ステンレス鋼溶接金属を透過した超音波探傷試験
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カテゴリ: 第10回
1.緒言
原子力発電設備の供用期間中検査(ISI:In-Service Inspection)で要求される体積検査(UT:Ultrasonic Testing)対象箇所において、検査が困難な範囲(探傷不可範囲)にき裂が確認されたことから、2008年、当時の原子力安全・保安院から「発電用原子力設備における破壊を引き起こすき裂その他の欠陥の解釈について(内規)の制定について」(平成20・07・04原院第1号)が発行され、探傷不可範囲を低減することが要求された[1]。探傷不可範囲の例をFig.1に示す。図に示す様に溶接中心の右側から超音波を入射した場合、表面形状が曲率を有するために超音波探触子の走査範囲が制限され、ハッチング範囲に超音波を入射させることができず探傷不可範囲が生じる。 この探傷不可範囲の解消策の一つとして、溶接部を透過させた超音波を用いて探傷を行う方法(Fig.1において溶接中心の左側から超音波を入射する方法)がある。しかしステンレス鋼溶接部の場合、ISIで一般的に用いられる横波斜角法では溶接部の柱状晶組織の影響を受けるため検出性に課題があることから、JEAC4207-2008「軽水型原子力発電所用機器の供用中期間検査における超音波探傷試験規程」では、溶接部を透過した探傷を行う範囲は縦波を適用することが望ましいとされている。しかし、実際の探傷においては、予め欠陥検出精度および欠陥寸法測定精度の確認が必要である[1][2]。 このため、BWR電力各社とプラントメーカーは共同研究で「ステンレス鋼溶接金属を透過したUT確認試験研究」を2009年度から2012年度にかけて実施し、欠陥検出精度および寸法測定精度を確認した。本稿では、その試験結果について報告する。 PipeProbeInspectionvolume:UndetectablevolumeWeldcenterTee,valve,etc.ThroughbeamFig.1 Example of undetectable volume
2.試験体(継手の種類)
本研究で用いた試験体は、実機における継手タイプにおいて代表的な寸法(150A×10t,350A×25t,600A×35t)および材質とし、基礎試験にはノッチ(放電加工)を付与した試験体を、実証試験には応力腐食割れを付与した試験体を用いた。継手タイプ一覧をTable1に、探傷の概要をFig.2に示す。付与したノッチおよび応力腐食割れは、Base metal-2の熱影響部(type07のみバタリング部)の複数位置に、溶接部に対し平行方向に長さを持つ周方向割れとした。なおtype06は、バタリング部へ溶接部に対し直交方向に長さを持つ軸方向割れを付与した。 ノッチおよび応力腐食割れの寸法は、深さは板厚の15%~65%の範囲とし、ノッチの長さはアスペクト比を約0.3とした。 Table1 List of weld joint type TypeBase metal-1Weld metalBase metal-201SUSSUSSUS02SUSSUSSCS03SCSSUSSUS04CSBu+SUSSCS05CSBu+SUS+BuCS06,07CSBu+NiSUSDirection of ultrasonic propagationSUS:Stainless steel SCS:Stainless cast steelCS:Carbon steel(or low alloy steel)Bu:Stainless steel buttering Ni:Nickel alloyProbeWeldcenterFlaw(notchor SCC crack)Basemetal-1Basemetal-2Fig.2 Example of scan 3.試験結果 基礎試験および実証試験について述べる。なお、継手type01の結果については既に報告済のため割愛する[3]。 3.1 基礎試験(ノッチ、オープン試験) 各継手タイプにおいて、欠陥検出および寸法測定は縦波を用いた固定角斜角法(従来UT)およびフェーズドアレイ技術を用いて行った。主な試験条件をTable2に示す。 Table2 Examination information Frequency 1~5MHz Beam angle(conventional) LA45°,LA60° Scanning pattern(phased array) Sectorial scan Target for calibration Notch(depth=1mm) Scanning methods AUT or semi-AUT AUT:Automatic ultrasonic testing 3.1.1 検出性 各継手タイプにおける検出率(欠陥エコーの識別し易さを定量的に評価したもの。POD:Probability of detection)をFig.3,4に示す。この結果より、全体的に固定角よりもフェーズドアレイ技術による検出率が高いことがわかる。これは、単一屈折角による評価よりも複数の屈折角による評価が有効であることを示している。特にステンレス鋳鋼を透過する場合、鋳造組織の影響による超音波ビームの曲がり、散乱および減衰等が著しいため、複数の屈折角による評価が有効である。 なお、ここでは結果を割愛しているが、ステンレス鋳鋼を透過する場合を除き、150A配管のような薄肉では溶接部の伝搬距離が短いことから、縦波に加えて横波も検出に有効であることを確認している。 (a) type02 (SUS→SUS→SCS) (b) type03 (SCS→SUS→SUS) Fig.3 Probability of detection (type02,03) (a) type04 (CS→Bu+SUS→SCS) (b) type05 (CS→Bu+SUS+Bu→CS) (c) type07 (CS→Bu+Ni→SUS) Fig.4 Probability of flaw detection (type04,05,07) 3.1.2 長さ測定 測定結果の代表例として、継手type02におけるフェーズドアレイ技術を用いた長さの測定値をFig.5 に示す。長さは6dBドロップ指示長さ、12dBドロップ指示長さおよび消失指示長さを求めた。この結果から、消失指示長さが最も保守的に評価できることを確認した。その他の継手タイプにおいても同様の傾向であった。なお、固定角探傷およびフェーズドアレイ技術の間で測定精度に大きな差はなかった。この結果は継手type01と同様である[3]。 Fig. 5 Flaw length measurements (type02, phased array) 3.1.3 深さ測定 測定結果の代表例として、継手type02における深さの測定値をFig.6 に示す。深さは端部エコー法を用いて求めた。従来UTとフェーズドアレイ技術の間で測定精度に大きな差はなかった。ただし、フェーズドアレイ技術に比べ、従来UTは測定率(全欠陥数に対し深さの測定が可能であった割合)が低い傾向にあった。これより、深さ測定においても検出性と同様、複数の屈折角による評価が有効である。 Fig. 6 Flaw depth measurements (type02) 3.2 実証試験(応力腐食割れ、ブラインド試験) 実証試験は報告済の継手type01に加え、継手type06にて応力腐食割れ(軸方向割れ)を付与した試験体を用いて行った。継手type06における探傷の概要をFig.7に示す。試験は信頼性確保のため第三者機関である(一財)発電設備技術検査協会構内において、同協会管理の下、実施した。 探傷結果の画像例をFig.8に示す。結果は、深さが概ね15~20%t以上の応力腐食割れが検出可能であった。この結果は、同種継手の実証事業であるNNW(ニッケル基合金溶接部の非破壊検査技術実証)[4]と同等であった。 ProbeFlawButteringNi-alloyFlawButteringFig.7 Example of scan for vertical flaw (type06) FlawindicationSpecimenODIDProbeFig.8 Example of phased array view 4.実機適用 本研究成果を踏まえ、中国電力㈱島根原子力発電所1,2号機のステンレス鋼配管の溶接部(継手type01)探傷不可範囲に対し、実証された試験方法を適用し、定期事業者検査にて当該継手は健全であることを確認した。 5.結言 基礎試験および実証試験を通して、ステンレス鋼溶接金属を透過した超音波探傷試験による欠陥検出精度および寸法測定精度を確認した。探傷には縦波を用いた複数の屈折角による評価を行うことが有効であることを確認した。 また、本研究成果を踏まえ、実機プラントの探傷不可範囲を有する継手を検査し、当該継手の健全性を確認した。 今後、本研究成果はJEAC4207へ反映していく予定である。 参考文献 [1] 原子力安全・保安院、”発電用原子力設備における破壊を引き起こすき裂その他の欠陥の解釈について(内規)”、平成20・07・04原院第1号 [2] (一社)日本電気協会原子力規格委員会、”軽水型原子力発電所用機器の供用期間中検査における超音波探傷試験規程(JEAC4207-2008)”、2008、2010項 [3] 日本保全学会、”保全学 Vol. 9 No.3 ”、2010、 「ステンレス鋼溶接金属を透過したUT(検出)確認試験研究の成果」 [4] (独)原子力安全基盤機構、”ニッケル基合金溶接部の非破壊検査技術実証に関する事業報告書”、2009、pp.630-666 “ “ステンレス鋼溶接金属を透過した超音波探傷試験 “ “中川 純二,Junji NAKAGAWA,土屋 直柔,Naonari TSUCHIYA,菅原 良昌,Yoshimasa SUGAWARA,山田 浩二,Kouji YAMADA,西野 輝之,Teruyuki NISHINO,寺門 剛,Takeshi TERAKADO,木村 陸,Atsushi KIMURA,江原 和也,Kazuya EHARA,新川 嘉英,Yoshihide SHINKAWA,松田 誠司,Seiji MATSUDA“ “ステンレス鋼溶接金属を透過した超音波探傷試験 “ “中川 純二,Junji NAKAGAWA,土屋 直柔,Naonari TSUCHIYA,菅原 良昌,Yoshimasa SUGAWARA,山田 浩二,Kouji YAMADA,西野 輝之,Teruyuki NISHINO,寺門 剛,Takeshi TERAKADO,木村 陸,Atsushi KIMURA,江原 和也,Kazuya EHARA,新川 嘉英,Yoshihide SHINKAWA,松田 誠司,Seiji MATSUDA
原子力発電設備の供用期間中検査(ISI:In-Service Inspection)で要求される体積検査(UT:Ultrasonic Testing)対象箇所において、検査が困難な範囲(探傷不可範囲)にき裂が確認されたことから、2008年、当時の原子力安全・保安院から「発電用原子力設備における破壊を引き起こすき裂その他の欠陥の解釈について(内規)の制定について」(平成20・07・04原院第1号)が発行され、探傷不可範囲を低減することが要求された[1]。探傷不可範囲の例をFig.1に示す。図に示す様に溶接中心の右側から超音波を入射した場合、表面形状が曲率を有するために超音波探触子の走査範囲が制限され、ハッチング範囲に超音波を入射させることができず探傷不可範囲が生じる。 この探傷不可範囲の解消策の一つとして、溶接部を透過させた超音波を用いて探傷を行う方法(Fig.1において溶接中心の左側から超音波を入射する方法)がある。しかしステンレス鋼溶接部の場合、ISIで一般的に用いられる横波斜角法では溶接部の柱状晶組織の影響を受けるため検出性に課題があることから、JEAC4207-2008「軽水型原子力発電所用機器の供用中期間検査における超音波探傷試験規程」では、溶接部を透過した探傷を行う範囲は縦波を適用することが望ましいとされている。しかし、実際の探傷においては、予め欠陥検出精度および欠陥寸法測定精度の確認が必要である[1][2]。 このため、BWR電力各社とプラントメーカーは共同研究で「ステンレス鋼溶接金属を透過したUT確認試験研究」を2009年度から2012年度にかけて実施し、欠陥検出精度および寸法測定精度を確認した。本稿では、その試験結果について報告する。 PipeProbeInspectionvolume:UndetectablevolumeWeldcenterTee,valve,etc.ThroughbeamFig.1 Example of undetectable volume
2.試験体(継手の種類)
本研究で用いた試験体は、実機における継手タイプにおいて代表的な寸法(150A×10t,350A×25t,600A×35t)および材質とし、基礎試験にはノッチ(放電加工)を付与した試験体を、実証試験には応力腐食割れを付与した試験体を用いた。継手タイプ一覧をTable1に、探傷の概要をFig.2に示す。付与したノッチおよび応力腐食割れは、Base metal-2の熱影響部(type07のみバタリング部)の複数位置に、溶接部に対し平行方向に長さを持つ周方向割れとした。なおtype06は、バタリング部へ溶接部に対し直交方向に長さを持つ軸方向割れを付与した。 ノッチおよび応力腐食割れの寸法は、深さは板厚の15%~65%の範囲とし、ノッチの長さはアスペクト比を約0.3とした。 Table1 List of weld joint type TypeBase metal-1Weld metalBase metal-201SUSSUSSUS02SUSSUSSCS03SCSSUSSUS04CSBu+SUSSCS05CSBu+SUS+BuCS06,07CSBu+NiSUSDirection of ultrasonic propagationSUS:Stainless steel SCS:Stainless cast steelCS:Carbon steel(or low alloy steel)Bu:Stainless steel buttering Ni:Nickel alloyProbeWeldcenterFlaw(notchor SCC crack)Basemetal-1Basemetal-2Fig.2 Example of scan 3.試験結果 基礎試験および実証試験について述べる。なお、継手type01の結果については既に報告済のため割愛する[3]。 3.1 基礎試験(ノッチ、オープン試験) 各継手タイプにおいて、欠陥検出および寸法測定は縦波を用いた固定角斜角法(従来UT)およびフェーズドアレイ技術を用いて行った。主な試験条件をTable2に示す。 Table2 Examination information Frequency 1~5MHz Beam angle(conventional) LA45°,LA60° Scanning pattern(phased array) Sectorial scan Target for calibration Notch(depth=1mm) Scanning methods AUT or semi-AUT AUT:Automatic ultrasonic testing 3.1.1 検出性 各継手タイプにおける検出率(欠陥エコーの識別し易さを定量的に評価したもの。POD:Probability of detection)をFig.3,4に示す。この結果より、全体的に固定角よりもフェーズドアレイ技術による検出率が高いことがわかる。これは、単一屈折角による評価よりも複数の屈折角による評価が有効であることを示している。特にステンレス鋳鋼を透過する場合、鋳造組織の影響による超音波ビームの曲がり、散乱および減衰等が著しいため、複数の屈折角による評価が有効である。 なお、ここでは結果を割愛しているが、ステンレス鋳鋼を透過する場合を除き、150A配管のような薄肉では溶接部の伝搬距離が短いことから、縦波に加えて横波も検出に有効であることを確認している。 (a) type02 (SUS→SUS→SCS) (b) type03 (SCS→SUS→SUS) Fig.3 Probability of detection (type02,03) (a) type04 (CS→Bu+SUS→SCS) (b) type05 (CS→Bu+SUS+Bu→CS) (c) type07 (CS→Bu+Ni→SUS) Fig.4 Probability of flaw detection (type04,05,07) 3.1.2 長さ測定 測定結果の代表例として、継手type02におけるフェーズドアレイ技術を用いた長さの測定値をFig.5 に示す。長さは6dBドロップ指示長さ、12dBドロップ指示長さおよび消失指示長さを求めた。この結果から、消失指示長さが最も保守的に評価できることを確認した。その他の継手タイプにおいても同様の傾向であった。なお、固定角探傷およびフェーズドアレイ技術の間で測定精度に大きな差はなかった。この結果は継手type01と同様である[3]。 Fig. 5 Flaw length measurements (type02, phased array) 3.1.3 深さ測定 測定結果の代表例として、継手type02における深さの測定値をFig.6 に示す。深さは端部エコー法を用いて求めた。従来UTとフェーズドアレイ技術の間で測定精度に大きな差はなかった。ただし、フェーズドアレイ技術に比べ、従来UTは測定率(全欠陥数に対し深さの測定が可能であった割合)が低い傾向にあった。これより、深さ測定においても検出性と同様、複数の屈折角による評価が有効である。 Fig. 6 Flaw depth measurements (type02) 3.2 実証試験(応力腐食割れ、ブラインド試験) 実証試験は報告済の継手type01に加え、継手type06にて応力腐食割れ(軸方向割れ)を付与した試験体を用いて行った。継手type06における探傷の概要をFig.7に示す。試験は信頼性確保のため第三者機関である(一財)発電設備技術検査協会構内において、同協会管理の下、実施した。 探傷結果の画像例をFig.8に示す。結果は、深さが概ね15~20%t以上の応力腐食割れが検出可能であった。この結果は、同種継手の実証事業であるNNW(ニッケル基合金溶接部の非破壊検査技術実証)[4]と同等であった。 ProbeFlawButteringNi-alloyFlawButteringFig.7 Example of scan for vertical flaw (type06) FlawindicationSpecimenODIDProbeFig.8 Example of phased array view 4.実機適用 本研究成果を踏まえ、中国電力㈱島根原子力発電所1,2号機のステンレス鋼配管の溶接部(継手type01)探傷不可範囲に対し、実証された試験方法を適用し、定期事業者検査にて当該継手は健全であることを確認した。 5.結言 基礎試験および実証試験を通して、ステンレス鋼溶接金属を透過した超音波探傷試験による欠陥検出精度および寸法測定精度を確認した。探傷には縦波を用いた複数の屈折角による評価を行うことが有効であることを確認した。 また、本研究成果を踏まえ、実機プラントの探傷不可範囲を有する継手を検査し、当該継手の健全性を確認した。 今後、本研究成果はJEAC4207へ反映していく予定である。 参考文献 [1] 原子力安全・保安院、”発電用原子力設備における破壊を引き起こすき裂その他の欠陥の解釈について(内規)”、平成20・07・04原院第1号 [2] (一社)日本電気協会原子力規格委員会、”軽水型原子力発電所用機器の供用期間中検査における超音波探傷試験規程(JEAC4207-2008)”、2008、2010項 [3] 日本保全学会、”保全学 Vol. 9 No.3 ”、2010、 「ステンレス鋼溶接金属を透過したUT(検出)確認試験研究の成果」 [4] (独)原子力安全基盤機構、”ニッケル基合金溶接部の非破壊検査技術実証に関する事業報告書”、2009、pp.630-666 “ “ステンレス鋼溶接金属を透過した超音波探傷試験 “ “中川 純二,Junji NAKAGAWA,土屋 直柔,Naonari TSUCHIYA,菅原 良昌,Yoshimasa SUGAWARA,山田 浩二,Kouji YAMADA,西野 輝之,Teruyuki NISHINO,寺門 剛,Takeshi TERAKADO,木村 陸,Atsushi KIMURA,江原 和也,Kazuya EHARA,新川 嘉英,Yoshihide SHINKAWA,松田 誠司,Seiji MATSUDA“ “ステンレス鋼溶接金属を透過した超音波探傷試験 “ “中川 純二,Junji NAKAGAWA,土屋 直柔,Naonari TSUCHIYA,菅原 良昌,Yoshimasa SUGAWARA,山田 浩二,Kouji YAMADA,西野 輝之,Teruyuki NISHINO,寺門 剛,Takeshi TERAKADO,木村 陸,Atsushi KIMURA,江原 和也,Kazuya EHARA,新川 嘉英,Yoshihide SHINKAWA,松田 誠司,Seiji MATSUDA