ポンプの各異常状態時における効率変化傾向および状態判定法

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カテゴリ: 第10回
1.は じ め に
本研究では、稼動中のポンプの性能と効率を電流、電圧、流量および圧力の計測により高精度で診断し、また、振動信号により異常状態(ミスアライメントやキャビテーションなど)を簡易・精密に診断し、ポンプ内部での効率低下の要因が推定できる方法を理論的・実験的に検討している。回転機械に発生しやすいミスアライメント状態は図1 に示すように、回転軸上の部品の寿命を縮め、消費電力を増加してしまうので、回転機械設備にとって危害の大きい異常状態である。ミスアライメント状態を早期に検出して修復することはポンプ等の回転機械にとって重要である。本報では、特徴パラメータ(2)によるポンプ状態の判定および異常状態によるポンプ効率の変化に関して、次の諸項について検討し、精度が高い状態判定法および効率・状態傾向管理法について報告する。(1)特徴パラメータを用いて、設備状態の判定と傾 向管理に関する基本的な考え方、(2)特徴パラメータの確率分布をワイブル分布に当 てはめ、実測振動信号からワイブル分布の係数を精密に求め、ワイブル分布の統計値(平均値と分散)を用いた状態判定法と実例(3)機械的な異常状態(特にミスアライメント状態) および流体的な異常(特にキャビテーション状態)がポンプ効率に与える影響と実例 なお、本報では、有次元特徴パラメータによる異常状態(ミスアライメント状態およびキャビテーション状態)の判定例およびポンプ効率傾向例を示す。 (a)部品寿命の短縮 (b)消費電力の増加 Fig.1 Injuries of misalignment state(1)
2.ポンプの効率・状態診断のための計測システム 図2にポンプ性能・状態診断のための実験・計測システムを示す。ポンプの効率を求めるために、出入口の圧力、流量、モータ電圧・電流を計測し、ミスアライメント状態を診断するために、写真1に示すように軸継手の付近に鉛直、水平および軸方向の振動加速度を計測し、ポンプの異常を診断するために、写真2に示すように、入口の配管方向と垂直方向、出口の鉛直方向と水平方向およびポンプ本体に5個の振動加速度センサーを設置した。本研究では、ポンプの異常状態における信号特徴を解明するために、写真1と写真2のように多数のセンサーを設置して検討しているが、現場の実用上としては、巡回点検時あるいはオンライン監視時に重要な計測ポイント(ポンプ本体、軸継手、軸受箱など)に一個ずつ設置して計測・簡易診断を行い、異常を検出した後、必要に応じて測定個所を増やして精密診断を行えばよい(2)。Photo. 1 Accelerometers on the pump for measurements Photo.2 Accelerometers near the coupling for measurements ポンプに対して主な計測・解析・診断項目を下記する。① ポンプ効率② 消費電力量③ ポンプの機械的異常診断(ミスアライメント、アンバランス、軸受損傷等) ④ モータの異常診断 ⑤流体的異常診断(キャビテーション、共振等) 3.特徴パラメータによる状態診断と傾向管理 有次元特徴パラメータ(実効値やピーク値)は波形の大きさを表すから、現場では、回転機械診断を行うとき、振動の強さの指標として機械の状態(正常、注意、危険) 判定に用いられる。すなわち、図2のように有次元特徴パラメータが大きければ大きいほど、設備の状態が悪いと言えるので、各時点で求められた有次元特徴パラメータの値の上昇傾向で設備状態の傾向管理が行える。なお、各レベル(注意、危険)の設定については過去の文献がPT FT モータ電圧計電流計タンク50 A 40 A ポンプ出口弁超音波流量計圧力センサ圧力センサ:振動センサ5 口径 50×40 mm 4 モータ出力 220V 60Hz 3.7 kW 3 軸動力 2 . 55 kW 2 全揚程 40 m 1 吐出し量 常用: 7.5 m3/h NO. 項目 仕 PT 入口弁Fig. 2 Experiment and measurement system for condition diagnosis of pump system 検討されている(2)が、本報では、各点検時点における確率分布特性について検討する。すなわち、図3に示すように、各点検時点において測定したデータから求めた特徴パラメータはばらつきがあり、その時点の状態判定を確率理論により判定する場合、特徴パラメータの確率密度分布を考慮した適切な統計検定方法が必要である。本報では、有・無次元特徴パラメータの値が正規分 布およびワイブル分布に従うと仮定したときのポンプの状態判定について検討し、各統計検定法による状態判定結果の違いを比較する。Fig. 3 Condition diagnosis using a dimensional symptom parameter 4.信号の前処理(異常信号の抽出) 設備診断では測定信号に含まれる正常状態での信号はノイズと呼ばれ,異常状態の特徴を抽出するには無用な信号(ノイズ)であり,除去する必要がある. 統計情報フィルタ(3)はスペクトルの統計検定によるノイズの除去を,識別指標を用いて簡易的に行う手法である.スペクトルの統計検定法は信号の分布に関係なく異常信号の検出ができ,またノイズ信号と異常信号との相関がある程度存在しても,統計的情報量による抽出信号の評価によりの抽出も可能な手法である. Fig. 4 Principle of statistical filter (a) 異常信号抽出前(b) 異常信号抽出後Fig. 5 Examples of extracting fault signal by statistical filter まず,図4に示すように、設備正常時に測定した信号と,診断時に測定した信号と の各スペクトル成分についての統計解析(分布,平均および分散などの計算)を行う.次に両方のスペクトルの各成分について統計的な有意差検定によりノイズだけが存在する成分を識別する. それらのノイズ成分をにして,残る成分を近似的に異常信号のスペクトルと見なすと,逆フーリエ変換によって時間領域の異常波形が近似的に抽出される.図5(a)に正常状態の信号と異常状態の信号とのスペクトルを示し、図5(b)に統計フィルタにより抽出した異常信号のスペクトルを示す。5.特徴パラメータによる状態診断と傾向管理 今回、様々な時間領域と周波数領域の特徴パラメータを実測データにより比較評価した結果、特に以下の「ス時間有次元特徴パラメータpiの値注意レベル危険レベル停止レベル正常の限界(異常検出限界) 正常時のpiの値pci pdi C0 psi 平均平均+偏差平均+偏差平均A B C 耐られる区域注意区域危険区域. i . i . . i . 0 . . 0 . 1 . i . . i . i D 正常区域μ0 μ1有次元特徴パラメータpi f0 (x) f1 (x) 正常時の確率密度分布関数異常時の確率密度分布関数異常時のpiの値平均. 0 . 1 . . 1 平均+偏差確率密度分布関数値診断のために計測した信号事前に計測した正常状態時の信号統計処理・情報理論による異常信号の識別・抽出抽出された異常信号(異常が発生した場合) 残りのノイズ信号状態判定や精密診断へ ペクトルの幾何平均I p 」が状態判定に優れたので、本報ではI p を例として状態判定の諸結果を示す。スペクトルの幾何平均: ここで、( ) i F f はスペクトル、fi は周波数、I はスペクトルのライン数である。振動加速度データで求めた各状態の特徴パラメータの確率密度分布関数f(x)をワイブル分布に当てはめ(4)、各状態における特徴パラメータの平均値(pi )と標準偏差 は(Spi)が求められる。 ワイブル分布の確率密度関数 f (x)は次の式で表され る(5), (6) 。( ) ( i )m 1 exp ( i )m i f p m p t p t . . . . . . . . . .. . . . (5-1) ここで、m はワイブル分布の形状パラメータ、ηは尺度パラメータ、t は位置パラメータと呼ばれている。ワイブル分布の平均値pi と標準偏差 pi S は、1 1 i p m ..... . .. . . (5-2) 2 2{ ( 2 1) 2 ( 1 1)} Spi m m .. . . . . . (5-3) であり、ここで、. はガンマ関数である。webll分布による状態判定基準は以下のように算出する。正常状態の限界:C0=平均値( i p )+k*標準偏差( pi S ) 注意レベル:C1=2.5*C0 危険レベル:C2=6.3*C0 また、測定した信号に対して、低周波数領域(~500Hz)、中周波数領域(400~5000Hz)および高周波数領域(4000~25000Hz)に分けて、統計フィルタおよび特徴パラメータにより評価した結果、ミスアライメント状態に対する診断感度は低周波数領域(~500Hz)が最もよく、キャビテーション状態に対する診断感度は中周波数領域(400~5000Hz)が最もよいことが分かった。6.実例 (1)ミスアライメント状態の実例図6に正常状態とミスアライメント状態の低周波数領域のスペクトル(例)を示す。例として、以下の2ケースの結果を示す。Case A: 2000rpm, 流量:12.5m3/h, 診断信号:水平方向の加速度Case B : 3500rpm, 流量:19.0m3/h, 診断信号:水平方向の加速度 Table 1 Criteria of machine condition based on Weible distribution 表1には、各ケースにおける正常状態の信号を用いて、(5-1)~(5-3)式により求めた99.9%の信頼区間の正常状態の限界値C0 および注意レベルC1 と危険レベルC2 を示す。正常(0.0mm) ミスアライメント(0.1mm) ミスアライメント(0.3mm) ミスアライメント(0.5mm) ミスアライメント(0.7mm) 1( ) I I I i i p F f . . . ミスアライメント(1.0mm) Fig. 6 Spectra in low frequency area of normal and misalignment stats (a) Case A の状態判定と効率傾向(b) Case B の状態判定と効率傾向 Fig. 7 Examples of state judgment 図7に各ケースにおける状態判定結果および効率傾向を示している。これらの図を見れば分かるように、異常状態がほぼ正しく判定され、効率も異常の程度に従って下がっていくことが確認できる。ミスアライメント状態時のポンプ効率は、図7示すケース以外の流量や回転速度をも含めて検討した結果、たとえば、1. 0mmの軸ずれがあった場合、正常状態に比べ効率が約8%~15%程度低下することが分かった。表1には、各ケースにおける正常状態の信号を用いて、(5-1)~(5-3)式により求めた99.9%の信頼区間の正常状態の限界値C0および注意レベルC1と危険レベルC2を示す。 図7に各ケースにおける状態判定結果および効率傾向を示している。これらの図を見れば分かるように、異常状態がほぼ正しく判定され、効率も異常の程度に従って下がっていくことが確認できる。ミスアライメント状態時のポンプ効率は、図7示すケース以外の流量や回転速度をも含めて検討した結果、たとえば、1. 0mmの軸ずれがあった場合、正常状態に比べ効率が約8%~15%程度低下することが分かった。(2)キャビテーション状態の実例図8に正常状態とキャビテーション状態のスペクトル(例) を示す。 正常(3000rpm) キャビテーション(3000rpm, 軽度) キャビテーション(3000rpm, 重度) Fig. 8 Spectra in 1kHz to 4kHz of normal and cavitation stats 例として、以下のケースの結果を示す。回転速度:3500rpm, 流量:20.0m3/h(正常時), 診断信号:ポンプ本体の加速度表2には、各ケースにおける正常状態の信号を用い て、(5-1)~(5-3)式により求めた99.9%の信頼区間の正常状態の限界値C0および注意レベルC1と危険レベルC2 を示す。 0 0.1 0.3 0.5 0.7 1.0 0正常の限界 0.42 注意レベル 1.05 危険レベル 2.66 異常の度合0 0.1 0.3 0.5 0.7 1.0 0.110.120.130.140.15異常の度合ポンプの効率0 0.1 0.3 0.5 0.7 1.0 0正常の限界 0.55 注意レベル 1.38 危険レベル 3.50 異常の度合0 0.1 0.3 0.5 0.7 1.0 0.420.440.460.48異常の度合ポンプの効率1 2 3 4kHz 03570Amplitude [V] 1 2 3 4kHz 03570 Amplitude [V] 1 2 3 4kHz 03570Amplitude [V] Table 2 Criteria of machine condition based on Weible distribution 図9に状態判定結果および効率傾向を示している。これらの図を見れば分かるように、キャビテーション異常状態が正しく判定され、効率もキャビテーションの程度に従って下がっていくことが確認できる。キャビテーション状態時のポンプ効率は、図9示す ケースを含めて、様々な流量や回転速度について検討した結果、正常状態に比べ効率が顕著に低下することが分かった。 Fig. 9 Examples of state judgment 7.ま と め 本報では、特徴パラメータによるポンプ状態の判定および異常状態によるポンプ効率の変化について検討し、特徴パラメータの確率分布をワイブル分布に当てはめ、実測振動信号からワイブル分布の係数を精密に求め、ワイブル分布の統計値(平均値と分散)を用いたた状態判定法と実例、また、機械的な異常状態(特にミスアライメント状態)がポンプ効率に与える影響を示した。今後、提案した諸方法をさらに現場検証を続け、実 用的かつ高精度な設備性能・状態監視システムの構築を目指す。参考文献 (1) 八木 聡:回転機械部品の寿命に及ぼす芯出しの影響、日本メンテナンス協会「最新保全技術研究会」第I 期報告書(CD-ROM 版)、pp.49-53, 2006. (2) (1) 陳山 鵬:回転機械設備診断の基礎と応用、三恵社出版、2009.2(3) 豊田利夫,陳 鵬,溝田武人:スペクトルの統計的検定による故障信号の抽出、日本精密工学会誌、第58 巻,第6 号、pp.1041-1046(1992.6) (4) 三笘哲郎,内糸伸行、陳山鵬:回転機械設備の振動データの確率分布および判定基準に関する研究、日本設備管理学会誌、Vol.19、No.2、pp.66-73、2007. (5) K. A. Brownlee. Statistical Theory and Methodology in Science and Engineering, Second Edition, The University Chicago, 1965. (6) Pusey HC : Machinery condition monitoring, 0 小 中 大 特大 SOUND AND VIBRATION, 34 (5), 6-7, 2000 0正常の限界 1.39 注意レベル 3.47 危険レベル 8.74 キャビテーションの度合0 小中大特大0.250.30.350.40.45キャビテーションの度合ポンプの効率
“ “ポンプの各異常状態時における効率変化傾向および状態判定法 “ “陳山 鵬,Ho JINYAMA,李 可,Ke LI,薛 紅涛,Hongtao XUE,山村 尚広,Naohiro YAMAMURA,水津 明日香,Asuka SUIZU“ “ポンプの各異常状態時における効率変化傾向および状態判定法 “ “陳山 鵬,Ho JINYAMA,李 可,Ke LI,薛 紅涛,Hongtao XUE,山村 尚広,Naohiro YAMAMURA,水津 明日香,Asuka SUIZU
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