東通原子力発電所 敷地内断層(破砕帯)の評価の概要
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カテゴリ: 第10回
1.はじめに
東通原子力発電所は青森県下北半島脊梁部の太平洋側に位置する。敷地の地質・地質構造に関する調査は、昭和50 年代から、文献調査、地形調査、地表地質調査、ボーリング調査、試掘坑調査、トレンチ調査等を多数実施してきており、その結果に基づき、1 号機の原子炉設置許可申請[1] を行い、平成10 年8 月に許可を得ている。原子炉設置許可申請に係る安全審査では、敷地の断層について活動性はないとの判断がなされ、第四系に見られる変状(断層等を覆う第四系の一部に見られる変形など、詳細は後述)は、局所的であり系統的に連続しないこと、岩盤の劣化部に対応して変状が見られること等から断層活動に起因するものではないとの評価がなされた。平成18 年9 月の耐震設計審査指針の改定[2] を受けて開始された耐震バックチェックは、東北地方太平洋沖地震の発生による一時中断を挟みながら審議が継続されたが、敷地内断層の活動性に関しては、最終的な評価には至らず、その後の原子力規制委員会の発足により「破砕帯の調査に関する有識者会合」へ引き継がれている。「有識者会合」において、当社はこれまで蓄積したデータに基づく総合的な検討結果を説明してきているが、有識者からは、敷地内の断層は活断層である可能性があるとの見解が示されており、審議は継続中である。
2.敷地の地質・地質構造
2.1 敷地の地質・地質構造の概要 敷地には、主として標高約10m~約40mの海成段丘面が発達する。これらは、面の形態、高度、火山灰層との関係等から、MIS 5e 以降の段丘に対比される。敷地には、新第三系中新統の火山砕屑岩類から成る泊層および堆積岩から成る蒲野沢層が分布し、これを前述の第四系上部更新統の段丘堆積物などが被覆する。新第三系は、主として泊層分布域に半地溝状~地溝状をなして蒲野沢層が分布する。これらの境界をなす主要な断層としてF-1断層~F-10 断層が認められる。主要な断層は、主にNNE-SSW~NE-SW走向で比較的連続性が良く高角度の正断層である。2.2 断層の活動性 敷地内の断層については、以下の点から、少なくとも中位段丘面形成期以降の活動性はないと判断している。○ 断層の活動を示唆するリニアメントや、段丘面内の連続性を有する高度不連続等は認められない。○ 主要な断層の形成時期は、東北日本の構造発達史、断層の形態等から新第三紀鮮新世以前と考えられる。○ 正断層の形態・地質分布が明瞭であり、逆断層として反転した形跡は認められない。○ 断層破砕部で確認される条線は高角のものが多く、横ずれセンスを示唆する特徴は認められない。
○ 一部の断層破砕部は、新第三紀の熱水変質作用によりセピオライト、石英等で充填され、完全に固結・岩石化しており、断層自体が再活動したとは考えにくい。○ 反射法地震探査結果から、主要な断層は、地下500 ~1、000mで緩傾斜となり、地下深部へ連続しないことから、敷地の断層は地震を引き起こすような断層とは考えにくい。3.第四系の変状 3.1 第四系変状の特徴 敷地の断層または岩盤風化部を被覆する第四系の一部には、第四系基底面の小規模な段差、破砕部粘土の第四系への注入、第四系中の小断裂及び撓み(以下、これらを「第四系変状」という。)が認められる。これらの第四系の変状には、以下の特徴が認められる。○ 同一断層でも変状のある箇所とない箇所があり、分布は限定的。○ 第四系変状は岩盤劣化部の幅あるいは厚さが大きい箇所に対応して認められる傾向がある。また、岩盤劣化部には膨張性粘土鉱物であるモンモリロナイトが多く含まれている。○ 変状が生じていない断層破砕部は固結していることが多く、また、変状が生じている断層破砕部でもその深部は固結していることが多い。○ 第四系変状のずれの量が小規模で、累積性が認められない。○ 第四系中の小断裂には、正断層センスのものと、逆断層センスのものが混在することがある。○ 変状が生じている小断層は、ごく浅部で消滅するものが多い。○ 泊層での第四系変状は断層のない箇所にも見られ、主として上方への撓みからなる。○ 変状の形成時期は限定的で、概ね標高の低い(海側) での形成時期は新しい傾向にある。3.2 第四系変状の成因 前述のような特徴を踏まえて、変状を発生させる可能性のある成因として,「地震動による受動変位」,「熱水等の圧入」,「凍結・融解作用」および「活断層による変位・変形」について検討した結果,これらはいずれも第四系変状の成因とは考えにくい。第四系変状は,地表付近の断層破砕部およびその近傍の劣化部および風化変質による劣化部(小断層の上盤側等)に関係して形成されたものと考えられる。形成メカニズムとしては、岩盤の劣化部(割れ目が多く発達,または風化に伴う軟質化した部分等)の一部が,敷地内の地下水位の変化等に伴う吸水等によって、体積膨張することによって発生したものと考えられる。また、類似の事例が海外で報告されており、更に詳細について調査を進めることとしている。4.終わりに 「有識者会合」においては、敷地内断層の活動性や第四系変状の評価等の論点について、当社からこれまでの科学的知見に基づき、敷地内断層は「耐震設計上考慮すべき活断層ではない」との説明を行ってきているが、まだ議論を尽くすべき点が多々あるものと認識している。一方で、有識者意見を踏まえ、より説明性を高めるために本年12月までの予定で地質調査や文献調査等を実施しているところであり、新たなデータも踏まえた上で、あらためて活動性の有無に関する評価を実施することとしている。なお、本稿では、敷地内断層の評価の概要を記載したものであり、詳細な資料は「有識者会合」資料[2] [3]を参照されたい。参考文献 [1] 東北電力株式会社、“東通原子力発電所原子炉設置許可申請書(平成10 年5 月一部補正)、1998 [2] 東北電力株式会社、“有識者会合における論点に対する補足説明資料”、H25.4.18 第5 回有識者会合、原子力規制委員会HP、2013 [3] 東北電力株式会社、“有識者会合における論点に対する補足説明資料”、H25.5.17 第6 回有識者会合、原子力規制委員会HP、2013 Fig.1 Geotectonic Map of Higashidori NPS Fig.2 Geological Section of Higashidori NPS Fig.3 Distribution of Quaternary deformation Fig.4 An example of Quaternary deformation (F-9 fault) Fig.5 An example of Quaternary deformation (minor fault)
“ “東通原子力発電所 敷地内断層(破砕帯)の評価の概要 “ “三和 公,Tadashi MIWA“ “東通原子力発電所 敷地内断層(破砕帯)の評価の概要 “ “三和 公,Tadashi MIWA
東通原子力発電所は青森県下北半島脊梁部の太平洋側に位置する。敷地の地質・地質構造に関する調査は、昭和50 年代から、文献調査、地形調査、地表地質調査、ボーリング調査、試掘坑調査、トレンチ調査等を多数実施してきており、その結果に基づき、1 号機の原子炉設置許可申請[1] を行い、平成10 年8 月に許可を得ている。原子炉設置許可申請に係る安全審査では、敷地の断層について活動性はないとの判断がなされ、第四系に見られる変状(断層等を覆う第四系の一部に見られる変形など、詳細は後述)は、局所的であり系統的に連続しないこと、岩盤の劣化部に対応して変状が見られること等から断層活動に起因するものではないとの評価がなされた。平成18 年9 月の耐震設計審査指針の改定[2] を受けて開始された耐震バックチェックは、東北地方太平洋沖地震の発生による一時中断を挟みながら審議が継続されたが、敷地内断層の活動性に関しては、最終的な評価には至らず、その後の原子力規制委員会の発足により「破砕帯の調査に関する有識者会合」へ引き継がれている。「有識者会合」において、当社はこれまで蓄積したデータに基づく総合的な検討結果を説明してきているが、有識者からは、敷地内の断層は活断層である可能性があるとの見解が示されており、審議は継続中である。
2.敷地の地質・地質構造
2.1 敷地の地質・地質構造の概要 敷地には、主として標高約10m~約40mの海成段丘面が発達する。これらは、面の形態、高度、火山灰層との関係等から、MIS 5e 以降の段丘に対比される。敷地には、新第三系中新統の火山砕屑岩類から成る泊層および堆積岩から成る蒲野沢層が分布し、これを前述の第四系上部更新統の段丘堆積物などが被覆する。新第三系は、主として泊層分布域に半地溝状~地溝状をなして蒲野沢層が分布する。これらの境界をなす主要な断層としてF-1断層~F-10 断層が認められる。主要な断層は、主にNNE-SSW~NE-SW走向で比較的連続性が良く高角度の正断層である。2.2 断層の活動性 敷地内の断層については、以下の点から、少なくとも中位段丘面形成期以降の活動性はないと判断している。○ 断層の活動を示唆するリニアメントや、段丘面内の連続性を有する高度不連続等は認められない。○ 主要な断層の形成時期は、東北日本の構造発達史、断層の形態等から新第三紀鮮新世以前と考えられる。○ 正断層の形態・地質分布が明瞭であり、逆断層として反転した形跡は認められない。○ 断層破砕部で確認される条線は高角のものが多く、横ずれセンスを示唆する特徴は認められない。
○ 一部の断層破砕部は、新第三紀の熱水変質作用によりセピオライト、石英等で充填され、完全に固結・岩石化しており、断層自体が再活動したとは考えにくい。○ 反射法地震探査結果から、主要な断層は、地下500 ~1、000mで緩傾斜となり、地下深部へ連続しないことから、敷地の断層は地震を引き起こすような断層とは考えにくい。3.第四系の変状 3.1 第四系変状の特徴 敷地の断層または岩盤風化部を被覆する第四系の一部には、第四系基底面の小規模な段差、破砕部粘土の第四系への注入、第四系中の小断裂及び撓み(以下、これらを「第四系変状」という。)が認められる。これらの第四系の変状には、以下の特徴が認められる。○ 同一断層でも変状のある箇所とない箇所があり、分布は限定的。○ 第四系変状は岩盤劣化部の幅あるいは厚さが大きい箇所に対応して認められる傾向がある。また、岩盤劣化部には膨張性粘土鉱物であるモンモリロナイトが多く含まれている。○ 変状が生じていない断層破砕部は固結していることが多く、また、変状が生じている断層破砕部でもその深部は固結していることが多い。○ 第四系変状のずれの量が小規模で、累積性が認められない。○ 第四系中の小断裂には、正断層センスのものと、逆断層センスのものが混在することがある。○ 変状が生じている小断層は、ごく浅部で消滅するものが多い。○ 泊層での第四系変状は断層のない箇所にも見られ、主として上方への撓みからなる。○ 変状の形成時期は限定的で、概ね標高の低い(海側) での形成時期は新しい傾向にある。3.2 第四系変状の成因 前述のような特徴を踏まえて、変状を発生させる可能性のある成因として,「地震動による受動変位」,「熱水等の圧入」,「凍結・融解作用」および「活断層による変位・変形」について検討した結果,これらはいずれも第四系変状の成因とは考えにくい。第四系変状は,地表付近の断層破砕部およびその近傍の劣化部および風化変質による劣化部(小断層の上盤側等)に関係して形成されたものと考えられる。形成メカニズムとしては、岩盤の劣化部(割れ目が多く発達,または風化に伴う軟質化した部分等)の一部が,敷地内の地下水位の変化等に伴う吸水等によって、体積膨張することによって発生したものと考えられる。また、類似の事例が海外で報告されており、更に詳細について調査を進めることとしている。4.終わりに 「有識者会合」においては、敷地内断層の活動性や第四系変状の評価等の論点について、当社からこれまでの科学的知見に基づき、敷地内断層は「耐震設計上考慮すべき活断層ではない」との説明を行ってきているが、まだ議論を尽くすべき点が多々あるものと認識している。一方で、有識者意見を踏まえ、より説明性を高めるために本年12月までの予定で地質調査や文献調査等を実施しているところであり、新たなデータも踏まえた上で、あらためて活動性の有無に関する評価を実施することとしている。なお、本稿では、敷地内断層の評価の概要を記載したものであり、詳細な資料は「有識者会合」資料[2] [3]を参照されたい。参考文献 [1] 東北電力株式会社、“東通原子力発電所原子炉設置許可申請書(平成10 年5 月一部補正)、1998 [2] 東北電力株式会社、“有識者会合における論点に対する補足説明資料”、H25.4.18 第5 回有識者会合、原子力規制委員会HP、2013 [3] 東北電力株式会社、“有識者会合における論点に対する補足説明資料”、H25.5.17 第6 回有識者会合、原子力規制委員会HP、2013 Fig.1 Geotectonic Map of Higashidori NPS Fig.2 Geological Section of Higashidori NPS Fig.3 Distribution of Quaternary deformation Fig.4 An example of Quaternary deformation (F-9 fault) Fig.5 An example of Quaternary deformation (minor fault)
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