パルス渦電流試験を用いた鋼材の減肉検出
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カテゴリ: 第10回
1緒言
鋼材構造物の健全性を担保するためにその厚さ管理が行われおり,再現性,測定の容易さに優れた超音波厚さ計を用いた手法が使われている。一方で,接触媒質を必要としない簡易な測定が求められる場合があり,電磁気を用いた手法が提案されている。例えば, SaturatedLow Frequency Eddy Current法[1]が実用化されている。 著者らはこれまでパルス渦電流法を用いた鋼材の厚さ測定を試みてきた[2]。この手法は,一度の励磁波形に含まれる周波数帯域が広く[3],励磁波形を一周波数の連続波とした場合と比べ,多くの情報を一度に得ることができる。一方で,より厚い鋼材の裏面部分減肉に適用するためには、SN比の向上が必要であった。 Fig. 1 Specimen and Magnetizer model Excitation coil Sample specimen Corrosion 400mm 150mm 220mm 300mm 40mm Magnetizer 190mm そこで本稿では直流磁化とパルス渦電流試験の併用により,パルス渦電流試験単体では困難であった厚板鋼材における裏面部分減肉の検出を試みた。
2測定方法
本稿では,厚さ40mmの圧延鋼材の裏面に,長さ60mm幅30mm最大深さ5mmの楕円形の模擬減肉を加工した試験体を対象とした。 磁化器と試験体の形状はFig. 1に示す通りで,奥行きは400mm,励磁コイルの巻き数は640ターンである。なお,励磁電流は0Aと12Aの二通りで比較した。測定システムをFig. 2に示す。Fig. 3に示すように,パルスECTセンサを磁化器の内側に設置し,試験体表面の減肉部周辺で二次元走査(C scan)した。走査ピッチは10mmピッチで,走査領域は100mm×150mmである。 連絡先: 小坂 大吾, 〒187-35東京都小平市小川西町2-32-1, 職業能力開発総合大学校 E-mail: kosaka@uitec.ac.jp パルスECTセンサは,ポットコア形のヨークの内部に励磁コイルと検出コイルを入れたものである。ポットコアの外径は50mm,内径は16mmである。ヨークの材質に0.03珪素鋼を用い,励磁コイルを100ターン,検出コイルを480ターンとした。パルスECTセンサの励磁電流は0.2Aを2秒間通電する方形状のパルス波を用いた。検出には,励磁電流OFF後の信号を40dB増幅した波形を用いた。 3.測定結果 磁化器の起磁力を0Aまたは7680Aとし,パルスECTセンサでC scanの結果をFig. 4に示す。凡例で表しているΔtは,健全部相当の検出波形が基準電圧(今回は4V)に達する時間を基準として,各位置での検出波形が基準電圧に達する時間との差を表している。したがって,色の濃い部分は検出波形が早く減衰している。Fig. 4(a)に示す直流磁化を併用していない時の結果では,走査領域において顕著な検出波形の変化は見られなかった。Fig. 4(b)は直流磁化を併用した時の結果であるが,長さ60mm,幅30mmの減肉形状より広い範囲で,健全部と比較して早く検出波形が減衰していることを示している。これは,直流磁化によって試験体内に存在する磁束が,減肉を迂回することで試験体内の磁束密度を変化させ,これによる減肉部周辺の透磁率の変化をパルスECTで検出していることによると考えられる。 SpecimenScan domainPulsed ECTsensorMagnetizerCorrosion2D scanning (mm) AmplifieroutinL. P. FilteroutinOscilloscopeDC power supplyinoutoutOne-shot multivibratorMagnetizer2D scanningCorrosionSpecimenPulsed ECT sensorFig. 3C scan method Fig. 4C scan results by pulsed ECT with DC magnetization (mm) -2ms 0ms Δt (b) 7680A Fig. 2 Experimental setup -2ms 0ms Δt (a) 0A (mm) 4.結言 直流磁化を併用したパルス渦電流法により,厚板鋼板の裏面減肉の検出を試みた。その結果,厚さ40mmの圧延鋼材の裏面に設けた長さ60mm幅30mm最大深さ5mmの楕円形の模擬減肉を検出できることを確認した。 今後,数値解析を用いて起磁力や試験体の磁気特性が検出結果に与える影響を定量化することで,減肉検出性能を評価する方法について検討していく。 参考文献 [1] Magnetic Flux and SLOFEC Inspection of Thick Walled Components, 15th World Conference on Non-Destructive Testing, 2000 [2] 橋本 光男, 小坂 大吾, “鋼材厚さ測定用パルス渦電流センサの誤差要因と再現性”, 第21回MAGDAコンファレンス, 2012 [3] M. Morozov, G. Y. Tian and D. Edgar, “Comparison of PEC and SFEC NDE techniques”, Nondestructive Testing and Evaluation, 24(1), 2009, pp. 153-164(平成25年6月21日)
“ “パルス渦電流試験を用いた鋼材の減肉検出 “ “小坂 大吾,Daigo KOSAKA,坂根 尚武,Shobu SAKANE,橋本 光男,Mitsuo HASHIMOTO,長沼 潤一郎,Junichiro NAGANUMA“ “パルス渦電流試験を用いた鋼材の減肉検出 “ “小坂 大吾,Daigo KOSAKA,坂根 尚武,Shobu SAKANE,橋本 光男,Mitsuo HASHIMOTO,長沼 潤一郎,Junichiro NAGANUMA
鋼材構造物の健全性を担保するためにその厚さ管理が行われおり,再現性,測定の容易さに優れた超音波厚さ計を用いた手法が使われている。一方で,接触媒質を必要としない簡易な測定が求められる場合があり,電磁気を用いた手法が提案されている。例えば, SaturatedLow Frequency Eddy Current法[1]が実用化されている。 著者らはこれまでパルス渦電流法を用いた鋼材の厚さ測定を試みてきた[2]。この手法は,一度の励磁波形に含まれる周波数帯域が広く[3],励磁波形を一周波数の連続波とした場合と比べ,多くの情報を一度に得ることができる。一方で,より厚い鋼材の裏面部分減肉に適用するためには、SN比の向上が必要であった。 Fig. 1 Specimen and Magnetizer model Excitation coil Sample specimen Corrosion 400mm 150mm 220mm 300mm 40mm Magnetizer 190mm そこで本稿では直流磁化とパルス渦電流試験の併用により,パルス渦電流試験単体では困難であった厚板鋼材における裏面部分減肉の検出を試みた。
2測定方法
本稿では,厚さ40mmの圧延鋼材の裏面に,長さ60mm幅30mm最大深さ5mmの楕円形の模擬減肉を加工した試験体を対象とした。 磁化器と試験体の形状はFig. 1に示す通りで,奥行きは400mm,励磁コイルの巻き数は640ターンである。なお,励磁電流は0Aと12Aの二通りで比較した。測定システムをFig. 2に示す。Fig. 3に示すように,パルスECTセンサを磁化器の内側に設置し,試験体表面の減肉部周辺で二次元走査(C scan)した。走査ピッチは10mmピッチで,走査領域は100mm×150mmである。 連絡先: 小坂 大吾, 〒187-35東京都小平市小川西町2-32-1, 職業能力開発総合大学校 E-mail: kosaka@uitec.ac.jp パルスECTセンサは,ポットコア形のヨークの内部に励磁コイルと検出コイルを入れたものである。ポットコアの外径は50mm,内径は16mmである。ヨークの材質に0.03珪素鋼を用い,励磁コイルを100ターン,検出コイルを480ターンとした。パルスECTセンサの励磁電流は0.2Aを2秒間通電する方形状のパルス波を用いた。検出には,励磁電流OFF後の信号を40dB増幅した波形を用いた。 3.測定結果 磁化器の起磁力を0Aまたは7680Aとし,パルスECTセンサでC scanの結果をFig. 4に示す。凡例で表しているΔtは,健全部相当の検出波形が基準電圧(今回は4V)に達する時間を基準として,各位置での検出波形が基準電圧に達する時間との差を表している。したがって,色の濃い部分は検出波形が早く減衰している。Fig. 4(a)に示す直流磁化を併用していない時の結果では,走査領域において顕著な検出波形の変化は見られなかった。Fig. 4(b)は直流磁化を併用した時の結果であるが,長さ60mm,幅30mmの減肉形状より広い範囲で,健全部と比較して早く検出波形が減衰していることを示している。これは,直流磁化によって試験体内に存在する磁束が,減肉を迂回することで試験体内の磁束密度を変化させ,これによる減肉部周辺の透磁率の変化をパルスECTで検出していることによると考えられる。 SpecimenScan domainPulsed ECTsensorMagnetizerCorrosion2D scanning (mm) AmplifieroutinL. P. FilteroutinOscilloscopeDC power supplyinoutoutOne-shot multivibratorMagnetizer2D scanningCorrosionSpecimenPulsed ECT sensorFig. 3C scan method Fig. 4C scan results by pulsed ECT with DC magnetization (mm) -2ms 0ms Δt (b) 7680A Fig. 2 Experimental setup -2ms 0ms Δt (a) 0A (mm) 4.結言 直流磁化を併用したパルス渦電流法により,厚板鋼板の裏面減肉の検出を試みた。その結果,厚さ40mmの圧延鋼材の裏面に設けた長さ60mm幅30mm最大深さ5mmの楕円形の模擬減肉を検出できることを確認した。 今後,数値解析を用いて起磁力や試験体の磁気特性が検出結果に与える影響を定量化することで,減肉検出性能を評価する方法について検討していく。 参考文献 [1] Magnetic Flux and SLOFEC Inspection of Thick Walled Components, 15th World Conference on Non-Destructive Testing, 2000 [2] 橋本 光男, 小坂 大吾, “鋼材厚さ測定用パルス渦電流センサの誤差要因と再現性”, 第21回MAGDAコンファレンス, 2012 [3] M. Morozov, G. Y. Tian and D. Edgar, “Comparison of PEC and SFEC NDE techniques”, Nondestructive Testing and Evaluation, 24(1), 2009, pp. 153-164(平成25年6月21日)
“ “パルス渦電流試験を用いた鋼材の減肉検出 “ “小坂 大吾,Daigo KOSAKA,坂根 尚武,Shobu SAKANE,橋本 光男,Mitsuo HASHIMOTO,長沼 潤一郎,Junichiro NAGANUMA“ “パルス渦電流試験を用いた鋼材の減肉検出 “ “小坂 大吾,Daigo KOSAKA,坂根 尚武,Shobu SAKANE,橋本 光男,Mitsuo HASHIMOTO,長沼 潤一郎,Junichiro NAGANUMA