原子炉容器炉内計装筒の保全技術向上に向けた取り組み
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カテゴリ: 第10回
1.緒言
600系ニッケル合金を適用している原子炉容器炉内計装筒においては、PWR一次系環境下に曝される下部鏡との溶接部近傍の炉内計装筒内面及び下部鏡との溶接金属部(J溶接部)に発生する応力腐食割れ(PWSCC)が懸念される。これに対し、技術的合理性に基づいた点検手法、健全性評価手法の確立を目的として、平成21年8月に日本原子力技術協会(現原子力安全推進協会(JANSI))よりPWR炉内構造物点検評価ガイドライン[原子炉容器炉内計装筒]が発行された[1]。また、平成25年には、複雑形状部の有限要素解析手法(FEM)を標準化するため、付録H「原子炉容器炉内計装筒貫通部の欠陥評価のための有限要素解析を用いた応力拡大係数算出」を追加した改訂版が発行された。既存ガイドラインの概要は、第7回学術講演会で既に紹介していることから、今回追加した付録Hの概要を紹介する。 本ガイドラインでは、J溶接部のような複雑形状部に対して、迅速かつ適正に健全性評価ができるよう、FEMを用いた応力拡大係数Kの算出手法を標準化した。
2.複雑形状部のK値算出手法
炉内計装筒及びJ溶接部に欠陥が検出された場合、き裂進展評価及び破壊評価を含む健全性評価を行う必要がある。この際、J溶接部のような複雑形状部に対しては、現状の維持規格のモデル化方法や評価方法が直接的に適用できないことから、FEMを用いてKを算出することが望ましい。 そこで、FEMを用いてKを算出する際の欠陥のモデル化、評価条件等を標準化することで、解析者間の解のばらつきが少なく、迅速な評価ができるガイドラインを策定した。代表的規定事項を以下に紹介する。 2.1 適用範囲 対象箇所は、図1に示すように、原子炉容器炉内計装筒貫通部の炉内計装筒母材及びJ溶接部とする。ここで、想定欠陥は、周方向応力成分が最も大きくなること、国内外での実機事例を考慮して、軸方向欠陥としている。 連絡先: 名越康人、 〒652-8585 兵庫県神戸市兵庫区和田崎町一丁目1番1号、 三菱重工業㈱ 神戸造船所 原子力機器設計部 機器設計課、電話:078-672-5956, E-mail: yasuto_nagoshi@mhi.co.jp 拡大 クラッド 炉内計装筒 J溶接部 0° 断面 180° 断面 原子炉容器 バタリング 図1 原子炉容器炉内計装筒 評価対象構造の例 2.2 評価条件の整備 2.2.1 評価部位の選定 炉内計装筒は、原子炉容器下部鏡の底部全体に数十本配置され、J溶接部の形状は底部への取付位置によって異なる。炉内計装筒周りの欠陥設定断面は、図1に示す最外周管台(原子炉容器中心軸から最も遠い管台)とその他の管台のK値を比較すると、最外周管台の0°位置(原子炉容器中心軸側を0°、外周側を180°とする)でK値が大きくなることが確認されている[2]。よって、本ガイドラインでは、評価時の欠陥を保守的に想定する場合は、この位置を代表欠陥としてもよいこととした。 2.2.2 使用温度に対応した材料定数 K算出のための熱応力解析では、熱過渡条件の使用温度に対応した各部材の材料定数(熱膨張係数E、縦弾性係数α等)を準備する必要がある。しかし、Eαの値は300℃までは単調増加、300~375℃もほぼ一定であることから、軽水炉の過渡範囲において、材料定数は温度依存性を考慮する代わりに、高温側の材料定数一定に設定することで代表できる。 2.3 欠陥のモデル化 非破壊検査により検出された欠陥は、適切に形状、位置及び寸法をモデル化する必要がある。本ガイドラインは、欠陥を包絡する保守的な初期欠陥として、図2に示すように、J溶接部、バタリング部全体及び炉内計装筒はJ溶接部の最深部範囲の欠陥とすることを推奨する。 ここで,欠陥を原子炉容器の中心軸を通る断面(0-180°断面)上に想定すると、保守的である。 モデル化に際して、3次元ソリッドの8節点六面体要素、20節点六面体要素のいずれを用いてもよいが、解析コードとその機能に対応した要素タイプを設定し、さらに、J積分を算出する欠陥前縁については、十分に細かく要素分割とし、各要素のアスペクト比は極端に大きくならないよう注意する必要があることをガイドライン中で明記した。 図2 軸方向欠陥の保守的なモデル化の例 検出された欠陥 モデル化 J溶接部+バタリング部+管台部の板厚にわたる部分を欠陥とする。 2.4 応力拡大係数の算出 FEM解析で算出したJ積分よりKを算出する。J積分の計算には、欠陥の先端を囲む積分経路が必要である。この設定方法は解析コードによるが、多数の経路を指定して、その中から積分値のばらつきの少ない経路を複数選択して平均値をとることを推奨する。 3.結言 1) 複雑形状部に対するFEM解析の評価条件や欠陥のモデル化方法を具体的に規定することで、迅速かつ適正にK値を評価することが可能になる。尚、本ガイドラインの妥当性を確認するため関連機関において、ベンチマーク解析を実施中である。 4.謝辞 JANSIガイドライン検討会の委員、制定に携わった全ての関係者に深く感謝の意を表す。 参考文献 [1] 一般社団法人 日本原子力技術協会 PWR炉内構造物点検評価ガイドライン[原子炉容器炉内計装筒] [2] 一般社団法人 原子力安全推進協会 PWR炉内構造物点検評価ガイドライン[原子炉容器炉内計装筒]平成25年度改訂 付録H “ “原子炉容器炉内計装筒の保全技術向上に向けた取り組み “ “名越 康人,Yasuto NAGOSHI,越智 真弓,Mayumi OCHI,北条 公伸,Kiminobu HOJO,瀬良 健彦,Takehiko SERA“ “原子炉容器炉内計装筒の保全技術向上に向けた取り組み “ “名越 康人,Yasuto NAGOSHI,越智 真弓,Mayumi OCHI,北条 公伸,Kiminobu HOJO,瀬良 健彦,Takehiko SERA
600系ニッケル合金を適用している原子炉容器炉内計装筒においては、PWR一次系環境下に曝される下部鏡との溶接部近傍の炉内計装筒内面及び下部鏡との溶接金属部(J溶接部)に発生する応力腐食割れ(PWSCC)が懸念される。これに対し、技術的合理性に基づいた点検手法、健全性評価手法の確立を目的として、平成21年8月に日本原子力技術協会(現原子力安全推進協会(JANSI))よりPWR炉内構造物点検評価ガイドライン[原子炉容器炉内計装筒]が発行された[1]。また、平成25年には、複雑形状部の有限要素解析手法(FEM)を標準化するため、付録H「原子炉容器炉内計装筒貫通部の欠陥評価のための有限要素解析を用いた応力拡大係数算出」を追加した改訂版が発行された。既存ガイドラインの概要は、第7回学術講演会で既に紹介していることから、今回追加した付録Hの概要を紹介する。 本ガイドラインでは、J溶接部のような複雑形状部に対して、迅速かつ適正に健全性評価ができるよう、FEMを用いた応力拡大係数Kの算出手法を標準化した。
2.複雑形状部のK値算出手法
炉内計装筒及びJ溶接部に欠陥が検出された場合、き裂進展評価及び破壊評価を含む健全性評価を行う必要がある。この際、J溶接部のような複雑形状部に対しては、現状の維持規格のモデル化方法や評価方法が直接的に適用できないことから、FEMを用いてKを算出することが望ましい。 そこで、FEMを用いてKを算出する際の欠陥のモデル化、評価条件等を標準化することで、解析者間の解のばらつきが少なく、迅速な評価ができるガイドラインを策定した。代表的規定事項を以下に紹介する。 2.1 適用範囲 対象箇所は、図1に示すように、原子炉容器炉内計装筒貫通部の炉内計装筒母材及びJ溶接部とする。ここで、想定欠陥は、周方向応力成分が最も大きくなること、国内外での実機事例を考慮して、軸方向欠陥としている。 連絡先: 名越康人、 〒652-8585 兵庫県神戸市兵庫区和田崎町一丁目1番1号、 三菱重工業㈱ 神戸造船所 原子力機器設計部 機器設計課、電話:078-672-5956, E-mail: yasuto_nagoshi@mhi.co.jp 拡大 クラッド 炉内計装筒 J溶接部 0° 断面 180° 断面 原子炉容器 バタリング 図1 原子炉容器炉内計装筒 評価対象構造の例 2.2 評価条件の整備 2.2.1 評価部位の選定 炉内計装筒は、原子炉容器下部鏡の底部全体に数十本配置され、J溶接部の形状は底部への取付位置によって異なる。炉内計装筒周りの欠陥設定断面は、図1に示す最外周管台(原子炉容器中心軸から最も遠い管台)とその他の管台のK値を比較すると、最外周管台の0°位置(原子炉容器中心軸側を0°、外周側を180°とする)でK値が大きくなることが確認されている[2]。よって、本ガイドラインでは、評価時の欠陥を保守的に想定する場合は、この位置を代表欠陥としてもよいこととした。 2.2.2 使用温度に対応した材料定数 K算出のための熱応力解析では、熱過渡条件の使用温度に対応した各部材の材料定数(熱膨張係数E、縦弾性係数α等)を準備する必要がある。しかし、Eαの値は300℃までは単調増加、300~375℃もほぼ一定であることから、軽水炉の過渡範囲において、材料定数は温度依存性を考慮する代わりに、高温側の材料定数一定に設定することで代表できる。 2.3 欠陥のモデル化 非破壊検査により検出された欠陥は、適切に形状、位置及び寸法をモデル化する必要がある。本ガイドラインは、欠陥を包絡する保守的な初期欠陥として、図2に示すように、J溶接部、バタリング部全体及び炉内計装筒はJ溶接部の最深部範囲の欠陥とすることを推奨する。 ここで,欠陥を原子炉容器の中心軸を通る断面(0-180°断面)上に想定すると、保守的である。 モデル化に際して、3次元ソリッドの8節点六面体要素、20節点六面体要素のいずれを用いてもよいが、解析コードとその機能に対応した要素タイプを設定し、さらに、J積分を算出する欠陥前縁については、十分に細かく要素分割とし、各要素のアスペクト比は極端に大きくならないよう注意する必要があることをガイドライン中で明記した。 図2 軸方向欠陥の保守的なモデル化の例 検出された欠陥 モデル化 J溶接部+バタリング部+管台部の板厚にわたる部分を欠陥とする。 2.4 応力拡大係数の算出 FEM解析で算出したJ積分よりKを算出する。J積分の計算には、欠陥の先端を囲む積分経路が必要である。この設定方法は解析コードによるが、多数の経路を指定して、その中から積分値のばらつきの少ない経路を複数選択して平均値をとることを推奨する。 3.結言 1) 複雑形状部に対するFEM解析の評価条件や欠陥のモデル化方法を具体的に規定することで、迅速かつ適正にK値を評価することが可能になる。尚、本ガイドラインの妥当性を確認するため関連機関において、ベンチマーク解析を実施中である。 4.謝辞 JANSIガイドライン検討会の委員、制定に携わった全ての関係者に深く感謝の意を表す。 参考文献 [1] 一般社団法人 日本原子力技術協会 PWR炉内構造物点検評価ガイドライン[原子炉容器炉内計装筒] [2] 一般社団法人 原子力安全推進協会 PWR炉内構造物点検評価ガイドライン[原子炉容器炉内計装筒]平成25年度改訂 付録H “ “原子炉容器炉内計装筒の保全技術向上に向けた取り組み “ “名越 康人,Yasuto NAGOSHI,越智 真弓,Mayumi OCHI,北条 公伸,Kiminobu HOJO,瀬良 健彦,Takehiko SERA“ “原子炉容器炉内計装筒の保全技術向上に向けた取り組み “ “名越 康人,Yasuto NAGOSHI,越智 真弓,Mayumi OCHI,北条 公伸,Kiminobu HOJO,瀬良 健彦,Takehiko SERA