米フォートカルホーンの洪水時の対応と再稼動への取り組み
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カテゴリ: 第10回
1.序
2011年3月11 日に発生した福島第一原子力発電所の事故では全交流電源喪失(SBO)から炉心溶融、水素爆発が起こり、最終的に放射性物質が環境に放出するという重大な状況に至った。放射性物質の放出にまで至った要因は複数あるが、起因事象として津波による洪水でSBO が発生したことが大きな問題であった。そこで本資料では福島第一事故のしばらく後にミズーリ川の洪水によりサイトが冠水したフォートカルホーン原子力発電所の洪水対応状況を調査した。Fort Calhoun の対応にはいろいろと問題もあるが、今後のわが国での洪水対策の参考となる部分がある。一方、わが国では、福島第一事故の後、他の原子力プラントも大部分のものが定期検査での停止以降、再起動できない形で現在にいたっている。米国では安全上重要な事象が発生し、プラントが停止した場合に、再起動に向けての手順が明確になっている。フォートカルホーンでは2011 年6 月に安全系の遮断器の火災が発生し、規制当局であるNRCから安全上の重要度が高い問題(RED) であるとの判断が下された。その後、NRC は再起動までに確認する項目を幅広くまとめ、チェックリスト形式でフォートカルホーンの事業者であるOmaha Public Power District(OPPD)に示し、OPPD はNRC より示された確認すべき項目について詳細な実施計画を作成し、その計画に基づき対応を行っている。この再起動に向けての対応の仕組みは我が国にとっても大いに参考となるものと考えられることからフォートカルホーンでの再起動への対応について調査した結果を洪水対応と共に示す。
2.フォートカルホーンの洪水事例について
2.1 フォートカルホーン原子力発電所の概要 フォートカルホーン原子力発電所は1987 年に運転を開始したコンバスチョンエンジニアリング(CE)社製の電気出力47.8万kWのPWR(1基)で、OPPDが運営している。敷地はネブラスカ州のミズーリ川の河畔に位置する。ミ
2Fig.1 A large amount of snowfall at source area of Missouri river ズーリ川はカナダとの国境にあるモンタナ州のロッキー山脈に源流を持つミシシッピー川最大の支流で、全長3700km、流域面積は米国全土の1/6 に達する。ミズーリ川には20 世紀に洪水防止、灌漑、水力発電用にフォートペック、ギャリソン、オアヘ、ビッグベンド、フォートランダル、ギャビンズポイント等多数のダムが建設された。これによりミズーリ川は北アメリカ最大の貯水システムとなっている。2.2 フォートカルホーンの洪水評価[1] 米国原子力発電所では安全解析書(FSAR)で自然現象による影響評価と対応を行い、NRCの審査を受けている。FSARは新しい情報が出てきた場合には適宜変更が行われる。洪水については大雨、ダムの決壊、津波等について過去の実績を踏まえ、設計基準水位を設定し、その水位になった場合でも原子炉の安全性が確保されることを示す必要がある。フォートカルホーンでは水位上昇が大きい事象として上流のダムで、最も近いギャビンズポイントの決壊を設定し、通常のミズーリ川の水位(995feet)に対し19feet 高い1014feet を設計基準水位としている。この設計基準水位は敷地の1004feet より高いため、格納容器、非常用ディーゼル発電機室、補助建屋等の安全上重要な設備は金属製の洪水防護ゲート、砂袋や貫通部のシール等の対応により浸水を防ぐ設計となっている。一方、設計基準水位では特高開閉所は冠水し、機能を失うことになるため、 非常用ディーゼル発電機が起動する対応となっている。一方、1990 年台にNRC の勧告に基づき各事業者は設計基準事象を超えた自然現象が発生した場合の評価としてIPEEE(Individual Plant Examination for External Event) を実施したが、その際フォートカルホーンでは上流の4 つのダムの決壊を仮定した。これは上流のひとつのダムが決壊すると、その水が下流に流れ、下流にあるダムも連鎖的に決壊する可能性があるとの考え方に基づく。評価の結果、水位は1035feet まで上昇し、格納容器内の設備以外のものは外部電源及び非常用電源も含め機能を失うことになる。このような状況に対しては高所にある燃料取り換えフロアーにガソリンエンジン駆動のポンプを設置し、必要な場合にはこのポンプで直接SG に水を入れて炉心の冷却を行うような方策が考えられている。2.3 貫通部シール設置不備のNRC の指摘[3] 2010 年にNRC の検査官がフォートカルホーンの補助建屋と取水口設備の貫通部の一部にシールが施されていない部分があることを指摘した。この要因は発電所全体としてシールの重要性についての認識が薄かったことによるものとされ、NRC は安全上の重要度が中程度の問題(YELLOW)と判断した。指摘後フォートカルホーンは必要なシール設置を行った。その後、フォートカルホーンでは貫通部シール性能を確保、強化するためにシールの検査を行い、劣化が進んでいれば補修・テストを行っている。2.4 ミズーリ川の洪水[2] 2010 年から2011 年にかけての冬場にミズーリ川上流の山間部に大量の雪が降り(Fig.1)、春の大雨も重なり大量の水がミズーリ川に流れ込んだ。これに伴いダムの水位が上昇し、ミズーリ川を管理している陸軍のCorps of Engineering はダムの決壊を防ぐためにダムの管理放流を行った。 ダムの放流は継 続的に約2.5 ヶ月続き、放流水量は2011 年6 月1 日には81,000 立方feet/秒(cfs))、6 月30 日には160,000cfsとなった(2011 年の水位上昇までの最大は70,000cfs であった)。これに伴いミズーリ川下流の水位が上昇し、フォートカルホーンでは通常の水位が海抜995feet であるのに対し、この放流により最高水位が12feet 上昇し、1007feet まで達した。ただし、これは設計基準水位(1014feet)より低い値である。フォートカルホーンの敷地レベルは通常のミズーリ川の水位より約9feet 高いが、今回の洪水では水位が通常より約12feet 上昇しており、敷地は約60 日の間、約3feet (約1m)水没することとなった。(Fig.2) なお、ミズーリ川のフォートカルホーンの下流にはクFig.2 Flooding at Fort Calhoun NPP 3Fig.3 Water level of Missouri river and site elevation of Fort Calhoun NPP ーパー原子力発電所があるが、比較的高い場所にあるため主要部の浸水は免れた。2.5 フォートカルホーンの対応 ダムの放流時にフォートカルホーンでは燃料取替えのためプラント停止状態であったが、ダムの放流の3 日前に放流の通知があったため、各施設の周りに土壌を積み上げた形で土手を設置した。放流により水位上昇が始まり、フォートカルホーンでは異常事象発生通知を出したが、土手により主要施設である格納容器、非常用ディーゼル発電機室、補助建屋、開閉所等は水没することはなかったが、倉庫を含む敷地は土手設置の対象となっておらず、6 月中旬から8 月中旬にかけて水没し、資機材について損害が出た。所外電源は確保されており、洪水による安全系への影響はなかった(Fig.3)。洪水の期間、作業者は近くの学校等に駐在し、水の排出のためガソリン駆動のポンプや発電機用の燃料としてガソリンの缶をプラントに運んだ。また、サイト内で職員、作業者が移動できるよう6feet の高さの足場により一時的な通行路を設置した。 2.6 ミズーリ川の洪水及び福島第一事故を踏まえた洪水対応 ミズーリ川の洪水及び福島第一事故を踏まえ、フォートカルホーンのミズーリ川洪水に関する設計基準水位として、単一ダムの決壊でなく、複数のダムが連鎖的に決壊するという事象を踏まえたものとすべきであるとの判断が示された。現在、事業者のOPPD では福島第一事故を踏まえた短期タスクフォース(NTTF)の勧告2.1 に基づくNRC の洪水再評価の指示に対応して、上流の複数のダム決壊を前提とした評価を実施中である。3 IMC-350 による停止プラントの監視と再起動に向けての対応 3.1 安全上重要な問題が発生した場合の対応 NRC では通常、原子力発電所に対しROP(Reactor Oversight Process :1MC-0305)の枠組みでプラントの監視を行うが、NRC 検査の重要度決定プロセスにおいて当該プラントで安全上の重要度が高い問題が発生したと判断した場合等にはIMC-0350“Oversight of Reactor Facilities in a Shutdown Condition due to Significant Performance and/or Operational Concern”に基づく監視を行うことになる。これは2002年のDavis Besseで原子炉容器の損傷が発生した場合にもとられた措置であり、CAL(Confirmatory Action Plan)により対策すべき項目についてNRC と事業者が話し合った結果をNRCが文書で事業者に通知するものである。事業者はCAL のチェックリスト項目への対応を行い、NRC が当該プラントが安全上の問題を解消したことを検査で確認した後、再起動の承認を下すことになる。これら一連の対応措置及び文書はパブリックミーティング等を通じ一般に公開されている。 3.2 Fort Calhoun での安全問題[4][5] フォートカルホーンでは前述のように2010 年にNRC の検査で洪水対策に問題があることが指摘されていた。さらに洪水が発生している時期の2011 年6 月7 日に安全系統の遮断器の火災が発生した。遮断器の問題は40 年前のGE 社製遮断器を数年前に別のベンダーのものに取り替える際、既存のGE 社製のバケットに収納する設計としたが、接続部の設計に問題があり、電源ラインが十分に接触していなくて加熱を起こし、遮断器が爆発し、火災が発生したものである。これにより、当該系統が機能を失ったが、他の系統も影響を受けトリップした。この事象についてNRC は検査を行い、その内容について重要度決定プロセスに従い、リスク重要度を判定した。判定の結果。4 つの区分(緑、白、黄、赤)の内、安全上の重要度が最も高い問題(赤)となった。これらの状況を踏まえNRC は2011 年12 月13 日にフォートカルホーンの監視をIMC-0350 の枠組みで行うことをOPPD に通告し、更に2012 年6 月11 日にCAL を発行した。 CAL にはNRC の再起動までのチェックリストが示されている。(Table.1) チェックリストの第1 セクションは重大パーフォーマンスの劣化の問題で、洪水、440V 配電系統の問題、ブレーカ火災、設計の問題、訓練の問題、セキュリティー違反、原子炉保護系の問題等多くの問題がある。第2 セクションは洪水復旧の対応、第3 セクションは是正措置プログラム(CAP)、エンジニアリングプログラム、保全プログラム、品質保証プログラム等である。1900/01/03Table.1 Part of checklist of CAL to Fort Calhoun NPP 3.3 再起動に向けての事業者の対応 上記のNRC の対応を踏まえ、OPPD は洪水による影響の復旧を含む再起動までの回復計画としてフォートカルホーンの統括改善計画(Fort Calhoun Station Integrated Performance Improvement Plan)をNRC に提出している。計画は100 項目以上の対応項目があり、以下の6 つのカテゴリーに分かれている。・ サイト復旧 ・プラントの系統と機器・長期の機器信頼性・設計及び認可のベース・緊急時計画・セキュリティー洪水の影響に対する復旧作業としては、サイト内で洪水により生じた異物の清掃・除去、すべての構造物・系統の損傷の有無の検査、地中のケーブルダクトの点検のほか土壌の安定性の評価が含まれる。土壌は水に3か月浸かったことによる強度の問題があり、は数100 のボーリングを行って分析を行った。 これらの回復作業はほぼ終了しており、OPPD は2013 年春には再起動したいと考えていたが、2012 年末に緊急炉心冷却用ポンプのアンカーボルトの長さが所定のものより短い(16 インチあるべきものが9 インチしかなかった)ことが判明し、再起動の時期が遅れている。 参考文献 [1] Fort Calhoun FSAR Chapter2 [2] June 6, 2011 Preliminary Notification of Event or Unusual Occurrence -PNO-IV-11-003~PNO- IV-003-F [3]Licensee Event Report 2011-003, Revision 3, for the Fort Calhoun Station [4] Confirmatory Action Letter-Fort Calhoun CAL4-12-002 Feb.26.2013 [5].Fort Calhoun station Integrated Performance Improvement Plan, Revision 4 Nov.1.2012 (平成25 年6 月18 日)
“ “米フォートカルホーンの洪水時の対応と再稼動への取り組み “ “藤井 有蔵,Yuzo FUJII,水町 渉,Wataru MIZUMACHI,奈良林 直,Tadashi NARABAYASHI“ “米フォートカルホーンの洪水時の対応と再稼動への取り組み “ “藤井 有蔵,Yuzo FUJII,水町 渉,Wataru MIZUMACHI,奈良林 直,Tadashi NARABAYASHI
2011年3月11 日に発生した福島第一原子力発電所の事故では全交流電源喪失(SBO)から炉心溶融、水素爆発が起こり、最終的に放射性物質が環境に放出するという重大な状況に至った。放射性物質の放出にまで至った要因は複数あるが、起因事象として津波による洪水でSBO が発生したことが大きな問題であった。そこで本資料では福島第一事故のしばらく後にミズーリ川の洪水によりサイトが冠水したフォートカルホーン原子力発電所の洪水対応状況を調査した。Fort Calhoun の対応にはいろいろと問題もあるが、今後のわが国での洪水対策の参考となる部分がある。一方、わが国では、福島第一事故の後、他の原子力プラントも大部分のものが定期検査での停止以降、再起動できない形で現在にいたっている。米国では安全上重要な事象が発生し、プラントが停止した場合に、再起動に向けての手順が明確になっている。フォートカルホーンでは2011 年6 月に安全系の遮断器の火災が発生し、規制当局であるNRCから安全上の重要度が高い問題(RED) であるとの判断が下された。その後、NRC は再起動までに確認する項目を幅広くまとめ、チェックリスト形式でフォートカルホーンの事業者であるOmaha Public Power District(OPPD)に示し、OPPD はNRC より示された確認すべき項目について詳細な実施計画を作成し、その計画に基づき対応を行っている。この再起動に向けての対応の仕組みは我が国にとっても大いに参考となるものと考えられることからフォートカルホーンでの再起動への対応について調査した結果を洪水対応と共に示す。
2.フォートカルホーンの洪水事例について
2.1 フォートカルホーン原子力発電所の概要 フォートカルホーン原子力発電所は1987 年に運転を開始したコンバスチョンエンジニアリング(CE)社製の電気出力47.8万kWのPWR(1基)で、OPPDが運営している。敷地はネブラスカ州のミズーリ川の河畔に位置する。ミ
2Fig.1 A large amount of snowfall at source area of Missouri river ズーリ川はカナダとの国境にあるモンタナ州のロッキー山脈に源流を持つミシシッピー川最大の支流で、全長3700km、流域面積は米国全土の1/6 に達する。ミズーリ川には20 世紀に洪水防止、灌漑、水力発電用にフォートペック、ギャリソン、オアヘ、ビッグベンド、フォートランダル、ギャビンズポイント等多数のダムが建設された。これによりミズーリ川は北アメリカ最大の貯水システムとなっている。2.2 フォートカルホーンの洪水評価[1] 米国原子力発電所では安全解析書(FSAR)で自然現象による影響評価と対応を行い、NRCの審査を受けている。FSARは新しい情報が出てきた場合には適宜変更が行われる。洪水については大雨、ダムの決壊、津波等について過去の実績を踏まえ、設計基準水位を設定し、その水位になった場合でも原子炉の安全性が確保されることを示す必要がある。フォートカルホーンでは水位上昇が大きい事象として上流のダムで、最も近いギャビンズポイントの決壊を設定し、通常のミズーリ川の水位(995feet)に対し19feet 高い1014feet を設計基準水位としている。この設計基準水位は敷地の1004feet より高いため、格納容器、非常用ディーゼル発電機室、補助建屋等の安全上重要な設備は金属製の洪水防護ゲート、砂袋や貫通部のシール等の対応により浸水を防ぐ設計となっている。一方、設計基準水位では特高開閉所は冠水し、機能を失うことになるため、 非常用ディーゼル発電機が起動する対応となっている。一方、1990 年台にNRC の勧告に基づき各事業者は設計基準事象を超えた自然現象が発生した場合の評価としてIPEEE(Individual Plant Examination for External Event) を実施したが、その際フォートカルホーンでは上流の4 つのダムの決壊を仮定した。これは上流のひとつのダムが決壊すると、その水が下流に流れ、下流にあるダムも連鎖的に決壊する可能性があるとの考え方に基づく。評価の結果、水位は1035feet まで上昇し、格納容器内の設備以外のものは外部電源及び非常用電源も含め機能を失うことになる。このような状況に対しては高所にある燃料取り換えフロアーにガソリンエンジン駆動のポンプを設置し、必要な場合にはこのポンプで直接SG に水を入れて炉心の冷却を行うような方策が考えられている。2.3 貫通部シール設置不備のNRC の指摘[3] 2010 年にNRC の検査官がフォートカルホーンの補助建屋と取水口設備の貫通部の一部にシールが施されていない部分があることを指摘した。この要因は発電所全体としてシールの重要性についての認識が薄かったことによるものとされ、NRC は安全上の重要度が中程度の問題(YELLOW)と判断した。指摘後フォートカルホーンは必要なシール設置を行った。その後、フォートカルホーンでは貫通部シール性能を確保、強化するためにシールの検査を行い、劣化が進んでいれば補修・テストを行っている。2.4 ミズーリ川の洪水[2] 2010 年から2011 年にかけての冬場にミズーリ川上流の山間部に大量の雪が降り(Fig.1)、春の大雨も重なり大量の水がミズーリ川に流れ込んだ。これに伴いダムの水位が上昇し、ミズーリ川を管理している陸軍のCorps of Engineering はダムの決壊を防ぐためにダムの管理放流を行った。 ダムの放流は継 続的に約2.5 ヶ月続き、放流水量は2011 年6 月1 日には81,000 立方feet/秒(cfs))、6 月30 日には160,000cfsとなった(2011 年の水位上昇までの最大は70,000cfs であった)。これに伴いミズーリ川下流の水位が上昇し、フォートカルホーンでは通常の水位が海抜995feet であるのに対し、この放流により最高水位が12feet 上昇し、1007feet まで達した。ただし、これは設計基準水位(1014feet)より低い値である。フォートカルホーンの敷地レベルは通常のミズーリ川の水位より約9feet 高いが、今回の洪水では水位が通常より約12feet 上昇しており、敷地は約60 日の間、約3feet (約1m)水没することとなった。(Fig.2) なお、ミズーリ川のフォートカルホーンの下流にはクFig.2 Flooding at Fort Calhoun NPP 3Fig.3 Water level of Missouri river and site elevation of Fort Calhoun NPP ーパー原子力発電所があるが、比較的高い場所にあるため主要部の浸水は免れた。2.5 フォートカルホーンの対応 ダムの放流時にフォートカルホーンでは燃料取替えのためプラント停止状態であったが、ダムの放流の3 日前に放流の通知があったため、各施設の周りに土壌を積み上げた形で土手を設置した。放流により水位上昇が始まり、フォートカルホーンでは異常事象発生通知を出したが、土手により主要施設である格納容器、非常用ディーゼル発電機室、補助建屋、開閉所等は水没することはなかったが、倉庫を含む敷地は土手設置の対象となっておらず、6 月中旬から8 月中旬にかけて水没し、資機材について損害が出た。所外電源は確保されており、洪水による安全系への影響はなかった(Fig.3)。洪水の期間、作業者は近くの学校等に駐在し、水の排出のためガソリン駆動のポンプや発電機用の燃料としてガソリンの缶をプラントに運んだ。また、サイト内で職員、作業者が移動できるよう6feet の高さの足場により一時的な通行路を設置した。 2.6 ミズーリ川の洪水及び福島第一事故を踏まえた洪水対応 ミズーリ川の洪水及び福島第一事故を踏まえ、フォートカルホーンのミズーリ川洪水に関する設計基準水位として、単一ダムの決壊でなく、複数のダムが連鎖的に決壊するという事象を踏まえたものとすべきであるとの判断が示された。現在、事業者のOPPD では福島第一事故を踏まえた短期タスクフォース(NTTF)の勧告2.1 に基づくNRC の洪水再評価の指示に対応して、上流の複数のダム決壊を前提とした評価を実施中である。3 IMC-350 による停止プラントの監視と再起動に向けての対応 3.1 安全上重要な問題が発生した場合の対応 NRC では通常、原子力発電所に対しROP(Reactor Oversight Process :1MC-0305)の枠組みでプラントの監視を行うが、NRC 検査の重要度決定プロセスにおいて当該プラントで安全上の重要度が高い問題が発生したと判断した場合等にはIMC-0350“Oversight of Reactor Facilities in a Shutdown Condition due to Significant Performance and/or Operational Concern”に基づく監視を行うことになる。これは2002年のDavis Besseで原子炉容器の損傷が発生した場合にもとられた措置であり、CAL(Confirmatory Action Plan)により対策すべき項目についてNRC と事業者が話し合った結果をNRCが文書で事業者に通知するものである。事業者はCAL のチェックリスト項目への対応を行い、NRC が当該プラントが安全上の問題を解消したことを検査で確認した後、再起動の承認を下すことになる。これら一連の対応措置及び文書はパブリックミーティング等を通じ一般に公開されている。 3.2 Fort Calhoun での安全問題[4][5] フォートカルホーンでは前述のように2010 年にNRC の検査で洪水対策に問題があることが指摘されていた。さらに洪水が発生している時期の2011 年6 月7 日に安全系統の遮断器の火災が発生した。遮断器の問題は40 年前のGE 社製遮断器を数年前に別のベンダーのものに取り替える際、既存のGE 社製のバケットに収納する設計としたが、接続部の設計に問題があり、電源ラインが十分に接触していなくて加熱を起こし、遮断器が爆発し、火災が発生したものである。これにより、当該系統が機能を失ったが、他の系統も影響を受けトリップした。この事象についてNRC は検査を行い、その内容について重要度決定プロセスに従い、リスク重要度を判定した。判定の結果。4 つの区分(緑、白、黄、赤)の内、安全上の重要度が最も高い問題(赤)となった。これらの状況を踏まえNRC は2011 年12 月13 日にフォートカルホーンの監視をIMC-0350 の枠組みで行うことをOPPD に通告し、更に2012 年6 月11 日にCAL を発行した。 CAL にはNRC の再起動までのチェックリストが示されている。(Table.1) チェックリストの第1 セクションは重大パーフォーマンスの劣化の問題で、洪水、440V 配電系統の問題、ブレーカ火災、設計の問題、訓練の問題、セキュリティー違反、原子炉保護系の問題等多くの問題がある。第2 セクションは洪水復旧の対応、第3 セクションは是正措置プログラム(CAP)、エンジニアリングプログラム、保全プログラム、品質保証プログラム等である。1900/01/03Table.1 Part of checklist of CAL to Fort Calhoun NPP 3.3 再起動に向けての事業者の対応 上記のNRC の対応を踏まえ、OPPD は洪水による影響の復旧を含む再起動までの回復計画としてフォートカルホーンの統括改善計画(Fort Calhoun Station Integrated Performance Improvement Plan)をNRC に提出している。計画は100 項目以上の対応項目があり、以下の6 つのカテゴリーに分かれている。・ サイト復旧 ・プラントの系統と機器・長期の機器信頼性・設計及び認可のベース・緊急時計画・セキュリティー洪水の影響に対する復旧作業としては、サイト内で洪水により生じた異物の清掃・除去、すべての構造物・系統の損傷の有無の検査、地中のケーブルダクトの点検のほか土壌の安定性の評価が含まれる。土壌は水に3か月浸かったことによる強度の問題があり、は数100 のボーリングを行って分析を行った。 これらの回復作業はほぼ終了しており、OPPD は2013 年春には再起動したいと考えていたが、2012 年末に緊急炉心冷却用ポンプのアンカーボルトの長さが所定のものより短い(16 インチあるべきものが9 インチしかなかった)ことが判明し、再起動の時期が遅れている。 参考文献 [1] Fort Calhoun FSAR Chapter2 [2] June 6, 2011 Preliminary Notification of Event or Unusual Occurrence -PNO-IV-11-003~PNO- IV-003-F [3]Licensee Event Report 2011-003, Revision 3, for the Fort Calhoun Station [4] Confirmatory Action Letter-Fort Calhoun CAL4-12-002 Feb.26.2013 [5].Fort Calhoun station Integrated Performance Improvement Plan, Revision 4 Nov.1.2012 (平成25 年6 月18 日)
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