海水管内面ライニング点検技術の高度化
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カテゴリ: 第10回
1はじめに
加圧水型原子力発電所(以下、PWR)における非常用ディーゼル発電機及び原子炉補機などの冷却に用いられている海水管は、海水による腐食防止の観点から配管内面にライニング(図1)が施されている。 しかし、ライニング材質であムやポリエチレンなどは運転に伴う経年変化によって劣化が生じることで剥離やき裂が発生し、最終的には配管の腐食が発生することとなる。(図2)[1] ライニング 配管 ② 海水が接着剤に接触することで ライニングの剥離が発生。 また、母材に海水が接触する ことで母材の腐食が発生。 図1ライニング構造 海水管の定期的な点検方法としては、作業員の直接目視による健全性確認が主体となっているが、作業員が入ることが出来ない配管(4B~20管)などはライニング劣化傾向を初期の段階で確認することは課題となっている。 ④ 剥離が進行すると、ライニングは 破断し、ルースパーツとなる 可能性がある。 また材の腐食も進行し、 割れ等が発生する可能性がある。
ライニングの劣化状態を事前に確認する方法としては微小な傷・き裂が検知可能であるピンホール検査技術があり、ライニングに対する予防保全としては有効と考えられる。 その為、人が立ち入れない配管サイズ(4B~20B)を念頭にピンホール検査技術を用いた海水管内面検査装置の開発を行った。 流れ(海水)配管母材ライニングピンホール及び傷発生① 運転時の海洋生物の接触等 によるピンホール及び傷発生。 海水の侵入海水の侵入流れ(海水)流れ(海水)海水の侵入が増加③ 海水の侵入が増加、ライニングの 剥離及び母材の腐食がさらに進行。 流れ(海水)母材の腐食図2ライニング剥離のメカニズム 2ピンホール検査技術とは ピンホール検査技術の原理は絶縁物(誘導体)に小さな貫通口があった場合、ブラシ(電極)に高電圧(数kV)をかけると、貫通口においてブラシと金属表面の間に空気絶縁破壊が起こる放電現象が発生する。(図3) この放電現象にて発生した電流の変化を検出器が捕らえ制御盤へ伝達することで、ライニング面の異常(剥がれ等)の有無を検知することが出来る。 当社では、ライニングに影響を与えず、またライニングの材質によらず微小なピンホール穴も検出可能であることが確認した(表1) ブラシ(電極)ライニング(絶縁物)金属表面ブラシ(電極)ライニング(絶縁物)金属表面図3ピンホール検査原理 表1 ピンホール検査検証結果 φ0.1φ0.2φ0.3φ0.4○:検知可能 ×検知不可能○○○○ポリライニングゴムライニング○×○○電圧㎜ ㎜ ㎜ ㎜ 3ピンホール検査装置の開発 作業員がピンホール検査を行う場合、専用の電極(ブラシ)を配管内へ挿入することで対応可能となるが、作業員が入ることが出来ない配管(小口径及び中口径配管:4B~20B配管)については作業員の手が届く範囲のみの点検となる。 また、配管全域の点検を行う場合、配管を細かく解体することで対応可能となるが、作業員の労力及び点検期間増加となる。 そこで、当社では小口径及び中口径配管の中で6B配管を代表としてピンホール検査機能を搭載した自走式の専用装置を開発した。(図4)。 配管のフランジ部から装置を挿入し、遠隔操作にて配管内面を自走することで、作業員の手の届かない20m以内の配管内のライニング部の詳細点検が可能となる。(図5)(図6) 更に、本装置には目視点検の為のカメラ機能を備えることで、ピンホール指示部の状況確認も合わせて出来ることを実現した。 これにより、自走式装置を使用することで作業員の労力の低減及び点検期間の短縮につながることとなる。 ピンホール検査機能 案内台車 案内台車 走行台車 カメラ LED照明 LED照明 カメラ 装置仕様6B配管走行距離約20mエルボ4箇所程度レジューサ走行不可能ライニング走行ゴム・ポリライニング両方可能T字管通過可能。(直進のみ)JIS Z 2340(2002)要求事項TVモニターでラインペア値3.6LP/mmの黒線が識別可能。直管部・エルボとも可能ピンホール検査機能項目対象配管走行機能目視機能図4小口径配管ライニング点検装置概要及び基本性能 走行距離20m操作盤エルボ装置モニタ図5作業イメージ 図6装置外観写真 4. 装置性能試験結果 2種類の6B配管モックアップ(図6)を使用して装置の移動性能並びにピンホール穴検出性能の確認試験を行った。 いずれのモックアップにおいてもスムーズに走行できることを確認し、ピンホール穴検出についてはエルボ部及びストレート部でも0.2㎜以上のピンホール穴を検出(表2)を確認できた。 更に装置に搭載したカメラ機能により、ピンホール穴の確認も可能であった。(図7) ストレート部ピンホール モックアップ ② モックアップ ① エルボ部ピンホール エルボ部ピンホール ストレート部ピンホール 図6試験モックアップ写真 ピンホール撮影状況 (0.5㎜ピンホール) ピンホール穴視認性確認 グレーカード視認性確認 図7カメラ映像確認結果 5.結言 当社のピンホール検査技術を用いた海水管内面点検装置の開発及び性能確認を行い、ライニング点検の高度化の成果が得られたが、これら点検技術によって原子力発電プラントの安全性と信頼性を向上させ、長期間の運転にわたって経済的に運転を継続するのに役立つものと考えている。 当社では今後とも、点検装置用いた原子力発電プラント他機器部位への応用・展開を積極的に推進して行く。 6.参考文献 [1] 日本保全学会 第7回 学術講演会 要旨集 P427“海水管ライニング劣化診断技術” 2ライニング劣化メカニズム 表2 ピンホール試験結果 ×4方位=12箇所0.5㎜0.8㎜1.0㎜0°90°180°270°装置の前進方向から見た方位1.0㎜0.2㎜0.5㎜0.8㎜×4方位=16箇所0°90°180°270°装置の前進方向から見た方位配管種類φ0.5φ0.8φ1.0φ0.2φ0.5φ0.8φ1.0モックアップ①○○○○○○○モックアップ②○○○○○○○○:検知可能エルボストレート内径モックアップ
“ “海水管内面ライニング点検技術の高度化 “ “南山 彰男,Akio MINAMIYAMA,山本 剛,Takeshi YAMAMOTO,杉本 憲昭,Noriaki SUGIMOTO,光畑 幸史,Yukifumi KOHATA,當房 亮平,Ryohei TOBO“ “海水管内面ライニング点検技術の高度化 “ “南山 彰男,Akio MINAMIYAMA,山本 剛,Takeshi YAMAMOTO,杉本 憲昭,Noriaki SUGIMOTO,光畑 幸史,Yukifumi KOHATA,當房 亮平,Ryohei TOBO
加圧水型原子力発電所(以下、PWR)における非常用ディーゼル発電機及び原子炉補機などの冷却に用いられている海水管は、海水による腐食防止の観点から配管内面にライニング(図1)が施されている。 しかし、ライニング材質であムやポリエチレンなどは運転に伴う経年変化によって劣化が生じることで剥離やき裂が発生し、最終的には配管の腐食が発生することとなる。(図2)[1] ライニング 配管 ② 海水が接着剤に接触することで ライニングの剥離が発生。 また、母材に海水が接触する ことで母材の腐食が発生。 図1ライニング構造 海水管の定期的な点検方法としては、作業員の直接目視による健全性確認が主体となっているが、作業員が入ることが出来ない配管(4B~20管)などはライニング劣化傾向を初期の段階で確認することは課題となっている。 ④ 剥離が進行すると、ライニングは 破断し、ルースパーツとなる 可能性がある。 また材の腐食も進行し、 割れ等が発生する可能性がある。
ライニングの劣化状態を事前に確認する方法としては微小な傷・き裂が検知可能であるピンホール検査技術があり、ライニングに対する予防保全としては有効と考えられる。 その為、人が立ち入れない配管サイズ(4B~20B)を念頭にピンホール検査技術を用いた海水管内面検査装置の開発を行った。 流れ(海水)配管母材ライニングピンホール及び傷発生① 運転時の海洋生物の接触等 によるピンホール及び傷発生。 海水の侵入海水の侵入流れ(海水)流れ(海水)海水の侵入が増加③ 海水の侵入が増加、ライニングの 剥離及び母材の腐食がさらに進行。 流れ(海水)母材の腐食図2ライニング剥離のメカニズム 2ピンホール検査技術とは ピンホール検査技術の原理は絶縁物(誘導体)に小さな貫通口があった場合、ブラシ(電極)に高電圧(数kV)をかけると、貫通口においてブラシと金属表面の間に空気絶縁破壊が起こる放電現象が発生する。(図3) この放電現象にて発生した電流の変化を検出器が捕らえ制御盤へ伝達することで、ライニング面の異常(剥がれ等)の有無を検知することが出来る。 当社では、ライニングに影響を与えず、またライニングの材質によらず微小なピンホール穴も検出可能であることが確認した(表1) ブラシ(電極)ライニング(絶縁物)金属表面ブラシ(電極)ライニング(絶縁物)金属表面図3ピンホール検査原理 表1 ピンホール検査検証結果 φ0.1φ0.2φ0.3φ0.4○:検知可能 ×検知不可能○○○○ポリライニングゴムライニング○×○○電圧㎜ ㎜ ㎜ ㎜ 3ピンホール検査装置の開発 作業員がピンホール検査を行う場合、専用の電極(ブラシ)を配管内へ挿入することで対応可能となるが、作業員が入ることが出来ない配管(小口径及び中口径配管:4B~20B配管)については作業員の手が届く範囲のみの点検となる。 また、配管全域の点検を行う場合、配管を細かく解体することで対応可能となるが、作業員の労力及び点検期間増加となる。 そこで、当社では小口径及び中口径配管の中で6B配管を代表としてピンホール検査機能を搭載した自走式の専用装置を開発した。(図4)。 配管のフランジ部から装置を挿入し、遠隔操作にて配管内面を自走することで、作業員の手の届かない20m以内の配管内のライニング部の詳細点検が可能となる。(図5)(図6) 更に、本装置には目視点検の為のカメラ機能を備えることで、ピンホール指示部の状況確認も合わせて出来ることを実現した。 これにより、自走式装置を使用することで作業員の労力の低減及び点検期間の短縮につながることとなる。 ピンホール検査機能 案内台車 案内台車 走行台車 カメラ LED照明 LED照明 カメラ 装置仕様6B配管走行距離約20mエルボ4箇所程度レジューサ走行不可能ライニング走行ゴム・ポリライニング両方可能T字管通過可能。(直進のみ)JIS Z 2340(2002)要求事項TVモニターでラインペア値3.6LP/mmの黒線が識別可能。直管部・エルボとも可能ピンホール検査機能項目対象配管走行機能目視機能図4小口径配管ライニング点検装置概要及び基本性能 走行距離20m操作盤エルボ装置モニタ図5作業イメージ 図6装置外観写真 4. 装置性能試験結果 2種類の6B配管モックアップ(図6)を使用して装置の移動性能並びにピンホール穴検出性能の確認試験を行った。 いずれのモックアップにおいてもスムーズに走行できることを確認し、ピンホール穴検出についてはエルボ部及びストレート部でも0.2㎜以上のピンホール穴を検出(表2)を確認できた。 更に装置に搭載したカメラ機能により、ピンホール穴の確認も可能であった。(図7) ストレート部ピンホール モックアップ ② モックアップ ① エルボ部ピンホール エルボ部ピンホール ストレート部ピンホール 図6試験モックアップ写真 ピンホール撮影状況 (0.5㎜ピンホール) ピンホール穴視認性確認 グレーカード視認性確認 図7カメラ映像確認結果 5.結言 当社のピンホール検査技術を用いた海水管内面点検装置の開発及び性能確認を行い、ライニング点検の高度化の成果が得られたが、これら点検技術によって原子力発電プラントの安全性と信頼性を向上させ、長期間の運転にわたって経済的に運転を継続するのに役立つものと考えている。 当社では今後とも、点検装置用いた原子力発電プラント他機器部位への応用・展開を積極的に推進して行く。 6.参考文献 [1] 日本保全学会 第7回 学術講演会 要旨集 P427“海水管ライニング劣化診断技術” 2ライニング劣化メカニズム 表2 ピンホール試験結果 ×4方位=12箇所0.5㎜0.8㎜1.0㎜0°90°180°270°装置の前進方向から見た方位1.0㎜0.2㎜0.5㎜0.8㎜×4方位=16箇所0°90°180°270°装置の前進方向から見た方位配管種類φ0.5φ0.8φ1.0φ0.2φ0.5φ0.8φ1.0モックアップ①○○○○○○○モックアップ②○○○○○○○○:検知可能エルボストレート内径モックアップ
“ “海水管内面ライニング点検技術の高度化 “ “南山 彰男,Akio MINAMIYAMA,山本 剛,Takeshi YAMAMOTO,杉本 憲昭,Noriaki SUGIMOTO,光畑 幸史,Yukifumi KOHATA,當房 亮平,Ryohei TOBO“ “海水管内面ライニング点検技術の高度化 “ “南山 彰男,Akio MINAMIYAMA,山本 剛,Takeshi YAMAMOTO,杉本 憲昭,Noriaki SUGIMOTO,光畑 幸史,Yukifumi KOHATA,當房 亮平,Ryohei TOBO