高精度品質管理のための溶接構造体形状制御に関する検討

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カテゴリ: 第10回
1.緒言
溶接に伴って生じる溶接変形により構造物の強度が低下する場合があることがよく知られている.一般に,溶接変形による構造物の強度低下は,角変形や角目違いが存在することで応力集中が生じることが原因である.したがって,地震等の緊急時を想定した安全対策として各種工事を行う際には,構造物の強度を確保するために溶接変形を制御することで目違いや角変形の発生を抑制し,適切な品質管理を行うことが望ましい.角変形は,溶接面と裏面との間に生じる温度差が原因で,溶接線直角方向の収縮量にも差が生じることで発生する. したがって,溶接による温度場を制御することができれば角変形も制御できると考えられる. 本研究では,裏面ガス加熱に伴う溶接中の温度分布適正化による角変形抑制法に注目し,溶接熱源とガス加熱源との熱源間距離やガス流量の施工因子が角変形低減効果に及ぼす影響について,主に数値シミュレーションを活用した検討を行う。さらに、変形低減に有効な施工条件の設定指針について考察する.
2.各種熱加工を想定した熱源モデリング
数値シミュレーションを活用した取り組みを実施するにあたって,溶接・ガス加熱を模擬した熱源モデルを構築する必要がある.そこで,本章では温度履歴および残留変形の計測実験との比較を通して,各種熱加工の熱源モデリングについて検討を行った. 2.1MAG 溶接 MAG 溶接(ツイン溶接)の数値シミュレーションに使用した数値解析モデルをFig. 1 に示す.実験で設定した溶接条件(溶接入熱 17 kJ/cm,溶接速度 27 cm/min)に加えて, 熱効率,入熱範囲等の数値解析上のパラメータを変更して,温度履歴や残留角変形が実験と解析で一致するように試みた.得られた温度履歴の解析結果を実験結果とともにFig. 2 に示す.温度履歴の解析結果は実験結果と良好な一致を示していることが確認できる.この温度履歴を用いて変形シミュレーションを行い,角変形量について評価した.その結果,角変形量は解析値で5.6 mm,実験値で5.7 mm と良好な一致を示した.これらの比較結果より、MAG 溶接を模擬した精度の良い熱源モデルを構築できたと考えられる.入熱範囲は溶着金属であり、熱源モデルに関するパラメータはTable 1 に示す通りである.
(a) Whole view (b) Cross section Fig.1 FE model of fillet weld T-joint. Fig. 2 Comparison of temperature history between FEM and Experiment in MAG welding. Table 1 Heat Source modeling of MAG welding. Heat efficiency (%) Heat source length (mm) 75 15 2.2ガス加熱 MAG 溶接と同様の手段で,ガス加熱についても熱源モデルの構築を行った.使用した数値解析モデルをFig. 3 に示す.ガス加熱は,酸素流量を変化させることで,ガス炎の集中性を変えた2 条件で行った.それらを条件A, B とすると,加熱条件は,加熱速度 27 cm/min,LPG ガス流量 11.3 L/min,酸素流量:条件A 32.5 L/min,条件B 42.0 L/min である.ガス加熱を模擬した入熱は,Fig. 3 に示した数値解析モデルにおいて,板裏面の1 要素(厚さ1.8 mm)に対して或る長さ,幅をもった矩形領域に内部発熱を与えることで模擬した.温度履歴の解析結果を実験結果とともにFig. 4 に示す.Fig. 4 を見ると,最高到達温度は解析結果のほうが若干高くなっているものの,その後の冷却過程については良く一致しており,精度良く温度履歴を再現できているといえる.この温度履歴を用いて,変形シミュレーションを行い,角変形量についても評価したたところ,解析値は実験値と同様にほぼ0 となった.これらの結果からガス加熱についても適切な熱源モデルを構築できたと考えられる.構築した熱源モデルに関するパラメータをTable 2 に示す. (a) Whole view (b) Cross section Fig. 3 FE model of bead-on-plate for gas heating. 3.角変形低減に有効な裏面ガス加熱条件の 検討 3.1裏面加熱条件が角変形低減効果に及ぼす影響 前章で構築した熱源モデルを,Fig. 5 に示すように溶接熱源とガス加熱源の熱源間距離Xh を種々に変化させて組み合わせた場合について数値シミュレーションを行い, その熱源間距離が角変形低減効果に及ぼす影響について検討を行った.熱源間距離は,溶接熱源の中心からガス 01002003004005006007008000 100 200 300 400 500 600 700 A (FEM) B (FEM) C (FEM) A (Exp.) B (Exp.) C (Exp.) Temperature, T(°C) Time, t (s) 11 17 A B CD [unit : mm] (a) Heating condition A (b) Heating condition B Fig.4 Comparison of temperature history between FEM and Experiment in gas heating. Table 2 Heat Source model of gas heating. Heat condition Heat input (kW) Heat source width (mm) Heat source Length (mm) A 7.5 100 100 B 12 90 90 加熱源の中心までの距離と定義し,本検討では溶接熱源に対してガス加熱源が後方から追従する条件(熱源間距離をマイナスとする)についてのみ解析を実施した. 解析結果をFig. 6 に示す.図を見ると,熱源間距離に対して角変形量は下に凸の傾向を示しており,ある適正な熱源間距離において角変形量は極小値を示すことがわかる.また,条件A,B ともに熱源間距離.50 mm において各変形量は極小値を示していることから,この適正な熱源間距離は,裏面加熱量によらず,溶接条件によって決まると考えられる.続いて,裏面加熱量の影響に注目すると,裏面からの入熱量が大きい条件B の方が全体的に大きな角変形低減効果が得られていることがわかる.そして,熱源間距離-50 mm の位置において条件B でガス加熱を行った場合には,角変形量をほぼ0 に抑えられている.これらの結果から,適切にガス加熱条件を設定することで,より効果的な角変形低減効果が得られ,条件によっては角変形の発生を完全に防止し得ることが示唆された. 次に,実験結果について解析結果との比較を通して検討する.条件A の結果から,解析によって得られた熱源間距離に対する角変形量の変化傾向は実験結果とも良く一致していることがわかる.また,条件B の結果も含めて,解析結果と実験結果は全体的に良好な一致を示しており,裏面ガス加熱による角変形低減効果は解析結果のみならず,実験的にも検証できたといえる.また,解析結果と実験結果が定量的にも良い一致を示したことから, 本数値シミュレーション手法を活用することで,より広範な対象について,角変形低減のための適正な裏面ガス加熱条件を推定できることが期待される. Fig. 5 Schematic illustration of reverse-side heating. Fig. 6 Relation between angular distortion and gas heating position. 3.2適正な裏面加熱条件に関する考察 前節までの考察を踏まえて,本節では,各変形低減のための適正な裏面加熱条件,特に加熱位置の設定指針に関して考察を行う.今回の条件では,適正な熱源間距離10A B C 10 [unit : mm] Gas heating 01002003004005006007008000 100 200 300 400 500 600 700 A (FEM) B (FEM) C (FEM) A (Exp.) B (Exp.) C (Exp.) Temperature, T(°C) Time, t (s) 10A B C10 [unit : mm] Gas heating 01002003004005006007008000 100 200 300 400 500 600 700 A (FEM) B (FEM) C (FEM) A (Exp.) B (Exp.) C (Exp.) Temperature, T(°C) Time, t (s) 0246810-400 -350 -300 -250 -200 -150 -100 -50 0 Angular distortion, ! (mm) Distance between 2 heat sources, xh (mm) line : FEM plot : Exp.Condition A Condition B Welding only は.50 mm であった.これよりも熱源間距離が近い場合あるいは遠い場合には得られる低減効果が小さくなる傾向が見られたため,この要因について最高到達温度分布に注目して比較・考察を行う. 熱源間距離0,.50,.100 mm の位置を条件A でガス加熱した場合の最高到達温度分布を比較してFig. 7 に示す. 図より,熱源間距離がより近い条件である0 mm と比較すると,熱源間距離-50 mm の方が高温に達する領域が裏面側において広がっていることがわかる.これは,溶接熱の拡散による裏面の温度上昇を利用することで,裏面ガス加熱時の裏面の温度上昇を効果的に得られるためであると考えられる.一方,熱源間距離.100 mm のように熱源間距離が離れすぎた場合には,溶接熱の拡散が更に進み周囲に広がるために裏面の温度上昇は低下していき, 熱源間距離.50 mm の場合に比べて効果的な温度上昇は得られなかったと考えられる.したがって,適正な熱源間距離とは,溶接による裏面の温度上昇を有効に利用できるような距離であるといえる.このような熱源間距離においては,表裏面の温度分布の勾配を小さくできるため,効果的な角変形低減効果が得られると考えられる. 4.結言 裏面ガス加熱により角変形を低減する手法を取り上げ, 適正な施工条件について数値シミュレーションを活用して検討を行った.得られた結論を以下に示す. 1) 実験結果との比較に基づいて,溶接およびガス加熱を模擬した熱源モデルを構築した.さらに,それらを組合せることで,裏面ガス加熱による角変形低減量を定量的に評価し,変形低減に有効な条件を明らかにした. 2) 数値シミュレーション結果は,実験結果とも良く一致しており,今後,より広範な対象に対しても同様のアプローチで適正な施工条件の推定が可能であると考えられる. 3) 実験,解析の両結果から,適正な条件を設定することで,本手法により角変形の発生をほぼ完全に防止し得ることが明らかになった. 参考文献 [1] 飯田國廣, 飯野暢 “角変形をもつ溶接継手の疲労強度”, 日本造船学会論文集、Vol.140,1976、pp.259-265. [2] 八木順吉、 恒成利康、 尾野英夫“角変形,目違いのある溶接継手の疲労強度(第1 報)”、 関西造船協会誌、 Vol.168、1978、 pp.89-99. [3] 野本敏治 “溶接変形と強度(溶接変形の発生とその防止)”、 溶接学会誌, Vol.52, 1983, pp.384-396. [4] 立川逸郎,徳永清彦 “突合せに溶接における横曲り変形の発生過程”、 溶接学会誌, Vol.39, 1970, pp.153-159. [5] 岡野成威、 望月正人, 豊田政男“裏面加熱源を用いた温度場制御による角変形低減効果に関する検討.複数熱源を用いた温度場制御による溶接変形低減手法に関する研究(第2 報).”、溶接学会論文集、 Vol.25,2007、pp.95-105. (平成25 年6 月21 日) (a) Heating position 0 mm (b) Heating position .50 mm (c) Heating position .100 mm Fig. 7 Comparison of highest temperature distribution between gas heating positions. “ “高精度品質管理のための溶接構造体形状制御に関する検討 “ “小林 真治,Shinji KOBAYASHI,岡野 成威,Shigetaka OKANO,望月 正人,Masahito MOCHIZUKI“ “高精度品質管理のための溶接構造体形状制御に関する検討 “ “小林 真治,Shinji KOBAYASHI,岡野 成威,Shigetaka OKANO,望月 正人,Masahito MOCHIZUKI
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