曲面形状に対応するビーム制御方式フェーズドアレイ 超音波探傷技術の検証および試験適用

公開日:
カテゴリ: 第10回
1.緒言
探傷位置や探傷屈折角などを電子走査可能なフェーズドアレイ超音波探傷(PAUT: Phased Array Ultrasonic Testing)技術は、その有効性から従来の単眼プローブに代わって使用されるケースが増加している[1-3]。しかし曲面形状の構造材、もしくは溶接やグラインダ加工によるうねりが存在する部材は、プローブ設置や探傷屈折角制御が困難であり、適用が進んでいない。この問題を解決するため、様々なPAUT技術が開発されてきた。フレキシブルなプローブを用い、対象形状にあわせてプローブ形状を変形させる手法[4,5]と、対象表面形状に合わせて超音波ビームを制御する手法が代表的である。プローブ形状を変形させる手法は効果的ではあるものの、プローブ形状を把握する手段が別に必要となること、プローブ自体が高価になることから、普及には課題が多い。ビーム制御は従来のアレイプローブを使えることが利点であるが、対象の表面形状を把握する手段が必要になること、気中ではプローブと対象の間を媒質で埋める必要があることに課題がある。局部水浸環境を用いる例があるが[6,7]、装置が複雑化するため、こちらも普及に課題がある。そこで東芝は、水中では水浸法、気中では加工が容易なゲル(ソフトシュー)を媒質に用いた曲面形状に対応するビーム制御方式のPAUT技術を開発してきた[8-10]。本論文では、以下に関する開発成果を報告する。まず、2次元、3次元に関わらず検査対象面が曲面を有していても超音波探傷が可能であり、かつ探傷結果を表面形状に応じて再構成する技術を開発した。また上記技術を、管台溶接部を想定した模擬試験体に適用し、通常では困難な周方向探傷への適用性を確認した。
2.測定原理
図1に本技術のフローを示す。本技術は探傷の前に、対象の表面形状計測と形状に応じた遅延時間計算との2ステップが存在する。表面形状計測では、アレイプローブを構成するn個の素子のうち1つずつ用いて超音波を送信し、計測対象表面で反射した超音波を全ての素子(素子1~素子n)で受信することにより、n×nパタンの生波形を得る。この波形のうち複数個を用いて開口合成処理による対象表面からの反射波強度分布の可視化を行い、高精度な表面形状計測が可能となる。 Scanning/setting of an array probe Measurement of surface profileCalculate delay time depending on surface profileInspectionReconstruct inspection results depending on surface profileFig.1 Inspection flow 図2に表面形状を反映した遅延時間算出の概念図を示す。ここでは、一部分が凹んだ形状の2次元リニアスキャンを例に説明するが、形状対応遅延時間の計算の考え方はこれ以外の形状でも同様である。一般に用いられるPAUTは検査対象表面を平面とし、遅延時間を計算する。リニアスキャンでは、同じ遅延時間で使用する素子郡を電子的に移動させることで音線を走査する。そのため、全範囲を同じ遅延時間で探傷することになる。その場合、曲面では図2(a)に示すように探傷屈折角が変化してしまう。ここで、実線は正常、破線は曲面で屈折した音線であることを示す。形状を考慮した場合でも、通常のリニアスキャンのように、素子と焦点を先に決定して遅延時間を計算すると、図2(b)のように焦点へは入射できても結局探傷屈折角は不ぞろいになる。そこで本技術は使用する素子を最後に決定して遅延時間を計算する手法を考案した。これにより、表面形状に対応しながら探傷屈折角を一定に保つビーム制御に成功した。最初に焦点と探傷屈折角を指定することで、入射点と最適な入射角は一意に求められ、その延長線上にある素子を使用素子として特定する。これにより図2(c)に示すような探傷屈折角を保ったビーム制御が可能となる。上述の技術を組み合わせて探傷を行うとで、3次元的な曲率部をもつ対象の探傷も可能となる。また、3次元化にあたりGPUユニットを用いた高速計算ユニットを開発することで、座標系複雑化により増加してしまう表面形状計測、遅延時間計算等の処理時間を大幅に短縮することに成功した。 Incident angleRefraction angleFocal pointIncident pointCenter of driven elements(a) Conventional Incident angleRefraction angleFocal pointIncident pointCenter of driven elements(b) Surface correction-element coordinate base Incident angleRefraction angleFocal pointIncident pointCenter of driven elements(c) Surface correction-sound beam base Fig.2 Concept of beam steering 探傷によって得られた波形強度を、上述の手法で求めたメインビームの音線上に、伝播時間に対応させてプロットすることで、形状に対応した再構成結果が得られる。 3.装置構成 3.1 探傷システム 本開発における探傷システムを図3に示す。ここで、アレイプローブを設置している検査対象は管台溶接部を想定している。探傷器は東芝製3次元UT装置(T-PA256(3D))を用いた。T-PA256(3D)は、256chのパルサレシーバを有し、最大256chのアレイプローブを同時励起した探傷が可能である。また、後述する表面形状計測のた めの全波形サンプリング機能を有しており、256ch×256chの受信波形をアウトプットできる。その際、全波形データ量が500MBを超える大容量となる場合があるため、光ファイバ伝送を備えた高速データ伝送回路を設けることでPCへのデータ伝送速度500MB/sを実現した。PCには後述する表面形状計測のため複数台のGPUから成るGPUユニットを用いた高速信号処理システムを実装した。アレイプローブは、16ch×16chの256chマトリクスアレイ(中心周波数2MHz、ピッチ1.4mm、有効開口22.4mm×22.4mm)を使用した。アレイプローブと試験体の間は、水もしくは水と同程度の音響特性をもつ合成樹脂のハイドロゲル(比重約0.85、音速約1430m/s)を原料としたソフトシューで充填することで、水浸法でのビーム制御を可能とした。 WaveformdataPCDetector(T-PA256(3D))High-speed data transfer circuitControlsignalMatrix Array ProbeSpecimen(Nozzle)GPUunitwater or soft shoeWelded areaFig.3 Experimental setup 3.2 試験体 試験体の模式図を図4に示す。いずれの試験体も材料は炭素鋼を用いた。図4(a)は性能検証試験体である。厚さは50mmを有し、表面にR60の球面を設け直径3.2mmの横穴(SDH: Side Drilled Hole)を導入した。図4(b)に示すのは、管台溶接部形状模擬試験体である。鏡板に厚さ16mmのφ500mm配管をセットオン溶接した形状を模擬した。網掛けで示した部分が溶接部の形状に相当する。溶接部位置での周方向探傷の成立性を検討するため、溶接部の軸方向全体にわたるようにスリット1を、溶接部の軸方向半分に相当する位置にスリット2を導入した。いずれのスリットも深さ2mm、長さ33mmとし、放電加工にて導入した。 20501002712.512.512.5R6010070R60SDHxzyz(a) Verification specimen 28080161502237d33Slit1:d=80Slit2:d=91202R266R250R23490202Slit2Slit12020Slit2Slit18091Welded area(b) Specimen of welded part of nozzle stub Fig.4 Diagram of specimens 4.測定結果 4.1 探傷結果(性能検証試験体) 性能検証試験体での形状計測結果を図5に示す。ここで、図5(a)には3次元表示による鳥瞰図を、図5(b)にはxz断面図を、図5(c)にはyz断面図を示す。実線で示したのが図面形状、破線で示したのがSAFTを用いた形状計測結果である。ここで、x座標とy座標はアレイプローブにおける素子の並び方向であり、z座標は深さ方向を表す。原点は、アレイプローブ下端面の重心座標とした。このとき、媒質は水を用い、アレイプローブと性能検証試験体表面とのギャップは30mmとした。図面形状との差を全面にわたって算出し、その標準偏差の2倍(2σ)を誤差と定義すると、測定誤差は0.1mm以下であった。これにより、本技術によって表面形状が高精度に計測可能であることが確認できた。 図6に、同試験体に導入されたSDHの探傷結果(B-Scan)を示す。図6(a)は表面形状を反映しない通常の水浸法PAUT結果、図6(b)は図5にて測定した表面形状を反映した遅延時間を用いた探傷結果を示す。試験体との位置関係や媒質等の条件は全て図5と同じとした。探 傷方法はセクタスキャンとし、x方向-60°から20°、y方向-30°から30°の範囲を2°ピッチで測定した。その結果、通常のPAUTの場合SDHが映像化されないだけでなく、底面エコーも得られなかった。一方で、形状を反映した場合、底面エコーに加えて、明瞭にSDHが映像化できることを確認した。 (a) 3D overall view x position [mm]z position [mm]y position [mm]1050-5-1031302928True valueSAFT1050-5-1031302928True valueSAFT(b) xz section (c) yz section Fig.5 Results of surface shape measurement 12.512.53050Matrixarray probe12.512.53050Matrix array probeSteelWaterSteelWater(a) Conventional PAUT (b) Surface Correction Fig.6 Inspection results of verification specimen 4.2 探傷結果(管台溶接部形状模擬試験体) 図7に管台溶接部形状模擬試験体探傷の様子を示す。アレイプローブの素子が並んでいる方向をx方向、深さ方向をz方向とし、紙面奥行き方向(周方向)をy方向とした。原点は4.1と同様にアレイプローブ下端面の重心座標とした。伝播媒質はソフトシューを用い、試験体とアレイプローブのギャップは30mmとした。溶接部形状模擬部から超音波が入射するよう、プローブホルダにてアレイプローブとソフトシューをまとめて固定できる構造とした。 Matrix arrayprobeProbe holderSoft shoeSpecimen of welded partof nozzle stubWelded areaxzFig.7 Photo of inspection setup 図8に、スリット1の探傷結果を示す。図8(a)はxz断面における探傷結果、図8(b)はyz断面における探傷結果である。このとき、探傷条件はx方向-15°から40°、y方向-15°から60°として1°ピッチで走査した。どちらの断面においても、底面とスリット1に相当する位置に明瞭な指示が得られた。 Slit1Slit1Slit2Matrix arrayprobeMatrix arrayprobeMatrix arrayprobeMatrix arrayprobe(a) xz section (b) yz section Fig.8 Inspection results of slit1 図9に、スリット2の探傷結果を示す。図9(a)はxz断面における探傷結果、図9(b)はyz断面における探傷結果である。このとき、探傷条件はx方向-15°から40°、y方向-60°から15°として1°ピッチで走査した。スリット1の探傷時と同様に、どちらの断面においても底面とスリット2に相当する位置に明瞭な指示が得られた。 Slit2Slit1Slit2Matrix arrayprobeMatrix arrayprobeSlit2Slit1Slit2Matrix arrayprobeMatrix arrayprobe(a) xz section (b) yz section Fig.9 Inspection results of slit2 スリット1は溶接部の軸方向全体、スリット2は溶接 部の軸方向半分までに導入された欠陥のため、これにより溶接部軸方向半分以上の範囲が周方向探傷できていることが確認できた。 5.結言 曲面などの複雑な表面形状に対応するビーム制御方式のフェーズドアレイ超音波探傷技術を開発した。R60の3次元球面形状表面をもつ性能検証試験体を用いて性能検証を行った結果、表面形状を誤差0.1mm以下の高精度で計測できること、従来のPAUTでは底面エコーすら確認できなった対象において、底面エコーとSDHを明瞭に映像化できることを確認した。また、周方向探傷が困難な管台溶接部を模擬した試験体を用い、周方向探傷でスリットが検出できることを確認した。 今後は、SCC(Stress Corrosion Cracking)を用いて探傷性能を検証していくほか、実機形状およびRPV相当の厚板対象での性能確認を行い、実機適用性の検証をさらに進めていく。 なお、本技術は一般財団法人発電設備技術検査協会殿へ確認試験を依頼し、曲率半径R60以上の対象に問題なく対応できることをご確認いただいている。 参考文献 [1] 森忠夫、柏谷英夫、内田邦治、古村一朗、長井敏:電子走査形超音波探傷技術および装置、日本機械学会誌、87(793)、1984、pp.1341-1346. [2] I. Komura, S. Nagai, H. Kashiwaya, T. Mori and M. Arii ; Improve Ultrasonic Testing by Phased Array Technique and its Application, Nuclear Engineering and Design, 87, 1985, pp.185-191 [3] I. Komura, S. Nagai and J. Takabayashi ; Water gap phased array UT Technique for Inspection of CRD Housing/Stub Tube Weldment, Proc. of 14th Int. Conf. on NDE in Nuclear Industry, 1996, pp.305-310. [4] S. Mahaut, O. Roy, C. Beroni and B. Rotter; Development of Phased Array Techniques to Improve Characterization of Defect Located in a Component of Complex Geometry, Ultrasonics 40, 2002, pp.165-169. [5] O. Roy, S. Mahaut, and O. Casula ; Control of the Ultrasonic Beam Transmitted Through an Irregular Profile using a Smart Flexible Transducer: Modelling and Application, Ultrasonics 40, 2002, pp.243-246. [6] R. Long and P. Cawley ; Phased Array Inspection of Irregular Surfaces, Review of Progress in Quantitative Nondestructive Evaluation ,25, 2006, pp. 814-821. [7] J. Russell, R. Long, and P. Cawley; Development of a Membrane Coupled Conformable Phased Array Inspection Capability, Review of Progress in Quantitative Nondestructive Evaluation ,29, 2010, pp. 831-838. [8] 三浦崇広、山本摂、落合誠、三橋忠浩、安達弘幸、山本智、末園暢一:曲面を持つ配管ノズル部から探傷可能なフェーズドアレイ超音波探傷技術の開発、日本保全学会第7回学術講演会要旨集、2010、pp.50-54 [9] 山本摂、千星淳、落合誠、三橋忠浩、山本智:曲面形状に対応するビーム制御方式フェーズドアレイ超音波探傷技術、(一社)日本非破壊検査協会 平成24年度春季講演大会講演概要集、2012、pp.19-22 [10] 山本摂、千星淳、三浦崇広、三橋忠浩、落合誠:複雑形状対象を検査可能なビーム制御方式フェーズドアレイ超音波探傷システム、非破壊検査、62(2) 2013、pp.95-101. (平成25年6月21日) “ “曲面形状に対応するビーム制御方式フェーズドアレイ 超音波探傷技術の検証および試験適用 “ “山本 摂,Setsu YAMAMOTO,三浦 崇広,Takahiro MIURA,千星 淳,Jun SEMBOSHI,落合 誠,Makoto OCHIAI,三橋 忠浩,Tadahiro MITSUHASHI,安達 弘幸,Hiroyuki ADACHI,山本 智,Satoshi YAMAMOTO“ “曲面形状に対応するビーム制御方式フェーズドアレイ 超音波探傷技術の検証および試験適用 “ “山本 摂,Setsu YAMAMOTO,三浦 崇広,Takahiro MIURA,千星 淳,Jun SEMBOSHI,落合 誠,Makoto OCHIAI,三橋 忠浩,Tadahiro MITSUHASHI,安達 弘幸,Hiroyuki ADACHI,山本 智,Satoshi YAMAMOTO
著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)