kentaro TAKASE,萱田 良,Stephane Perrin,ペランステファン,安達 勝,Masaru ADACHI“ “異常模擬ループ試験による多点分析手法の検討 “ “角皆 学,Kazuyuki DEMACHI,Kentaro TAKASE,萱田 良,Stephane Perrin,ペランステファン,安達 勝,Masaru ADACHI
日本保全学会では平成18年度以降「状態監視技術の高度化に関する調査検討分科会(CMT分科会)」を設置し、海外調査、文献調査、検証・確認試験等を通じて状態監視技術及び状態基準保全に対する様々な調査、検討を行なってきた。平成22~23年度CMT分科会(第3フェーズ)までは回転機器の軸受やカップリング等、局所的な部位を対象とした状態監視技術の検討が主に行われてきたが、平成24~25年度(第4フェーズ)では監視対象を回転機器を含むサブシステムに拡張し、圧力や流量といった各種プロセス量を用いた状態監視技術を検討することがテーマとなっている。本研究はCMT分科会第4フェーズに行われたもので、中国電力㈱島根原子力発電所研修施設の横型ポンプループにおいて実施された異常模擬試験のデータを用いて、各種プロセス量を用いた多点分析手法について検討を行ったものである。
2.異常模擬ループ試験
2.1 データ取得条件 本研究ではモーター軸受異常模擬、キャビテーション発生の2種類の試験データについて分析を行う。 Fig.1に試験ループの概要、Fig.2に試験に使用されたポンプの外観を示す。 連絡先: 角皆学、〒110-0008東京都台東区池之端2-7-17井門池之端ビル10F、電話 03-5814-5350 E-mail:tsunokai@iiu.co.jp Fig.1 Schematic of the test loop and sensors Fig.2 Multistage centrifugal pump 00.511.522.533.544.5RMS of vibration acceleration(G)Mean ofN1, N2D1D2D3D4D5At the bearing BAt the pump bearing(motor side)Motor current (ratio to N1)0.950.9550.960.9650.970.9750.980.9850.990.99511.005N1D1D2D3D4D5N2Fig.1に示したように、試験中はポンプの振動や温度だけでなく、流量、圧力、タンク水位等の各種プロセス量が取得されている。試験に使用されたセンサ一覧をTable 1に示す。なおデータはサンプリングレート100Hzで同期して取得されているが、振動加速度計のみは他のセンサと同期せず10秒おきに20kHzで取得されている。 Table 1 List of sensors ・Sampling rate 100Hz Number of sensors Temperature (pump, motor) 5Tank water level 1Suction pressure 1Discharge pressure 1System pressure 1Opening degree (control valve) 1Flow rate 1Rotation speed (pump) 1Vibration displacement (pump, motor) 10Current (motor) 1Voltage (motor) 1・Sampling rate 20kHz Vibration acceleration (pump, motor and pipes) 62.2 モーター軸受異常模擬試験 横型ポンプのモーターに損傷を付与した軸受を組み込み運転しデータ試験を行った。損傷は、軸受を分解せず保持器の隙間から電動切削工具を用いて内輪の軌道面に対して付与した。試験は損傷付与の程度を変え複数回行った。Table 2に各試験の損傷付与条件を示す。またFig.3に切削加工を行った軸受の外観の例を示す。 Table 2 Bearing test conditions Test ID Condition of bearings N1 Normal 1 N2 Normal 2 D1 About 2mm width slit shaped damage Bearing A and B *see Fig.1 (6312, 6309) D2 About 1mm width slit shaped damage Bearing A and B (6312, 6309) D3 Slightly grinded (about 3mm diameter area) Bearing A (6312) D4 Pinhole shaped damage (about 1mm diameter) Bearing A (6312) D5 Grease removed Bearing A (6312) Fig.3 Slit shaped damage (Test D2:Bearing 6312) Fig.4に各試験の振動加速度RMSを示す。図はポンプの軸受近傍に設置したセンサと、モーターの軸受近傍に設置したセンサの2箇所のデータの比較を示している。 Fig.4 RMS value of acceleration 異常を与えたモーター軸受近傍の振動加速度は、D5(グリスぎれ)以外は正常時と比較して明確に増大している。一方ポンプ軸受近傍の加速度は正常と異常の区別は困難である。 モーター軸受の加速度は最も大きい時で4Gに到達しており人が音で検知することも容易なレベルであるが、この場合においてもポンプの振動加速度に影響は現れておらず、モーター軸受の異常がポンプ側へ与える影響は小さいことが分かる。これはカップリングを介していることが主な理由と考えられる。 Fig.5に各試験におけるモーター電流の平均値を試験N1の値に対する比として表した図を示す。 Fig.5 Mean of motor current (ratio to N1) System pressureFlow rate±1m3/h±2m3/hPartial closing of the valve in the suction line to induce cavitation4 timesSignal LevelIncrease and decrease of the flow rate by operating the valve (V2)モーターの負荷が上昇した場合電流値が上昇するが、モーター軸受の異常では電流値の上昇は見られない。軸受異常の検出については軸受近傍の振動値が最も効果的であり、その他のプロセス量などから検出することは困難である。なお本試験では温度が定常状態になるまで運転が行われていないためここでは温度は分析対象外としている。 2.3 キャビテーション発生試験 ポンプ入口の弁を絞ることで入口圧力を低下させ、キャビテーションを発生させる試験を行った。試験はポンプ運転開始後、運転状態の変化を模擬する区間として手動弁の開閉により流量を変化させている。その後入口弁を絞り、キャビテーションの発生を音で検知したら弁を戻すという操作を4回行った。Fig.6に系統圧力と流量の時系列データを示す。前半の変動部分が運転状態の変化を模擬した区間、後半の系統圧力が微小に変化している区間が、キャビテーションを発生させる操作を行なっている区間である。 Fig.6 System pressure and flow rate ここで複数のセンサのデータを1つのセットとして扱う多点分析手法によりキャビテーションの発生を検出する手法を検討する。本手法は過去のCMT分科会の調査で取り上げた手法を参考にしている[1]-[3]。 まず正常時のある時刻 におけるm個の物理量のセットを1つのベクトル とし、正常時のばらつきをカバーできるだけの複数時刻のベクトルからなる行列を正常時のモデルMとする。 -1ここである時刻の物理量のセット(実測値) y を正常時のモデル . の一次結合で予測することを考える。つまり に係る重みを とするベクトルwを用いて式(2)のようyを推定する。 -2このwを以下の式から求める。 -3-4なお、ここで は -5で定義される演算とする。また は2つのベクトルの相関を評価する演算とし、ここでは(6)式を用いた。 -6仮に を内積とした場合、(3)式は最小二乗法を用いた導出と同等になる。モデルMを作成する際十分な数のベクトルをとればどのような実測値であっても原理的に . の一次結合により正確に表現可能であるが、(6)式のように非線形の演算を使うことで実測値と完全に一致する表現ではなくなり本手法の目的にとっては望ましい結果が得られる。 ここでは100Hzで取得しているデータのうち有意な変化のないものを除外、また振動変位については代表的な1点を選択し、以下の8点の物理量を1つのベクトルとして分析した。 Table 3 List of parameters for analysis Tank water level Suction pressure Discharge pressure System pressure Opening degree (control valve) Flow rate Vibration displacement (pump) Current (motor) Measured valueEstimated valueθ=3.02rθ=3.02rdisplacementTime (minutes)normalizedStart of valve(V1) closingresidual流量変動±1m3/hの区間から時間方向に40点を抽出し、正常時のモデルとした。なお全ての物理量はモデル作成期間において平均0、標準偏差1となるように規格化している。このモデルを用いて流量変動±2m3/hの区間を予測した結果の例をFig.7に示す。 Fig.7 Measured and estimated value of the system pressure 図は予測されたベクトルのうち系統圧力について表示している。モデル作成期間の変動幅に収まる領域についてはよく予測できているが、それを超える領域については予測できていないことが分かる。これにより正常時のモデルからの逸脱として異常が検出可能となる。ここでは(7)式で表される実測値と予測値の差 rを評価し、異常の有無を判定する。 -7流量変動±2m3の区間におけるrをFig.8に、また入口弁操作区間におけるrをFig.9に示す。なおしきい値θは、正常時のモデル作成期間内におけるrの平均値をμ、標準偏差をσとした時の とした。 Fig.8 Residual of measured and estimated value (period of flow rate change±2m3/h) Fig.9 Residual of measured and estimated value (period of inducing cavitation) 流量変動±2m3の区間については、流量の変化がモデル作成時よりも大きい時間にrがしきい値を超える傾向が現れている。入口弁操作区間については、4回の閉操作に対応してrの値がしきい値を超えて非常に大きくなっており、正常時からの変化を明確に捉えている。 Fig.10に1回目の閉操作区間について振動変位とrの時系列データを示す。 Fig.10 Comparison of displacement and residual 図からrが振動変位レベルよりも早期に異常を検知していることが分かる。 3 まとめ 軸受異常模擬及び入口圧力低下にともなうキャビテーション発生試験の2種類の試験データから、複数の物理量を複合的に分析する手法を検討した。 モーターの軸受異常については、モーター部で明確な振動加速度の上昇として検知されるが、ポンプ側のSystempressureABFlow rateABChanging flow rateInducing cavitationby closing the valve (V1)振動加速度に変化は見られず、またモーター電流値にも異常が見られないことから、今回与えた損傷のレベル(初期剥離程度)では影響が及ぶ範囲は限定的であり、多点的な分析手法を適用する効果は低いと言える。 キャビテーション発生試験においては、複数の物理量を1つのベクトルとし、正常時の挙動を学習させる手法により振動変位単体よりも早期に異常を検出可能であることが示された。これは系統の状態変化を検出したものであるため、キャビテーションを発生させるための操作として入口圧力を下げていることから感度が高いのは当然と言えるが、その他にも以下の様な利点を挙げることが出来る。 Fig.11のようにキャビテーション発生試験における系統圧力、流量の時系列データを比較すると、系統圧力ではA、Bの区間ともに大きく変化しているのに対し、流量はAの区間のみしか変化していない。 Fig.11 Comparison of system pressure and flow rate 例えばAの区間を正常とすると、単点で見た場合Bはどちらの信号からも異常として検出されない。Aの区間の変化の範囲内で収まっているためである。しかし2つを組み合わせて見た場合、両者の関係性が変化しているためBは異常として検出される。 すなわちこの例では単点でBがAの状態と異なることを識別できないため複数点の関係性を考慮した方が異常の検出性と事象の特定精度が向上するのは明らかである。 さらに個別のセンサによる状態監視では、1つ1つのセンサに対し経験に基づきしきい値を個別に設定しているのに対し、本手法は正常状態のデータから1つのしきい値を設定するのみで各種異常の検出が可能となる手法であり、多数の物理量を扱う系において非常に実用的であり、集中監視の高度化にとって有効なアプローチといえる。 参考文献 [1] Stephan W. Wegerich, Robert M. Pipke, ““Nonparametric Modeling of Vibration Signal Features for Equipment Health Monitoring““ Aerospace Conference, 2003. Proceedings. 2003 IEEE (Volume:7 ) [2] Stephan W. Wegerich, ““ Similarity Based Modeling of Time Synchronous Averaged Vibration Signals for Machinery Health Monitoring““ Aerospace Conference, 2004. Proceedings. 2004 IEEE (Volume:6 ) [3] Stephan Wegerich ““ Similarity Based Modeling of Vibration Features for Fault Detection and Identification““ Sensor Review, Vol. 25, No. 2. (February 2005), pp. 114-122 (平成25年6月28日)
“ “異常模擬ループ試験による多点分析手法の検討 “ “角皆 学,Kazuyuki DEMACHI,Kentaro TAKASE,萱田 良,Stephane Perrin,ペランステファン,安達 勝,Masaru ADACHI“ “異常模擬ループ試験による多点分析手法の検討 “ “角皆 学,Kazuyuki DEMACHI,Kentaro TAKASE,萱田 良,Stephane Perrin,ペランステファン,安達 勝,Masaru ADACHI