鋳造ステンレス鋼配管溶接部における軸方向き裂の 大型振動子探触子による超音波探傷試験とシミュレーション解析
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カテゴリ: 第10回
1.緒言
加圧水型原子力発電所の1次冷却材管の材料である鋳造ステンレス鋼は,結晶粒が粗大で材料に異方性があることから,超音波探傷試験を行う場合,材料中を伝播する超音波の散乱や曲がりを引き起こす.当社で開発した送信用と受信用に別個の大型振動子を持つ超音波探触子を用いて,これまでは鋳造ステンレス鋼配管の周方向き裂に対する軸方向探傷試験の検討を行ってきた.現在は,鋳造ステンレス鋼配管溶接部模擬試験体における軸方向疲労き裂に対して,周方向探傷による超音波探傷試験により検査性を確認している.また,超音波伝播シミュレーションコードを用い,試験体を超音波が伝播する挙動を明らかにすることで探傷条件の最適化を目指している.
2.試験方法
超音波探傷試験を実施した試験体は図1のように遠心鋳造管と鍛造ステンレス鋼管を突合せ溶接したものに,配管内面の溶接部を中心に溶接線と直交するように軸方向疲労き裂を導入し,き裂を目標深さ4mmから17mmまで進展させながら探傷試験を実施した.軸方向のき裂を配管外面から検出するため,図2に示す送信用と受信用の大型球面振動子をウェッジ(くさび)に取
付けた送受信分割型斜角探触子である大型集束2振動子探触子を用い,水を接触媒質としてXYスキャナにより配管外面を周方向および軸方向に探触子を走査させ自動探傷を行った.
大型集束2振動子探触子については,超音波音場解析ソフトを用いて,振動子曲率,超音波入射角(屈折角),屋根角(送受信振動子の傾き)を組み合わせて,き裂に超音波が集束するよう設定し,試験を行った.
3.試験結果
深さ4mmを目標に導入した疲労き裂の探傷試験結果の例を図3に示す.深さ4mm以上の疲労き裂のコーナーエコーの検出が可能で,き裂が大きくなるとともに検出性が向上することを確認した.ただし,き裂先端からの端部エコーについては特定することは難しく,深さサイジングは困難であった.
4.超音波伝播シミュレーションの解析モデルと解析条件
大型集束2振動子探触子による軸方向欠陥の配管外面からの周方向探傷における基本特性を評価するため,有限要素法による超音波伝播シミュレーションコードComWAVEを使用して解析を行った.解析に当たっては,試験体を用いた測定試験の条件を模擬するため,探触子の仕様である振動子曲率,超音波入射角,屋根角の異なる条件について,異なるき裂深さの模擬欠陥を組み合わせて解析モデルとして設定し,以下の検討を行った.
(1) 超音波ビームの検討 等方均質材として材料中における超音波の強度分布を求めた
(2) 欠陥コーナーエコー,端部エコーの検討 欠陥位置に対して探触子を前後に走査させたときの信号波形から探傷断面のエコーを求め,コーナーエコー,端部エコーの状況を求めた
5.解析結果
欠陥が小さい場合には,コーナーエコーと端部エコーが明瞭に分離しないが,深い欠陥に対応する探触子条件では,図5に示すようにコーナーエコーから分離して端部エコーを明瞭に識
別することができた.また探傷条件による超音波ビーム形状を可視化することができ,コーナーや端部のエコーをより確実に捉える探傷条件の検討ができるものであることを確認した.
送信振動子受信振動子静鋳造鋼欠陥遠心鋳造鋼溶接部receiving transducertransmitting transducerstatic casting steelcentrifugal casting steelweldcrack 送信振動子受信振動子静鋳造鋼欠陥遠心鋳造鋼溶接部receiving transducertransmitting transducerstatic casting steelcentrifugal casting steelweldcrack
Fig. 4 Example of simulation model
corner echotip echo
Fig. 5 Example of analysis report
6.考察
試験体を用いた測定試験ではき裂検出は可能であったが,明確な端部エコーは認められなかった.実材料での超音波探傷試験では,溶接や鋳造による超音波の散乱や曲がりの影響を大きく受けると考えられるが,超音波伝播シミュレーション解析結果では深い欠陥において端部エコーが識別できたことから,シミュレーション結果に基づき適切な探触子を使用すると,端部エコーを識別できる可能性もあると考えられる.
7.結言
大型集束2振動子探触子を用いた超音波探傷試験により,1次冷却材管溶接部の軸方向の評価不要欠陥サイズの疲労き裂でも検出可能であることを確認した.また超音波伝播シミュレーション解析により,最適な探傷条件の検討,選定が可能となった.また,超音波探傷試験では明瞭に識別できなかった端部エコーについては,超音波伝播シミュレーション解析では識別できることから,探傷試験のデータを詳細に確認することで深さサイジングの可能性があることが分かった.
“ “鋳造ステンレス鋼配管溶接部における軸方向き裂の 大型振動子探触子による超音波探傷試験とシミュレーション解析 “ “西川 嘉人,Yoshito NISHIKAWA,石田 仁志,Hitoshi ISHIDA“ “鋳造ステンレス鋼配管溶接部における軸方向き裂の 大型振動子探触子による超音波探傷試験とシミュレーション解析 “ “西川 嘉人,Yoshito NISHIKAWA,石田 仁志,Hitoshi ISHIDA
加圧水型原子力発電所の1次冷却材管の材料である鋳造ステンレス鋼は,結晶粒が粗大で材料に異方性があることから,超音波探傷試験を行う場合,材料中を伝播する超音波の散乱や曲がりを引き起こす.当社で開発した送信用と受信用に別個の大型振動子を持つ超音波探触子を用いて,これまでは鋳造ステンレス鋼配管の周方向き裂に対する軸方向探傷試験の検討を行ってきた.現在は,鋳造ステンレス鋼配管溶接部模擬試験体における軸方向疲労き裂に対して,周方向探傷による超音波探傷試験により検査性を確認している.また,超音波伝播シミュレーションコードを用い,試験体を超音波が伝播する挙動を明らかにすることで探傷条件の最適化を目指している.
2.試験方法
超音波探傷試験を実施した試験体は図1のように遠心鋳造管と鍛造ステンレス鋼管を突合せ溶接したものに,配管内面の溶接部を中心に溶接線と直交するように軸方向疲労き裂を導入し,き裂を目標深さ4mmから17mmまで進展させながら探傷試験を実施した.軸方向のき裂を配管外面から検出するため,図2に示す送信用と受信用の大型球面振動子をウェッジ(くさび)に取
付けた送受信分割型斜角探触子である大型集束2振動子探触子を用い,水を接触媒質としてXYスキャナにより配管外面を周方向および軸方向に探触子を走査させ自動探傷を行った.
大型集束2振動子探触子については,超音波音場解析ソフトを用いて,振動子曲率,超音波入射角(屈折角),屋根角(送受信振動子の傾き)を組み合わせて,き裂に超音波が集束するよう設定し,試験を行った.
3.試験結果
深さ4mmを目標に導入した疲労き裂の探傷試験結果の例を図3に示す.深さ4mm以上の疲労き裂のコーナーエコーの検出が可能で,き裂が大きくなるとともに検出性が向上することを確認した.ただし,き裂先端からの端部エコーについては特定することは難しく,深さサイジングは困難であった.
4.超音波伝播シミュレーションの解析モデルと解析条件
大型集束2振動子探触子による軸方向欠陥の配管外面からの周方向探傷における基本特性を評価するため,有限要素法による超音波伝播シミュレーションコードComWAVEを使用して解析を行った.解析に当たっては,試験体を用いた測定試験の条件を模擬するため,探触子の仕様である振動子曲率,超音波入射角,屋根角の異なる条件について,異なるき裂深さの模擬欠陥を組み合わせて解析モデルとして設定し,以下の検討を行った.
(1) 超音波ビームの検討 等方均質材として材料中における超音波の強度分布を求めた
(2) 欠陥コーナーエコー,端部エコーの検討 欠陥位置に対して探触子を前後に走査させたときの信号波形から探傷断面のエコーを求め,コーナーエコー,端部エコーの状況を求めた
5.解析結果
欠陥が小さい場合には,コーナーエコーと端部エコーが明瞭に分離しないが,深い欠陥に対応する探触子条件では,図5に示すようにコーナーエコーから分離して端部エコーを明瞭に識
別することができた.また探傷条件による超音波ビーム形状を可視化することができ,コーナーや端部のエコーをより確実に捉える探傷条件の検討ができるものであることを確認した.
送信振動子受信振動子静鋳造鋼欠陥遠心鋳造鋼溶接部receiving transducertransmitting transducerstatic casting steelcentrifugal casting steelweldcrack 送信振動子受信振動子静鋳造鋼欠陥遠心鋳造鋼溶接部receiving transducertransmitting transducerstatic casting steelcentrifugal casting steelweldcrack
Fig. 4 Example of simulation model
corner echotip echo
Fig. 5 Example of analysis report
6.考察
試験体を用いた測定試験ではき裂検出は可能であったが,明確な端部エコーは認められなかった.実材料での超音波探傷試験では,溶接や鋳造による超音波の散乱や曲がりの影響を大きく受けると考えられるが,超音波伝播シミュレーション解析結果では深い欠陥において端部エコーが識別できたことから,シミュレーション結果に基づき適切な探触子を使用すると,端部エコーを識別できる可能性もあると考えられる.
7.結言
大型集束2振動子探触子を用いた超音波探傷試験により,1次冷却材管溶接部の軸方向の評価不要欠陥サイズの疲労き裂でも検出可能であることを確認した.また超音波伝播シミュレーション解析により,最適な探傷条件の検討,選定が可能となった.また,超音波探傷試験では明瞭に識別できなかった端部エコーについては,超音波伝播シミュレーション解析では識別できることから,探傷試験のデータを詳細に確認することで深さサイジングの可能性があることが分かった.
“ “鋳造ステンレス鋼配管溶接部における軸方向き裂の 大型振動子探触子による超音波探傷試験とシミュレーション解析 “ “西川 嘉人,Yoshito NISHIKAWA,石田 仁志,Hitoshi ISHIDA“ “鋳造ステンレス鋼配管溶接部における軸方向き裂の 大型振動子探触子による超音波探傷試験とシミュレーション解析 “ “西川 嘉人,Yoshito NISHIKAWA,石田 仁志,Hitoshi ISHIDA