磁束漏洩法の補強板下配管減肉評価への適用性の基礎検討

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カテゴリ: 第10回
1.緒言
東日本大震災による福島第一原発の事故から、脱原発が議論されているが、電力供給不足の懸念や電力安定供給および地球温暖化問題を考慮した場合、即時全原発廃止は現実的には困難と考える。一方、新規炉の建設については当面非現実的であり、現在稼動可能な炉を継続使用することになる。よって、高経年化した発電プラントの健全性評価はこれまで以上に確実性を要求される。高経年化問題の一つとして配管減肉がある。特にT 字管部などの補強板が用いられている箇所(二重板部分)で発生する減肉を評価する手法は未だ確立されていない。その評価手法として磁束漏洩法(MFL)が候補として挙げられている。MFL は磁気ヨーク等の磁化器を用い、試料を磁化し表面からの漏れ磁束密度から減肉を評価する手法である[1]-[3]。一般的にはMFL では直流が用いられるが、本研究ではMFL の高度化という点から測定試料の励磁に交流を用いた。直流での測定では漏れ磁束密度のみで評価するが、交流を用いることで振幅と位相差のパラメータが得られ情報量が多くなることでより高精度な評価が期待される。本研究では交流励磁による磁束漏洩法を用いた配管減肉評価の可能性、さらに補強板下の減肉評価の可能性について検討した。
2.実験方法
2.1 磁気ヨーク及び試料 Fig. 1 に本研究で用いた磁気ヨークの形状・寸法および測定系を示す。 磁気ヨークの材質はケイ素鋼板で、励磁コイルの巻数は150 ターンとした。磁気ヨークの中央部には2 軸のホールセンサを固定し、試料の励磁方向と平行及び試料表面に垂直方向の磁界を計測する。測定試料は200×200 mm2 のSS400 鋼の板材で厚みは5 mm とした。その中央に減肉を模擬したスリットを設けた。スリットの幅は10 mm、スリットの深さは1, 2 mm とした。また, Fig. 2 に示した模擬減肉を有する直管試験体試料に対しても計測を行った。試験体は炭素鋼STPG であり、管の直径は114.3 mm、肉厚は8.6 mm である。図中a, b, θの値はa = 4.4 mm, b = 100 mm, θ == 130 deg.である。このときの計測に用いた磁気ヨーク a θ t = 8.6mm b 600mm 減肉部φ114.3mm 48.55mm 減肉部炭素鋼STPG Fig. 2 Dimensions of specimen with wall thinning. -2-1.5-1-0.500.511.520 0.2 0.4 0.6 0.8 1 Voltage (V) Time (s) I Bz Bx Amplitude Amplitude Phase difference Fig. 3 Definition of amplitude and phase difference on MFL using ac magnetic field.. 0.511.522.53-30 -20 -10 0 10 20 30 1 Hz 5 Hz 10 Hz Amplitude of Bx (V) Position x (mm) (a) Amplitude -60-40-20020406080-30 -20 -10 0 10 20 30 1Hz 5Hz 10Hz Phase difference of Bx (deg.) Position x (mm) (b) Phase difference Fig. 4 Distribution of amplitude and phase difference of Bx for specimen with slit of 10 mm width, 2 mm depth. 00.511.522.53-30 -20 -10 0 10 20 30 1Hz 5Hz 10Hz Amplitude of Bz (V) Position x (mm) (a) Amplitude -100-50050100150200-30 -20 -10 0 10 20 30 1Hz 5Hz 10Hz Phase difference of Bz (deg.) Position x (mm) (b) Phase difference Fig. 5 Distribution of amplitude and phase difference of Bz for specimen with slit of 10 mm width, 2 mm depth. は配管と良好な接触が可能なようにヨークの足を配管形状に合わせて加工している。 2.2 測定方法 ホール素子を伴った磁気ヨークは試料上に固定し、交流電圧を磁気ヨークに巻かれた励磁コイルに印加することで試料を励磁し、試料表面の磁界分布を計測する。印加する電流の振幅は、1.6 A とし、励磁周波数は1 Hz から10 Hz と変化させた。試料のスリット中央をx = 0、ヨークの移動方向をx 方向とし、試料表面と垂直方向をz 方向とした。磁界はx 方向成分Bxおよびz 方向成分Bzを計測した。評価では、Fig. 3 に示すようにホールセンサで得られた信号の振幅及び励磁波形と信号波形のピーク値間の位相差を用いた。 3.実験結果 Fig. 4 は幅10 mm, 深さ2 mmのスリットを有する試料に対して磁界の水平成分Bx の振幅及び位相差の位置分布を測定した結果を示している。励磁周波数は1 Hz から10 Hz まで変化させている。振幅においてはスリット中央、すなわち、x = 0 において強度がピーク値を取り、励磁周波数が増加するにつれてそのピーク値の減少が確認された。また、スリットの端部において磁界強度の減少がみられた。一方、位相成分については, スリットを有する付近で大きな変化が確認された。また、周波数が増加するにつれて、その変化領域は狭くシャープな形状に変化していることがわかる。 Fig. 5 は、幅10 mm, 深さ2 mm のスリットを有する試料に対して磁界の垂直成分Bz の振幅及び位相の位置分布を測定した結果を示している。振幅においてはいずれの周波数でも2 つのピークが確認されており、 これらの位置はスリット端部に対応している。また、水平成分のときと同様に、周波数の増加に伴って、ピーク値の減少がみられる。一方、位相差に関してはスリット中央位置で急激な減少を示す。ここで、Fig. 4, 5 のグラフにおいて評価パラメータを定義する。水平成分においては、出力の最大値と最小値の差を電圧変化と定義し、電圧変化の1/2 の値におけるピーク幅を半値幅とする。垂直成分については、出力の最大値と最小値の差を電圧変化とし、ピーク値とピーク値の幅をピーク位置として定義する。 Fig. 6(a)は電圧変化のスリット深さ依存性を示した図である。水平成分、垂直成分ともにそれぞれの周波数において電圧変化はスリット深さに比例しており、スリットの深さ推定が可能であることを示している。Fig. 6(b)は半値幅とピーク位置のスリット幅依存性を示している。半値幅、ピーク位置はともにスリット幅と対応しておりスリットの幅の計測が可能である。また、同様に位相差のプロファイル上でもパラメータを定義し、それらを用いてスリット寸法評価が可能であることは確認している。 続いて直管試験体の計測結果について述べる。Fig. 7(a)は磁束密度の水平成分Bxの振幅の分布を2 次元マッピングした図である。図中の円で示した領域は減肉部を示している。減肉中央部で振幅は増加し、端部で減少している。Fig. 7(b)は磁束密度の水平成分Bxの位相差の分布を2 次元マッピングした図である。減肉範囲で位相差が減少しており、減肉部とよく対応しているのがわかる。 Fig. 8(a)は磁束密度の垂直成分Bzの振幅の分布を2 次元マッピングした図である。減肉の端部位置付近で極値をとる。Fig. 8(b)は磁束密度の垂直成分Bzの位相差の分布を2 次元マッピングした図である。スリット中央位置 (x = 0)付近で急激な減少を示している。この結果から減肉の検知への利用は可能であるが、垂直成分の振幅と同様に減肉形状の推定は困難と考えられる。 以上、交流励磁を用いた実機を模擬した試験体の計測より、振幅と位相差それぞれが減肉の有無により変化を示し交流励磁を用いた磁束漏洩法より減肉を検知可能であることを確認した。磁界垂直成分については振幅と位相差の2 次元マップの結果から減肉形状を推定することは困難であるが、減肉の有無の判別には利用可能であると考えられる。一方で、磁界水平成分については振幅および位相差ともに減肉範囲と信号変化範囲が対応していることから、減肉形状の推定が可能である。特に位相差の結果が減肉範囲とよく対応している。 最後に、補強板下減肉評価の可能性の検討として、SS400 鋼を2 重にしてその下層にスリットを設け計測を行った。スリットの寸法は幅5 mm, 深さ2 mmである。その際、1 層目と2 層目の間に空隙を設けた場合についても検討した。空隙は100 μmまでとした。Fig. 9 は2 重板試料における磁束密度の水平成分Bxの振幅及び位相差の位置分布を測定した結果を示している。振幅においては周波数1 Hz で空隙の有無に関係なく減肉中央位置(x = 0)で最大値をとる。しかし空隙量が増加するに従い信号の変化量が減衰する。空隙量が100 μm に達すると変化量は空隙がない場合と比較して半分ほどに減衰する。この変化量の減衰は空隙があることで上側の板に磁束が集中してしまい、下側のスリット部まで磁束が届いていないためと考えられる。一方で位相差において周波数1 Hz では減肉範囲で信号が最小値をとる。振幅とは対照的に空隙量が増加しても信号の変化量の減衰は非常に小さい。これは発生する渦電流の分布が空隙によらず一定であるため位相差の減衰はなかったためと考察される。 02468100 0.5 1 1.5 2 2.5 1Hz(Bx) 5Hz(Bx) 10Hz(Bx) 1Hz(Bz) 5Hz(Bz) 10Hz(Bz) Slit depth (mm) Voltage change (V) 01020304050010203040500 10 20 30 40 50 Bx Bz Half width (mm) Peak position (mm) Slit width (mm) (a) parameter vs. depth (b) parameter vs. width Fig. 6 Relations between defined parameters and depth/width of slit. 謝辞 本研究の一部は経済産業省原子力安全・保安院の「平成24 年度高経年化技術評価高度化事業」によるものである。 参考文献 [1] H. Kikuchi, Y. Kurisawa, Y. Kamada, S. Kobayashi, K. Ara, “Feasibility Study of Magnetic Flux Leakage Method for Condition Monitoring of Wall Thinning on Tube”, International Journal of Applied Electromagnetics and Mechanics, Vol. 33, 2010, pp. 1087- 1094. [2] H. Kikuchi, K. Sato, I. Shimizu, Y. Kamada and S. Kobayashi, “Feasibility Study of Application of MFL to Monitoring of Wall Thinning under Reinforcing Plates in Nuclear Power Plants”, IEEE Transactions on Magnetics, Vol. 47, 2011, pp. 3963-3966. [3] Y. Zhang, G. Yan, “Detection of Gas Pipe Wall Thickness Based on Electromagnetic Flux Leakage”, Russian Journal of Nondestructive Testing, Vol. 43, 2007, pp. 123.132. (平成25 年6 月15 日) -100 -80 -60 -50 -40 -20 -10 0 10 20 40 50 60 80 100 -95-75-55-35-15015355575951.25-1.28 1.22-1.25 1.19-1.22 1.16-1.19 1.13-1.16 1.1-1.13 1.07-1.1 1.04-1.07 1.01-1.04 0.98-1.01 -100 -80 -60 -50 -40 -20 -10 0 10 20 40 50 60 80 100 -95-75-55-35-1501535557595220-225 215-220 210-215 205-210 200-205 195-200 190-195 185-190 180-185 175-180 (a) Amplitude (b) Phase Fig. 7 Two dimensional mapping of Bx for pipe specimen. -100 -80 -60 -50 -40 -20 -10 0 10 20 40 50 60 80 100-95-75-55-35-15015355575951.7-1.9 1.5-1.7 1.3-1.5 1.1-1.3 0.9-1.1 0.7-0.9 0.5-0.7 0.3-0.5 0.1-0.3 -0.1-0.1 -100 -80 -60 -50 -40 -20 -10 0 10 20 40 50 60 80 100-95-75-55-35-1501535557595230-280 180-230 130-180 80-130 30-80 -20-30 -70--20 (a) Amplitude (b) Phase Fig. 8 Two dimensional mapping of Bz for pipe specimen. 1.31.41.51.61.71.81.9-30 -20 -10 0 10 20 30 no gap 1Hz no gap 10Hz 10μm 1Hz 10μm 10Hz 100μm 1Hz 100μm 10Hz Amplitude of Bx (V) Position x (mm) 80100120140160180200220-30 -20 -10 0 10 20 30 no gap 1Hz no gap 10Hz 10μm 1Hz 10μm 10Hz 100μm 1Hz 100μm 10Hz Phase difference of Bx (deg.) Position x (mm) (a) Amplitude (b) Phase Fig. 9 Distribution of amplitude and phase difference of Bx for double layered specimen. “ “磁束漏洩法の補強板下配管減肉評価への適用性の基礎検討 “ “菊池 弘昭,Hiroaki KIKUCHI,佐藤 界斗,Kaito SATO,清水 勇,Isamu SHIMIZU“ “磁束漏洩法の補強板下配管減肉評価への適用性の基礎検討 “ “菊池 弘昭,Hiroaki KIKUCHI,佐藤 界斗,Kaito SATO,清水 勇,Isamu SHIMIZU
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