浜岡原子力発電所5号機 主復水器細管損傷の影響調査(その2)
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カテゴリ: 第10回
1.はじめに
浜岡原子力発電所5号機(以下,「5号機」という。)(定格電気出力138万kW)は,経済産業大臣からの運転停止要請「浜岡原子力発電所の津波に対する防護対策の確実な実施とそれまでの間の運転の停止について」を受け,平成23年5月14日10時15分に発電を停止し,原子炉減圧操作中のところ(平成23年5月14日12時59分に原子炉未臨界に到達した後),復水器の細管損傷により原子炉施設内に海水が混入する事象が発生した。 ここでは,これまでに当社が実施してきた5号機の原子炉施設への影響調査の概要を報告する。
2.原子炉施設への影響調査 海水が混入した原子炉施設は,浄化系統による浄化や脱塩水による置換を行いながら,原子炉施設の影響調査を進めている。 原子炉圧力容器や復水貯蔵槽については,海水由来成分の浄化が十分に行われており,その他の設備については,液体廃棄物処理系の処理能力を考慮して,脱塩水に よる置換にて海水由来成分の浄化を進めている。 また,海水が混入した設備の健全性評価として,機器の点検,腐食影響調査,及び試験片による設備材料試験を進めている。 3.設備健全性評価 3.1 設備健全性評価方針 原子炉施設への海水混入により,設備への影響が懸念されることから,海水が混入した全ての設備の健全性を評価する。 健全性評価にあたっては,機器の点検・洗浄の上,腐食影響調査及び試験片による設備材料試験で得られた結果を踏まえて,機器レベルでの健全性評価を行う。 また,これらの機器から構成される系統の運転による機能確認・洗浄を実施し,系統レベルでの健全性評価を行い,設備の継続使用の可否を総合的に判断する。 なお,継続使用が可能と判断した設備であっても,腐食等が認められた機器については,今後のプラント運転以降も継続的な点検・評価により,設備の健全性を確認していく。 Fig.1 The outline of integrity assessment for components 3.2 機器レベルの健全性評価 機器レベルの健全性評価を実施するため,分解・開放点検,運転又は動作確認,漏えい確認等の基本点検,及び設備洗浄試験の結果を踏まえた洗浄を実施し,腐食影響調査,及び試験片による設備材料試験の結果において,腐食等の異常が認められた場合は,基本点検の対象範囲や点検箇所を拡大する。 また,基本点検,腐食影響調査,及び試験片による設備材料試験の結果において,腐食等の異常が認められた場合は,それぞれの事象に応じた追加点検を実施し,これらの結果から機器レベルの健全性を評価する。 なお,健全性を確保できないと評価した機器については,補修や取替の処置を実施する。 3.2.1点検内容 (1) 原子炉圧力容器及び炉内構造物以外の機器 ア.対象範囲 原子炉圧力容器及び炉内構造物を除く,海水が混入した範囲の全ての機器を対象とする。 イ.点検方法 対象範囲の機種毎に,要求機能と要求機能に影響を及ぼす各部位の腐食形態を整理し,それぞれの腐食形態に応じた点検を実施する。 機器レベルの健全性評価における点検のうち,運転又は動作確認,及び漏えい試験等による点検を実施する機器は,海水が混入した範囲の全ての機器とする。 また,分解・開放点検を実施する機器については,構造,材料等の機器仕様,及び海水混入後に経験した環境の観点で選定する。 今停止中に分解・開放点検を実施する機器の選定にあたっては,機器仕様が類似又は同一の機器が複数存在する機器を,腐食に関する文献を基に区分した環境(温度,塩化物イオン濃度)でグループ化し,グループ毎に材料,構造等を考慮し,供用期間中検査の規格である「日本機械学会発電用原子力設備規格 維持規格」(以下,「維持規格」という。)の標準検査に用いられている10年間で実施する検査における試験程度を参考とした抜き取りの程度で選定する。 なお,分解・開放点検の結果,腐食等の異常が認められた場合には,この抜き取りの程度を拡大して点検を実施する。 点検手順,腐食等の有無の判定基準は,これまでの保守点検において用いている規格・指針を準用する。 準用が困難な場合は,技術的に妥当であると確認されたものを採用する等,点検の対象機器毎に,点検手順及び判定基準を策定する。 (2) 原子炉圧力容器及び炉内構造物 ア.対象範囲 原子炉圧力容器及び炉内構造物の全てを対象とする。 イ.点検方法 海水混入の影響により,全面腐食,孔食,すき間腐食,応力腐食割れが考えられることから,維持規格に定めるそれぞれの腐食形態に対する検知性を考慮した目視点検を実施する。 目視点検の範囲は,海水混入の影響による腐食に着目した基準がないことから,維持規格の標準検査に用いられている10年間で実施する検査における試験程度を参考として,7.5%(約30°)以上,複数あるものは任意の1体又は1系統とし,今停止期間中に実施する。 また,シュラウド及びシュラウドサポートの溶接部の点検範囲は,「発電用原子力設備における破壊を引き起こすき裂その他の欠陥の解釈について(内規)」(平成21・11・18原院第1号)のシュラウドの試験範囲30%(約110°)を参考として点検する。 Slight corrosion (Max 0.3mm in corrosion depth) なお,目視点検の結果,腐食等の異常が認められた場合には,この試験範囲を拡大して点検を実施する。 点検手順,腐食等の有無の判定基準は,維持規格を準用する。 準用が困難な場合は,技術的に妥当であると確認されたものを採用する等,点検の対象範囲毎に,点検手順及び判定基準を策定する。 ウ.その他 原子炉圧力容器及び炉内構造物の健全性評価に資するため,原子炉圧力容器内に設置していた監視試験片 を取出し,日本核燃料開発株式会社の照射後試験施設にて,海水混入による影響を調査する。 3.2.2 分解・開放点検の結果(中間結果) (1) 原子炉圧力容器及び炉内構造物以外の機器 これまでに,原子炉設備では,制御棒駆動水ポンプ,制御棒駆動水加熱器,余熱除去ポンプ,余熱除去熱交換器,補給水ポンプ,弁,配管,計測機器等の分解・開放点検を実施しており,また,タービン設備では,グランド蒸気エキゾスタ,弁,エキスパンションの分解・開放点検を実施している。 主な点検結果を以下に示す。 ・余熱除去ポンプのシャフトの一部に軽微な腐食が認められた。 ・補給水ポンプのケーシング及びケーシングカバーにあばた状の腐食が認められた。 ・制御棒駆動水圧系の一部の弁(弁棒・弁箱等)に腐食が認められた。 ・補給水系の一部の弁(弁棒・弁箱)に腐食が認められた。 ・補給水系の一部の弁(弁蓋)に部分的な欠損が認められた。 ・ 補給水系の配管に,過去の点検時と比較して多くの付着物が認められた。また,配管の減肉が認められた。 Fig.2 Surface appearance of RHR shaft sleeve(SUS420J1) P1030395.jpgP1030299.jpg (left) pump casing(SCPH2) (right) pump casing cover(SS400) Fig.3 Surface appearance of MUWC pump e:\profiles\c4749987\デスクトップ\弁腐食状況\5P14-F018A\手入れ後\5P14F018A弁箱内部1.jpgF:\5P14-F009\手入前\PC080080.jpg(left)valve box(S28C) Ca.0.5mm in corrosion depth (right) valve rod(SUS403-B) Max 3.71mm in corrosion depth corrosion Fig.4 Surface appearance of valve in MUWC オリフィス下流-2.jpgFig.5 Surface appearance of piping inside in MUWC (STPG370) これまでの点検で認められた腐食や付着物等については,各機器の要求機能への影響を評価し,必要に応じて補修・取替を行っている。また,これらの知見については,必要に応じて機器の点検方法や点検範囲等に反映し,引き続き,健全性評価を進めていく。 (2) 原子炉圧力容器及び炉内構造物 原子炉圧力容器は全燃料取り出しが完了した後,炉内構造物の点検を実施してきたが,1号機及び2号機の使用済燃料を5号機へ搬入するため,5号機の原子炉圧力容器及び原子炉格納容器の上蓋の閉止が必要となったことから,上蓋再開放までの間,原子炉圧力容器の漏えい防止機能が要求される箇所について優先的に点検・評価を行い,平成24年12月より原子炉圧力容器及び炉内構造物の点検を一時中断している。 ア.点検結果 (ア)原子炉圧力容器 原子炉圧力容器内面の内張り材(材質:SUS309系溶接金属)に腐食が認められた。 腐食の範囲を確認した結果,腐食は原子炉圧力容器の高さEL 12000~15500mmの範囲,及びEL 1844~10136mmの範囲の全周に分布していることを確認した。 また,その他の点検した範囲に腐食等の異常は認められなかった。 (left) Surface appearance of dry tube pipe in SRNM(SUS316TP) (right) Surface appearance of dry tube seal in SRNM(XM-19 nitriding) Fig.6 Surface appearance of lining in RPV (SUS309 weld metal) DSC00060Fig.7 Surface appearance of components inside RPV (イ)炉内構造物 以下に示す炉内構造物の一部に腐食又は変色が認められた。また,その他の点検した範囲に腐食等の異常は認められなかった。 ・下部ガイドロッドブラケットの溶接部(材質:SUS308系溶接金属)に腐食が認められた。 ・ 制御棒案内管の内外表面に変色が認められた。 ・制御棒の冷却孔から確認できる中性子吸収棒(材質:SUS304L相当),及びシースとタイロッド(材質:SUS316L)の溶接部等に変色が認められた。 ・ 起動領域モニタドライチューブのシール部(材質:XM-19窒化処理)のシール接触面より上方のインコアフランジとのすき間部に腐食が認められた。 また,パイプとリング(材質:SUS316)の溶接部に変色が認められた。 これらの点検で認められた腐食や変色は,原子炉圧力容器の漏えい防止機能に影響はない。 また,これまでの点検で認められた腐食や変色の知見については,必要に応じて機器の点検方法や点検範囲等に反映する。 (left) Surface appearance of weld zone on guide rod blacket (SUS308 weld metal) (right) Surface appearance of control rod guide tube(XM-19) DSC00029DSC00001 DSC00004.JPGDSC00012.JPGDSC00014.JPG (left,center) Surface appearance of neutron absorber on control rod (equate SUS304L) (right) Surface appearance of control rod sheath and weld zone on tie rod(SUS316L) イ.原子炉圧力容器の内張り材の腐食に関する評価 腐食が認められた内張り材は,原子炉圧力容器の母材の内面に溶接された溶接金属であり,母材の腐食防止として施工しているものであるため,強度部材ではない。 このため,母材への影響を確認するため,当該腐食の研磨や原子炉圧力容器外面からの超音波探傷試験を行った。 更に,原子炉圧力容器及び炉内構造物については,点検を中断することから,当該腐食の電気化学的観点からの腐食進展評価として,社内規程に基づく,原子炉冷温停止中の基準濃度(塩化物イオン濃度:0.5ppm以下)における腐食電位を測定し,腐食進展の可能性を評価した。 (ア)腐食の母材への影響調査 内張り材の腐食の母材への影響を確認するため,表面研磨及び原子炉圧力容器外面からの超音波探傷試験による調査を実施した。 内張り上部の調査箇所は,EL 14000~15500mmの範囲に認められた腐食の面積が比較的大きかったため,下部ガイドロッドブラケット近傍(EL 15300mm)とした。 また,内張り下部の調査箇所については,H9溶接部近傍(EL 1844mm)に認められた腐食の面積が比較的大きかった箇所(249°近傍)と,腐食が連続して認められた箇所(262°近傍)とした。 a.内張り上部の腐食 表面研磨により,腐食を除去することができ,研磨量から腐食は内張り材内部に留まっており,母材まで到達していないことを確認した。 b.内張り下部の腐食 表面研磨により,腐食を一部除去することができなかったものの,原子炉圧力容器外面からの超音波探傷試験により,腐食が母材まで到達していないこと確認した。 Fig.8 Surface appearance of lining in upper side of RPV as found condition after maintenance (320μm polished) Fig.9 Surface appearance of lining in lower side of RPV (イ)腐食進展評価 社内規程に基づく原子炉冷温停止中の基準濃度(塩化物イオン濃度:0.5ppm以下)における腐食の進展を電気化学的観点から評価するため,実機の内張り材と同じ溶接金属,溶接方法,溶接温度,及び熱処理にて製作した試験片を用いて,自然腐食電位,孔食電位,腐食すき間再不動態化電位の測定を行った。 なお,孔食電位,腐食すき間再不動態化電位の測定は,それぞれ「ステンレス鋼の孔食電位測定方法(JIS G 0577)」,「ステンレス鋼の腐食すきま再不動態化電位測定方法(JIS G 0592)」を参考にして実施した。 この結果,社内規程に基づく原子炉冷温停止中の基準濃度(塩化物イオン濃度:0.5ppm以下)において,腐食が進展しないと評価した。 以上から,原子炉圧力容器の内張り材に認められた腐食は母材まで達しておらず,社内規程に基づく原子炉冷温停止中の基準濃度(塩化物イオン濃度:0.5ppm以下)を維持することで,原子炉圧力容器の漏えい防止機能に影響はないと評価した。 なお,この腐食については,原子炉圧力容器外面からの超音波探傷試験により,母材まで進展していないことを確認し,引き続き,健全性評価を進めていく。 3.3腐食影響調査 機器の腐食状況を把握するため,構造や機種を考慮して選定し,海水混入による腐食影響調査を進めている。 これまでの調査結果から,機器の機能・性能に影響を及ぼすと考えられる結果については,他の機器の点検内容に反映している。 3.4 設備材料試験 海水が混入した設備の腐食状況の把握,設備を継続使用する場合における腐食挙動に関する知見の拡充,腐食に対する機器の構造強度評価,及び機能評価を補完するために,実機の環境を模擬した試験片による材料の腐食試験を実施している。 材料試験は,以下の3つの環境を対象とし,各環境における材料の腐食挙動を確認している。 ・海水混入時の原子炉圧力容器内の過渡的環境(短時間の高温環境)を模擬した試験 ・海水を含む低温水に長期間晒された環境を模擬した試験 ・プラント起動後の通常水質環境を模擬した試験 また,上記3つの環境における試験条件の適切性を確認するために,すき間腐食の温度加速倍率に係る試験を実施し,また,試験結果の妥当性を確認するために,研究機関によるクロスチェックを実施した。 これまでに実施した材料試験の結果,及び現在実施しているプラント起動後の通常水質環境を模擬した試験の結果について,点検対象機器の点検方法,点検範囲等に反映していくとともに,設備の健全性を評価していく。 3.5設備洗浄試験 海水が混入した設備を継続使用するにあたっては,今後のプラント運転状態においても,腐食が発生・進展しないことを評価する必要があることから,機器の狭隘部やすき間部を含めた部位の適切な洗浄方法を検討するための洗浄試験を進めている。 以下に示すとおり,原子炉設備及びタービン設備が経験した環境を再現したモックアップ試験を実施した。 ・平面への塩化物の付着量評価試験,及び洗浄効果確認試験 ・すき間部(メタルタッチ部を含む)への塩化物の侵入量評価試験,及び洗浄効果確認試験 ・堆積部における塩化物の洗浄効果確認試験 これまでの洗浄試験結果から,長期間の純水保管により平面部及びすき間部の洗浄効果が期待でき,更に循環運転と組み合わせることにより洗浄時間が短縮できると評価した。 実機においてすき間腐食が認められていることから,今後,すき間腐食が発生した場合を考慮した洗浄試験を計画し,これらの結果を踏まえて適切な洗浄方法を検討していく。 4.結言 これまでの原子炉施設の点検結果,及び腐食影響調査の結果で確認した腐食等については,現在の状態における原子炉施設の安全性に影響を及ぼすものではないと考えるが,引き続き実施する機器の点検,腐食影響調査,及び試験片による設備材料試験で得られた知見については,機器の点検方法,点検範囲等に適切に反映するとともに,残留塩化物に対する設備洗浄試験の結果も踏まえて設備の健全性を評価していく。 なお,機械設備の健全性評価にあたっては,株式会社東芝、日立GEニュークリア・エナジー株式会社及び一般財団法人電力中央研究所の技術的支援を受けるとともに,社内に設備健全性評価検討委員会を設置し,社外専門家のご意見を踏まえながら検討を進めている。東北大学 庄子教授をはじめ,同 渡辺教授,静岡大学 東郷教授,同 藤井助教及び日本原子力研究開発機構 山本副部門長には,多忙の中委員を引き受けて頂き多くの助言を頂いたことを心よりお礼申し上げます。 参考文献 [1] 「中部電力株式会社浜岡原子力発電所第5号機における復水器細管損傷の影響の調査について(指示)」に対する報告について(中間報告)(本原原発第5号 平成24年4月25日) [2] 浜岡原子力発電所5号機復水貯蔵槽内張り材の腐食孔について(本原原発第8号 平成24年5月28日) [3] 「中部電力株式会社浜岡原子力発電所第5号機における復水器細管損傷の影響の調査について(指示)」に対する報告について(第2回中間報告)(本原原発第68号 平成25年1月30日)
“ “浜岡原子力発電所5号機 主復水器細管損傷の影響調査(その2) “ “市川 義浩,Yoshihiro ICHIKAWA,釘本 三男,Mitsuo KUGIMOTO,三谷 和己,Kazumi MITANI,堀井 一明,Kazuaki HORII,直井 万隆,Banryu NAOI“ “浜岡原子力発電所5号機 主復水器細管損傷の影響調査(その2) “ “市川 義浩,Yoshihiro ICHIKAWA,釘本 三男,Mitsuo KUGIMOTO,三谷 和己,Kazumi MITANI,堀井 一明,Kazuaki HORII,直井 万隆,Banryu NAOI
浜岡原子力発電所5号機(以下,「5号機」という。)(定格電気出力138万kW)は,経済産業大臣からの運転停止要請「浜岡原子力発電所の津波に対する防護対策の確実な実施とそれまでの間の運転の停止について」を受け,平成23年5月14日10時15分に発電を停止し,原子炉減圧操作中のところ(平成23年5月14日12時59分に原子炉未臨界に到達した後),復水器の細管損傷により原子炉施設内に海水が混入する事象が発生した。 ここでは,これまでに当社が実施してきた5号機の原子炉施設への影響調査の概要を報告する。
2.原子炉施設への影響調査 海水が混入した原子炉施設は,浄化系統による浄化や脱塩水による置換を行いながら,原子炉施設の影響調査を進めている。 原子炉圧力容器や復水貯蔵槽については,海水由来成分の浄化が十分に行われており,その他の設備については,液体廃棄物処理系の処理能力を考慮して,脱塩水に よる置換にて海水由来成分の浄化を進めている。 また,海水が混入した設備の健全性評価として,機器の点検,腐食影響調査,及び試験片による設備材料試験を進めている。 3.設備健全性評価 3.1 設備健全性評価方針 原子炉施設への海水混入により,設備への影響が懸念されることから,海水が混入した全ての設備の健全性を評価する。 健全性評価にあたっては,機器の点検・洗浄の上,腐食影響調査及び試験片による設備材料試験で得られた結果を踏まえて,機器レベルでの健全性評価を行う。 また,これらの機器から構成される系統の運転による機能確認・洗浄を実施し,系統レベルでの健全性評価を行い,設備の継続使用の可否を総合的に判断する。 なお,継続使用が可能と判断した設備であっても,腐食等が認められた機器については,今後のプラント運転以降も継続的な点検・評価により,設備の健全性を確認していく。 Fig.1 The outline of integrity assessment for components 3.2 機器レベルの健全性評価 機器レベルの健全性評価を実施するため,分解・開放点検,運転又は動作確認,漏えい確認等の基本点検,及び設備洗浄試験の結果を踏まえた洗浄を実施し,腐食影響調査,及び試験片による設備材料試験の結果において,腐食等の異常が認められた場合は,基本点検の対象範囲や点検箇所を拡大する。 また,基本点検,腐食影響調査,及び試験片による設備材料試験の結果において,腐食等の異常が認められた場合は,それぞれの事象に応じた追加点検を実施し,これらの結果から機器レベルの健全性を評価する。 なお,健全性を確保できないと評価した機器については,補修や取替の処置を実施する。 3.2.1点検内容 (1) 原子炉圧力容器及び炉内構造物以外の機器 ア.対象範囲 原子炉圧力容器及び炉内構造物を除く,海水が混入した範囲の全ての機器を対象とする。 イ.点検方法 対象範囲の機種毎に,要求機能と要求機能に影響を及ぼす各部位の腐食形態を整理し,それぞれの腐食形態に応じた点検を実施する。 機器レベルの健全性評価における点検のうち,運転又は動作確認,及び漏えい試験等による点検を実施する機器は,海水が混入した範囲の全ての機器とする。 また,分解・開放点検を実施する機器については,構造,材料等の機器仕様,及び海水混入後に経験した環境の観点で選定する。 今停止中に分解・開放点検を実施する機器の選定にあたっては,機器仕様が類似又は同一の機器が複数存在する機器を,腐食に関する文献を基に区分した環境(温度,塩化物イオン濃度)でグループ化し,グループ毎に材料,構造等を考慮し,供用期間中検査の規格である「日本機械学会発電用原子力設備規格 維持規格」(以下,「維持規格」という。)の標準検査に用いられている10年間で実施する検査における試験程度を参考とした抜き取りの程度で選定する。 なお,分解・開放点検の結果,腐食等の異常が認められた場合には,この抜き取りの程度を拡大して点検を実施する。 点検手順,腐食等の有無の判定基準は,これまでの保守点検において用いている規格・指針を準用する。 準用が困難な場合は,技術的に妥当であると確認されたものを採用する等,点検の対象機器毎に,点検手順及び判定基準を策定する。 (2) 原子炉圧力容器及び炉内構造物 ア.対象範囲 原子炉圧力容器及び炉内構造物の全てを対象とする。 イ.点検方法 海水混入の影響により,全面腐食,孔食,すき間腐食,応力腐食割れが考えられることから,維持規格に定めるそれぞれの腐食形態に対する検知性を考慮した目視点検を実施する。 目視点検の範囲は,海水混入の影響による腐食に着目した基準がないことから,維持規格の標準検査に用いられている10年間で実施する検査における試験程度を参考として,7.5%(約30°)以上,複数あるものは任意の1体又は1系統とし,今停止期間中に実施する。 また,シュラウド及びシュラウドサポートの溶接部の点検範囲は,「発電用原子力設備における破壊を引き起こすき裂その他の欠陥の解釈について(内規)」(平成21・11・18原院第1号)のシュラウドの試験範囲30%(約110°)を参考として点検する。 Slight corrosion (Max 0.3mm in corrosion depth) なお,目視点検の結果,腐食等の異常が認められた場合には,この試験範囲を拡大して点検を実施する。 点検手順,腐食等の有無の判定基準は,維持規格を準用する。 準用が困難な場合は,技術的に妥当であると確認されたものを採用する等,点検の対象範囲毎に,点検手順及び判定基準を策定する。 ウ.その他 原子炉圧力容器及び炉内構造物の健全性評価に資するため,原子炉圧力容器内に設置していた監視試験片 を取出し,日本核燃料開発株式会社の照射後試験施設にて,海水混入による影響を調査する。 3.2.2 分解・開放点検の結果(中間結果) (1) 原子炉圧力容器及び炉内構造物以外の機器 これまでに,原子炉設備では,制御棒駆動水ポンプ,制御棒駆動水加熱器,余熱除去ポンプ,余熱除去熱交換器,補給水ポンプ,弁,配管,計測機器等の分解・開放点検を実施しており,また,タービン設備では,グランド蒸気エキゾスタ,弁,エキスパンションの分解・開放点検を実施している。 主な点検結果を以下に示す。 ・余熱除去ポンプのシャフトの一部に軽微な腐食が認められた。 ・補給水ポンプのケーシング及びケーシングカバーにあばた状の腐食が認められた。 ・制御棒駆動水圧系の一部の弁(弁棒・弁箱等)に腐食が認められた。 ・補給水系の一部の弁(弁棒・弁箱)に腐食が認められた。 ・補給水系の一部の弁(弁蓋)に部分的な欠損が認められた。 ・ 補給水系の配管に,過去の点検時と比較して多くの付着物が認められた。また,配管の減肉が認められた。 Fig.2 Surface appearance of RHR shaft sleeve(SUS420J1) P1030395.jpgP1030299.jpg (left) pump casing(SCPH2) (right) pump casing cover(SS400) Fig.3 Surface appearance of MUWC pump e:\profiles\c4749987\デスクトップ\弁腐食状況\5P14-F018A\手入れ後\5P14F018A弁箱内部1.jpgF:\5P14-F009\手入前\PC080080.jpg(left)valve box(S28C) Ca.0.5mm in corrosion depth (right) valve rod(SUS403-B) Max 3.71mm in corrosion depth corrosion Fig.4 Surface appearance of valve in MUWC オリフィス下流-2.jpgFig.5 Surface appearance of piping inside in MUWC (STPG370) これまでの点検で認められた腐食や付着物等については,各機器の要求機能への影響を評価し,必要に応じて補修・取替を行っている。また,これらの知見については,必要に応じて機器の点検方法や点検範囲等に反映し,引き続き,健全性評価を進めていく。 (2) 原子炉圧力容器及び炉内構造物 原子炉圧力容器は全燃料取り出しが完了した後,炉内構造物の点検を実施してきたが,1号機及び2号機の使用済燃料を5号機へ搬入するため,5号機の原子炉圧力容器及び原子炉格納容器の上蓋の閉止が必要となったことから,上蓋再開放までの間,原子炉圧力容器の漏えい防止機能が要求される箇所について優先的に点検・評価を行い,平成24年12月より原子炉圧力容器及び炉内構造物の点検を一時中断している。 ア.点検結果 (ア)原子炉圧力容器 原子炉圧力容器内面の内張り材(材質:SUS309系溶接金属)に腐食が認められた。 腐食の範囲を確認した結果,腐食は原子炉圧力容器の高さEL 12000~15500mmの範囲,及びEL 1844~10136mmの範囲の全周に分布していることを確認した。 また,その他の点検した範囲に腐食等の異常は認められなかった。 (left) Surface appearance of dry tube pipe in SRNM(SUS316TP) (right) Surface appearance of dry tube seal in SRNM(XM-19 nitriding) Fig.6 Surface appearance of lining in RPV (SUS309 weld metal) DSC00060Fig.7 Surface appearance of components inside RPV (イ)炉内構造物 以下に示す炉内構造物の一部に腐食又は変色が認められた。また,その他の点検した範囲に腐食等の異常は認められなかった。 ・下部ガイドロッドブラケットの溶接部(材質:SUS308系溶接金属)に腐食が認められた。 ・ 制御棒案内管の内外表面に変色が認められた。 ・制御棒の冷却孔から確認できる中性子吸収棒(材質:SUS304L相当),及びシースとタイロッド(材質:SUS316L)の溶接部等に変色が認められた。 ・ 起動領域モニタドライチューブのシール部(材質:XM-19窒化処理)のシール接触面より上方のインコアフランジとのすき間部に腐食が認められた。 また,パイプとリング(材質:SUS316)の溶接部に変色が認められた。 これらの点検で認められた腐食や変色は,原子炉圧力容器の漏えい防止機能に影響はない。 また,これまでの点検で認められた腐食や変色の知見については,必要に応じて機器の点検方法や点検範囲等に反映する。 (left) Surface appearance of weld zone on guide rod blacket (SUS308 weld metal) (right) Surface appearance of control rod guide tube(XM-19) DSC00029DSC00001 DSC00004.JPGDSC00012.JPGDSC00014.JPG (left,center) Surface appearance of neutron absorber on control rod (equate SUS304L) (right) Surface appearance of control rod sheath and weld zone on tie rod(SUS316L) イ.原子炉圧力容器の内張り材の腐食に関する評価 腐食が認められた内張り材は,原子炉圧力容器の母材の内面に溶接された溶接金属であり,母材の腐食防止として施工しているものであるため,強度部材ではない。 このため,母材への影響を確認するため,当該腐食の研磨や原子炉圧力容器外面からの超音波探傷試験を行った。 更に,原子炉圧力容器及び炉内構造物については,点検を中断することから,当該腐食の電気化学的観点からの腐食進展評価として,社内規程に基づく,原子炉冷温停止中の基準濃度(塩化物イオン濃度:0.5ppm以下)における腐食電位を測定し,腐食進展の可能性を評価した。 (ア)腐食の母材への影響調査 内張り材の腐食の母材への影響を確認するため,表面研磨及び原子炉圧力容器外面からの超音波探傷試験による調査を実施した。 内張り上部の調査箇所は,EL 14000~15500mmの範囲に認められた腐食の面積が比較的大きかったため,下部ガイドロッドブラケット近傍(EL 15300mm)とした。 また,内張り下部の調査箇所については,H9溶接部近傍(EL 1844mm)に認められた腐食の面積が比較的大きかった箇所(249°近傍)と,腐食が連続して認められた箇所(262°近傍)とした。 a.内張り上部の腐食 表面研磨により,腐食を除去することができ,研磨量から腐食は内張り材内部に留まっており,母材まで到達していないことを確認した。 b.内張り下部の腐食 表面研磨により,腐食を一部除去することができなかったものの,原子炉圧力容器外面からの超音波探傷試験により,腐食が母材まで到達していないこと確認した。 Fig.8 Surface appearance of lining in upper side of RPV as found condition after maintenance (320μm polished) Fig.9 Surface appearance of lining in lower side of RPV (イ)腐食進展評価 社内規程に基づく原子炉冷温停止中の基準濃度(塩化物イオン濃度:0.5ppm以下)における腐食の進展を電気化学的観点から評価するため,実機の内張り材と同じ溶接金属,溶接方法,溶接温度,及び熱処理にて製作した試験片を用いて,自然腐食電位,孔食電位,腐食すき間再不動態化電位の測定を行った。 なお,孔食電位,腐食すき間再不動態化電位の測定は,それぞれ「ステンレス鋼の孔食電位測定方法(JIS G 0577)」,「ステンレス鋼の腐食すきま再不動態化電位測定方法(JIS G 0592)」を参考にして実施した。 この結果,社内規程に基づく原子炉冷温停止中の基準濃度(塩化物イオン濃度:0.5ppm以下)において,腐食が進展しないと評価した。 以上から,原子炉圧力容器の内張り材に認められた腐食は母材まで達しておらず,社内規程に基づく原子炉冷温停止中の基準濃度(塩化物イオン濃度:0.5ppm以下)を維持することで,原子炉圧力容器の漏えい防止機能に影響はないと評価した。 なお,この腐食については,原子炉圧力容器外面からの超音波探傷試験により,母材まで進展していないことを確認し,引き続き,健全性評価を進めていく。 3.3腐食影響調査 機器の腐食状況を把握するため,構造や機種を考慮して選定し,海水混入による腐食影響調査を進めている。 これまでの調査結果から,機器の機能・性能に影響を及ぼすと考えられる結果については,他の機器の点検内容に反映している。 3.4 設備材料試験 海水が混入した設備の腐食状況の把握,設備を継続使用する場合における腐食挙動に関する知見の拡充,腐食に対する機器の構造強度評価,及び機能評価を補完するために,実機の環境を模擬した試験片による材料の腐食試験を実施している。 材料試験は,以下の3つの環境を対象とし,各環境における材料の腐食挙動を確認している。 ・海水混入時の原子炉圧力容器内の過渡的環境(短時間の高温環境)を模擬した試験 ・海水を含む低温水に長期間晒された環境を模擬した試験 ・プラント起動後の通常水質環境を模擬した試験 また,上記3つの環境における試験条件の適切性を確認するために,すき間腐食の温度加速倍率に係る試験を実施し,また,試験結果の妥当性を確認するために,研究機関によるクロスチェックを実施した。 これまでに実施した材料試験の結果,及び現在実施しているプラント起動後の通常水質環境を模擬した試験の結果について,点検対象機器の点検方法,点検範囲等に反映していくとともに,設備の健全性を評価していく。 3.5設備洗浄試験 海水が混入した設備を継続使用するにあたっては,今後のプラント運転状態においても,腐食が発生・進展しないことを評価する必要があることから,機器の狭隘部やすき間部を含めた部位の適切な洗浄方法を検討するための洗浄試験を進めている。 以下に示すとおり,原子炉設備及びタービン設備が経験した環境を再現したモックアップ試験を実施した。 ・平面への塩化物の付着量評価試験,及び洗浄効果確認試験 ・すき間部(メタルタッチ部を含む)への塩化物の侵入量評価試験,及び洗浄効果確認試験 ・堆積部における塩化物の洗浄効果確認試験 これまでの洗浄試験結果から,長期間の純水保管により平面部及びすき間部の洗浄効果が期待でき,更に循環運転と組み合わせることにより洗浄時間が短縮できると評価した。 実機においてすき間腐食が認められていることから,今後,すき間腐食が発生した場合を考慮した洗浄試験を計画し,これらの結果を踏まえて適切な洗浄方法を検討していく。 4.結言 これまでの原子炉施設の点検結果,及び腐食影響調査の結果で確認した腐食等については,現在の状態における原子炉施設の安全性に影響を及ぼすものではないと考えるが,引き続き実施する機器の点検,腐食影響調査,及び試験片による設備材料試験で得られた知見については,機器の点検方法,点検範囲等に適切に反映するとともに,残留塩化物に対する設備洗浄試験の結果も踏まえて設備の健全性を評価していく。 なお,機械設備の健全性評価にあたっては,株式会社東芝、日立GEニュークリア・エナジー株式会社及び一般財団法人電力中央研究所の技術的支援を受けるとともに,社内に設備健全性評価検討委員会を設置し,社外専門家のご意見を踏まえながら検討を進めている。東北大学 庄子教授をはじめ,同 渡辺教授,静岡大学 東郷教授,同 藤井助教及び日本原子力研究開発機構 山本副部門長には,多忙の中委員を引き受けて頂き多くの助言を頂いたことを心よりお礼申し上げます。 参考文献 [1] 「中部電力株式会社浜岡原子力発電所第5号機における復水器細管損傷の影響の調査について(指示)」に対する報告について(中間報告)(本原原発第5号 平成24年4月25日) [2] 浜岡原子力発電所5号機復水貯蔵槽内張り材の腐食孔について(本原原発第8号 平成24年5月28日) [3] 「中部電力株式会社浜岡原子力発電所第5号機における復水器細管損傷の影響の調査について(指示)」に対する報告について(第2回中間報告)(本原原発第68号 平成25年1月30日)
“ “浜岡原子力発電所5号機 主復水器細管損傷の影響調査(その2) “ “市川 義浩,Yoshihiro ICHIKAWA,釘本 三男,Mitsuo KUGIMOTO,三谷 和己,Kazumi MITANI,堀井 一明,Kazuaki HORII,直井 万隆,Banryu NAOI“ “浜岡原子力発電所5号機 主復水器細管損傷の影響調査(その2) “ “市川 義浩,Yoshihiro ICHIKAWA,釘本 三男,Mitsuo KUGIMOTO,三谷 和己,Kazumi MITANI,堀井 一明,Kazuaki HORII,直井 万隆,Banryu NAOI