女川原子力発電所 主タービン設備における地震後の復旧工事について

公開日:
カテゴリ: 第10回
1.はじめに
女川原子力発電所は、1 号機および3 号機が通常運転中、2 号機が原子炉起動中のところ、東北地方太平洋沖地震(マグニチュード9.0)の発生に伴い、平成23 年3 月11 日14 時46 分、全号機の原子炉および主タービンが自動停止した。2、3 号機主タービンにおいては、本地震後に行った点検の結果、動翼および中間軸受台などに顕著な損傷が確認されており、現在、これらの復旧工事を実施中である。本稿は、これらの地震による2、3 号機主タービン損傷状況と、その損傷状況に応じた復旧工事の取り組みを紹介するものである。
2.地震による主要な損傷状況
女川原子力発電所2、3 号機主タービンにおける地震による損傷状況をTable.1 に示す。両プラントともに地震に伴う大きな加速度を受け、各部に変形や接触傷が確認されているが、主要な損傷箇所は次項に示すとおり、前部軸受台、中間軸受台および動翼であった。 女川2 号機女川3 号機型式くし形4 流排気復水式(再熱式) くし形4 流排気復水式(再熱式) 地震時運転状態ターニング中(≒10rpm) 定格運転中(≒1500rpm) 加速度水平方向858 gal 928gal 鉛直方向797gal 675 gal 設備被害動翼(高圧) 接触傷(軽微) 接触傷(軽微) 動翼(低圧) 接触傷(軽微) 接触傷、摩耗 前部軸受台ソールプレート、取付 けボルト、キー等の変 形、損傷 取付けボルトの損傷等(軽微) 中間軸受台基礎コンクリート、ソ ールプレート、基礎ボ ルト、取付けボルト、 キー等の変形、損傷 基礎コンクリート、ソ ールプレート、取付け ボルト、キー等の変形、 損傷 軸受メタル摺動傷など摺動傷などその他各部のキー、ボルトの変形、曲りノズルダイヤフラム、油切り、ラビリンスパッキン、シールリングなどの損傷各部のキー、ボルトの変形、曲りノズルダイヤフラム、油切り、ラビリンスパッキン、シールリングなどの損傷 連絡先: 草階達朗、〒986-2293 宮城県牡鹿郡女川町塚浜字前田1 番、東北電力株式会社 女川原子力発電所保全部タービンG、E-mail: kusakai.tatsuo.wr@tohoku-epco.co.jp Table1. A list of damage status of the turbine 2.1 前部および中間軸受台 前部軸受台のソールプレート、取付けボルト、キーなどに変形、損傷が確認された(2 号機)。 また、中間軸受台については、基礎コンクリート、ソールプレート、基礎ボルト、取付けボルト、キーなどに変形、損傷が確認された(2、3 号機)。損傷例をFig.1 に示す。 2.2 動翼 高・低圧タービン動翼各部に静翼との接触傷が確認された(2、3 号機)。特に、3 号機低圧タービン(A)(B) の第9~16 段動翼については、顕著な摩耗が確認された。損傷例をFig.2 に示す。3.地震によるタービンの損傷メカニズム 地震によるタービンの損傷は、重量物であるロータおよび各車室の固定方法に大きく影響される。以下にその損傷メカニズムを説明する。3.1 前部/中間軸受台 高圧タービン車室は、運転時の熱膨張が考慮された設計となっているため、Fig.3 に示す通り、その荷重(車室および静翼など)は、前部軸受台および中間軸受台の2 点に集中する構造となっている。さらに、中間軸受台は、スラスト軸受が収納されているため、直結された高圧~低圧(A)(B)~発電機ロータ(合計約600t)のスラスト荷重をほぼ全て受ける。したがって、これら車室およびロータの地震時の荷重が、中間軸受台に過大に加わったことにより、中間軸受台各部の損傷に至ったと推定される。また、前部軸受台については、ロータスラスト荷重を受けないため、中間軸受台に比べて加わる荷重は少ないものの、高圧車室の荷重による影響を受け、損傷に至ったと推定される(2 号機)。 3.2 動翼 通常状態において、ロータはスラスト間隙分、スラスト方向に移動できるが、動翼と静翼の設計間隙はこれを十分に上回るため、通常では動翼と静翼の接触は発生し得ない。しかし、前述のとおり、スラスト軸受が収納された中間軸受台が地震により損傷することで、設計想定以上のロータ移動量が発生した。また、低圧タービン内部車室と外部車室を固定するキーも地震により変形したことに伴い、内部車室に固定される低圧タービンの静翼も、スラスト方向へ移動していたと推定される。これらの異なる部位の損傷により、動翼と静翼に相対的な変位が発生し、これが設計間隙を上回ったため、動翼と静翼が接触に至ったものと考えられる。また、各動翼の損傷程度の差異は、次の要因のとおりである。スラスト軸受から距離が近い低圧タービン(A)については、熱膨張によるロータ移動量が少ないため、動翼と静翼の設計間隙が比較的小さく設計されている。このため、低圧タービン(A)は動翼と静翼の接触が大きくなりやすい。高圧タービンも同様に、動翼と静翼の設計間隙が小さいが、これらのスラスト位置は、ともに中間軸受台を基準として固定されていることから、中間軸受台が損傷しても、動翼と静翼の相対的な変位は少ないため、接触も小さくなる。なお、定格運転中であった3 号機は、接触に伴う顕著な摩耗が確認されたが、ターニング中であった2 号Fig.2 Damage of the turbine blade Fig.1 Damage of the bearing stand 基礎ボルトの曲がり ソールプレート裏面の変形 摩耗 接触傷 Fig.3 Location of the casings and bearing stands 中間軸受台(スラスト軸受) 前部軸受台LP(A) LP(B) GEN ) HP ) 高圧車室の荷重は軸受台に集中 外部車室は全周をボルトで固定 機は、接触は発生したものの顕著な摩耗等は確認されなかった。4.損傷部位の復旧 4.1 前部/中間軸受台 (1)損傷部の補修内容 各部に変形、損傷等が確認されたことから、前部軸受台(2 号機)および中間軸受台(2、3 号機)を取り外し、各軸受台の工場補修、基礎ボルト、ソールプレート、各キーの新製取替え、基礎コンクリートの補修などを実施した。(2)軸受台の取外し方法の検討 補修に伴い、各軸受台を取り出す必要があるが、本来これらは取り出すことを想定した構造となっていない。このため、Fig.4 に示すとおり、嵌め合い部の干渉を回避するため、主蒸気配管など(最大1050A) が接続される高圧タービン下半車室を持ち上げる必要があった。上記状況より、高圧タービン下半車室の持ち上げ方法について、次項の2 つの工法について比較検討し、補修工事を実施した。 a.配管切断による車室持ち上げ 下半車室に接続される主蒸気配管等を全数切断した上で、下半車室を持ち上げるものである。本工法は、溶接事業者検査を伴う主蒸気配管等の切断、溶接復旧作業が必要となり、建設工事に近い大規模な工事となる。検討の結果、2 号機においては、配管構成、作業性などから、本工法を採用することが適切と判断した。本工事においては、Fig.5 に示すとおり、干渉する主蒸気配管等(リード管、クロスアラウンド管、抽気管、グランド蒸気管)を全て切断し、下半車室を完全に独立させ、点検床面に仮置きすることで前部軸受台および中間軸受台を取り外した。また、この際、下半車室からの拘束がなくなったことにより、切断した配管が自重により落ち込んで変形、損傷しないよう、Fig.6 に示すとおり、各部に仮サポートを設置して対策を施した。切断配管の復旧に当たっては、合理的な加工ができる切断工具を採用した。この切断工具を使用することにより、配管の切断と同時に安定した開先加工が可能となるため、一定のルート間隔を維持しながら切断ができる。したがって、既設配管同士の溶接が容易に可能となり、短管(新管)の挿入が不要となったことで、工期短縮、作業効率化を達成することが出来た。 高圧車室中間軸受台主蒸気配管(干渉部) Fig.4 Structure of the HP casing and Bearing stand 持ち上げ嵌め合い部(干渉部) 軸受台の取り出しFig. 5 Lifting of the HP casing and the bearing stand (Unit 2) 高圧車室(下半)の持ち上げ中間軸受台前部軸受台接続配管を全数切断Fig.6 Temporary support and Pipe cutting タービンペデスタル自重による 仮サポート 落ち込み切断工具切断・開先面 b.ジャッキアップによる車室持ち上げ 各サポート類を切断の上、主蒸気配管等の弾性変形を利用して下半車室を持ち上げるものである。この工法では、場合によっては主蒸気配管等に過大な応力が作用し、新たな損傷を引き起こす恐れがあることから、事前の変形量解析による評価が必要になる。しかし、本工法を用いることで、主蒸気配管などの切断、復旧が不要となることから、工期、費用面で優位である。検討の結果、3 号機においては、解析評価により本工法が採用できることが確認できたことから、Fig.7 に示すとおり、下半車室をジャッキアップの上、当該軸受台を取り出し、補修を実施した。なお、ジャッキアップは、各配管が損傷しないよう変形量を計測しながら、段階的に実施しており、本補修作業完了後、配管に異常がないことを確認した。 4.2 動翼 (1)2号機 2 号機の動翼接触は軽微であったため、手入れの上、接触部の浸透探傷検査等および応力集中部である動翼付根部の超音波探傷検査を実施した。これらの点検の結果、接触部および動翼付根部に異常がないことを確認したことから、現状にて復旧した。(2)3号機 3 機の動翼は、定格運転中の接触であったため各部に顕著な摩耗が確認されたが、解析の結果、動翼先端部の接触に伴う動翼付根部への応力集中が懸念されたことから、付根部の健全性確認のため、動翼抜取りによる詳細な点検が必要と判断した。動翼の抜取り範囲は、顕著な接触が確認された低圧タービン(A)(B)第9~16 段の動翼全数とした。上記検討に基づき、当該段落の動翼を全数抜取り後、付根部の磁粉探傷検査を実施した結果、付根部に地震による損傷等がないことを確認した。なお、動翼の復旧に当たっては、フォーク型である第16 段を除いて、抜取った動翼の再使用が構造上困難であったことから、第9~15 段全数の新製交換を行った。5.まとめ 東北地方太平洋沖地震によって主タービン各部に損傷が確認されたが、これらの復旧に当たっては、建設工事に匹敵する大規模な工事検討および工事期間を要した。当発電所主タービンにおいては、運転開始以降、この様な大規模な工事の経験は無かったが、メーカと一丸となって、復旧方法を検討し、無事故、無災害で工事をほぼ完了することができ、これらの経験は、当社にとって大きな財産となった。また、今回報告した内容は、地震による主タービンの損傷と復旧方法における知見の蓄積に資することが期待できると考える。(平成25 年6 月 21 日) Fig.8 Structure of the turbine blade and nozzle 動翼静翼動翼付根部(応力集中部) 主な接触部 Fig.7 Jack-up of the HP casing and the bearing stand (Unit 3) タービンペデスタル高圧車室(下半)のジャッキアップ油圧装置ジャッキ用ボルト主要配管は切断せず。下部のサポート、小口径配管は最低限切断ジャッキ用架台干渉の回避中間軸受台前部軸受台 “ “女川原子力発電所 主タービン設備における地震後の復旧工事について “ “河上 晃,Akira KAWAKAMI,渡辺 寛之,Hiroyuki WATANABE,齊藤 靖広,Yasuhiro SAITO,草階 達朗,Tatsuo KUSAKAI“ “女川原子力発電所 主タービン設備における地震後の復旧工事について “ “河上 晃,Akira KAWAKAMI,渡辺 寛之,Hiroyuki WATANABE,齊藤 靖広,Yasuhiro SAITO,草階 達朗,Tatsuo KUSAKAI
著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)