小口径配管の振動評価基準に関する検討
公開日:
カテゴリ: 第10回
1.諸言
原子力発電所では、小口径配管の振動による疲労損傷事例が多数報告されている。振動疲労は、ポンプの機械振動や圧力脈動が配管系に伝播し、配管が共振することで発生する。配管の振動トラブルの未然防止のため、ひずみ測定により振動による発生応力評価を行い、許容応力値と比較する応力評価基準がよく用いられる。しかし、応力評価には手間がかかることから、日常は配管振動を測定して振動値より配管の健全性を一次評価するプラント事業者は多い。効率的に配管振動を評価する方法として振動評価基準を米国石油協会(API)[1]やサウスウェスト研究所(SwRI)[2]が策定している。これらは、配管振動の変位振幅または速度振幅と周波数の関係から評価を行う。配管の振動を測定するだけの簡便な方法であり、プラントの運転中でも測定ができる。また、簡易振動診断として用いられており、ある程度保守的な評価と考えられる。しかし、いずれも充分な設計に基づく主配管を対象とされたものであり、分岐管の振動に対しては適用範囲外となっている。本研究では小口径分岐配管の振動実験を行い、API とSwRI の配管振動評価基準の小口径分岐配管への適用性について調べた。
2.振動実験
2.1 実験方法 Fig.1 に示す往復動ポンプにより圧力脈動を発生させて圧力脈動を配管振動の加振源とする配管ループを用いて振動実験を行った。主配管の材質はSUS304、口径は3/4 インチSch40 である。配管ループの途中に分岐管を設置した。Fig.2 に示すL 字型管と直管を用いた。分岐管の付根部は、突合せ溶接継手とソケット溶接継手の2 種類とした。分岐管の材質はSUS304、口径は3/8 インチSch20 である。分岐管の端部付近に取り付けた錘位置を変えて分岐管の固有振動数を調整するとともに、ポンプ回転数を変化させて圧力脈動周波数を調整した。これにより、周波数および振動変位振幅の異なる振動状態の実験を行った。振動測定は、分岐管の錘位置におけるXYZ 方向の加速度測定と、分岐管と主配管の付根部のひずみ測定を行った。Fig.1 Diagram of experimental apparatus
4000241520851200Pump 28002200150012001300Tank [mm] 1906/04/18Y X Z Branch pipe Fig.2 Photograph of branch pipe 2.3 実験結果 Fig.3、Fig.4 およびFig.5 は、API およびSwRI の振動評価基準に振動変位振幅の測定結果をプロットしたものである。振動変位振幅は、錘位置のY 方向について整理した。同時に測定した分岐管付根部のひずみから発生応力を算出し、許容応力値を基準として発生応力の大きさごとにFig.3 からFig.5 に振動変位結果を示した。Fig.3 は発生応力が疲労破壊の許容値以上であり、許容応力値に10MPa を加えた値より小さい範囲の結果である。Fig.4 は許容応力値未満であり、許容応力値から10MPa を減じた値より大きい範囲の結果である。Fig.5 は許容応力値より10MPa 以上小さな値の範囲の結果である。許容応力値は(財)発電設備技術検査協会が行った発電設備溶接部信頼性実証試験(WSR)[3]の試験結果を利用して求めた。WSR の試験結果より、材質と配管口径ごとに残留応力による平均応力の効果を加味したS-N 曲線が提案されている。提案されたS-N 曲線をもとに安全率を考慮した許容応力値を算出した。安全率には日本機械学会発電用原子力設備規格 設計建設規格[4]の疲労強度減少係数を用いた。本実験で用いた配管仕様から、許容応力値は突合せ溶接継手では28MPa であり、ソケット溶接継手では23.3MPa と求められた。Fig.3 の振動測定結果は、API 規格の基準値よりかなり上側に位置し、SwRI 規格で評価するとDanger 領域(すぐに運転を中止し、振動低減対策が要求される領域)に位置した。Fig.3 の発生応力は疲労限近傍の応力に近いと考えられ疲労損傷のおそれがあることから、API やSwRI の評価基準は妥当であると言える。Fig.4 の振動測定の結果は、API 規格の基準値で評価すると全て上側に位置した。また、SwRI 規格の評価基準では、Danger 領域とCorrection 領域(配管系を改造し、振動値を減少させることが望ましい振動領域)に位置した。Fig.4 の発生応力は許容応力値未満であることから、API やSwRI の基準はWSR で求めた基準より安全側の評価を与えると言える。 Fig.3 Amplitudes of vibrational displacement compered with API criteria and SwRI criteria. Vibrational stress was more than allowable stress and less than allowable stress plus 10MPa. Fig.4 Amplitude of vibrational displacement compered with API criteria and SwRI criteria. Vibrational stress was more than allowable stress minus 10 MPa and less than allowable stress. Flow direction X Y Z Weight Accelerometer Strain gage 101021031041 10 102 103 Frequency (Hz) Both amplitude of vibrational displacement (μm) Design Marginal Correction Danger Socket (L pipe) API criteria SwRI criteria Butt (Straight pipe) 101021031041 10 102 103 Frequency (Hz) Both amplitude of vibrational displacement (μm) Design Marginal Correction Danger L pipe (butt) L pipe (socket) API criteria SwRI criteria Straight pipe (socket) Straight pipe (butt) Fig.5 の振動測定結果は、API 規格の基準値で評価すると1 点を除き上側に位置し、SwRI 規格の基準値で評価するとDesign 領域(適切に設計された配管系であっても、起こりうる振動領域)からDanger 領域まで広範囲に位置した。Fig.5 の発生応力は許容応力値より10MPa 以上小さい値であるが、API やSwRI の基準は全般的にかなり安全側の評価を与えると言える。以上の結果より、API およびS wRI の基準は小口径配管の振動を安全側に評価するため、小口径分岐配管の振動評価に対しても適用可能と考えられる。しかし、これらの基準を用いた場合はかなり保守的な評価となることが分かった。3.結言 API およびSwRI の配管振動評価基準は小口径分岐配管の振動評価を非安全側に評価することはなかったことから、小口径分岐配管の振動評価に適用可能と考えられる。しかし、かなり保守的な基準値であり、過大な安全側の評価となる場合があることが実験的に示された。参考文献 [1] API(American Petroleum Institute) Standard 618, 5th edition. 2007. [2] Wachel,J.C. and Bates, “Escape piping vibrations while designing”, Hydrocarbon Processing, 1976, pp152-156. [3] (財)発電設備技術検査協会, “試験研究 発電設備溶接部信頼性実証試験(WSR)(ソケット継手の疲労強度に関する実証試験),” 発電技研レビュー, No.23, 1977, pp.76-95. [4] 日本機械学会,原子力発電用原子力設備規格 設計・建設規格 第Ⅰ編 軽水炉規格(2010 年追補版) (平成25 年6 月6 日) 101021031041 10 102 103 Frequency (Hz) Both amplitude of vibrational displacement (μm) Design Marginal Correction Danger L pipe (butt) L pipe (socket) API criteria SwRI criteria Straight pipe (socket) Straight pipe (butt) Fig.5 Amplitude of vibrational displacement compered with API criteria and SwRI criteria. Vibrational stress was less than allowable stress minus 10 MPa. “ “小口径配管の振動評価基準に関する検討 “ “辻 峰史,Takashi TSUJI,前川 晃,Akira MAEKAWA,高橋 常夫,Tsuneo TAKAHASHI,加藤 稔,Minoru KATO,鳥越 裕一,Yuichi TORIGOE“ “小口径配管の振動評価基準に関する検討 “ “辻 峰史,Takashi TSUJI,前川 晃,Akira MAEKAWA,高橋 常夫,Tsuneo TAKAHASHI,加藤 稔,Minoru KATO,鳥越 裕一,Yuichi TORIGOE
原子力発電所では、小口径配管の振動による疲労損傷事例が多数報告されている。振動疲労は、ポンプの機械振動や圧力脈動が配管系に伝播し、配管が共振することで発生する。配管の振動トラブルの未然防止のため、ひずみ測定により振動による発生応力評価を行い、許容応力値と比較する応力評価基準がよく用いられる。しかし、応力評価には手間がかかることから、日常は配管振動を測定して振動値より配管の健全性を一次評価するプラント事業者は多い。効率的に配管振動を評価する方法として振動評価基準を米国石油協会(API)[1]やサウスウェスト研究所(SwRI)[2]が策定している。これらは、配管振動の変位振幅または速度振幅と周波数の関係から評価を行う。配管の振動を測定するだけの簡便な方法であり、プラントの運転中でも測定ができる。また、簡易振動診断として用いられており、ある程度保守的な評価と考えられる。しかし、いずれも充分な設計に基づく主配管を対象とされたものであり、分岐管の振動に対しては適用範囲外となっている。本研究では小口径分岐配管の振動実験を行い、API とSwRI の配管振動評価基準の小口径分岐配管への適用性について調べた。
2.振動実験
2.1 実験方法 Fig.1 に示す往復動ポンプにより圧力脈動を発生させて圧力脈動を配管振動の加振源とする配管ループを用いて振動実験を行った。主配管の材質はSUS304、口径は3/4 インチSch40 である。配管ループの途中に分岐管を設置した。Fig.2 に示すL 字型管と直管を用いた。分岐管の付根部は、突合せ溶接継手とソケット溶接継手の2 種類とした。分岐管の材質はSUS304、口径は3/8 インチSch20 である。分岐管の端部付近に取り付けた錘位置を変えて分岐管の固有振動数を調整するとともに、ポンプ回転数を変化させて圧力脈動周波数を調整した。これにより、周波数および振動変位振幅の異なる振動状態の実験を行った。振動測定は、分岐管の錘位置におけるXYZ 方向の加速度測定と、分岐管と主配管の付根部のひずみ測定を行った。Fig.1 Diagram of experimental apparatus
4000241520851200Pump 28002200150012001300Tank [mm] 1906/04/18Y X Z Branch pipe Fig.2 Photograph of branch pipe 2.3 実験結果 Fig.3、Fig.4 およびFig.5 は、API およびSwRI の振動評価基準に振動変位振幅の測定結果をプロットしたものである。振動変位振幅は、錘位置のY 方向について整理した。同時に測定した分岐管付根部のひずみから発生応力を算出し、許容応力値を基準として発生応力の大きさごとにFig.3 からFig.5 に振動変位結果を示した。Fig.3 は発生応力が疲労破壊の許容値以上であり、許容応力値に10MPa を加えた値より小さい範囲の結果である。Fig.4 は許容応力値未満であり、許容応力値から10MPa を減じた値より大きい範囲の結果である。Fig.5 は許容応力値より10MPa 以上小さな値の範囲の結果である。許容応力値は(財)発電設備技術検査協会が行った発電設備溶接部信頼性実証試験(WSR)[3]の試験結果を利用して求めた。WSR の試験結果より、材質と配管口径ごとに残留応力による平均応力の効果を加味したS-N 曲線が提案されている。提案されたS-N 曲線をもとに安全率を考慮した許容応力値を算出した。安全率には日本機械学会発電用原子力設備規格 設計建設規格[4]の疲労強度減少係数を用いた。本実験で用いた配管仕様から、許容応力値は突合せ溶接継手では28MPa であり、ソケット溶接継手では23.3MPa と求められた。Fig.3 の振動測定結果は、API 規格の基準値よりかなり上側に位置し、SwRI 規格で評価するとDanger 領域(すぐに運転を中止し、振動低減対策が要求される領域)に位置した。Fig.3 の発生応力は疲労限近傍の応力に近いと考えられ疲労損傷のおそれがあることから、API やSwRI の評価基準は妥当であると言える。Fig.4 の振動測定の結果は、API 規格の基準値で評価すると全て上側に位置した。また、SwRI 規格の評価基準では、Danger 領域とCorrection 領域(配管系を改造し、振動値を減少させることが望ましい振動領域)に位置した。Fig.4 の発生応力は許容応力値未満であることから、API やSwRI の基準はWSR で求めた基準より安全側の評価を与えると言える。 Fig.3 Amplitudes of vibrational displacement compered with API criteria and SwRI criteria. Vibrational stress was more than allowable stress and less than allowable stress plus 10MPa. Fig.4 Amplitude of vibrational displacement compered with API criteria and SwRI criteria. Vibrational stress was more than allowable stress minus 10 MPa and less than allowable stress. Flow direction X Y Z Weight Accelerometer Strain gage 101021031041 10 102 103 Frequency (Hz) Both amplitude of vibrational displacement (μm) Design Marginal Correction Danger Socket (L pipe) API criteria SwRI criteria Butt (Straight pipe) 101021031041 10 102 103 Frequency (Hz) Both amplitude of vibrational displacement (μm) Design Marginal Correction Danger L pipe (butt) L pipe (socket) API criteria SwRI criteria Straight pipe (socket) Straight pipe (butt) Fig.5 の振動測定結果は、API 規格の基準値で評価すると1 点を除き上側に位置し、SwRI 規格の基準値で評価するとDesign 領域(適切に設計された配管系であっても、起こりうる振動領域)からDanger 領域まで広範囲に位置した。Fig.5 の発生応力は許容応力値より10MPa 以上小さい値であるが、API やSwRI の基準は全般的にかなり安全側の評価を与えると言える。以上の結果より、API およびS wRI の基準は小口径配管の振動を安全側に評価するため、小口径分岐配管の振動評価に対しても適用可能と考えられる。しかし、これらの基準を用いた場合はかなり保守的な評価となることが分かった。3.結言 API およびSwRI の配管振動評価基準は小口径分岐配管の振動評価を非安全側に評価することはなかったことから、小口径分岐配管の振動評価に適用可能と考えられる。しかし、かなり保守的な基準値であり、過大な安全側の評価となる場合があることが実験的に示された。参考文献 [1] API(American Petroleum Institute) Standard 618, 5th edition. 2007. [2] Wachel,J.C. and Bates, “Escape piping vibrations while designing”, Hydrocarbon Processing, 1976, pp152-156. [3] (財)発電設備技術検査協会, “試験研究 発電設備溶接部信頼性実証試験(WSR)(ソケット継手の疲労強度に関する実証試験),” 発電技研レビュー, No.23, 1977, pp.76-95. [4] 日本機械学会,原子力発電用原子力設備規格 設計・建設規格 第Ⅰ編 軽水炉規格(2010 年追補版) (平成25 年6 月6 日) 101021031041 10 102 103 Frequency (Hz) Both amplitude of vibrational displacement (μm) Design Marginal Correction Danger L pipe (butt) L pipe (socket) API criteria SwRI criteria Straight pipe (socket) Straight pipe (butt) Fig.5 Amplitude of vibrational displacement compered with API criteria and SwRI criteria. Vibrational stress was less than allowable stress minus 10 MPa. “ “小口径配管の振動評価基準に関する検討 “ “辻 峰史,Takashi TSUJI,前川 晃,Akira MAEKAWA,高橋 常夫,Tsuneo TAKAHASHI,加藤 稔,Minoru KATO,鳥越 裕一,Yuichi TORIGOE“ “小口径配管の振動評価基準に関する検討 “ “辻 峰史,Takashi TSUJI,前川 晃,Akira MAEKAWA,高橋 常夫,Tsuneo TAKAHASHI,加藤 稔,Minoru KATO,鳥越 裕一,Yuichi TORIGOE