高温用薄膜UTセンサを用いた 高精度な厚さ測定・減肉傾向監視技術の開発 Development of thickness measurement and thickness trend monitoring

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カテゴリ: 第10回
1.緒言
原子力・火力発電プラントにおいて,配管の流れ加速型腐食及び液滴衝撃エロージョンによる減肉現象は良く知られおり、設備安全性の一層の向上のためには厚さ測定精度・減肉傾向監視技術の向上は重要である。 原子力発電プラントにおいてはJSME S NG1「発電用原子力設備規格 加圧水型原子力発電所 配管減肉管理に関する技術規格」に基づき定期検査期間中に膨大な箇所の厚さ測定が手動により実施されているが、以下に示す懸念を有する。 ① 測定の都度、測定位置やセンサと測定対象との接触状態に起因する測定値のばらつきが生じるおそれがある。 ② 測定の都度、保温材の取外し/復旧や足場の設置/解体等の付帯作業が必要である。 ③ 定期検査期間中での測定であり、系統運転中の連続的な減肉傾向監視は困難である。 ④ 小口径T継手クロッチ部やエルボ腹部等の形状変化部は曲率が大きく、既存のセンサでは安定した測定が困難である。 これらの懸念を解決すべく、薄膜状で柔軟性に富み、高温耐久性に優れた高温用薄膜UTセンサを開発し、高精度な厚さ測定・系統運転中の減肉傾向監視を可能とした。 本論文では、高温用薄膜UTセンサ及び計測システム概要、性能評価結果及び実機適用法について紹介する。
2.高温用薄膜UTセンサ、測定システム概要
2.1 高温用薄膜UTセンサの特徴 高温用薄膜UTセンサの構成をFig.1に示す。 高温用薄膜UTセンサは下部電極(SUS基板)、圧電素子膜(機能性セラミックス)、上部電極(銀ペースト)、信号線(耐熱ケーブル)により構成され、厚みは1.0mm以下であり、薄膜状で柔軟性に富むと共に高温耐久性を有する。 なお実機においては、Table1に示すように減肉事象が懸念される系統の温度環境に応じて、圧電素子膜としてキュリー温度の異なるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、BIT(チタン酸ビスマス)を選定することにより、幅広い系統に対する適用が可能となる。 ssIMG_5670Milling machinePulser/ReceiverAcquisition computerThin film UT sensorThickness from milling machine (mm)Thickness from UT sensor (mm) Fig.1 Composition of thin film UT sensor Table1 Feature of piezoceramic Type Curie temperature Applicable temperature PZT approx.360℃ ~ 200℃ BIT approx.500℃ ~ 300℃ 2.2 高温用薄膜UTセンサ測定システムの特徴 Fig.2に高温用薄膜UTセンサの設置、測定イメージを示す。高温用薄膜UTセンサは足場設置、保温材取外し、センサ設置箇所の磨き、接着剤塗布、センサ設置、接着剤硬化(加熱・冷却)及び保温材復旧、足場解体の工程を経て保温材下に常設される(所要時間380分/40ch、Fig.2-①)。また各センサは信号線(耐熱ケーブル)を集約する保温材外側の中継ボックスに接続される。定期的な肉厚測定においては、中継ボックス(Fig.2-②)を介して携帯型測定器が接続される(Fig.2-③)。携帯型測定器は複数チャンネル切替機構を有しており、 ケーブルの繋ぎ換え等の動作を必要とせずに短時間での同時測定(40ch同時測定)が可能である。また減肉傾向監視においては、PCとパルサレシーバ等で構成されたデータ集約ステーションを、中継ボックスを介して常時接続し(Fig.2-④)、任意の間隔(最短1分間隔)での厚さ測定値の取得(64ch同時測定)が可能である。なお本データ集約ステーションは、超音波波形のアベレージング処理や音速補正、センサ接続不良時のアラーム発信機能等も有しており、高機能な減肉傾向監視が可能である。 Fig.2 Thickness monitoring system 3.高温用薄膜UTセンサの性能検証 3.1 厚さ測定精度検証 3.1.1 平板における厚さ測定精度検証 肉厚測定精度を確認するため、PZTを圧電素子として適用した高温用薄膜UTセンサを用いて減肉を模擬して板厚を連続的に変化させた試験体の厚さ測定を実施した。高温用薄膜UTセンサを金属平板に固定し、センサの反対側を約10.mずつ機械加工しながら、測定値と機械加工値の比較を実施した。その結果、機械加工値と測定値の平均二乗誤差は試験片約10mmに対して2.3.mであり、高精度な肉厚測定精度を有することを確認した。 Fig.3 Arrangement of test regarding measurement accuracy Fig.4 Result of test regarding measurement accuracy for plate RoomTemperature#1#10200℃#1#10CRT80%Gain37.7dBt=4.99mmCRT80%Gain39.7dBCRT80%Gain45.2dBCRT80%Gain45.3dBt=4.96mmt=5.05mmt=5.05mmRoomTemperature#1#10300℃#1#10CRT80%Gain38.0dBt=5.12mmCRT80%Gain38.4dBCRT80%Gain45.5dBCRT80%Gain44.1dBt=5.12mmt=5.10mmt=5.10mm3.1.2 形状変化部における厚さ測定精度検証 形状変化部における厚さ測定精度を確認するため、20A以上のT継手クロッチ部とエルボ腹部に対する手動による肉厚測定を、PZTを圧電素子として適用した高温用薄膜UTセンサと特殊用途として市販されているペンシル型UTセンサ(振動子寸法φ3mm)にて実施し、測定値の比較を実施した。Fig.5に示すように、両センサによる測定値の差は僅かであり(最大で0.1mm以下)、 高温用薄膜UTセンサが市販UTセンサと同等の厚さ測定精度を有することを確認した。なおペンシル型UTセンサでは点接触となり安定した測定が困難であるが、高温用薄膜UTセンサは曲率に倣うことから面接触が可能となり安定した測定が可能であった。 Table2 Specification of test pipe type A B Sch A Elbow 202019/03/04S80 B T 202019/03/04S40 C T 251S40 D T 202019/03/04S80 E T 251S80 F T 502S160 Fig.5 Result of test regarding measurement accuracy for complex shaped parts 3.2 高温耐久性検証 高温用薄膜UTセンサが高温耐久性を有することを確認するため、PZT、BITを圧電素子として適用したセンサを用いた熱サイクル試験及び連続加熱試験を実施した。 熱サイクル試験は、各々室温⇔200℃、室温⇔300℃の条件にて10サイクル実施した。Fig.6-1に示すように、熱膨張差に起因するセンサの剥離などの兆候は見られず、試験終了後も1サイクル目と同等の肉厚測定が可能であった。 連続加熱試験では、各々200℃、300℃にて実施し、Fig.6-2に示すように波形の乱れ、有意なノイズ及び感度の急激な減衰などの劣化傾向は見られず、1年以上安定して厚さ測定可能なことが確認できた。 これらの結果より高温用薄膜UTセンサは実機を模擬した高温環境及び温度変動に対して充分に耐久性を有することを確認しており、実機に適用可能であると考える。 Fig.6-1 UT waveform of cycle heating test after 35 daysafter 367 daysafter 250 daysCRT80%Gain32.2dBCRT80%Gain33.1dBCRT80%Gain35.2dBt=5.68mmt=5.68mmt=5.65mm200℃after 192 daysafter 537daysafter 409 daysCRT80%Gain47.7dBCRT80%Gain46.2dBCRT80%Gain45.8dB300℃t=5.50mmt=5.50mmt=5.50mmFig.6-2 UT waveform of continuous heating test 3.3 寿命評価 高温用薄膜UTセンサの寿命を評価するため、PZTを圧電素子として適用したセンサを用いた寿命評価を実施した。寿命はセンサの脱分極に伴う感度の低下量を基に評価し、モードとしては熱サイクルに伴う脱分極、通電に伴う脱分極及び時間経過に伴う脱分極を選定した。 熱サイクルに伴う脱分極及び測定時の通電に伴う脱分極に関しては、熱サイクル試験及び励起試験において10年間に相当する負荷を短期間に付与し、感度の低下を測定した。一方、時間経過に伴う脱分極に関しては、連続加熱試験において10年間に相当する負荷を短期間で付与することは困難であるため、加速寿命評価を実施した。 これらの結果、感度に一定の低下はあるものの、10年間の継続使用が可能であることを確認した。これにより、実機環境下において約10年間の長期継続使用の目処を得た。 Table3 Outline of lifetime assessment 項目 概要 熱サイクル試験 10年間の運転における温度変動に相当する 負荷を短期間に付与し、感度の低下を測定する。 励起試験 10年間の厚さ測定回数に相当する負荷を短期間に 付与し、感度の低下を測定する。 加速寿命評価 運転温度環境より厳しい負荷を付与し、劣化要因を加速させ、10年継続使用による感度の低下を推定する。 4.高温用薄膜UTセンサの実機適用法 4.1 定点厚さ測定の代替 JSME S NG1「発電用原子力設備規格 加圧水型原子力発電所 配管減肉管理に関する技術規格」においては、余寿命評価に基づいた適切な間隔での手動による定点厚さ測定を規定しているが、高温用薄膜UTセンサを常設することで現行の手動による厚さ測定の代替が可能となる。これにより、手動測定の課題である測定位置ずれやセンサと測定対象との接触状態に起因する測定値のばらつきの懸念を払拭することができ、厚さ測定の精度が向上する。加えて常設により保温材の取外し/復旧や足場の設置/解体等の付帯作業が不要になることによるコストダウン、工程短縮が図れる。 実機適用に際しては、JIS Z 2355「超音波パルス反射法による厚さ測定方法」に規定される測定前後の校正が課題となる。本センサが設置時に測定前の校正を行っていること、高温環境及び温度変動に対して充分な耐久性を有しており、充分な測定精度を確保できること、測定位置及び押付け状態が不変であることから、測定後の校正は基本的に不要であると考えているが、規格適合性に関しては今後検討していく必要がある。今後実証試験結果の公知化、実機配管における試行を経て、規格への反映及び定期事業者検査への適用を目指す予定である。 本運用では、Fig.7に示すように、JSME S NG1「発電用原子力設備規格 加圧水型原子力発電所 配管減肉管理に関する技術規格」にて規定されている余寿命評価に基づいた適切な間隔での定期検査期間中の定点厚さ測定に加え、それ以外の定期検査期間中及び運転中での厚さ測定が任意に可能であり測定頻度を上げることができる。そのため、従来よりも高精度な減肉進展予測が可能となり、より適切な配管取替え時期を選択可能となる。 \\172.22.196.42\user\MHI\山本\photo\121011\IMG_0768.JPG Fig.7 Optimization of pipe replacement cycle 4.2 減肉傾向監視による水質/運転条件の最適化 近年水質/運転条件改善による流れ加速型腐食の減肉現象抑制が進められている。高温用薄膜UTセンサは運転中の高温環境下での連続的な減肉傾向監視が可能であるため、Fig.8に示すように水質/運転条件を途中で変化させた場合における減肉率の変化が検知可能である。これにより、減肉抑制の為の水質/運転条件の最適化が可能となると考えられる。 Fig.8 Optimization of operation condition 4.3 形状変化部への適用 JSME S NG1「発電用原子力設備規格 加圧水型原子力発電所 配管減肉管理に関する技術規格」においては、厚さ測定値が判定基準厚さtmを下回った場合、測定点の周辺の詳細測定を行い、tmを下回る範囲を把握し且つ最小の厚さを特定することを規定している。 高温用薄膜UTセンサは、3.1.2に示すように小口径T継手クロッチ部やエルボ腹部等の形状変化部に対して、既存のセンサと同等の測定精度を有し且つ安定した測定が可能である。そのため形状変化部周辺における減肉に対する詳細測定、減肉管理が可能となると考えられる。 Fig.9 T-joint test piece and waveform 5.結論 現行の手動による厚さ測定の課題を解決すべく、薄膜状で柔軟性に富み高温耐久性に優れた高温用薄膜UTセンサを開発した。高温用薄膜UTセンサの平板及び形状変化部に対する厚さ測定精度検証を実施し、高精度且つ形状変化部においても安定した測定が可能であることを確認した。また高温耐久性検証として熱サイクル試験及び連続加熱試験を実施し、実機を模擬した高温環境及び温度変動に対して充分に耐久性を有することを確認した。さらに寿命評価を実施し、実機環境下における長期継続使用の目処を得た。上記検証結果を踏まえ、高温用薄膜UTセンサの実機適用の目処を得た。今後は実証試験結果の公知化、実機配管における試行を経て、規格への反映及び定期事業者検査への適用を目指す予定である。 参考文献 [1] 小林高揚、上元章弘、川浪精一、他『高温耐熱薄膜状UTセンサーによる減肉監視技術高度化の可能性』日本機械学会 配管減肉規格委員会 配管減肉管理高度化に向けた最新技術知見の適用化のための調査研究分科会報告書(2011年度) [2] M. Kobayashi, Cheng-Kuei Jen, Daniel Levesque, “Flexible Ultrasonic Transducers”, IEEE Transactions on ultrasonics, and frequency control, Vol.52, No.8, August 2006[3] K. T. Wu, C. K. Jen, M. Kobayashi, A. Blouin, ““Integrated Piezoelectric Ultrasonic Receivers for Laser Ultrasound in Non-destructive Testing of Metals““, Journal of Nondestructive Evaluation (2011) 30:1-8 “ “高温用薄膜UTセンサを用いた 高精度な厚さ測定・減肉傾向監視技術の開発 Development of thickness measurement and thickness trend monitoring “ “藤田 直樹,Naoki FUJITA,関 伊佐夫,Isao SEKI,松浦 貴之,Takayuki MATSUURA,山本 裕子,Yuko YAMAMOTO,黒川 政秋,Masaaki KUROKAWA“ “高温用薄膜UTセンサを用いた 高精度な厚さ測定・減肉傾向監視技術の開発 Development of thickness measurement and thickness trend monitoring “ “藤田 直樹,Naoki FUJITA,関 伊佐夫,Isao SEKI,松浦 貴之,Takayuki MATSUURA,山本 裕子,Yuko YAMAMOTO,黒川 政秋,Masaaki KUROKAWA
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