多属性類似度による事例ベース異常診断手法
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カテゴリ: 第10回
1.緒 言
本研究では、「もんじゅ」ハイブリッド診断エージェントシステムの一つの診断コンポーネントとして、多属性類似度による事例ベース異常診断手法を開発した。ハイブリッド型診断システムにおける診断システムに求められる要件としては、正常状態からの逸脱発生時に短い時間でその逸脱を検出し、その異常の種類を同定することがあげられる。本研究では過去の事例をデータベースとして保存し、異常が発生した場合に過去の事例との類似性に基づき異常の種類を判別する事例ベース推論手法を開発した。 過去事例の参照を行う際には,類似の事象を過去の膨大な情報の中から効率的に探し出す必要がある.また,ここでの類似性は多くの場合,時系列データの波形パターンについて規定されるが,保守作業員は多様な視点から情報を捉えており,周波数スペクトルや時間領域の統計量などに関心が向けられる場合もある. 例えば,時系列のデータ中の特定のパターンから計測信号中のノイズの影響を見つけたり,周波数スペクトルのピークの位置の変動からポンプの異常を見つけたりすることもある.つまり,同じ時系列信号でもどのような側面から捉えるかはユーザと状況に依存する. 従って,このような運転員の多面的検索行動を支援するためには,多様な属性に基づいて多様な側面から過去のデータを検索できる必要がある.本研究では類似の事象をパラメータの時間的な波形パターンのみからだけではなく,多面的に検索することができる検索システムの構築を目指した[1]. 事例ベース異常診断システムでは監視対象の機器の現在のデータと正常状態のリファレンスデータとの類似度を比較することで監視機器が正常状態なのか正常状態から逸脱した状態なのかを判断する.正常状態からの逸脱が確認された場合には異常を示しているデータについて過去の異常時のリファレンスとの類似度を比較することで,現在の異常が過去にあったトラブルと同じものなのか,それとも過去に類似事例のない別のトラブルなのかを判断する[2].過去の事例と類似度が高いものが確認された場合には保守作業員に対してその詳細を提示し,類似事例がない場合には対象機器のより詳細な検査の必要性を提示するシステムである. 事例ベース推論システムの全体構成を図1 に示す。 図1 事例ベース推論システムの全体構成
2.手 法 2 . 1多属性類似度に基づく事例ベース診断手法 本手法においては、正常状態のリファレンスデータとの類似度照合と、過去のデータセット及び過去の異常事例との間の類似度照合を基本とする。診断の第一段階は正常状態からの逸脱の検出である。この過程は正常状態と保証される状態で測定された正常状態のリファレンスデータに対して類似度照合を行うことで実現する。正常状態との類似度が高いと言うことは現時点のデータが正常であると言うことを示し、この類似度が低下すると言うことは正常状態からの逸脱を意味する。 異なる2つのデータベクトルの類似度の定義として、本研究では指数分布に基づく類似度定義(Exponential Distribution-based Similarity: EDS)を用いた[3]。EDSは次式で表される。 .. = ......(. !!! ! !! ) -1fとgは異なる2つのN次元データベクトルである。上記式(1)はベクトルfとg間の距離を考慮し、指数関数により類似度を求める式である。nとSはマッチングパラメータで類似度の厳密さを調節する役割を果たしている。fとgの類似度が高いほどEDSの値は1に近づき、類似度が低い場合にはEDSの値は0に近づく。 本研究ではプロセスデータ自体を周波数領域と時間領域の二つの側面から捉えて、多属性を定義する。 ・周波数スペクトル(周波数領域属性値) 本研究では以下に示す二つの領域に分けて属性値を定義した。 ・高周波数領域:0.01.0.5(Hz) ・低周波数領域:0.001.0.01(Hz) 本研究においてはベースラインの変化を異常の対象としている。ベースラインの変化は一見周波数的な属性には変化を与えないように見える。しかしながら、周期的ではないがベースラインの変化は、極低周波数領域に対応する周波数的な変化と見なすことができ、実際に雑音成分のベースラインがドリフトしているデータの周波数分析を行うと、低周波側のスペクトル成分の増大が観測される。以上のような根拠に基づき、ベースラインの変化に関しても多属性としての周波数領域の情報診断に寄与することが期待される。 ・時間領域統計量(高次モーメント) 時間領域の属性値は各機器の計測データ(x1,x2,…,xN) の統計量である、平均(μ1)、分散(μ2)、歪度(μ3)、尖度(μ4)をモーメントとする属性値データベクトルT= (μ1,μ2,μ3,μ4)を定め、式(1)を適用し類似度を検証した。 2 . 2 検証用データの作成 本研究においては、「もんじゅ」体系の数値シミュレーション[4]により生成した過渡時の異常シミュレーション信号に対して、「もんじゅ」の40%出力時の実データ信号の揺らぎ成分をAR モデルにより模擬した雑音成分を重畳させることにより検証用データを作成した。 (1)検出対象とする異常の模擬 本研究では異常の発生パターンに応じて大きく以下の二つの異常を模擬することとした。 ・ベースライン変化異常 この異常は前述のシミュレーションコードからの信号に揺らぎ成分を重畳したデータであり、プラント全体の状態が変化して複数のパラメータが定常状態から逸脱する異常である。この異常は前述のようにシミュレーションにおいて模擬した5 種類の異常が対応する。 1. 給水流量調節弁異常 2. 蒸気発生器熱伝達率異常(水垢) 3. 1次系主循環ポンプ異常 4. 主蒸気圧力上昇異常 5. 給水温度低下異常 ・単独チャンネル異常 周波数異常、不感帯、飽和等の異常は、個別のセンサや機器の異常に対応しているために、異常が発生するのは対応する個別のチャンネルに限られる(制御系の動作等によりプラント全体に波及する可能性も否定はできないが、ここでは対象外とする)。本研究では個別のチャンネルに発生する異常を単独チャンネル異常として独立して考えることとした。単独チャンネル異常に関しては、周波数領域の異常と時間領域異常として次のような異常を模擬した。 ・周波数領域異常:周波数ピーク増加,高周波成分減衰, ・時間領域異常:分散増加,飽和,不感帯 プラントシミュレーションの定常運転状態にAR モデルによってゆらぎ成分を重畳させ,更にこのゆらぎ成分について各種異常を模擬した.これらの単独チャンネルのみに発生する異常は,センサ等の故障によって正しい測定データが得られないという状態を想定している. (2)リファレンスデータ 正常状態に関してはノイズを印加したデータの正常状態(0-10000 秒まで)をリファレンスとして、周波数領域、時間領域のリファレンスに対応する属性値を計算し準備した。異常状態に関しては、ベースライン変化異常と単独チャンネル異常では別々のリファレンスが必要となる。ベースライン変化異常に関しては、異常が生起してから1000 秒間のデータを切り出し、そこから計算される属性値を異常のリファレンスとした。 (3)正常状態からの逸脱検出 異常診断においては正常状態からの逸脱の検出と、複数の異常仮説の中からの異常事象の同定という二つのステップが存在する。本研究では正常状態からの逸脱の早期検出の重要性を重視し、診断の高速性に関してはこの正常状態からの逸脱検出の高速性に関して検討を行った。 3.結果 3 . 1 ベースライン変化異常 本節ではベースライン変化異常に関して多属性時類似度に基づく診断手法により正常状態からの逸脱を検出した結果を述べる。図2 に給水温度低下異常時の逸脱検出の結果を示す。この結果は異常が発生した10000 秒を中心にした前後1000 秒の各パラメータの正常状態との類似度を示している。異常が発生した10000 秒以前は高い時類似度を示しているが、その後急激に減少し異常の発生を検出していることが示されている。チャンネルによっては,異常が発生する10000 秒時点から数秒~数十秒の早い段階で異常を検出できていることが示されている。 他のベースライン異常に関しても、異常の発生後早い段階で正常状態との類似度の低下により異常の発生が検出可能であることが示された. 図2 給水温度低下異常時の逸脱検出 3.2単独チャンネル異常 図3 に分散増加異常の主要パラメータの正常状態リファレンスデータとの類似度を示す。異常を印加した加熱器入口蒸気圧力で,時間領域の類似度が下がり異常を検出できていることがわかる.更に異常の影響が及んでいない周波数領域では類似度が下がっていないことも確認できる. 3.3異常の弁別 本節ではベースライン変化異常に関して異常の種類の弁別の可能性について検討した結果を述べる。図4 に給水温度低下異常データと,各ベースライン変化異常リファレンスデータとの間の類似度を示した.この場合は10000 秒で異常が発生しておりその前後2000 秒の間の類似度を示している。実際に発生している異常のリファレンスとの間の類似度は時間領域・低周波領域・高周波領域全てにおいて上昇する傾向を示している(左上四角内)。しかしながら、残りの4 つの異なる異常リファレンスとの間の類似度を見ると、低周波領域と高周波領域双方の周波数領域の類似度が共通して増加する傾向が観察されている。これは,ベースラインが変化する異常は,低周波スペクトル強度が強まり相対的に高周波スペクトル強度が下がるという,似たような傾向を示すためと考えられる.しかし,異常の弁別という観点では、時間領域での類似度を参照することで異常の同定は可能であることが示された。 4.結び 「もんじゅ」の5 種類のベースラインが変化する過渡異常事象と単独のチャンネルに異常が発生する異常事象に対して、事例ベース診断手法を適用し診断可能性の検証を行った。診断対象のプロセスデータとしては主要な16 チャンネルを選択し模擬雑音データを重畳させた信号を評価の対象とした。結果として事例ベース診断手法の有効性を確認することができた。 謝辞 本研究は,文部科学省のエネルギー対策特別会計委託事業による委託業務として,岡山大学が実施した平成21.24 年度原子力システム研究開発事業「「もんじゅ」プロセスデータのハイブリッド高度処理による異常診断エージェントの研究開発」の成果である.また, 日本原子力研究開発機構には,「もんじゅ」データの開図3 分散増加異常の正常状態リファレンスデータとの類似度 図4 給水温度低下異常データと各ベースライン変化異常リファレンスデータとの間の類似度 示等をいただき、感謝致します. 参考文献 [1] M. Kitamura, et.al.: “Evolving Techniques of Diagnosis Toward Establishment of New Paradigm for Human-Machine Cooperation”, J. At. Energy Soc. Japan, 40 (9), 652-683 (1998). [2] C. Diantono, 高橋信, 北村正晴, 原子力プラントにおける知的情報統合のための情報検索手法,日本原子力学会誌, 42 (11), 1215-1225 (2000). [3] Catur Diantono, Makoto Takahashi, Masaharu Kitamura: Symptom Database for Intelligent Detection and Characterization of Incipient Failures in Nuclear Power Plant, Proc. Maintenance and Reliability Conf. MARCON98, 1, pp.24.01-24.08 (1998). [4] H. MOCHIZUKI, Development of the Plant Dynamics Analysis Code NETFLOW++, Nuclear Engineering and Design, 240, 577-587 (2010). (平成25 年6 月21 日)
“ “多属性類似度による事例ベース異常診断手法 “ “高橋 信,Makoto TAKAHASHI,五福 明夫,Akio GOFUKU,望月 弘保,Hiroyasu MOCHIZUKI“ “多属性類似度による事例ベース異常診断手法 “ “高橋 信,Makoto TAKAHASHI,五福 明夫,Akio GOFUKU,望月 弘保,Hiroyasu MOCHIZUKI
本研究では、「もんじゅ」ハイブリッド診断エージェントシステムの一つの診断コンポーネントとして、多属性類似度による事例ベース異常診断手法を開発した。ハイブリッド型診断システムにおける診断システムに求められる要件としては、正常状態からの逸脱発生時に短い時間でその逸脱を検出し、その異常の種類を同定することがあげられる。本研究では過去の事例をデータベースとして保存し、異常が発生した場合に過去の事例との類似性に基づき異常の種類を判別する事例ベース推論手法を開発した。 過去事例の参照を行う際には,類似の事象を過去の膨大な情報の中から効率的に探し出す必要がある.また,ここでの類似性は多くの場合,時系列データの波形パターンについて規定されるが,保守作業員は多様な視点から情報を捉えており,周波数スペクトルや時間領域の統計量などに関心が向けられる場合もある. 例えば,時系列のデータ中の特定のパターンから計測信号中のノイズの影響を見つけたり,周波数スペクトルのピークの位置の変動からポンプの異常を見つけたりすることもある.つまり,同じ時系列信号でもどのような側面から捉えるかはユーザと状況に依存する. 従って,このような運転員の多面的検索行動を支援するためには,多様な属性に基づいて多様な側面から過去のデータを検索できる必要がある.本研究では類似の事象をパラメータの時間的な波形パターンのみからだけではなく,多面的に検索することができる検索システムの構築を目指した[1]. 事例ベース異常診断システムでは監視対象の機器の現在のデータと正常状態のリファレンスデータとの類似度を比較することで監視機器が正常状態なのか正常状態から逸脱した状態なのかを判断する.正常状態からの逸脱が確認された場合には異常を示しているデータについて過去の異常時のリファレンスとの類似度を比較することで,現在の異常が過去にあったトラブルと同じものなのか,それとも過去に類似事例のない別のトラブルなのかを判断する[2].過去の事例と類似度が高いものが確認された場合には保守作業員に対してその詳細を提示し,類似事例がない場合には対象機器のより詳細な検査の必要性を提示するシステムである. 事例ベース推論システムの全体構成を図1 に示す。 図1 事例ベース推論システムの全体構成
2.手 法 2 . 1多属性類似度に基づく事例ベース診断手法 本手法においては、正常状態のリファレンスデータとの類似度照合と、過去のデータセット及び過去の異常事例との間の類似度照合を基本とする。診断の第一段階は正常状態からの逸脱の検出である。この過程は正常状態と保証される状態で測定された正常状態のリファレンスデータに対して類似度照合を行うことで実現する。正常状態との類似度が高いと言うことは現時点のデータが正常であると言うことを示し、この類似度が低下すると言うことは正常状態からの逸脱を意味する。 異なる2つのデータベクトルの類似度の定義として、本研究では指数分布に基づく類似度定義(Exponential Distribution-based Similarity: EDS)を用いた[3]。EDSは次式で表される。 .. = ......(. !!! ! !! ) -1fとgは異なる2つのN次元データベクトルである。上記式(1)はベクトルfとg間の距離を考慮し、指数関数により類似度を求める式である。nとSはマッチングパラメータで類似度の厳密さを調節する役割を果たしている。fとgの類似度が高いほどEDSの値は1に近づき、類似度が低い場合にはEDSの値は0に近づく。 本研究ではプロセスデータ自体を周波数領域と時間領域の二つの側面から捉えて、多属性を定義する。 ・周波数スペクトル(周波数領域属性値) 本研究では以下に示す二つの領域に分けて属性値を定義した。 ・高周波数領域:0.01.0.5(Hz) ・低周波数領域:0.001.0.01(Hz) 本研究においてはベースラインの変化を異常の対象としている。ベースラインの変化は一見周波数的な属性には変化を与えないように見える。しかしながら、周期的ではないがベースラインの変化は、極低周波数領域に対応する周波数的な変化と見なすことができ、実際に雑音成分のベースラインがドリフトしているデータの周波数分析を行うと、低周波側のスペクトル成分の増大が観測される。以上のような根拠に基づき、ベースラインの変化に関しても多属性としての周波数領域の情報診断に寄与することが期待される。 ・時間領域統計量(高次モーメント) 時間領域の属性値は各機器の計測データ(x1,x2,…,xN) の統計量である、平均(μ1)、分散(μ2)、歪度(μ3)、尖度(μ4)をモーメントとする属性値データベクトルT= (μ1,μ2,μ3,μ4)を定め、式(1)を適用し類似度を検証した。 2 . 2 検証用データの作成 本研究においては、「もんじゅ」体系の数値シミュレーション[4]により生成した過渡時の異常シミュレーション信号に対して、「もんじゅ」の40%出力時の実データ信号の揺らぎ成分をAR モデルにより模擬した雑音成分を重畳させることにより検証用データを作成した。 (1)検出対象とする異常の模擬 本研究では異常の発生パターンに応じて大きく以下の二つの異常を模擬することとした。 ・ベースライン変化異常 この異常は前述のシミュレーションコードからの信号に揺らぎ成分を重畳したデータであり、プラント全体の状態が変化して複数のパラメータが定常状態から逸脱する異常である。この異常は前述のようにシミュレーションにおいて模擬した5 種類の異常が対応する。 1. 給水流量調節弁異常 2. 蒸気発生器熱伝達率異常(水垢) 3. 1次系主循環ポンプ異常 4. 主蒸気圧力上昇異常 5. 給水温度低下異常 ・単独チャンネル異常 周波数異常、不感帯、飽和等の異常は、個別のセンサや機器の異常に対応しているために、異常が発生するのは対応する個別のチャンネルに限られる(制御系の動作等によりプラント全体に波及する可能性も否定はできないが、ここでは対象外とする)。本研究では個別のチャンネルに発生する異常を単独チャンネル異常として独立して考えることとした。単独チャンネル異常に関しては、周波数領域の異常と時間領域異常として次のような異常を模擬した。 ・周波数領域異常:周波数ピーク増加,高周波成分減衰, ・時間領域異常:分散増加,飽和,不感帯 プラントシミュレーションの定常運転状態にAR モデルによってゆらぎ成分を重畳させ,更にこのゆらぎ成分について各種異常を模擬した.これらの単独チャンネルのみに発生する異常は,センサ等の故障によって正しい測定データが得られないという状態を想定している. (2)リファレンスデータ 正常状態に関してはノイズを印加したデータの正常状態(0-10000 秒まで)をリファレンスとして、周波数領域、時間領域のリファレンスに対応する属性値を計算し準備した。異常状態に関しては、ベースライン変化異常と単独チャンネル異常では別々のリファレンスが必要となる。ベースライン変化異常に関しては、異常が生起してから1000 秒間のデータを切り出し、そこから計算される属性値を異常のリファレンスとした。 (3)正常状態からの逸脱検出 異常診断においては正常状態からの逸脱の検出と、複数の異常仮説の中からの異常事象の同定という二つのステップが存在する。本研究では正常状態からの逸脱の早期検出の重要性を重視し、診断の高速性に関してはこの正常状態からの逸脱検出の高速性に関して検討を行った。 3.結果 3 . 1 ベースライン変化異常 本節ではベースライン変化異常に関して多属性時類似度に基づく診断手法により正常状態からの逸脱を検出した結果を述べる。図2 に給水温度低下異常時の逸脱検出の結果を示す。この結果は異常が発生した10000 秒を中心にした前後1000 秒の各パラメータの正常状態との類似度を示している。異常が発生した10000 秒以前は高い時類似度を示しているが、その後急激に減少し異常の発生を検出していることが示されている。チャンネルによっては,異常が発生する10000 秒時点から数秒~数十秒の早い段階で異常を検出できていることが示されている。 他のベースライン異常に関しても、異常の発生後早い段階で正常状態との類似度の低下により異常の発生が検出可能であることが示された. 図2 給水温度低下異常時の逸脱検出 3.2単独チャンネル異常 図3 に分散増加異常の主要パラメータの正常状態リファレンスデータとの類似度を示す。異常を印加した加熱器入口蒸気圧力で,時間領域の類似度が下がり異常を検出できていることがわかる.更に異常の影響が及んでいない周波数領域では類似度が下がっていないことも確認できる. 3.3異常の弁別 本節ではベースライン変化異常に関して異常の種類の弁別の可能性について検討した結果を述べる。図4 に給水温度低下異常データと,各ベースライン変化異常リファレンスデータとの間の類似度を示した.この場合は10000 秒で異常が発生しておりその前後2000 秒の間の類似度を示している。実際に発生している異常のリファレンスとの間の類似度は時間領域・低周波領域・高周波領域全てにおいて上昇する傾向を示している(左上四角内)。しかしながら、残りの4 つの異なる異常リファレンスとの間の類似度を見ると、低周波領域と高周波領域双方の周波数領域の類似度が共通して増加する傾向が観察されている。これは,ベースラインが変化する異常は,低周波スペクトル強度が強まり相対的に高周波スペクトル強度が下がるという,似たような傾向を示すためと考えられる.しかし,異常の弁別という観点では、時間領域での類似度を参照することで異常の同定は可能であることが示された。 4.結び 「もんじゅ」の5 種類のベースラインが変化する過渡異常事象と単独のチャンネルに異常が発生する異常事象に対して、事例ベース診断手法を適用し診断可能性の検証を行った。診断対象のプロセスデータとしては主要な16 チャンネルを選択し模擬雑音データを重畳させた信号を評価の対象とした。結果として事例ベース診断手法の有効性を確認することができた。 謝辞 本研究は,文部科学省のエネルギー対策特別会計委託事業による委託業務として,岡山大学が実施した平成21.24 年度原子力システム研究開発事業「「もんじゅ」プロセスデータのハイブリッド高度処理による異常診断エージェントの研究開発」の成果である.また, 日本原子力研究開発機構には,「もんじゅ」データの開図3 分散増加異常の正常状態リファレンスデータとの類似度 図4 給水温度低下異常データと各ベースライン変化異常リファレンスデータとの間の類似度 示等をいただき、感謝致します. 参考文献 [1] M. Kitamura, et.al.: “Evolving Techniques of Diagnosis Toward Establishment of New Paradigm for Human-Machine Cooperation”, J. At. Energy Soc. Japan, 40 (9), 652-683 (1998). [2] C. Diantono, 高橋信, 北村正晴, 原子力プラントにおける知的情報統合のための情報検索手法,日本原子力学会誌, 42 (11), 1215-1225 (2000). [3] Catur Diantono, Makoto Takahashi, Masaharu Kitamura: Symptom Database for Intelligent Detection and Characterization of Incipient Failures in Nuclear Power Plant, Proc. Maintenance and Reliability Conf. MARCON98, 1, pp.24.01-24.08 (1998). [4] H. MOCHIZUKI, Development of the Plant Dynamics Analysis Code NETFLOW++, Nuclear Engineering and Design, 240, 577-587 (2010). (平成25 年6 月21 日)
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