異種金属溶接部の溶接線平行欠陥に対する UT 深さ測定法の検討
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カテゴリ: 第10回
1.緒言
近年、原子力プラントの耐圧バウンダリで使用されている異種金属溶接部(Dissimilar metal weld: DMW)では、国内外で応力腐食割れ(SCC)き裂による損傷事例が報告され[1][2]、PWR では原子炉容器管台(RV 管台)、蒸気発生器管台等が、またBWR ではPLR ノズル、原子炉再循環水ノズル等があげられている。一方、原子力発電所の供用期間中検査(ISI)における超音波探傷試験(UT)において、DMW は、溶接金属組織の異方性による超音波散乱・減衰、金属組織からのノイズによる欠陥の検出性の低下等により難探傷部位とされている。 このような背景から、わが国では、DMW のUT 検査の信頼性確保を目的として、「PD 認証制度」の構築に向けて検討されており、DMW 試験体の付与欠陥、UT による欠陥深さサイジングが課題としてあげられている。 PD 試験に用いる試験体としては、実機で発生するSCC き裂と同様なき裂を模擬し、き裂深さも板厚の60%程度以上の深いき裂を付与した試験体を準備する必要があるが、このような試験体の製作は極め て困難である。そこで、SCC 代替欠陥として、ウェルドオーバーレイ施工部に対するPD 試験における試験体の考え方[3]と同様、非SCC 欠陥を付与した試験体の適用について検討されている。その場合は、SCC 欠陥と非SCC 欠陥の超音波同等性を確認する必要があり、そのためにも技術面および経済面で効果的な方法でSCC き裂付与DMW 試験体を製作する必要がある。 DMW 試験体へのSCC き裂付与については、著者らは、DMW の溶接線に直交方向に進展するき裂の付与方法を、すでに報告[4]しているが、溶接線に平行方向に進展するSCC き裂について、効果的な付与方法に関する報告は少ない。 PD 試験では、PD 用DMW 試験体の付与欠陥に対して真とする深さ(正答値)を特定する技術の確立が必要となる。著者らは、DMW の溶接線直交方向のSCC き裂に対して、フェーズドアレイUT を適用し良好な深さ測定精度が得られたことを報告した[5]。しかしながら、溶接線平行方向のき裂に対する深さサイジング評価は、いまだ十分とは言えず、これらのき裂に対する高精度なサイジング技術を確立することが必要である。 本研究では、DMW のPD 制度構築に向けた取り組みとして、効果的なDMW試験体の製作技術(SCC き裂付与)の確立およびDMWの溶接線平行欠陥のUT による高精度深さサイジング技術の開発に関する研究を進めており、本報告では、これらの基礎検討結果について報告する。
2.PD 用DMW 試験体
PD 試験に用いる試験体に付与する欠陥は、DMW の溶接線に対して直交方向に進展する欠陥(以下、直交欠陥と称す)と溶接線に平行方向に進展する欠陥(以下、平行欠陥と称す)の2 種類があげられる。直交欠陥の付与方法については、著者らがすでに報告[4]しており、ここでは、平行欠陥付与の効果的な方法について検討した。 SCC き裂付与の主要因子として、試験環境、応力付与方法、溶接材料およびSCC き裂形状があり、以下のように検討した。(1) 試験環境 試験環境としては、実機環境を模擬したループの一部に試験体を配置してSCC き裂を付与する方法と薬液に浸漬して付与する方法がある。前者の方法は、実機に近いき裂が生成される可能性が高いという利点があるが、実機環境を模擬するための設備が大掛りになること、試験体設置のハンドリングが複雑になること、長時間のSCC き裂付与が必要になる等の欠点があげられる。 次に、薬液に浸漬してSCC き裂を付与する方法にとしては、試験体の当該部に小型のカプセル状の槽を設置し、その中に薬液を充填させて行う方法があり、薬液の補充、き裂進展量の測定時の段取り等のハンドリングが容易に行えること、SCC き裂付与時間も比較的短時間で終了すること等の利点がある。欠点としては、薬液の設定条件により実機の形状と異なる可能性があることがあげられる。 上記検討結果から、ハンドリングが容易でかつ比較的短時間にSCC き裂を付与する方法として、き裂付与位置に局所的に薬液(ポリチオン酸水溶液)を浸漬させる方法を採用することとした。 (2) 応力付与方法 一般に応力付与する方法は、3 点曲げあるいは4 点曲げ試験にて試験体に曲げ応力を負荷する方法があるが、この方法では、表面き裂の開口幅が大きくなること、また試験体を機械的に曲げ戻し施工しても、き裂面が潰れること等が想定される。 そこで、表面き裂の開口幅を狭くするための方法として引張応力の付与を検討した。応力付与方法の模式図をFig.1 に示す。試験体の外側に大型の拘束架台を設置し、試験体と架台を溶接することで引張応力を発生させる方法であり、曲げに比べて表面き裂の開口幅が狭くなる。なお、板厚の1/2 程度以上の深いき裂を短期間で付与するためには、図に示すような曲げ応力を負荷する必要があり、その場合、SUS 母材とCS 母材で強度が異なるため、SUS 母材側に補強材を溶接することで強度のバランスをとることとする。 (3) 溶接材料およびSCC き裂形状 実機相当の600 系ニッケル基合金の溶接材料はSCC 感受性が低く、短時間でのSCC き裂付与が困難と考えられるため、SCC 感受性が高い溶接材料として、炭素量の多い溶接材(高C 量溶接材)を使用することとする。SCC き裂の形状制御方法の模式図を、Fig.2 に示す。図より、突合せ溶接部のき裂付与位置に、高C 量の600 系合金の溶接材を用いて部分溶接(図中の部分溶接部A)を行うことで、SCC き裂を発生、進展させることが可能となる。ここで、き裂長さは、SCC 感受性の低い600 系ニッケル基合金の溶接材を用いて、突合せ溶接部と部分溶接部A との境界部に部分溶接(部分溶接部B)を行うことで、表面で溶接線方向に進展するき裂は、部分溶接部B に達して停留することで制御できる。また、き裂深さは、SCC き裂付与試験を途中止めし、UT により確認することとする。 上記の方法でRV 管台を模擬したDMW 試験体に平行SCC き裂付与を行った。なお、目標き裂は、深さ30mm,アスペクト比1である。SCC き裂付与試験を途中止めし、き裂開口側からフェーズドUT を行った結果の一例をFig.3 に示す。図は、SUS 側から探傷したときの断面画像(B スコープ)と超音波入射方向から見た投影画像(D スコープ)である。図のB スコープより、溶接部の溶融境界(溶接金属部とSUS 母材の境界)からの指示が認められている。また、SCC き裂面からの反射エコーから概略のき裂位置、き裂深さが確認できる。この試験体では、溶接金属部の中央近傍にSCC き裂が付与されていることがわかる。 次に、Fig.3 のD スコープをみると、き裂面からの指示が明瞭に認められ、これらの画像から、き裂の概略形状、深さが確認でき、目標とするSCC き裂を付与できる見通しが得られた。 なお、今後切断調査により、付与き裂の形状、寸法を測定し、き裂付与方法の評価を行う予定である。 3.平行欠陥の深さサイジング 3.1 試験体 試験体は、溶接線平行方向にEDM ノッチを付与したRV 管台を模擬したDMW試験体である。試験体の一例をFig.4に示す。試験体の突合せ溶接部は、ニッケル基合金溶接部であり、バタリングとSUS クラッドが施工されている。EDM ノッチは、突合せ溶接部の中央部分に付与されており、EDM ノッチ付与条件をTable 1 に示す。EDM ノッチは5 個で、深さはd=5,10,20,30,50mm、長さはすべて20mm とした。 Tensile stress Tetrathionic acid Clamp welding Bending stress Extension welding SCC crack DMW specimen Fig.1 Overview of introduction of circumferential SCC crack in weld metal Fig.2 Overview of control of crack shape 400300Weld metal Carbon steel Stainless steel Buttering SUS cladding EDM notch 81 Fig.4 DMW specimen with circumferential EDM notches in weld metal SCC crack Weld metal Partial welding A Partial welding B L d Area Direction Depth (mm) Length (mm) Weld metal Circumferential d=5,10,20,30,50 20 Table 1 EDM notch conditions in DMW specimen Table 2 Specification of phased array probes B-scope D-scope SCC crack C-scope Y X X Y B-Scope C-Scope D-Scope Surface Interface SCC crack Surface Shape of SCC crack SCC crack Probe Specification Target ① 2L(10) Type : Linear Frequency : 2MHz Mode : Longitudinal Element size : 10 x 0.8mm No. of channels : 64ch Shallow crack ② 2L(20) Type : Linear Frequency : 2MHz Mode : Longitudinal Element size : 20 x 0.6mm No. of channels : 64ch Medium crack ③ 2MPC Type : Dual Matrix Frequency : 2MHz Mode : Longitudinal Element size : 3.1 x 3.1mm No. of channels : 72ch (T/R) Deep Crack Fig.3 Inspection images of circumferential SCC crack in DMW specimen 3.2 試験方法 試験に用いた探傷装置は、フェーズドアレイUT 装置(DYNARAY 256/256:Zetec 社製)である。 用いたアレイ探触子は3 種類で、仕様および適用対象をTable 2 に示す。表より、①は、略号2L(10)で浅い欠陥探傷用、②は、略号2L(20)で中程度深さの欠陥探傷用、③は、2 個のマトリクスアレイ探触子を配置したピッチキャッチ探傷用探触子であり、略号2MPC で、深い欠陥探傷用として選定した。試験体の探傷は、Fig.5 に示すように、欠陥開口面側からの探傷とし、欠陥を挟んで両側(SUS 側、CS 側)から直接接触法(ギャップ法:ギャップ寸法0.2mm)で行った。またUT データの採取は、X-Y スキャナを用いた自動UT である。 3.3 試験結果および考察 EDM ノッチを付与したDMW 試験体に対してフェーズドアレイUT を適用し、Fig.6 に示す欠陥深さ測定要領[5]に従って深さ測定を行った。得られた探傷画像の一例をFig.7 に示す。図は、EDM ノッチ深さ5mmに対してSUS側から探傷した時の各種探傷画像を示したものであり、溶接部の開先形状やEDM ノッチ形状を表すための条件での探傷画像である。 図より、B スコープ画像には、EDM ノッチの指示とともに、溶融境界(溶接金属部とSUS 母材の境界)からの指示が明瞭に認められ、EDM ノッチが溶接金属部の中央に位置していることが分かる。また、D スコープ画像には、EDM ノッチの形状(矩形形状)が明瞭に認められている。さらにC スコープにはEDM ノッチと溶融境界の指示が認められ、また、概略き裂長さも測定することができる。 次に、各EDMノッチの探傷画像をFig.8 に示す。図は、SUS 側から探傷し深さ評価を行った条件で得られた断面画像(B スコープ)であり、端部エコーを丸印で示してある。図より、すべてのB スコープ画像には端部エコーが明瞭に認められた。また、図示していないが、CS 側からの断面画像においても、SUS 側と同様、すべてのEDM ノッチで端部エコーが明瞭に認められた。 次に、端部エコー法にて深さ評価を行った。その結果をFig.8 に示す。図には、SUS 側およびCS 側の結果を分けて示してある。深さ評価結果は、SUS 側とCS 側で深さに差異は認められなかった。これらのデータを用いて統計的な誤差評価を試みた結果、誤差平均は-0.55mm、RMS 誤差は0.98mm であった。ここで、深さ測定誤差であるRMS 誤差0.98mm は、ASME Code Sec.XI App. VIII[6]のPD 試験の合格基準であるRMS 誤差3.2mm に比べて、極めて良好な精度で評価されたといえる。 Fig.5 Inspection status of DMW specimen by phased array UT Evaluation of crack size Check of crack information ( Crack Position, Crack Length ) Inspection ① Small type array probe (Shallow zone) ② Middle type array probe (Medium zone) ③ Dual type matrix array probe (Deep zone) ○:Indication ×:No Indication Deep crack Depth analysis Shallow crack Depth sizing Depth analysis Depth sizing Step 2 Step 3 Step 4 Step 5 Step 1 Discrimination between shallow and deep crack from inspection images data Probe type ①②③ Indication ○ ○ ○ × ○ ○ × × ○ A B C Fig.6 Flowchart of defect depth sizing procedure Austenitic stainless Carbon steel (CS) steel (SUS) Array probeSUS side inspection CS side inspection Ultrasonic beam(a) d=5mm (c) d=20mm (e) d=50mm (b) d=10mm (d) d=30mm Surface Surface Surface Surface Surface Tip echo Tip echo Tip echo Tip echo Tip echo Fig.8 B-scan images of DMW specimen with EDM notches by phased array UT Fig.7 Inspection images in DMW specimen with EDM notch by phased array UT B-scope D-scope EDM notch C-scope Y X X Y B-Scope C-Scope D-Scope Surface EDM notch Interface Surface Shape of EDM notch (d=5mm) EDM notch4.結言 異種金属溶接部(DMW)のPD 試験制度構築の検討の一環として、所定のSCC き裂(深さと長さを制御)を付与する試験体製作技術およびDMW 試験体の溶接線平行欠陥のUT による深さサイジングに関する研究を進め、これらの基礎検討を行った。その知見を以下に纏める。 (1) DMW の溶接線に対して平行方向に進展するSCC き裂の付与方法について、各種試験条件(試験環境、応力付与方法、溶接材料およびき裂形状制御方法)を絞込み、SCC き裂付与DMW試験体を試作し、フェーズドアレイUT を適用した結果、目標とするSCC き裂を付与できる見通しが得られた。 (2) 溶接線平行欠陥(EDM ノッチ)付与DMW 試験体に対して、フェーズドアレイUT を適用した結果、欠陥深さは、誤差平均-0.55mm、RMS 誤差0.98mm と良好な精度で評価できた。 (3) 上記のフェーズドアレイUT の適用結果から、平行欠陥(EDM ノッチ)の欠陥深さ測定に対するフェーズドアレイUT の有効性が明らかとなった。 参考文献 [1] 原子力・安全保安院:加圧水型軽水炉の一次冷却材圧力バウンダリにおけるNi 基合金使用部位に係る検査等について, NISA-163a05-2(2005) [2] 関西電力(株)プレスリリース:大飯発電所3号機の定期検査状況について(原子炉容器A ループ出口管台溶接部の傷の原因と対策),(2008.9.26) [3] 日本非破壊検査協会規格:超音波探傷試験システムの性能実証における技術者の資格及び認証, NDIS 0603:2013,(一社)日本非破壊検査協会 [4] 平澤泰治,福冨広幸:ニッケル基合金溶接部の欠陥深さサイジングに対する超音波探傷法の適用性評価,電力中央研究所報告,Q09025, -2010.5[5] 平澤泰治,岡田久雄,福冨広幸:フェーズドアレイUT によるニッケル基合金溶接部の欠陥深さ測定法の開発,日本保全学会 第9 回学術講演会要旨集,pp.231-236,(2012.7) Fig.9 EDM notch depth sizing accuracy by phased array UT
“ “異種金属溶接部の溶接線平行欠陥に対する UT 深さ測定法の検討“ “平澤 泰治,Taiji HIRASAWA,福冨 広幸,Hiroyuki FUKUTOMI,秀 耕一郎,Koichiro HIDE“ “異種金属溶接部の溶接線平行欠陥に対する UT 深さ測定法の検討“ “平澤 泰治,Taiji HIRASAWA,福冨 広幸,Hiroyuki FUKUTOMI,秀 耕一郎,Koichiro HIDE
近年、原子力プラントの耐圧バウンダリで使用されている異種金属溶接部(Dissimilar metal weld: DMW)では、国内外で応力腐食割れ(SCC)き裂による損傷事例が報告され[1][2]、PWR では原子炉容器管台(RV 管台)、蒸気発生器管台等が、またBWR ではPLR ノズル、原子炉再循環水ノズル等があげられている。一方、原子力発電所の供用期間中検査(ISI)における超音波探傷試験(UT)において、DMW は、溶接金属組織の異方性による超音波散乱・減衰、金属組織からのノイズによる欠陥の検出性の低下等により難探傷部位とされている。 このような背景から、わが国では、DMW のUT 検査の信頼性確保を目的として、「PD 認証制度」の構築に向けて検討されており、DMW 試験体の付与欠陥、UT による欠陥深さサイジングが課題としてあげられている。 PD 試験に用いる試験体としては、実機で発生するSCC き裂と同様なき裂を模擬し、き裂深さも板厚の60%程度以上の深いき裂を付与した試験体を準備する必要があるが、このような試験体の製作は極め て困難である。そこで、SCC 代替欠陥として、ウェルドオーバーレイ施工部に対するPD 試験における試験体の考え方[3]と同様、非SCC 欠陥を付与した試験体の適用について検討されている。その場合は、SCC 欠陥と非SCC 欠陥の超音波同等性を確認する必要があり、そのためにも技術面および経済面で効果的な方法でSCC き裂付与DMW 試験体を製作する必要がある。 DMW 試験体へのSCC き裂付与については、著者らは、DMW の溶接線に直交方向に進展するき裂の付与方法を、すでに報告[4]しているが、溶接線に平行方向に進展するSCC き裂について、効果的な付与方法に関する報告は少ない。 PD 試験では、PD 用DMW 試験体の付与欠陥に対して真とする深さ(正答値)を特定する技術の確立が必要となる。著者らは、DMW の溶接線直交方向のSCC き裂に対して、フェーズドアレイUT を適用し良好な深さ測定精度が得られたことを報告した[5]。しかしながら、溶接線平行方向のき裂に対する深さサイジング評価は、いまだ十分とは言えず、これらのき裂に対する高精度なサイジング技術を確立することが必要である。 本研究では、DMW のPD 制度構築に向けた取り組みとして、効果的なDMW試験体の製作技術(SCC き裂付与)の確立およびDMWの溶接線平行欠陥のUT による高精度深さサイジング技術の開発に関する研究を進めており、本報告では、これらの基礎検討結果について報告する。
2.PD 用DMW 試験体
PD 試験に用いる試験体に付与する欠陥は、DMW の溶接線に対して直交方向に進展する欠陥(以下、直交欠陥と称す)と溶接線に平行方向に進展する欠陥(以下、平行欠陥と称す)の2 種類があげられる。直交欠陥の付与方法については、著者らがすでに報告[4]しており、ここでは、平行欠陥付与の効果的な方法について検討した。 SCC き裂付与の主要因子として、試験環境、応力付与方法、溶接材料およびSCC き裂形状があり、以下のように検討した。(1) 試験環境 試験環境としては、実機環境を模擬したループの一部に試験体を配置してSCC き裂を付与する方法と薬液に浸漬して付与する方法がある。前者の方法は、実機に近いき裂が生成される可能性が高いという利点があるが、実機環境を模擬するための設備が大掛りになること、試験体設置のハンドリングが複雑になること、長時間のSCC き裂付与が必要になる等の欠点があげられる。 次に、薬液に浸漬してSCC き裂を付与する方法にとしては、試験体の当該部に小型のカプセル状の槽を設置し、その中に薬液を充填させて行う方法があり、薬液の補充、き裂進展量の測定時の段取り等のハンドリングが容易に行えること、SCC き裂付与時間も比較的短時間で終了すること等の利点がある。欠点としては、薬液の設定条件により実機の形状と異なる可能性があることがあげられる。 上記検討結果から、ハンドリングが容易でかつ比較的短時間にSCC き裂を付与する方法として、き裂付与位置に局所的に薬液(ポリチオン酸水溶液)を浸漬させる方法を採用することとした。 (2) 応力付与方法 一般に応力付与する方法は、3 点曲げあるいは4 点曲げ試験にて試験体に曲げ応力を負荷する方法があるが、この方法では、表面き裂の開口幅が大きくなること、また試験体を機械的に曲げ戻し施工しても、き裂面が潰れること等が想定される。 そこで、表面き裂の開口幅を狭くするための方法として引張応力の付与を検討した。応力付与方法の模式図をFig.1 に示す。試験体の外側に大型の拘束架台を設置し、試験体と架台を溶接することで引張応力を発生させる方法であり、曲げに比べて表面き裂の開口幅が狭くなる。なお、板厚の1/2 程度以上の深いき裂を短期間で付与するためには、図に示すような曲げ応力を負荷する必要があり、その場合、SUS 母材とCS 母材で強度が異なるため、SUS 母材側に補強材を溶接することで強度のバランスをとることとする。 (3) 溶接材料およびSCC き裂形状 実機相当の600 系ニッケル基合金の溶接材料はSCC 感受性が低く、短時間でのSCC き裂付与が困難と考えられるため、SCC 感受性が高い溶接材料として、炭素量の多い溶接材(高C 量溶接材)を使用することとする。SCC き裂の形状制御方法の模式図を、Fig.2 に示す。図より、突合せ溶接部のき裂付与位置に、高C 量の600 系合金の溶接材を用いて部分溶接(図中の部分溶接部A)を行うことで、SCC き裂を発生、進展させることが可能となる。ここで、き裂長さは、SCC 感受性の低い600 系ニッケル基合金の溶接材を用いて、突合せ溶接部と部分溶接部A との境界部に部分溶接(部分溶接部B)を行うことで、表面で溶接線方向に進展するき裂は、部分溶接部B に達して停留することで制御できる。また、き裂深さは、SCC き裂付与試験を途中止めし、UT により確認することとする。 上記の方法でRV 管台を模擬したDMW 試験体に平行SCC き裂付与を行った。なお、目標き裂は、深さ30mm,アスペクト比1である。SCC き裂付与試験を途中止めし、き裂開口側からフェーズドUT を行った結果の一例をFig.3 に示す。図は、SUS 側から探傷したときの断面画像(B スコープ)と超音波入射方向から見た投影画像(D スコープ)である。図のB スコープより、溶接部の溶融境界(溶接金属部とSUS 母材の境界)からの指示が認められている。また、SCC き裂面からの反射エコーから概略のき裂位置、き裂深さが確認できる。この試験体では、溶接金属部の中央近傍にSCC き裂が付与されていることがわかる。 次に、Fig.3 のD スコープをみると、き裂面からの指示が明瞭に認められ、これらの画像から、き裂の概略形状、深さが確認でき、目標とするSCC き裂を付与できる見通しが得られた。 なお、今後切断調査により、付与き裂の形状、寸法を測定し、き裂付与方法の評価を行う予定である。 3.平行欠陥の深さサイジング 3.1 試験体 試験体は、溶接線平行方向にEDM ノッチを付与したRV 管台を模擬したDMW試験体である。試験体の一例をFig.4に示す。試験体の突合せ溶接部は、ニッケル基合金溶接部であり、バタリングとSUS クラッドが施工されている。EDM ノッチは、突合せ溶接部の中央部分に付与されており、EDM ノッチ付与条件をTable 1 に示す。EDM ノッチは5 個で、深さはd=5,10,20,30,50mm、長さはすべて20mm とした。 Tensile stress Tetrathionic acid Clamp welding Bending stress Extension welding SCC crack DMW specimen Fig.1 Overview of introduction of circumferential SCC crack in weld metal Fig.2 Overview of control of crack shape 400300Weld metal Carbon steel Stainless steel Buttering SUS cladding EDM notch 81 Fig.4 DMW specimen with circumferential EDM notches in weld metal SCC crack Weld metal Partial welding A Partial welding B L d Area Direction Depth (mm) Length (mm) Weld metal Circumferential d=5,10,20,30,50 20 Table 1 EDM notch conditions in DMW specimen Table 2 Specification of phased array probes B-scope D-scope SCC crack C-scope Y X X Y B-Scope C-Scope D-Scope Surface Interface SCC crack Surface Shape of SCC crack SCC crack Probe Specification Target ① 2L(10) Type : Linear Frequency : 2MHz Mode : Longitudinal Element size : 10 x 0.8mm No. of channels : 64ch Shallow crack ② 2L(20) Type : Linear Frequency : 2MHz Mode : Longitudinal Element size : 20 x 0.6mm No. of channels : 64ch Medium crack ③ 2MPC Type : Dual Matrix Frequency : 2MHz Mode : Longitudinal Element size : 3.1 x 3.1mm No. of channels : 72ch (T/R) Deep Crack Fig.3 Inspection images of circumferential SCC crack in DMW specimen 3.2 試験方法 試験に用いた探傷装置は、フェーズドアレイUT 装置(DYNARAY 256/256:Zetec 社製)である。 用いたアレイ探触子は3 種類で、仕様および適用対象をTable 2 に示す。表より、①は、略号2L(10)で浅い欠陥探傷用、②は、略号2L(20)で中程度深さの欠陥探傷用、③は、2 個のマトリクスアレイ探触子を配置したピッチキャッチ探傷用探触子であり、略号2MPC で、深い欠陥探傷用として選定した。試験体の探傷は、Fig.5 に示すように、欠陥開口面側からの探傷とし、欠陥を挟んで両側(SUS 側、CS 側)から直接接触法(ギャップ法:ギャップ寸法0.2mm)で行った。またUT データの採取は、X-Y スキャナを用いた自動UT である。 3.3 試験結果および考察 EDM ノッチを付与したDMW 試験体に対してフェーズドアレイUT を適用し、Fig.6 に示す欠陥深さ測定要領[5]に従って深さ測定を行った。得られた探傷画像の一例をFig.7 に示す。図は、EDM ノッチ深さ5mmに対してSUS側から探傷した時の各種探傷画像を示したものであり、溶接部の開先形状やEDM ノッチ形状を表すための条件での探傷画像である。 図より、B スコープ画像には、EDM ノッチの指示とともに、溶融境界(溶接金属部とSUS 母材の境界)からの指示が明瞭に認められ、EDM ノッチが溶接金属部の中央に位置していることが分かる。また、D スコープ画像には、EDM ノッチの形状(矩形形状)が明瞭に認められている。さらにC スコープにはEDM ノッチと溶融境界の指示が認められ、また、概略き裂長さも測定することができる。 次に、各EDMノッチの探傷画像をFig.8 に示す。図は、SUS 側から探傷し深さ評価を行った条件で得られた断面画像(B スコープ)であり、端部エコーを丸印で示してある。図より、すべてのB スコープ画像には端部エコーが明瞭に認められた。また、図示していないが、CS 側からの断面画像においても、SUS 側と同様、すべてのEDM ノッチで端部エコーが明瞭に認められた。 次に、端部エコー法にて深さ評価を行った。その結果をFig.8 に示す。図には、SUS 側およびCS 側の結果を分けて示してある。深さ評価結果は、SUS 側とCS 側で深さに差異は認められなかった。これらのデータを用いて統計的な誤差評価を試みた結果、誤差平均は-0.55mm、RMS 誤差は0.98mm であった。ここで、深さ測定誤差であるRMS 誤差0.98mm は、ASME Code Sec.XI App. VIII[6]のPD 試験の合格基準であるRMS 誤差3.2mm に比べて、極めて良好な精度で評価されたといえる。 Fig.5 Inspection status of DMW specimen by phased array UT Evaluation of crack size Check of crack information ( Crack Position, Crack Length ) Inspection ① Small type array probe (Shallow zone) ② Middle type array probe (Medium zone) ③ Dual type matrix array probe (Deep zone) ○:Indication ×:No Indication Deep crack Depth analysis Shallow crack Depth sizing Depth analysis Depth sizing Step 2 Step 3 Step 4 Step 5 Step 1 Discrimination between shallow and deep crack from inspection images data Probe type ①②③ Indication ○ ○ ○ × ○ ○ × × ○ A B C Fig.6 Flowchart of defect depth sizing procedure Austenitic stainless Carbon steel (CS) steel (SUS) Array probeSUS side inspection CS side inspection Ultrasonic beam(a) d=5mm (c) d=20mm (e) d=50mm (b) d=10mm (d) d=30mm Surface Surface Surface Surface Surface Tip echo Tip echo Tip echo Tip echo Tip echo Fig.8 B-scan images of DMW specimen with EDM notches by phased array UT Fig.7 Inspection images in DMW specimen with EDM notch by phased array UT B-scope D-scope EDM notch C-scope Y X X Y B-Scope C-Scope D-Scope Surface EDM notch Interface Surface Shape of EDM notch (d=5mm) EDM notch4.結言 異種金属溶接部(DMW)のPD 試験制度構築の検討の一環として、所定のSCC き裂(深さと長さを制御)を付与する試験体製作技術およびDMW 試験体の溶接線平行欠陥のUT による深さサイジングに関する研究を進め、これらの基礎検討を行った。その知見を以下に纏める。 (1) DMW の溶接線に対して平行方向に進展するSCC き裂の付与方法について、各種試験条件(試験環境、応力付与方法、溶接材料およびき裂形状制御方法)を絞込み、SCC き裂付与DMW試験体を試作し、フェーズドアレイUT を適用した結果、目標とするSCC き裂を付与できる見通しが得られた。 (2) 溶接線平行欠陥(EDM ノッチ)付与DMW 試験体に対して、フェーズドアレイUT を適用した結果、欠陥深さは、誤差平均-0.55mm、RMS 誤差0.98mm と良好な精度で評価できた。 (3) 上記のフェーズドアレイUT の適用結果から、平行欠陥(EDM ノッチ)の欠陥深さ測定に対するフェーズドアレイUT の有効性が明らかとなった。 参考文献 [1] 原子力・安全保安院:加圧水型軽水炉の一次冷却材圧力バウンダリにおけるNi 基合金使用部位に係る検査等について, NISA-163a05-2(2005) [2] 関西電力(株)プレスリリース:大飯発電所3号機の定期検査状況について(原子炉容器A ループ出口管台溶接部の傷の原因と対策),(2008.9.26) [3] 日本非破壊検査協会規格:超音波探傷試験システムの性能実証における技術者の資格及び認証, NDIS 0603:2013,(一社)日本非破壊検査協会 [4] 平澤泰治,福冨広幸:ニッケル基合金溶接部の欠陥深さサイジングに対する超音波探傷法の適用性評価,電力中央研究所報告,Q09025, -2010.5[5] 平澤泰治,岡田久雄,福冨広幸:フェーズドアレイUT によるニッケル基合金溶接部の欠陥深さ測定法の開発,日本保全学会 第9 回学術講演会要旨集,pp.231-236,(2012.7) Fig.9 EDM notch depth sizing accuracy by phased array UT
“ “異種金属溶接部の溶接線平行欠陥に対する UT 深さ測定法の検討“ “平澤 泰治,Taiji HIRASAWA,福冨 広幸,Hiroyuki FUKUTOMI,秀 耕一郎,Koichiro HIDE“ “異種金属溶接部の溶接線平行欠陥に対する UT 深さ測定法の検討“ “平澤 泰治,Taiji HIRASAWA,福冨 広幸,Hiroyuki FUKUTOMI,秀 耕一郎,Koichiro HIDE