粒子法を用いた溶接施工時の 高精度温度場評価に向けた検討
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カテゴリ: 第10回
1.はじめに
溶接は接合部材を急加熱・急冷し,それにより材料を溶融・一体化させるプロセスであり,施工時の熱によって,熱変形や残留応力,相変態等の冶金的性質の変化など,継手性能の劣化に影響を与える様々の重要な物理現象が生じる1).そのため,溶接の適用時には,施工時の熱に起因する様々な影響を十分に考慮することが求められており,これらを制御・評価するうえで溶接時の入熱・熱拡散過程の適切な把握は重要である. 従来から,実験や数値解析による溶接中の母材の温度場に関する検討が積極的に行われているが,溶接に関係する物理現象のすべてを考慮した数値解析を行うことは難しく,一般に,溶接現象を数値解析で取り扱う際には, 種々の仮定を設けることで溶接現象を比較的検討しやすい形態に落とし込むことが多い.特に,溶融ワイヤの滴下に伴う溶融池形成過程は,自由表面,固液界面を伴う移流,熱輸送現象の複雑な相互作用であり,数値解析上の困難さから,あまり積極的な検討が行われていないのが現状である.しかし,溶接施工時の温度場・履歴の把握・評価を詳細に行っていくうえで,自由表面,固液界面を伴う移流,熱輸送現象の複雑な相互作用を,溶接継手全体の温度場とともに統一的に解析することは今後ますます重要となってくると考えられる. ここで, MPS(Moving Particle Simulation)法2) やSPH (Smoothed Particle Hydrodynamics)法3-4) に代表される粒子法は,自由表面や界面の大変形を伴う流体を比較的容易に解析することが可能な解析手法であり,このような計算問題に対する有力な手法であると考えられる.そこで本研究では,粒子法を用いた溶接時の高精度温度場評価に向けた基礎検討として, 従来までは解析が困難であった溶融ワイヤの滴下-溶融池・ビード形成過程の自由表面を伴う移流,熱輸送現象を,溶接継手全体の温度場とともに統一的に解析した.
2.解析手法 2.1 概要 MPS 粒子法では,以下に示す重み関数を用いて粒子間距離に対して相互作用の重み付けを行い,各種微分演算子モデルで離散化を行う. w(r) = re r !1 0(r < re ) (re ““ r) #$ % & % -1ただし re:影響半径 ここで,本研究では粒子法のうち,並列化が容易であり大規模計算向けの計算手法であるMPS 陽解法(5)を用いた.ここで,本解析では,以下に示す非圧縮性流体の支配方程式より粒子の移流を計算する一方で温度計算も行い,溶接中の母材への入熱,熱拡散過程の解析を行う. ! D!v Dt ==μ!2 !v ““!P + !f (2) ただし ρ:密度,v;速度,μ:粘性係数,P:圧力, f:外力 さらに,並列化が容易であるMPS 陽解法の特性を生かすべく,GPU(CUDA 5.0)(6) を用いて並列化を行っており,将来的な大規模計算への適用性を確保している.ここで,MPS 陽解法では圧力を求める際に以下で示す式(3) を,勾配モデルとして式(4) を用いており,音速c の値はマッハ数が0.2 以下となるように定める(7). Pi = c2 !0 n0 ni ! n0 ( ) (3) !P i = 2d n0 Pi + Pj 2!rj ““ !ri ( ) !rj ““ !ri 2 w !rj ““ !ri ( ) #$%% &
((j)i * -4ただし n0:初期粒子数密度,d;次元数 また,溶融金属の表面張力は,表面粒子の表面張力係数と曲率より以下の式(5)より求められ,式 (2) の外力項に与えられる.また,表面粒子は式(6)で β = 0.97 を満たす粒子とする(2). f si =!““# !n (5) ni
溶接は接合部材を急加熱・急冷し,それにより材料を溶融・一体化させるプロセスであり,施工時の熱によって,熱変形や残留応力,相変態等の冶金的性質の変化など,継手性能の劣化に影響を与える様々の重要な物理現象が生じる1).そのため,溶接の適用時には,施工時の熱に起因する様々な影響を十分に考慮することが求められており,これらを制御・評価するうえで溶接時の入熱・熱拡散過程の適切な把握は重要である. 従来から,実験や数値解析による溶接中の母材の温度場に関する検討が積極的に行われているが,溶接に関係する物理現象のすべてを考慮した数値解析を行うことは難しく,一般に,溶接現象を数値解析で取り扱う際には, 種々の仮定を設けることで溶接現象を比較的検討しやすい形態に落とし込むことが多い.特に,溶融ワイヤの滴下に伴う溶融池形成過程は,自由表面,固液界面を伴う移流,熱輸送現象の複雑な相互作用であり,数値解析上の困難さから,あまり積極的な検討が行われていないのが現状である.しかし,溶接施工時の温度場・履歴の把握・評価を詳細に行っていくうえで,自由表面,固液界面を伴う移流,熱輸送現象の複雑な相互作用を,溶接継手全体の温度場とともに統一的に解析することは今後ますます重要となってくると考えられる. ここで, MPS(Moving Particle Simulation)法2) やSPH (Smoothed Particle Hydrodynamics)法3-4) に代表される粒子法は,自由表面や界面の大変形を伴う流体を比較的容易に解析することが可能な解析手法であり,このような計算問題に対する有力な手法であると考えられる.そこで本研究では,粒子法を用いた溶接時の高精度温度場評価に向けた基礎検討として, 従来までは解析が困難であった溶融ワイヤの滴下-溶融池・ビード形成過程の自由表面を伴う移流,熱輸送現象を,溶接継手全体の温度場とともに統一的に解析した.
2.解析手法 2.1 概要 MPS 粒子法では,以下に示す重み関数を用いて粒子間距離に対して相互作用の重み付けを行い,各種微分演算子モデルで離散化を行う. w(r) = re r !1 0(r < re ) (re ““ r) #$ % & % -1ただし re:影響半径 ここで,本研究では粒子法のうち,並列化が容易であり大規模計算向けの計算手法であるMPS 陽解法(5)を用いた.ここで,本解析では,以下に示す非圧縮性流体の支配方程式より粒子の移流を計算する一方で温度計算も行い,溶接中の母材への入熱,熱拡散過程の解析を行う. ! D!v Dt ==μ!2 !v ““!P + !f (2) ただし ρ:密度,v;速度,μ:粘性係数,P:圧力, f:外力 さらに,並列化が容易であるMPS 陽解法の特性を生かすべく,GPU(CUDA 5.0)(6) を用いて並列化を行っており,将来的な大規模計算への適用性を確保している.ここで,MPS 陽解法では圧力を求める際に以下で示す式(3) を,勾配モデルとして式(4) を用いており,音速c の値はマッハ数が0.2 以下となるように定める(7). Pi = c2 !0 n0 ni ! n0 ( ) (3) !P i = 2d n0 Pi + Pj 2!rj ““ !ri ( ) !rj ““ !ri 2 w !rj ““ !ri ( ) #$%% &
((j)i * -4ただし n0:初期粒子数密度,d;次元数 また,溶融金属の表面張力は,表面粒子の表面張力係数と曲率より以下の式(5)より求められ,式 (2) の外力項に与えられる.また,表面粒子は式(6)で β = 0.97 を満たす粒子とする(2). f si =!““# !n (5) ni