Web 型遠隔自動振動診断システムの開発

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カテゴリ: 第10回
1.はじめに
一般的に動機械の状態監視、診断には振動法、潤滑油分析法、サーモグラフィ法などによって行われており、その中でも振動法が最も多く活用されている[1]。振動法をはじめとした設備診断技術を活用することで異常兆候を示す機器を早期に検出し、リードタイムをできるだけ長くとることでメンテナンス対応を計画的に実施して突発故障の未然防止し、壊滅的な損害を阻止することを目的とする。また、状態監視により異常兆候、真の異常原因を把握し、定期修理で実施すべき作業項目や交換部品、改善工事や更新の必要可否の判断を明確化(See Point の明確化)する事で効果的で効率的な定期修理を行い、工期短縮につなげて休止損失の低減を図ることが重要である。しかし、振動診断技術を現場に定着させてこれらの効果を生み出すためには、ある程度の技術力を持った専門技術者が必要となり、その育成には時間と費用がかかる。また、アウトソーシングで賄うにも年々設備老朽化の進行に伴い費用が嵩んでいくことが予想される。昨今、ISO 機械状態監視診断技術者(振動)による技量認定が行われており、当社としても訓練機関として教育トレーニングを実施しているものの、診断技術者育成にはどうしても現場診断でのOJT が必須となる。また、診断技術者が育成されたとしても、定期的に行われる状態監視の膨大な振動データの解析に、その診断技術者が追いまくられている状態となっている。今回、当社ではこれらの課題に対応するために経験豊富な診断技術者の診断Know-How や診断事例などを集約して自動振動診断システムを開発したので紹介する[2]。つまり、本システムは遠隔地からでも迅速に診断結果を取得できるようにインターネットを利用したサービスとしており、定期診断で大量なデータの解析に追われている診断技術者の作業効率の支援あるいは診断技術者の手薄な顧客に対する診断結果の提供を目的としたものである。
2.Web 型遠隔自動振動診断システムA-RMDsTM
2.1 システムの特徴と導入メリット 今回当社ではこれらの課題を克服すべく、Web 型遠隔自動振動診断システムA-RMDsTM(Asahi-Remote Machine
Diagnosis system)を開発した。本システムは、当社の振動計測システムMD-320 にて測定されたデータを、管理ソフトMTM(Machine Trend Master)を介して、当社のサーバーにアップロードすると自動で解析・診断を行い、診断書をダウンロードできるシステムである(Fig.1)。①MD-320 自動診断エンジン②管理  ソフトINTERNET ③通信ソフト旭化成エンジニアリングユーザー診断報告書振動測定データ機器情報Fig.1 Remote Automatic Vibration Diagnosis System 本システムには以下の特徴がある。(1)安価で、迅速に診断結果(異常の有無、緊急性、原因、対策)を報告書としてダウンロードが可能となる。(2)診断技術者の育成の負荷を軽減し、診断技術者不在のユーザーにはアウトソーシングツールとして活用できる。(3)診断対象機器を最小20 台とし、必要に応じた管理台数での設定が可能である。(4)測定器と管理ソフトは貸与方式での契約が可能であり、ユーザー状況に応じた使用環境が提供できる。また、導入メリットとしては以下のことがあげられる。(1)昼夜を問わず、24 時間いつでも適切な診断結果を迅速に得ることができる。(2) 出力した報告書は、解析に用いたトレンドグラフ等も記載されるので、そのまま定期診断報告書や異常診断報告書のフォームとして活用できる。(3) 診断技術者の作業効率を向上できる。(4) 診断に関する人件費を低減させることでコスト低減を図り振動診断による状態監視を運用できるので、その分管理対象台数を拡大しやすい。2.2 システム構成 本システムはFig.2 に示すように、STEP1、2,3 で構成されている。まずは、送付された以下の振動値データを基に、STEP1 にて異常の有無、緊急性を評価する。変位(10Hz~1kHz) 速度(10Hz~1kHz) 加速度(1k~30kHz) Br 加速度(10k~30kHz) クレストファクター(10k~30kHz) この中で、注意あるいは異常と判断された機器、正常域でも異常兆候が見られている機器と判断された機器について、STEP2 にて異常原因を診断する。以上の診断結果と対策を診断報告書として、短時間でダウンロードできる。半年ごとの契約となり、その間は契約機器について何度でも診断可能である。Fig.2 System composition さらに詳細に異常原因の解析を行いたい場合は、MD-320 にて計測されたFFT データやエンベロープデータをアップロードすると、STEP3 にて異常原因解析を行う。現状では当社の診断技術者がチェックを行い、診断報告書を電子メールで送付する。これは個別契約となる。現在、この部分の自動診断による提供を開発中である。また、STEP3 までの異常原因解析による対策案では解決できない問題については、当社診断技術者が現地に伺い問題解決を図る精密診断(STEP4)となる。これは発生時に別途契約となる。2.3 STEP1,2 簡易診断自動診断による状態監視(STEP1,2)は、次の手順にて実施される。(1) 振動計測システムMD-320 にて測定された振動データを管理ソフトMTMに送信する。(2) MTM に格納された対象機器から自動診断システムにかける機器を選択し、圧縮ファイルを作成する。(3) インターネットにて当社サーバー(aec-md.com)にアクセスする。(4) 顧客認証(ID No.とパスワード)を行い、上記の圧縮ファイル(振動データ,機器情報)を選択して、送信し登録する。Fig.3 に示すメニューの中で機器登録と測定値登録を行う。上記操作による準備を行った後に自動診断を実施し、 診断結果一覧、機器個別の診断報告書をそれぞれ出力し、自分のPC へダウンロードする。Fig.3 The menu screen 2.4 診断報告書自動診断(STEP1,2)を行った結果の一覧表をFig.4 に示す。これには駆動部と従動部ごとに速度と加速度の判定結果が○△×で示されており、診断結果と対策が記載される。良好、注意、要処置の絞り込みや指定機器だけの絞り込みができ、この結果はExcel で出力できる。診断結果は、電動機、送風機、ポンプなどの機種特有の異常モードのコメントが出力され、軸受の潤滑方式をも考慮したコメントとなっている。また、正常域のデータにおいても異常兆候の発生が見られるものについては、その原因の診断結果を出力する。Fig.4 The output example of the diagnosis result list 他に、Fig.5 に示すフォームにて選択した機器の個別診断報告書をExcel で出力できる。これは機器毎の詳細な報告書であり、診断コメント、対策コメントの他、機器仕様、振動値、測定位置、解析に用いた振動データの傾向管理グラフを出力する。また、診断コメントを加える欄を設けているので、運転情報や診断に関する情報などを自由に記載できる。さらに、最新データでの診断だけでなく、過去の時点での診断を行うことができる。つまり、定修前後の診断報告書をそれぞれ出力でき、保全行為の効果についての比較検証などが行える。(会社名) 設備図rpm Hz 定期診断試運転調査<測定点情報> 1234<振動の状態> V ○ ↑ ○ ↑ ○ ↑ - → ○ ↑ H △ → ○ → ○ ↓ - → ○ → A ○ ↑ ○ ↑ ○ ↑ - → ○ ↑ V ○ → ○ ↑ ○ ↑ - → ○ ↑ H × → ○ → ○ → - → ○ → A ○ → ○ → ○ ↓ - → ○ → V ○ ↓ ○ ↑ ○ ↑ ○ ↑ - - H ○ → ○ ↑ ○ ↑ - ↑ ○ → A ○ → ○ ↑ ○ ↑ - → ○ → V ○ → ○ → ○ → - ↓ ○ ↑ H ○ → ○ ↑ ○ → - → ○ → A ○ → ○ ↑ ○ ↑ - ↓ ○ ↓ 部位 駆動機 反負荷側測定値 測定値 状態測定値2940傾向測定状況1機能場所分類3 機能場所分類4 機能場所分類5 回転数0.170.20 0.17 7.40 0.24 測定値4.52回転数(rpm) 2940軸受型式6312潤滑方式5.20 6.00 基礎構造3.50 0.19 5.40 10.00 0.45.9状態傾向測定値Br-O/A(G) Br-CF 変位(μmp-p) 状態状態傾向傾向状態機種測定点測定点0.23測定点位置方向 従動機1 反駆動側速度(mm/s) 加速度(G) 振動診断報告書承認確認作成2012年07月18日基礎構造振動計端末名称工場デモプラント回転周波数 49.0 機器番号機器名称測定年月日品川工場01C-105 105反応空気ブロワー2012年08月23日 前回測定年月日 プラント2 26.00 2.00 0.65 0.18 1.10 0.43 0.07 8.20 0.47 0.24 5.60 3.60 0.58 18.60 11.00 1917/04/101900/01/020.30 1.68 1.07 11.00 測定点 従動機1 駆動側2940 6314 駆動機 負荷側2940 294041.20 0.70 0.53 2.80.42 0.35 1.7863147.80 3.00 - 2315.30 3.00 6傾向7.60.60 0.26 0.19 5.70 1.00 0.78 0.33 8.90 10.00 <自動診断システム 診断結果> 速度加速度良好。特に問題ありません。位置位置1診断結果対策注意域の高めにあり、上昇傾向を示しています。軸受の嵌め合いガタの可能性が最も高いと考えます。それ以外にミスアライメントの可能性が考えられます診断結果精密診断を実施し、原因究明及び当面の処置を決定して下さい。1対策2 良好。特に問題ありません。- 2要処置にあり、さらに上昇傾向を示しています。軸受の嵌め合いガタの可能性が最も高いと考えます。それ以外にミスアライメントの可能性が考えられます早急に現場確認、精密診断を実施し、運転可否を判断してください。測定周期を短縮して、傾向管理を強化して下さい。3良好域ですが、高めで推移しています。ミスアライメントの可能性が最も高いと考えます。それ以外に軸受の嵌め合いガタの可能性が考えられます。今後の振動値の変化に留意下さい。4良好。特に問題ありません。ミスアライメントの可能性が最も高いと考えます。それ以外に軸受の嵌め合いガタの可能性が考えられます。3良好ですが、上昇傾向を示しています。今後の振動値の変化に留意下さい-- rpm Hz <傾向グラフ(変位)> 基準値(μmp-p) H 25 40 A 25 40 注意値危険値V 25 40 機器名称105反応空気ブロワー回転数2940 回転周波数49 測定年月日2012年08月23日機器番号01C-105 前回測定年月日2012年07月18日工場品川工場プラントデモプラントFig.5 The output example of the diagnosis report 2.5 STEP3 精密診断STEP1,2 にて異常や注意あるいは良好域においても上昇傾向が見られる場合に精密診断STEP3 により、さらなる原因究明を行う。まずは、MD-320 により対象機器の速度や加速度のスペクトルあるいは加速度エンベロープスペクトルなどのデータ収集を行う。そして、STEP1,2 と同様、測定データの圧縮を行う。その圧縮データを当社まで電子メールにて送ると、当社の診断技術者が自動診断システムを用いて、診断書を作成する。予め電話による問診などからユーザーから入手した診断に必要な情報と照らし合わせて、専門技術者が検討を加え、診断書を返送する。現状では診断精度を保つため、以上のような対応としているが、将来的にはSTEP3 についても完全自動化を図る予定である。3. 活用事例 振動傾向管理を行っている設備の中で、ある横型片持ち遠心ポンプの反駆動側軸受(Pos④)の振動加速度の上昇傾向が見られた。Fig.6 にPos④の振動加速度(1kHz~ 30kHz)の傾向管理図を示す。上昇傾向を示しており、要処置域に入っていることがわかる。また、振動加速度の中で転がり軸受の異常判定に用いるBrg 加速度(10k~ 30kHz)の傾向管理図をFig.7 に示す。ここで、用いている判定基準は旭化成の基準であるAMD(Asahikasei Machine Diagnosis)転がり軸受判定基準であり、注意域に まで上昇している。要処置 注意良好Fig.6 Trend graph of acceleration value (1k-30kHz) 要処置注意良好Fig.7 Trend graph of acceleration value (10k-30kHz) この時の自動診断(STEP1,2)により出力された診断コメントを以下に示す。要処置にあり、上昇傾向を示してます。反カップリング側の潤滑不良や摩耗などの軸受異常、キャビテーションの可能性があります診断結果また、出力された対策コメントを以下に示す。早急に再測定による振動値の確認を実施して下さい。依然高い場合は、精密診断を実施し、運転停止時期を検討してください。対策この対策に従い、再測定を実施したところ依然高めであったため、精密診断(STEP3)を実施した。Fig.8 にPos④Vの加速度スペクトルを示す。2kHz から5kHz の周波数成分が高いことがわかる。3 4 1 2 .5H z 4200.00Hz 1762.50Hz 3412.50Hz 5137.50Hz 2625.00Hz 17287.50Hz 1125.00Hz Fig.8 Spectrum of acceleration また、Fig.9 に加速度エンベロープスペクトルを示す。外輪きず周波数foutおよび内輪きず周波数finが発生しており、軸受きずの発生を示している。また、異常レベルとしては低いものの、回転周波数fr とその2 倍と推察される周波数が発生していることから軸受ハウジング摩耗や軸受ガタの発生を示していると考えられる。f r2f r f outf in 123.75Hz 143.75Hz 92.50Hz 576.25Hz 28.75Hz 276.25Hz 980.00Hz 552.50Hz 58.75Hz 432.50Hz Fig.9 Spectrum of acceleration envelope STEP3 の診断結果の原因コメントを以下に示す。要処置にあり、上昇傾向を示してます。周波数解析の結果、振動加速度の高い原因は下記が考えられます。・軸受外輪きず・軸受内輪きず・軸受及び軸受ハウジング摩耗、軸受ガタ原因対策は以下の通りである。対策 再度測定を実施し変化が見られない場合は、早急に下記の整備および点検を実施してください。・軸受交換・軸受ハウジング摩耗計測Fig.10、Fig.11 に開放検査で得られた軸受内輪面と軸受外輪面の写真を示す。内輪外輪とも転がり疲労はく離(フレーキング)が発生していることがわかる。さらに、その位置は軌道面中央位置より偏って発生している。つまり、軸受がスラストを受けてFig.12 に示す状況となっていたことが推察される。また、Fig.13 に外輪の外面の写真を示す。フレッチングコロージョンの発生が見られている。内輪と軸の間も同様であった。 転走跡Fig.10 Inner ring raceway surface 転走跡Fig.11 Outer ring raceway surface はく離はく離外輪内輪軸Fig.12 The situation of the bearing imagined Fig. 13 Outer ring outside surface これらの状況から、ポンプの温度上昇により軸が熱膨張し軸受がスラストを受けてFig.12 の状態で回転していたため油膜が破断し、潤滑不良による表面起点はく離の発生に至ったものと推察される。対策としては、本軸受は両シールタイプであったため油浴タイプに変更する。あるいは、グリース密封型軸受をそのまま使用する場合は、外輪と軸受ハウジング間にグリースを塗布するなどで外輪の軸方向の動きをスムーズにするなどが上げられる。軸受交換後の振動加速度値(1k~30kHz)をFig.14 に示す。軸受交換後は振動値の低下が見られ以前の振動値のレベルに低下したものの、良好域と注意域の境界である1.0G となっており、今までの正常時の振動値レベル(ベースライン)から見て若干基準値が厳しい状況と考えられるので、見直しが必要と言える。また、周波数帯域10k ~30kHz のBrg 加速度値の軸受交換後の変化を示す。軸受交換後は、AMD 転がり軸受判定基準の良好域まで低下している。要処置 注意良好Fig.14 Trend graph of vibration after the bearing exchange (Frequency range : 1k-30kHz) 要処置 注意良好Fig.15 Trend graph of vibration after the bearing exchange (Frequency range : 10k-30kHz) 4.おわりに 海外も含めて遠隔地からいつでも診断結果が簡単に得られる自動振動診断システムを開発した。現在、旭化成の各プラントをはじめ社外各企業での活用を推進しており、専門技術者のサポートが手薄となる 海外プラントに対しても運用を進めている。さらに、診断対象機器の拡大や精密診断の自動報告書出力機能などの開発を継続して進めており、さらに現場での活用しやすいシステムへと進化させていく。今後も現場の意見を幅広く取り入れ、安定操業、生産性の向上、コストダウンへ貢献していきたいと考える。なお、本システムの診断ロジックの構築は、当社各地区の診断技術者とチームを組んで開発したものであり、過去40年間の診断事例や診断Know-Howを盛り込んだシステムとなっている。最後に、この開発にあたり早稲田大学大学院情報生産システム研究科の吉江修教授からご指導を賜り適切なるご助言を頂いた。厚く謝意を表する次第である。参考文献 [1] “2002年度メンテナンス実態調査報告書”,日本プラントメンテナンス協会、2002、 pp.161 [2] 迫孝司、妹尾始朗ほか、“Web 型遠隔自動振動診断システムA-RMDsTM の開発”、プラントエンジニア、Vol.45,No.3、2013、pp.28-33. (平成25 年6 月25 日)
“ “Web 型遠隔自動振動診断システムの開発 “ “迫 孝司,Takashi SAKO,妹尾 始朗,Shirou SENOO,岩崎 俊二,Shunji IWASAKI,荒木 竜二,Ryuji ARAKI,田村 孝市,Kouichi TAMURA“ “Web 型遠隔自動振動診断システムの開発 “ “迫 孝司,Takashi SAKO,妹尾 始朗,Shirou SENOO,岩崎 俊二,Shunji IWASAKI,荒木 竜二,Ryuji ARAKI,田村 孝市,Kouichi TAMURA
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