オリフィス下流での減肉速度測定
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カテゴリ: 第10回
1.はじめに
プラント配管に見られる配管減肉現象は、安全上および保全管理上の重要課題である。現象としては腐食現象が流れの乱れの作用により助長される流れ加速型腐食(FAC)、高速流中の液滴やキャビテーションによるエロージョンなど、材料、水化学、流動に関わる複合現象である。原子力発電所では、日本機械学会「配管減肉管理に関する規格」[1](以下、規格)に従い、検査箇所の超音波による肉厚計測とその傾向管理により、配管の減肉管理が行われている。この規格では肉厚の実測値により所定の必要肉厚を満足するよう管理しており、米、仏など諸国で用いられている予測コード(ソフトウエア)による肉厚管理は規定されていない。現在、日本機械学会P-SCCII-4「配管減肉管理法の改良・実用化に向けた調査研究分科会」(以下、分科会)で調査活動を実施し、最新技術知見を規格の付録として掲載されている「配管減肉に関する技術知見の現状」として集約しつつ[2]、将来的な管理方法として予測モデルを用いた管理を行う際の適用性や精度確認方法を検討している[3][4]。具体的には、予測モデルの配管減肉管理への活用に関して、予測モデルの開発の進捗状況や使用用途を考慮しながら、その適用性(特徴,評価精度,使い勝手)を検討し、予測モデルへの要求仕様・性能を整理している。予測モデルの活用には、肉厚計測と予測コードによる評価を組み合わせ、融合させた新たな減肉管理手法へ発展させることが期待される。予測コードは、配管減肉管理への活用が規格で規定されることを念頭に、種々のベンチマークにより検証されることが必要である。原子力発電所での減肉データは豊富だが、配管内の流況など計測できないパラメータもあり、予測モデルの検証のためには使いづらい。FAC を例にすると、炭素鋼管のCr 濃度などの材料因子、溶存酸素濃度・pH・温度などの水化学因子、流速などの流動因子のそれぞれが計測された条件での減肉率のデータを検証に用いることが必要である。すなわち、これら因子が既知であるラボ試験結果を用いたベンチマークを行うことが、検証の基本となる。筆者らはこれまで、FAC に及ぼす流動因子の解明を目的として、FAC による減肉速度測定・可視化実験による流況測定・数値計算による評価を組み合わせた研究を行ってきた[5][6][7]。本報告では、先に述べたベンチマークに用いることができる実験データを提供することを目的として、管断面平均流速とオリフィス口径を変えた実験を行ったので、その結果を述べる。計測結果は分科会に報告し、検証用データとして活用される予定である。
2.実験方法 2.1 実験ループおよび試験部 実験には図1 に示す実験ループを用い、イオン交換後に5ppb 以下に脱酸素処理した水をタンクへ給水し、圧力1.5MPa、水温150±1℃に昇圧・昇温して循環させた。試験期間中の水質の監視は、水質測定系で溶存酸素濃度と導電率を連続監視するとともに、pH と鉄濃度の測定は適宜採水したサンプル水を窒素雰囲気中で手分析により行った。ヒドラジン等の薬品は加えておらず、試験期間中の溶存酸素濃度は約0.1ppb、pH はほぼ中性であった。なお、水質測定系の戻りラインにはイオン交換樹脂が備え付けられており、時間経過に伴う鉄濃度の上昇を抑制することが出来る。図2にオリフィス上流および下流での腐食速度計測用の試験部配管を示す。SUS304 を母材とした内径D = 50mm の円管に、腐食速度センサを周方向に配置した。オリフィス下流50mm、100mmでは上下左右各4箇所、150mm、200mm では上下各2箇所、オリフィス上流150mm の上下左右4箇所に腐食速度センサを取り付けている。試験部配管の放熱による温度変動のセンサへの影響を抑制するため、試験中は保温を装着した。腐食速度センサは、図3 に示すような長さ20mm、幅3mm、厚さ0.5mmに加工した炭素鋼STPT42 (Ni; 0.02%, Cr; 0.04%, Mo; 0.01%) を配管内面に埋め込み、単位時間当たりの電気抵抗変化量から、減肉量を算出した。電気抵抗から腐食速度センサの肉厚への換算は長屋ら[8]に詳しい。Hot water tank ( 2 MPa) Drain Flow stabilizer Test section (D = 50 mm) Recirculation pump (Inverter control) TF P Nitrogen gas cylinder Safety valve Cooler DO C Depressurization Valve Measurements of pH water quality Sampling Heater Cooler Hydrazine (N2H4) Sulfuric acid (H2SO4) Water quality control sys. Vacuum pump Demineralizer Degasification Feed water DO: Dissolved oxygen C : Conductivity Demineralizer Fig.1 Test loop 50 50 50 50 1000650 150 350D = 50 mm Corrosion rate Orifice sensor upper side High temperature water Fig.2 Test section for measurement of FAC rate downstream from an orifice (unit: mm) t = 0.5mm 3mm L = 20mm Carbon steel flow STPT42 exposed plate insulating resin stainless steel pipe Fig.3 Corrosion rate sensor Pipe inner diameter ..50 31.0 ..70 24.3 ..70 20.5 ..70 5..= 0.62 ..= 0.50 ..= 0.41 Fig.4 Orifice plates 2.2 実験条件 本研究では、流路形状変化と流速変化が減肉速度に及ぼす影響を調べ、ベンチマークによる予測モデルの検証に供することを目的とした。そこで実験ではオリフィス穴径を変えて流路形状を変化させることとし、図4 のように3 種類の絞り比.を有するオリフィスを用いた。オリフィス絞り比. = 0.62, 0.50, 0.41 のそれぞれに対し、表1 に示すように流速を2 ないし3 条件と変えて試験を実施した(表1 中で.変化はRun1~3、流速条件は(1)~(3)に対応)。Run1 では試験途中で管断面平均流速U を4.24m/s から5.66m/s に変化させた。Run2-1 ではU を1.41m/s→ 4.95m/s に、Run2-2 ではUを2.12m/s→3.54m/s に変化させた。また、Run3 ではUを3 段階(3.54m/s→2.83m/s→2.47 m/s)に変化させることで、合計9 ケースの組み合わせで減肉速度分布を取得した。試験中の鉄濃度は、センサからの鉄イオンの溶出と水質測定系のイオン交換樹脂による浄化によって変化した。pH は、装置に供給したイオン交換および脱気後の水を150℃まで昇温して常温で計測した結果であり、酸・ヒドラジン等の薬品は特に加えなかった。ヒドラジンを加えなくても溶存酸素濃度は平均的には0.1ppb であり、試験中に短時間で値の変動が見られたがすぐに元の値に戻るため、ノイズと思われる。これらの値の変化は、表1 中に( )で示した。3.結果 3.1 流速を変化させた場合の腐食速度の変化 図5 に、Run1 におけるオリフィス上流3D および下流1Dでのセンサ厚みの時間変化を示す。オリフィス下流1D では、時間経過とともに厚みが直線的に減少するのに対し、オリフィス上流3Dでは徐々に厚みの減少量が小さくなった。時間当たりの厚みの減少量、すなわち図5(a)での変化の傾きが腐食速度となる。Run1 では、試験開始135 時間経過時に、管断面平均流速Uを4.24 から5.66 m/s に変化させた。このU の増加に対し、下流1D の厚みの減少量は顕著に増加したが、上流3Dではセンサ厚みの減少量の変化がほとんど無く、腐食速度の減少傾向が継続する結果となった。FAC による減肉率は時間に対して直線的であると一般に考えられており、オリフィス下流での減肉率はこれと一致するが、オリフィス上流直管部では今回の試験時間の間では直線的な変化とは見なせなかった。2702802900 50 100 150 200 250 Time [h] Sensor thickness [. m] 2402502602702802903003103200 50 100 150 200 250 Sensor thichness [. m] 1.69mm/y 2.32mm/y U = 4.24m/s U = 5.66m/s 135hours (a) 1D downstream (b) 3D upstream Fig.5 Time history of the sensor thickness at 1D downstream and at 3D upstream from the orifice with aperture ratio 0.62 [9] 図 6 に、. = 0.62, 0.50 および0.41 における管断面平均流速ごとのオリフィス下流の腐食速度分布を示す。どの絞り比条件でも、流速が増加するに従ってオリフィス下流の腐食速度は増加した。. = 0.62, 0.41 の絞り比では、どの流速においてもオリフィス下流1D で最大腐食速度となり、下流に行くに従い腐食速度が減少する結果となった。一方、. = 0.50 の絞り比では、流速U = 3.54, 2.12, Table1 Test conditions for FAC rate measurement (1) (2) (1) (2) (1) (2) (1) (2) (3) Olifice Diameter [mm] Experimental Period [h] 101 78 117 60 96 54 49 62 111 Mean Cross-sectional Velocity [m/s] 4.24 5.66 1.41 4.95 2.12 3.54 3.54 2.83 2.47 Temperature [℃] Dissolved Oxigen *1 [ppb] pH*1 7.2 (6.5~7.6) 7.4(7.1~7.9) 6(5.7~6.1) 6.1(6.1~6.1) 6.1(6.1~6.2) 6.1(6.0~6.2) 6.3(5.7~6.6) 1900/01/05 12:00:00(6.0~6.8) 6(5.0~6.8) Iron Concentration [ppm] 0.07~0.16 0.04~0.16 0.03~0.20 0.12~0.20 0.12~0.21 0.19~0.21 0.06~0.10 0.02~0.09 0.06~0.10 Corrosion Sensor Property *1:The average during the corrosion measurement. The inside of ( ) is the minimum and the maximum of measurement value. Run 2-1 149.70.1(0~0.2) Run 2-2 24.3mm (. = 0.5) 149.80.1(0~0.4) Carbon steel plates STPT 42 Ni; 0.02%, Cr; 0.04%, Mo; 0.01% 0.1(0~0.7) Run 3 149.20.1(0~0.6) 31.0mm (. = 0.62) 20.5mm (. = 0.41) Run 1 149.51.41m/s の条件では、オリフィス下流2D で最大腐食速度となった。012340 1 2 3 4 5 Distance from orifice x / D [-] U = 5.66m/s U = 4.24m/s FAC rate [mm/year] . = 0.62 UU (a) aperture ratio of 0.62 [9] 01899/12/31 1899/12/311900/01/011900/01/020 1 2 3 4 5 Distance from orifice x / D [-] U = 4.95m/s U = 3.54m/s U = 2.12m/s U = 1.41m/s FAC rate [mm/year] . = 0.50 UUUU (b) aperture ratio of 0.50 [10] 012340 1 2 3 4 5 Distance from orifice x / D [-] U = 3.54m/s U = 2.83m/s U = 2.47m/s FAC rate [mm/year] . = 0.41 UUU (c) aperture ratio of 0.41 [9] Fig.6 Distribution of FAC rate downstream from an orifice. The rates were obtained by averaging the results of sensors along circumferential direction. 3.2 減肉速度測定結果の活用 前述の日本機械学会の分科会では、予測コードを用いた配管減肉管理手法の在り方を検討しており、実験条件の明確になっているラボ試験結果をベンチマークとして予測コードの要件について検討中である[3][4]。本実験の結果は表1 に示した条件とともに分科会へ提供し、国内で開発中の予測コードを用いてベンチマークを行っている。これまでのところ実験値の減肉率に対して予測コードはおよそ-50%~+100%の範囲で予測評価ができるようである。このような精度検証などの実用化に向けた要件を整備し、実機の肉厚管理方法にどのように活用すべきかを現在、検討中である。一方、予測コードを実機に用いることを念頭に置くと、複雑な流れ場を再現してから減肉を予測することは現実的ではない。そのため、オリフィス等の配管要素毎に減肉速度が増加する程度を相対化した形状係数を、予測コードの中で用いることが一般的である[11]。経験的に形状係数を決めるだけでなく、物質移行係数との関係により求めることが検討されており、本研究での減肉速度と物質移行係数との関係が考察されている[12]。4.まとめ オリフィス下流を対象に、オリフィス絞り比.を 0.62, 0.50, 0.41 と変えて、それぞれのオリフィスに対し流速を2 ないし3 条件と変化させて、流れ加速型腐食による減肉速度分布を取得した。予測コードの検証に用いるため、得られた減肉速度を公開し、ベンチマークデータとして提供した。その結果は、将来のプラントにおける配管減肉管理手法における予測コードの導入要件と活用方法として、保全に役立つことが期待される。謝辞本報告の一部は原子力安全・保安院 平成23 年度高経年化技術評価高度化事業の成果の一部である。ここに謝意を表する。参考文献 [1] 日本機械学会,“発電用設備規格 配管減肉管理に関する規格(2005 年度版)(増訂版)JSME S CA1-2005”, 2006[2] 中村晶ら,“配管減肉管理法の改良・実用化に向けた調査研究(2)-減肉に関する最新知見と技術知見の拡充-”,第18 回動力・エネルギー技術シンポジウム講演論文集,D212,2013,pp.349-350. [3] 大平拓ら,“配管減肉管理法の改良・実用化に向けた調査研究(3)-予測評価の有効性と管理方法の改善-”,第18 回動力・エネルギー技術シンポジウム講演論文集,D213,2013,pp.351-352. [4] 渡邉豊ら,“配管減肉管理法の改良・実用化に向けた調査研究(4)-予測コードの特長把握と望むべき技術的仕様の検討-”,第18 回動力・エネルギー技術シンポジウム講演論文集,D214,2013,pp.353-354. [5] 中村晶ら,“流れ加速型腐食に及ぼす局所的流況の影響-研究の背景とオリフィス下流の腐食速度の計測-”,(株)原子力安全システム研究所、INSS Journal Vol.15,2008,pp.78-87. [6] 長屋行則ら,“流れ加速型腐食に及ぼす局所流動状況の影響-腐食速度の流速依存性-”,(株)原子力安全システム研究所、INSS Journal Vol.17,2010, pp.104-112. [7] 歌野原陽一ら,“流れ加速型腐食に及ぼす局所流動状況の影響-オリフィス下流の壁面せん断応力と腐食速度の関係-”,(株)原子力安全システム研究所、INSS Journal Vol.18,2011,pp.94-105. [8] 長屋行則ら,“流れ加速型腐食に及ぼす局所流動状況の影響-玉型弁下流における腐食速度-”,(株)原子力安全システム研究所、INSS Journal Vol.18,2011, pp.84-93. [9] 長屋行則ら,“流れ加速型腐食の腐食速度に与えるオリフィス口径の影響”,第17 回動力・エネルギー技術シンポジウム講演論文集,D224,2012,pp.377-378. [10] 長屋行則ら,“オリフィス下流における流れ加速型腐食の評価(4.腐食速度に与える流速の影響評価)”, 第15 回動力・エネルギー技術シンポジウム講演論文集,C217,2010,pp.363-364. [11] W. Kastner, et al., “Calculation code for erosion corrosion induced wall thinning in piping systems,” Nuclear Engineering and Design, 119, 1990, pp.431-438. [12] 辻義之ら,“FAC による減肉予測の高度化とシステム安全評価への適用 7.FAC 発生予測における物質移行係数と減肉速度の関係”,日本原子力学会,2012 年秋の大会予稿集,N19,2012,p.591. (平成25 年6 月24 日)“ “オリフィス下流での減肉速度測定 “ “中村 晶,Akira NAKAMURA,歌野原 陽一,Yoichi UTANOHARA,村瀬 道雄,Michio MURASE,釜堀 孝一,Koichi KAMAHORI,長屋 行則,Yukinori NAGAYA“ “オリフィス下流での減肉速度測定 “ “中村 晶,Akira NAKAMURA,歌野原 陽一,Yoichi UTANOHARA,村瀬 道雄,Michio MURASE,釜堀 孝一,Koichi KAMAHORI,長屋 行則,Yukinori NAGAYA
プラント配管に見られる配管減肉現象は、安全上および保全管理上の重要課題である。現象としては腐食現象が流れの乱れの作用により助長される流れ加速型腐食(FAC)、高速流中の液滴やキャビテーションによるエロージョンなど、材料、水化学、流動に関わる複合現象である。原子力発電所では、日本機械学会「配管減肉管理に関する規格」[1](以下、規格)に従い、検査箇所の超音波による肉厚計測とその傾向管理により、配管の減肉管理が行われている。この規格では肉厚の実測値により所定の必要肉厚を満足するよう管理しており、米、仏など諸国で用いられている予測コード(ソフトウエア)による肉厚管理は規定されていない。現在、日本機械学会P-SCCII-4「配管減肉管理法の改良・実用化に向けた調査研究分科会」(以下、分科会)で調査活動を実施し、最新技術知見を規格の付録として掲載されている「配管減肉に関する技術知見の現状」として集約しつつ[2]、将来的な管理方法として予測モデルを用いた管理を行う際の適用性や精度確認方法を検討している[3][4]。具体的には、予測モデルの配管減肉管理への活用に関して、予測モデルの開発の進捗状況や使用用途を考慮しながら、その適用性(特徴,評価精度,使い勝手)を検討し、予測モデルへの要求仕様・性能を整理している。予測モデルの活用には、肉厚計測と予測コードによる評価を組み合わせ、融合させた新たな減肉管理手法へ発展させることが期待される。予測コードは、配管減肉管理への活用が規格で規定されることを念頭に、種々のベンチマークにより検証されることが必要である。原子力発電所での減肉データは豊富だが、配管内の流況など計測できないパラメータもあり、予測モデルの検証のためには使いづらい。FAC を例にすると、炭素鋼管のCr 濃度などの材料因子、溶存酸素濃度・pH・温度などの水化学因子、流速などの流動因子のそれぞれが計測された条件での減肉率のデータを検証に用いることが必要である。すなわち、これら因子が既知であるラボ試験結果を用いたベンチマークを行うことが、検証の基本となる。筆者らはこれまで、FAC に及ぼす流動因子の解明を目的として、FAC による減肉速度測定・可視化実験による流況測定・数値計算による評価を組み合わせた研究を行ってきた[5][6][7]。本報告では、先に述べたベンチマークに用いることができる実験データを提供することを目的として、管断面平均流速とオリフィス口径を変えた実験を行ったので、その結果を述べる。計測結果は分科会に報告し、検証用データとして活用される予定である。
2.実験方法 2.1 実験ループおよび試験部 実験には図1 に示す実験ループを用い、イオン交換後に5ppb 以下に脱酸素処理した水をタンクへ給水し、圧力1.5MPa、水温150±1℃に昇圧・昇温して循環させた。試験期間中の水質の監視は、水質測定系で溶存酸素濃度と導電率を連続監視するとともに、pH と鉄濃度の測定は適宜採水したサンプル水を窒素雰囲気中で手分析により行った。ヒドラジン等の薬品は加えておらず、試験期間中の溶存酸素濃度は約0.1ppb、pH はほぼ中性であった。なお、水質測定系の戻りラインにはイオン交換樹脂が備え付けられており、時間経過に伴う鉄濃度の上昇を抑制することが出来る。図2にオリフィス上流および下流での腐食速度計測用の試験部配管を示す。SUS304 を母材とした内径D = 50mm の円管に、腐食速度センサを周方向に配置した。オリフィス下流50mm、100mmでは上下左右各4箇所、150mm、200mm では上下各2箇所、オリフィス上流150mm の上下左右4箇所に腐食速度センサを取り付けている。試験部配管の放熱による温度変動のセンサへの影響を抑制するため、試験中は保温を装着した。腐食速度センサは、図3 に示すような長さ20mm、幅3mm、厚さ0.5mmに加工した炭素鋼STPT42 (Ni; 0.02%, Cr; 0.04%, Mo; 0.01%) を配管内面に埋め込み、単位時間当たりの電気抵抗変化量から、減肉量を算出した。電気抵抗から腐食速度センサの肉厚への換算は長屋ら[8]に詳しい。Hot water tank ( 2 MPa) Drain Flow stabilizer Test section (D = 50 mm) Recirculation pump (Inverter control) TF P Nitrogen gas cylinder Safety valve Cooler DO C Depressurization Valve Measurements of pH water quality Sampling Heater Cooler Hydrazine (N2H4) Sulfuric acid (H2SO4) Water quality control sys. Vacuum pump Demineralizer Degasification Feed water DO: Dissolved oxygen C : Conductivity Demineralizer Fig.1 Test loop 50 50 50 50 1000650 150 350D = 50 mm Corrosion rate Orifice sensor upper side High temperature water Fig.2 Test section for measurement of FAC rate downstream from an orifice (unit: mm) t = 0.5mm 3mm L = 20mm Carbon steel flow STPT42 exposed plate insulating resin stainless steel pipe Fig.3 Corrosion rate sensor Pipe inner diameter ..50 31.0 ..70 24.3 ..70 20.5 ..70 5..= 0.62 ..= 0.50 ..= 0.41 Fig.4 Orifice plates 2.2 実験条件 本研究では、流路形状変化と流速変化が減肉速度に及ぼす影響を調べ、ベンチマークによる予測モデルの検証に供することを目的とした。そこで実験ではオリフィス穴径を変えて流路形状を変化させることとし、図4 のように3 種類の絞り比.を有するオリフィスを用いた。オリフィス絞り比. = 0.62, 0.50, 0.41 のそれぞれに対し、表1 に示すように流速を2 ないし3 条件と変えて試験を実施した(表1 中で.変化はRun1~3、流速条件は(1)~(3)に対応)。Run1 では試験途中で管断面平均流速U を4.24m/s から5.66m/s に変化させた。Run2-1 ではU を1.41m/s→ 4.95m/s に、Run2-2 ではUを2.12m/s→3.54m/s に変化させた。また、Run3 ではUを3 段階(3.54m/s→2.83m/s→2.47 m/s)に変化させることで、合計9 ケースの組み合わせで減肉速度分布を取得した。試験中の鉄濃度は、センサからの鉄イオンの溶出と水質測定系のイオン交換樹脂による浄化によって変化した。pH は、装置に供給したイオン交換および脱気後の水を150℃まで昇温して常温で計測した結果であり、酸・ヒドラジン等の薬品は特に加えなかった。ヒドラジンを加えなくても溶存酸素濃度は平均的には0.1ppb であり、試験中に短時間で値の変動が見られたがすぐに元の値に戻るため、ノイズと思われる。これらの値の変化は、表1 中に( )で示した。3.結果 3.1 流速を変化させた場合の腐食速度の変化 図5 に、Run1 におけるオリフィス上流3D および下流1Dでのセンサ厚みの時間変化を示す。オリフィス下流1D では、時間経過とともに厚みが直線的に減少するのに対し、オリフィス上流3Dでは徐々に厚みの減少量が小さくなった。時間当たりの厚みの減少量、すなわち図5(a)での変化の傾きが腐食速度となる。Run1 では、試験開始135 時間経過時に、管断面平均流速Uを4.24 から5.66 m/s に変化させた。このU の増加に対し、下流1D の厚みの減少量は顕著に増加したが、上流3Dではセンサ厚みの減少量の変化がほとんど無く、腐食速度の減少傾向が継続する結果となった。FAC による減肉率は時間に対して直線的であると一般に考えられており、オリフィス下流での減肉率はこれと一致するが、オリフィス上流直管部では今回の試験時間の間では直線的な変化とは見なせなかった。2702802900 50 100 150 200 250 Time [h] Sensor thickness [. m] 2402502602702802903003103200 50 100 150 200 250 Sensor thichness [. m] 1.69mm/y 2.32mm/y U = 4.24m/s U = 5.66m/s 135hours (a) 1D downstream (b) 3D upstream Fig.5 Time history of the sensor thickness at 1D downstream and at 3D upstream from the orifice with aperture ratio 0.62 [9] 図 6 に、. = 0.62, 0.50 および0.41 における管断面平均流速ごとのオリフィス下流の腐食速度分布を示す。どの絞り比条件でも、流速が増加するに従ってオリフィス下流の腐食速度は増加した。. = 0.62, 0.41 の絞り比では、どの流速においてもオリフィス下流1D で最大腐食速度となり、下流に行くに従い腐食速度が減少する結果となった。一方、. = 0.50 の絞り比では、流速U = 3.54, 2.12, Table1 Test conditions for FAC rate measurement (1) (2) (1) (2) (1) (2) (1) (2) (3) Olifice Diameter [mm] Experimental Period [h] 101 78 117 60 96 54 49 62 111 Mean Cross-sectional Velocity [m/s] 4.24 5.66 1.41 4.95 2.12 3.54 3.54 2.83 2.47 Temperature [℃] Dissolved Oxigen *1 [ppb] pH*1 7.2 (6.5~7.6) 7.4(7.1~7.9) 6(5.7~6.1) 6.1(6.1~6.1) 6.1(6.1~6.2) 6.1(6.0~6.2) 6.3(5.7~6.6) 1900/01/05 12:00:00(6.0~6.8) 6(5.0~6.8) Iron Concentration [ppm] 0.07~0.16 0.04~0.16 0.03~0.20 0.12~0.20 0.12~0.21 0.19~0.21 0.06~0.10 0.02~0.09 0.06~0.10 Corrosion Sensor Property *1:The average during the corrosion measurement. The inside of ( ) is the minimum and the maximum of measurement value. Run 2-1 149.70.1(0~0.2) Run 2-2 24.3mm (. = 0.5) 149.80.1(0~0.4) Carbon steel plates STPT 42 Ni; 0.02%, Cr; 0.04%, Mo; 0.01% 0.1(0~0.7) Run 3 149.20.1(0~0.6) 31.0mm (. = 0.62) 20.5mm (. = 0.41) Run 1 149.51.41m/s の条件では、オリフィス下流2D で最大腐食速度となった。012340 1 2 3 4 5 Distance from orifice x / D [-] U = 5.66m/s U = 4.24m/s FAC rate [mm/year] . = 0.62 UU (a) aperture ratio of 0.62 [9] 01899/12/31 1899/12/311900/01/011900/01/020 1 2 3 4 5 Distance from orifice x / D [-] U = 4.95m/s U = 3.54m/s U = 2.12m/s U = 1.41m/s FAC rate [mm/year] . = 0.50 UUUU (b) aperture ratio of 0.50 [10] 012340 1 2 3 4 5 Distance from orifice x / D [-] U = 3.54m/s U = 2.83m/s U = 2.47m/s FAC rate [mm/year] . = 0.41 UUU (c) aperture ratio of 0.41 [9] Fig.6 Distribution of FAC rate downstream from an orifice. The rates were obtained by averaging the results of sensors along circumferential direction. 3.2 減肉速度測定結果の活用 前述の日本機械学会の分科会では、予測コードを用いた配管減肉管理手法の在り方を検討しており、実験条件の明確になっているラボ試験結果をベンチマークとして予測コードの要件について検討中である[3][4]。本実験の結果は表1 に示した条件とともに分科会へ提供し、国内で開発中の予測コードを用いてベンチマークを行っている。これまでのところ実験値の減肉率に対して予測コードはおよそ-50%~+100%の範囲で予測評価ができるようである。このような精度検証などの実用化に向けた要件を整備し、実機の肉厚管理方法にどのように活用すべきかを現在、検討中である。一方、予測コードを実機に用いることを念頭に置くと、複雑な流れ場を再現してから減肉を予測することは現実的ではない。そのため、オリフィス等の配管要素毎に減肉速度が増加する程度を相対化した形状係数を、予測コードの中で用いることが一般的である[11]。経験的に形状係数を決めるだけでなく、物質移行係数との関係により求めることが検討されており、本研究での減肉速度と物質移行係数との関係が考察されている[12]。4.まとめ オリフィス下流を対象に、オリフィス絞り比.を 0.62, 0.50, 0.41 と変えて、それぞれのオリフィスに対し流速を2 ないし3 条件と変化させて、流れ加速型腐食による減肉速度分布を取得した。予測コードの検証に用いるため、得られた減肉速度を公開し、ベンチマークデータとして提供した。その結果は、将来のプラントにおける配管減肉管理手法における予測コードの導入要件と活用方法として、保全に役立つことが期待される。謝辞本報告の一部は原子力安全・保安院 平成23 年度高経年化技術評価高度化事業の成果の一部である。ここに謝意を表する。参考文献 [1] 日本機械学会,“発電用設備規格 配管減肉管理に関する規格(2005 年度版)(増訂版)JSME S CA1-2005”, 2006[2] 中村晶ら,“配管減肉管理法の改良・実用化に向けた調査研究(2)-減肉に関する最新知見と技術知見の拡充-”,第18 回動力・エネルギー技術シンポジウム講演論文集,D212,2013,pp.349-350. [3] 大平拓ら,“配管減肉管理法の改良・実用化に向けた調査研究(3)-予測評価の有効性と管理方法の改善-”,第18 回動力・エネルギー技術シンポジウム講演論文集,D213,2013,pp.351-352. [4] 渡邉豊ら,“配管減肉管理法の改良・実用化に向けた調査研究(4)-予測コードの特長把握と望むべき技術的仕様の検討-”,第18 回動力・エネルギー技術シンポジウム講演論文集,D214,2013,pp.353-354. [5] 中村晶ら,“流れ加速型腐食に及ぼす局所的流況の影響-研究の背景とオリフィス下流の腐食速度の計測-”,(株)原子力安全システム研究所、INSS Journal Vol.15,2008,pp.78-87. [6] 長屋行則ら,“流れ加速型腐食に及ぼす局所流動状況の影響-腐食速度の流速依存性-”,(株)原子力安全システム研究所、INSS Journal Vol.17,2010, pp.104-112. [7] 歌野原陽一ら,“流れ加速型腐食に及ぼす局所流動状況の影響-オリフィス下流の壁面せん断応力と腐食速度の関係-”,(株)原子力安全システム研究所、INSS Journal Vol.18,2011,pp.94-105. [8] 長屋行則ら,“流れ加速型腐食に及ぼす局所流動状況の影響-玉型弁下流における腐食速度-”,(株)原子力安全システム研究所、INSS Journal Vol.18,2011, pp.84-93. [9] 長屋行則ら,“流れ加速型腐食の腐食速度に与えるオリフィス口径の影響”,第17 回動力・エネルギー技術シンポジウム講演論文集,D224,2012,pp.377-378. [10] 長屋行則ら,“オリフィス下流における流れ加速型腐食の評価(4.腐食速度に与える流速の影響評価)”, 第15 回動力・エネルギー技術シンポジウム講演論文集,C217,2010,pp.363-364. [11] W. Kastner, et al., “Calculation code for erosion corrosion induced wall thinning in piping systems,” Nuclear Engineering and Design, 119, 1990, pp.431-438. [12] 辻義之ら,“FAC による減肉予測の高度化とシステム安全評価への適用 7.FAC 発生予測における物質移行係数と減肉速度の関係”,日本原子力学会,2012 年秋の大会予稿集,N19,2012,p.591. (平成25 年6 月24 日)“ “オリフィス下流での減肉速度測定 “ “中村 晶,Akira NAKAMURA,歌野原 陽一,Yoichi UTANOHARA,村瀬 道雄,Michio MURASE,釜堀 孝一,Koichi KAMAHORI,長屋 行則,Yukinori NAGAYA“ “オリフィス下流での減肉速度測定 “ “中村 晶,Akira NAKAMURA,歌野原 陽一,Yoichi UTANOHARA,村瀬 道雄,Michio MURASE,釜堀 孝一,Koichi KAMAHORI,長屋 行則,Yukinori NAGAYA