低放射化フェライト鋼/オーステナイト系ステンレス鋼 突合せ異材溶接へのファイバーレーザ溶接法の適用
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カテゴリ: 第10回
1背景
発電を目指す核融合炉ブランケットシステム製作において,構造部材の溶接・接合法の適用検討は重要な課題である.性能要件を満たす複雑構造形態を採用した場合,新しい溶接手法の適用も含めた検討も必要となる.原型炉用の固体増殖水冷却型ブランケットシステムの主要構造材料は,核融合中性子に対する誘導放射化特性に優れた低放射化フェライト鋼である[1].低放射化フェライト鋼は,焼戻しマルテンサイト鋼に分類されるため,相変態を伴う溶接では溶接後熱処理が必要となる.使用年限経過後,原型炉用ブランケットについては取り外され,新しいブランケットを溶接により交換される.溶接後熱処理の必要性により,溶接部はオーステナイト系ステンレス鋼を適用し溶接後熱処理は必要ない仕様とすることが望まれる.実験炉用のテストブランケットモジュールの 設計,低放射化フェライト鋼とSUS316LNの異材溶接部を有しており,ITER本体への接続にはSUS316LN同士の溶接り接続される.これまで,異材溶接には,TIGによる多層盛溶接が適用されてきた.高エネルギー密度を有するファイバーレーザ溶接法の適用により,従来の溶融溶接(例えばTIG溶接法)と比較して,靭性劣化が想定される溶接金属部および溶接熱影響部の体積を小さくすることができる [2].本研究では,低放射化フェライト鋼F82Hとオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lの異材溶接への高出力ファイバーレーザの適用性を明らかにすることを目的とした. 2実験方法 2.1溶接条件 板厚4 mmの低放射化フェライト鋼およびオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lを用いて,ファイバーレーザによる突合せ溶接をした.供試材料の化学組成を Table 1に示す.ビームスポット径..0.2 mmのファイバーレーザ溶接機を用いて,焦点位置を試料表面としレーザ出力4kW,溶接速度3m/minの条件で溶接した.希釈の影響を検討するため,レーザ照射位置合せ面からSUS316L側へ最大0.2mmシフトさせた.作製した溶接継手に対し,720oC,1時間の溶接後熱処理をし本溶接後熱処理の条件は,F82HのTIG溶接材および電子ビーム溶接材で採用されている条件[3, 4]を参考にした.
Table 1Chemical composition of F82H and SUS316L. 1899/12/31 2:24:00溶接継手の特性評価 溶接断面方向に組織観察用の試験片を切り出し,走査型電子顕微鏡による組織観察を行った.溶接継手の引張特性を調べるため,溶接線方向に対して垂直方向にFig. 1899/12/31 に示す形状の引張試験片を採取した.引張試験条件は,室温,ひずみ速度0.3×1900/01/08-1900/01/01s-1とした.硬さ試験に供するため溶接部断面方向に試験片を採取した.ファイバーレーザ溶接により形成される組織は不均一性を有しており,スポット径0.2 mmに対して溶接金属部の幅は,0.8mm以下となる.一方,溶接熱影響部の幅は数百nmとなるため,溶接熱影響部においては,組織および機械的性質の特性勾配が局所に存在することが想定される.したがって,硬さは,超微小押し込み硬さ試験法により評価した.試験片表面を鏡面且つ平滑に機械研磨し,機械研磨で導入される加工層の除去のため電解研磨したものを供試材とした.押し込み荷重1900/01/18mNの条件で硬さ試験を実施した.超微小押し込み硬さとビッカース硬さとの比較のため,ビッカース硬さ試験についても実施した.ビッカース試験での荷重0.98 Nとした. Fig.1 Tensile specimen. 3.実験結果および考察 3.1同材溶接部の継手特性 低放射化フェライト鋼の同材溶接部の断面組織観察結果をFig. 2に示す.レーザは上方向から垂直方向に照射した.板厚中心部において溶接金属部の幅は1901/07/03.m,溶接熱影響部の幅は250.mであった.溶接部において,溶接欠陥(割れ,ポロシティ)の形成は確認されず良好な溶接継手を得ることができた.Fig. 3に溶接熱影響部/母材部の境界近傍のミクロ組織を示す.溶接熱影響部において旧. 粒のサイズに変化は見られなかった.TIG溶接等の大入熱が付加される溶接法を選択した場合,熱サイクルに依存して溶接熱影響部において結晶粒径に変化が生じるため,粗粒部・細粒部等が形成される.ファイバーレーザ溶接では,昇温冷却過程の溶接熱サイクルが急峻なため,溶接過程で旧..粒径に変化が生じることなく,溶接が達成される.析出物の分布について観察した結果,Fig.3中の母材部の結晶粒界(旧..粒界,パケット境界)において炭化 Fig. 2Cross-sectional microstructure of F82H/F82H welded by 4kW fiber-laser welding. Fig. 3Microstructure of the region close to the transformation line. 物の存在が確認できる.一方,溶接熱影響部では,炭化物の量は母材部と比較し相対的に減少した.本溶接条件での組織変化の特徴として,炭化物の再固溶が挙げられる.超微小押し込み硬さ試験結果をFig. 4に示す.溶接後の溶接熱影響部および溶接金属部の硬さは4~5 GPaであった.ビッカース試験の値では,溶接金属部の硬さは1901/02/10HV01899/12/31 を示した.溶接後熱処理後の硬さ試験の結果,溶接金属部および溶接熱影響部における硬さは4GPa以下に低下した.ビッカース硬さ値は,溶接金属部で1900/09/14HV01であった.この溶接後熱処理後の硬さ分布は,電子ビーム溶接継手の結果と同等の傾向を示す結果となった[5].室温における引張試験の結果,母材部において粒内破断した.以上の結果から,本溶接条件を採用することで,優れた材料特性を有する溶接継手を製作可能であることがわかった. Fig. 1900/01/02Micro-hardness distribution of weld before and after the post weld heat treatment. 32異材溶接部の継手特性 (a) Amount of shift: 0 mm. (b) Amount of shift: 0.2 mm. Fig. 5Cross-sectional microstructure of F82H/SUS316L welded by 4kW fiber-laser welding. Beam position were shifted from the abutting surface (broken line in the figures) to SUS316L side. F82H/SUS316Lの溶接継手の製作では,突合せ面よりSUS316L側に照射位置をシフトさせた条件にて溶接を行った.F82H/SUS316L異材溶接継手の断面組織観察結果をFig. 5に示す.溶接部の黒の破線は,突合せ界面に対応している.レーザ照射位置のシフト量は,Fig. 5(a):0 mm,Fig. 1900/01/03(b):0.2mmである.異材溶接継手のマクロ組織観察結果から,同種材料と同様溶接欠陥の形成は確認されなかった.ビームの照射位置をSUS316L側にシフトさせた場合,溶接金属部においてよりSUS316L 組成の希釈率が高くなる.溶接部のSUS316L 側へ0.2mmシフトさせた溶接継手について,ミクロ組織観察をした結果をFig. 1900/01/04に示す.F82H側の溶接熱影響部においては,Fig. 3と同様の組織形態であった.溶接金属部は,マルテンサイト相領域と柱状晶を有するオーステナイト相領域に大別された.溶接後熱処理前後の硬さ試験結果をFig. 7に示す.F82H側の溶接熱影響部の硬さは,溶接後熱処理によりF82Hの母材同等まで低下した.一方,溶接金属部において,硬さの低下しない領域が確認された.溶接金属中で硬さが低下した領域は,Fig. 6中のオーステナイト相領域に対応する.引張試験の結果,いずれの接合継手においてもSUS316L側の母材部で破断した.以上の結果から溶接金属部の組織をオーステナイト相主体の組織に可能な溶接条件の選定が必要であることが示唆された. Fig. 6Microstructure of F82H/SUS316L welded by 4kW fiber-laser welding. Amount of shift was 0.2 mm from the abutting surface to SUS316L side. Fig. 1900/01/05Micro-hardness distribution of weld before and after the post weld heat treatment. Fig. 8 Cross-sectional microstructure of F82H/SUS316L welded by 4kW fiber-laser welding. Beam position were shifted from the abutting surface (broken line in the figures) to SUS316L side. 3.3溶接金属部の組織に及ぼす溶接速度の影響 溶接熱影響部および溶接金属部の体積を小さくするため,溶接速度を5 m/minに変化させ溶接試験を行った.レーザ照射位置は,SUS316L側へのシフト量0.1mmとした.マクロ組織観察結果をFig.8 に示す.溶接金属部の幅は,0.4 mmとなり溶接速度3m/minの条件のものと比較し減少した.F82H側の溶接熱影響部の幅は,150~300.mであった.ミクロ組織観察の結果から,溶接金属部のすべての領域が,がオーステナイト相であることが確認された.溶接後熱処理前後のビッカース硬さ試験結果を Fig. 9に示す.溶接後の硬化領域は,F82H側の溶接熱影響部に対応する.F82H側の溶接熱影響部に対応する.溶接金属部における硬化領域は観察されなかった.溶接後熱処理により溶接熱影響部における硬さは低減した.このことから,溶接金属部をオーステナイト相とするような溶接条件を選択することで,溶接後熱処理により優れた溶接継手を作製できることがわかった. Fig. 9 Vickers hardness distribution of weld before and after the post weld heat treatment. 34平衡計算により計算した希釈状態における安定母相 熱力学平衡計算を用いて,希釈状態における溶接金属中の安定母相の割合を計算した結果をFig. 10に示す.計算には,熱力学平衡計算ソフトウェアThermo-CalcおよびThermotech社製データベースFe-DATA ver. 6を用いた.F82H鋼の変態が完了する温度720oCにおいて熱力学的平衡状態にある母相の割合を示す.計算結果から,SUS316L 中にF82Hが60%まで希釈されても,安定母相は, 020406080100020406080100Volume fraction of a,...phase (%)Amount of F82Hin the steel (%)Stable phase at 720 oC(Thermo-Calc. Fe-DATA)...phasea.phaseFig. 10Volume fraction of α and γphase in equilibrium at 720 oC. 95%以上..相が安定相として存在可能であることを示している.溶接金属部におけるF82Hの割合を1900/02/27%になるようにビーム照射位置を制御することにより,溶接金属部をオーステナイト相単相に制御可能であることが示唆された.上記の結果は平衡状態であるため,定量的な解釈を適用することは困難であると考えられるが,実際の溶接金属の希釈量との関係については実測により,精査する必要があると考えられる. 4.まとめ 本研究では,低放射化フェライト鋼とSUS316L材異材溶接法の確立を目的とし,高出力ファイバーレーザ溶接を用いた突合せ異材溶接を実施し,以下の結果を得た. ・同材及び異材溶接ともに,溶接欠陥のない突合せ溶接継手の作製に成功した. ・溶接後熱処理により,F82H側の溶接熱影響部の硬さは減少した.一方,溶接金属部の硬さは減少しなかった.希釈された溶接金属では,溶接後熱処理による特性改善は難しい. ・照射位置をSUS316Lにシフトさせた溶接条件を適用することにより,溶接後熱処理感受性の良い異材溶接継手を作製することが可能である. ・シフト量および溶接速度を変化させ,溶接金属部に形成される相をオーステナイト相とすることにより,溶接後熱処理特性を改善可能であることを示した. 参考文献 [1] A.-A.F Tavassoli, J.-W Rensman, M Schirra, K Shiba, “Materials design data for reduced activation martensitic steel type F82H”, Fusion Engineering and Design, Vol. 61.62, 2002, pp. 617-628. [2] Hisashi Serizawa, Shinichiro Nakamura, Manabu Tanaka, Yousuke Kawahito, Hiroyasu Tanigawa, Seiji Katayama, “Effect of mechanical restraint on weldability of reduced activation ferritic/martensitic steel thick plates”, Journal of Nuclear Materials, Vol. 417, 2011, pp. 55-58. [3] H. Tanigawa, K. Shiba, A. Moslang, R.E. Stoller, R. Lindau, M.A. Sokolov, G.R. Odette, R.J. Kurtz, S. Jitsukawa, “Status and key issues of reduced activation ferritic/martensitic steels as the structural material for a DEMO blanket”, Journal of Nuclear Materials, Vol. 417, 2011, pp. 9-15. [4] T Sawai, K Shiba, A Hishinuma, “Microstructure of welded and thermal-aged low activation steel F82H IEA heat”, Journal of Nuclear Materials, Vol. 283.287, 200, pp. 657-661. [5] S. Nogami, N. Hara, T. Nagasaka, A. Hasegawa, T. Muroga. “Effect of PWHT on the Mechanical and Metallographical Properties of a Dissimilar-metal Weld Joint of F82H and SUS316L Steels”, Fusion Science and Technology, Vol. 60, 2011, pp.334-338(平成25年6月21日)“ “低放射化フェライト鋼/オーステナイト系ステンレス鋼 突合せ異材溶接へのファイバーレーザ溶接法の適用 “ “荻原 寛之,Hiroyuki OGIWARA,森 大樹,Daiki MORI,森 裕章,Hiroaki MORI,才田 一幸,Kazuyoshi SAIDA,芹澤 久,Hisashi SERIZAWA“ “低放射化フェライト鋼/オーステナイト系ステンレス鋼 突合せ異材溶接へのファイバーレーザ溶接法の適用 “ “荻原 寛之,Hiroyuki OGIWARA,森 大樹,Daiki MORI,森 裕章,Hiroaki MORI,才田 一幸,Kazuyoshi SAIDA,芹澤 久,Hisashi SERIZAWA
発電を目指す核融合炉ブランケットシステム製作において,構造部材の溶接・接合法の適用検討は重要な課題である.性能要件を満たす複雑構造形態を採用した場合,新しい溶接手法の適用も含めた検討も必要となる.原型炉用の固体増殖水冷却型ブランケットシステムの主要構造材料は,核融合中性子に対する誘導放射化特性に優れた低放射化フェライト鋼である[1].低放射化フェライト鋼は,焼戻しマルテンサイト鋼に分類されるため,相変態を伴う溶接では溶接後熱処理が必要となる.使用年限経過後,原型炉用ブランケットについては取り外され,新しいブランケットを溶接により交換される.溶接後熱処理の必要性により,溶接部はオーステナイト系ステンレス鋼を適用し溶接後熱処理は必要ない仕様とすることが望まれる.実験炉用のテストブランケットモジュールの 設計,低放射化フェライト鋼とSUS316LNの異材溶接部を有しており,ITER本体への接続にはSUS316LN同士の溶接り接続される.これまで,異材溶接には,TIGによる多層盛溶接が適用されてきた.高エネルギー密度を有するファイバーレーザ溶接法の適用により,従来の溶融溶接(例えばTIG溶接法)と比較して,靭性劣化が想定される溶接金属部および溶接熱影響部の体積を小さくすることができる [2].本研究では,低放射化フェライト鋼F82Hとオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lの異材溶接への高出力ファイバーレーザの適用性を明らかにすることを目的とした. 2実験方法 2.1溶接条件 板厚4 mmの低放射化フェライト鋼およびオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lを用いて,ファイバーレーザによる突合せ溶接をした.供試材料の化学組成を Table 1に示す.ビームスポット径..0.2 mmのファイバーレーザ溶接機を用いて,焦点位置を試料表面としレーザ出力4kW,溶接速度3m/minの条件で溶接した.希釈の影響を検討するため,レーザ照射位置合せ面からSUS316L側へ最大0.2mmシフトさせた.作製した溶接継手に対し,720oC,1時間の溶接後熱処理をし本溶接後熱処理の条件は,F82HのTIG溶接材および電子ビーム溶接材で採用されている条件[3, 4]を参考にした.
Table 1Chemical composition of F82H and SUS316L. 1899/12/31 2:24:00溶接継手の特性評価 溶接断面方向に組織観察用の試験片を切り出し,走査型電子顕微鏡による組織観察を行った.溶接継手の引張特性を調べるため,溶接線方向に対して垂直方向にFig. 1899/12/31 に示す形状の引張試験片を採取した.引張試験条件は,室温,ひずみ速度0.3×1900/01/08-1900/01/01s-1とした.硬さ試験に供するため溶接部断面方向に試験片を採取した.ファイバーレーザ溶接により形成される組織は不均一性を有しており,スポット径0.2 mmに対して溶接金属部の幅は,0.8mm以下となる.一方,溶接熱影響部の幅は数百nmとなるため,溶接熱影響部においては,組織および機械的性質の特性勾配が局所に存在することが想定される.したがって,硬さは,超微小押し込み硬さ試験法により評価した.試験片表面を鏡面且つ平滑に機械研磨し,機械研磨で導入される加工層の除去のため電解研磨したものを供試材とした.押し込み荷重1900/01/18mNの条件で硬さ試験を実施した.超微小押し込み硬さとビッカース硬さとの比較のため,ビッカース硬さ試験についても実施した.ビッカース試験での荷重0.98 Nとした. Fig.1 Tensile specimen. 3.実験結果および考察 3.1同材溶接部の継手特性 低放射化フェライト鋼の同材溶接部の断面組織観察結果をFig. 2に示す.レーザは上方向から垂直方向に照射した.板厚中心部において溶接金属部の幅は1901/07/03.m,溶接熱影響部の幅は250.mであった.溶接部において,溶接欠陥(割れ,ポロシティ)の形成は確認されず良好な溶接継手を得ることができた.Fig. 3に溶接熱影響部/母材部の境界近傍のミクロ組織を示す.溶接熱影響部において旧. 粒のサイズに変化は見られなかった.TIG溶接等の大入熱が付加される溶接法を選択した場合,熱サイクルに依存して溶接熱影響部において結晶粒径に変化が生じるため,粗粒部・細粒部等が形成される.ファイバーレーザ溶接では,昇温冷却過程の溶接熱サイクルが急峻なため,溶接過程で旧..粒径に変化が生じることなく,溶接が達成される.析出物の分布について観察した結果,Fig.3中の母材部の結晶粒界(旧..粒界,パケット境界)において炭化 Fig. 2Cross-sectional microstructure of F82H/F82H welded by 4kW fiber-laser welding. Fig. 3Microstructure of the region close to the transformation line. 物の存在が確認できる.一方,溶接熱影響部では,炭化物の量は母材部と比較し相対的に減少した.本溶接条件での組織変化の特徴として,炭化物の再固溶が挙げられる.超微小押し込み硬さ試験結果をFig. 4に示す.溶接後の溶接熱影響部および溶接金属部の硬さは4~5 GPaであった.ビッカース試験の値では,溶接金属部の硬さは1901/02/10HV01899/12/31 を示した.溶接後熱処理後の硬さ試験の結果,溶接金属部および溶接熱影響部における硬さは4GPa以下に低下した.ビッカース硬さ値は,溶接金属部で1900/09/14HV01であった.この溶接後熱処理後の硬さ分布は,電子ビーム溶接継手の結果と同等の傾向を示す結果となった[5].室温における引張試験の結果,母材部において粒内破断した.以上の結果から,本溶接条件を採用することで,優れた材料特性を有する溶接継手を製作可能であることがわかった. Fig. 1900/01/02Micro-hardness distribution of weld before and after the post weld heat treatment. 32異材溶接部の継手特性 (a) Amount of shift: 0 mm. (b) Amount of shift: 0.2 mm. Fig. 5Cross-sectional microstructure of F82H/SUS316L welded by 4kW fiber-laser welding. Beam position were shifted from the abutting surface (broken line in the figures) to SUS316L side. F82H/SUS316Lの溶接継手の製作では,突合せ面よりSUS316L側に照射位置をシフトさせた条件にて溶接を行った.F82H/SUS316L異材溶接継手の断面組織観察結果をFig. 5に示す.溶接部の黒の破線は,突合せ界面に対応している.レーザ照射位置のシフト量は,Fig. 5(a):0 mm,Fig. 1900/01/03(b):0.2mmである.異材溶接継手のマクロ組織観察結果から,同種材料と同様溶接欠陥の形成は確認されなかった.ビームの照射位置をSUS316L側にシフトさせた場合,溶接金属部においてよりSUS316L 組成の希釈率が高くなる.溶接部のSUS316L 側へ0.2mmシフトさせた溶接継手について,ミクロ組織観察をした結果をFig. 1900/01/04に示す.F82H側の溶接熱影響部においては,Fig. 3と同様の組織形態であった.溶接金属部は,マルテンサイト相領域と柱状晶を有するオーステナイト相領域に大別された.溶接後熱処理前後の硬さ試験結果をFig. 7に示す.F82H側の溶接熱影響部の硬さは,溶接後熱処理によりF82Hの母材同等まで低下した.一方,溶接金属部において,硬さの低下しない領域が確認された.溶接金属中で硬さが低下した領域は,Fig. 6中のオーステナイト相領域に対応する.引張試験の結果,いずれの接合継手においてもSUS316L側の母材部で破断した.以上の結果から溶接金属部の組織をオーステナイト相主体の組織に可能な溶接条件の選定が必要であることが示唆された. Fig. 6Microstructure of F82H/SUS316L welded by 4kW fiber-laser welding. Amount of shift was 0.2 mm from the abutting surface to SUS316L side. Fig. 1900/01/05Micro-hardness distribution of weld before and after the post weld heat treatment. Fig. 8 Cross-sectional microstructure of F82H/SUS316L welded by 4kW fiber-laser welding. Beam position were shifted from the abutting surface (broken line in the figures) to SUS316L side. 3.3溶接金属部の組織に及ぼす溶接速度の影響 溶接熱影響部および溶接金属部の体積を小さくするため,溶接速度を5 m/minに変化させ溶接試験を行った.レーザ照射位置は,SUS316L側へのシフト量0.1mmとした.マクロ組織観察結果をFig.8 に示す.溶接金属部の幅は,0.4 mmとなり溶接速度3m/minの条件のものと比較し減少した.F82H側の溶接熱影響部の幅は,150~300.mであった.ミクロ組織観察の結果から,溶接金属部のすべての領域が,がオーステナイト相であることが確認された.溶接後熱処理前後のビッカース硬さ試験結果を Fig. 9に示す.溶接後の硬化領域は,F82H側の溶接熱影響部に対応する.F82H側の溶接熱影響部に対応する.溶接金属部における硬化領域は観察されなかった.溶接後熱処理により溶接熱影響部における硬さは低減した.このことから,溶接金属部をオーステナイト相とするような溶接条件を選択することで,溶接後熱処理により優れた溶接継手を作製できることがわかった. Fig. 9 Vickers hardness distribution of weld before and after the post weld heat treatment. 34平衡計算により計算した希釈状態における安定母相 熱力学平衡計算を用いて,希釈状態における溶接金属中の安定母相の割合を計算した結果をFig. 10に示す.計算には,熱力学平衡計算ソフトウェアThermo-CalcおよびThermotech社製データベースFe-DATA ver. 6を用いた.F82H鋼の変態が完了する温度720oCにおいて熱力学的平衡状態にある母相の割合を示す.計算結果から,SUS316L 中にF82Hが60%まで希釈されても,安定母相は, 020406080100020406080100Volume fraction of a,...phase (%)Amount of F82Hin the steel (%)Stable phase at 720 oC(Thermo-Calc. Fe-DATA)...phasea.phaseFig. 10Volume fraction of α and γphase in equilibrium at 720 oC. 95%以上..相が安定相として存在可能であることを示している.溶接金属部におけるF82Hの割合を1900/02/27%になるようにビーム照射位置を制御することにより,溶接金属部をオーステナイト相単相に制御可能であることが示唆された.上記の結果は平衡状態であるため,定量的な解釈を適用することは困難であると考えられるが,実際の溶接金属の希釈量との関係については実測により,精査する必要があると考えられる. 4.まとめ 本研究では,低放射化フェライト鋼とSUS316L材異材溶接法の確立を目的とし,高出力ファイバーレーザ溶接を用いた突合せ異材溶接を実施し,以下の結果を得た. ・同材及び異材溶接ともに,溶接欠陥のない突合せ溶接継手の作製に成功した. ・溶接後熱処理により,F82H側の溶接熱影響部の硬さは減少した.一方,溶接金属部の硬さは減少しなかった.希釈された溶接金属では,溶接後熱処理による特性改善は難しい. ・照射位置をSUS316Lにシフトさせた溶接条件を適用することにより,溶接後熱処理感受性の良い異材溶接継手を作製することが可能である. ・シフト量および溶接速度を変化させ,溶接金属部に形成される相をオーステナイト相とすることにより,溶接後熱処理特性を改善可能であることを示した. 参考文献 [1] A.-A.F Tavassoli, J.-W Rensman, M Schirra, K Shiba, “Materials design data for reduced activation martensitic steel type F82H”, Fusion Engineering and Design, Vol. 61.62, 2002, pp. 617-628. [2] Hisashi Serizawa, Shinichiro Nakamura, Manabu Tanaka, Yousuke Kawahito, Hiroyasu Tanigawa, Seiji Katayama, “Effect of mechanical restraint on weldability of reduced activation ferritic/martensitic steel thick plates”, Journal of Nuclear Materials, Vol. 417, 2011, pp. 55-58. [3] H. Tanigawa, K. Shiba, A. Moslang, R.E. Stoller, R. Lindau, M.A. Sokolov, G.R. Odette, R.J. Kurtz, S. Jitsukawa, “Status and key issues of reduced activation ferritic/martensitic steels as the structural material for a DEMO blanket”, Journal of Nuclear Materials, Vol. 417, 2011, pp. 9-15. [4] T Sawai, K Shiba, A Hishinuma, “Microstructure of welded and thermal-aged low activation steel F82H IEA heat”, Journal of Nuclear Materials, Vol. 283.287, 200, pp. 657-661. [5] S. Nogami, N. Hara, T. Nagasaka, A. Hasegawa, T. Muroga. “Effect of PWHT on the Mechanical and Metallographical Properties of a Dissimilar-metal Weld Joint of F82H and SUS316L Steels”, Fusion Science and Technology, Vol. 60, 2011, pp.334-338(平成25年6月21日)“ “低放射化フェライト鋼/オーステナイト系ステンレス鋼 突合せ異材溶接へのファイバーレーザ溶接法の適用 “ “荻原 寛之,Hiroyuki OGIWARA,森 大樹,Daiki MORI,森 裕章,Hiroaki MORI,才田 一幸,Kazuyoshi SAIDA,芹澤 久,Hisashi SERIZAWA“ “低放射化フェライト鋼/オーステナイト系ステンレス鋼 突合せ異材溶接へのファイバーレーザ溶接法の適用 “ “荻原 寛之,Hiroyuki OGIWARA,森 大樹,Daiki MORI,森 裕章,Hiroaki MORI,才田 一幸,Kazuyoshi SAIDA,芹澤 久,Hisashi SERIZAWA