逆止弁診断技術開発

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カテゴリ: 第11回
1.緒言
スイング逆止弁の損傷事象について、ディスクスタッドがバックストップに繰り返し衝突、疲労損傷する事象が1985 年以降米国の原子力発電所で頻発し[1]、この逆止弁損傷事象を問題視したNRC(Nuclear Regulatory Commission)は、全発電所所有者にGL89-04[2]を発行し、許容可能なIST(In Service Testing)プログラムを発展させるための方針を示した。同様に、日本の原子力発電所においても、スイング逆止弁の損傷事象が多数報告されている[3][4]。 日本の原子力発電所において、スイング逆止弁の信頼性は定期的に分解・点検されることによって維持されている。しかしながら、福島第一原子力発電所事故以降、プラント設備に関して、安全性、信頼性をより一層高いレベルで維持していくことが望まれており、スイング逆止弁に関しても、プラント定期検査時にのみ実施可能な分解点検からプラント運転中においても実施可能な状態監視保全技術の開発が必要とされている。そこで、当社は非破壊検査に一般的に用いられている超音波センサ及びAcoustic emission(以下AEという)センサを用い、非破壊的にリアルタイムでスイング逆止弁を診断するシステムを構築した。[5
2.逆止弁診断手法
2.1 診断項目の抽出 スイング逆止弁は、回動部分を中心にスイング可能なアームと、このアーム先端に取付けられた弁体とで構成され、一方向の流れに対して流体圧によって押し開かれる状態になり、逆流すると背圧によって弁座に密着して、逆流を防止する機構を備えた弁である(Fig 1)。 Seat Hinge Arm Disk Disk bolt Body Backstop Disk nut Fig 1 Internal structure of the swing check valve スイング逆止弁の診断手法の着目点に関しては、以下の2点に着目し手法開発を実施した。 ① 摩耗劣化の主要な要因となる弁体の挙動 スイング逆止弁の作動状態ついて、弁体が開いている状態、或いは閉じている状態のような簡易的な判定であれば、内部流体の流量を測定することにより判断することが可能である。しかし、内部流体の流量の微妙な差に
- 103 - よって、弁体が振動していたり、弁体と弁箱が衝突している状態で使用されることがあり、回転部分や接触部分等の摩耗による劣化が懸念される。弁体の詳細位置や安定して止っている状態、或いは弁体が振動している状態、のような診断は一般的に困難である。 ②摺動部における摩耗劣化 弁体の衝突や振動に伴う、アームの回転部分や弁体ボルト、弁体ナットのような摺動部の摩耗は、分解点検時において確認することは可能であるが、非破壊的に診断することは困難である。 したがって、当社は非破壊的に診断することが困難な上記2点に関して、超音波センサ及びAEセンサより得られた信号より、スイング逆止弁の①作動状態および② 摩耗劣化状態を診断する手法を開発した。 2.2 診断装置の構成 (1)AE計測システム AEとは、材料が変形あるいは亀裂が発生したりする際に、材料が内部に蓄えていたひずみエネルギーを弾性波として放出する現象であると定義されている。この弾性波を材料表面に設置したAEセンサで検出し、信号処理を行うことにより材料の破壊過程を非破壊的に評価する手法がAE法である。現在では、材料や構造物の状態や健全性を診断することを目的として、製品の検査や試験、構造物の安全監視、新材料開発などの幅広い分野で使用されている。 本開発で用いていたAE計測システムは、AEセンサ、プリアンプ、ディスクリミネータ、デジタルオシロスコープなどより構成されている。主な装置の仕様をTable 1 に示す。 Table 1 Components of the AE measurement system Equipment Specification etc. AE sensor NF corporation; Serial number: AE-900S-WB Pre amp NF corporation; Serial number: 9917, Frequency characteristic: 2kHz~1.2MHz Discriminator NF corporation; Serial number: AE9922 Frequency characteristic: 1kHz~2MHz Oscilloscope Teledyne LeCroy Japan Corporation; Serial number: Waverunner 204MXi (2)超音波測定システムについて 超音波とは、一般的に可聴周波数(20Hz~20kHz)以上の周波数の波をいうが、パルス状の超音波が金属などの材料中を伝搬する場合、ある指向性を持って直進し、直進した超音波は異なった物体または空隙との境界面で反射する性質を持っている。超音波探傷試験では、材料中の傷からの反射波を検出し、傷の位置と大きさを測定している。また、超音波法は、非破壊検査の多くの場面で利用され、原子力発電所においても設備や構造物の健全性確保のために大きな役割を果たしている。 本開発で用いた超音波計測システムは、超音波センサ、パルサレシーバ、デジタルオシロスコープ、超音波探傷装置などにより構成されている。主な装置の仕様をTable 2 に示す。 Table 2 Components of the ultrasonic measurement system Equipment Specification etc. Ultrasonic sensor PANAMETRICS; Serial number: M2067, 2.25MHz Oscilloscope Teledyne LeCroy Japan Corporation; Serial number: Waverunner 204MXi Ultrasonic test equipment KJTD Co., Ltd; Serial number: HIS-3 2.3 作動状態診断 弁内部の作動状態を弁体の位置に合わせてTable 3のように分類する。また、表 3 の各状態を診断するため、超音波及びAEセンサを用いて以下の3 つの手順を実施する。また、診断手順のフロー図を図 4 に示す。 (1)弁体またはアームの位置判定 (2)弁体またはアームの挙動判定 (3)衝突の判定 Table 3 Classification of the detailed motion of valve Detailed motion Description Full open Arm tip or Disk or Disk bolt is in contact with backstop Tapping Arm tip or Disk or Disk bolt is tapping against Backstop Oscillation Disk oscillates between Seat and Backstop Slightly open Disk is tapping against Seat Close Disk is in contact with Seat - 104 - 1. Position 2. Detailed movement Full open, Tapping, Oscillation Oscillation, Slightly open, Close Full open Tapping, Oscillation Close Full open, Tapping, Oscillation, Slightly open, Close Oscillation, Slightly open 3. Hitting Tapping Oscillation Slightly open Oscillation Fig 2 Diagnostic procedures flowdiagram (1)弁体またはアームの位置判定 弁蓋、弁箱側面或いは弁箱底から超音波を入射させ、弁体若しくはアームからの反射エコーより、弁体位置を判定する。計測される超音波信号例をFig 3 に示す。 超音波センサの設置位置が弁蓋もしくは弁箱底であれば、超音波伝播時間より弁蓋もしくは弁箱底から弁体までの距離を算出し、弁体またはアームの位置を判定することが可能である。また、超音波センサの設置位置が弁箱側面であれば、超音波センサの位置と測定対象物からの反射エコーの有無により、弁体またはアームの位置を測定することが可能である。Reflection echo from edge of the valve body Reflection echo from valve disk Time of flight in the valve Fig 3 Example of the signal by ultrasonic sensor (2)弁体またはアームの挙動判定 超音波センサ位置を固定して、弁体若しくはアームに向けて超音波を入射させた際、測定対象が安定している場合は反射エコーの観測時刻が一定であるのに対し、測定対象が動いている場合は、反射エコーの観測時刻が変化する。この変化を捉えることにより、測定対象が動いているか、安定しているかを判定する。 さらに、超音波センサの設置位置が弁蓋もしくは弁箱底であれば、対象物の反射エコーのピーク計測時間変化より、振動の幅および周期を診断することが可能である。超音波センサの設置位置が弁箱側面であれば、対象物の反射エコーのピーク計測時間変化より、振動の周期を診断することが可能である。Fig 4 Example of reflection echo from valve disk Left:Full open Right:Oscillating Fig 5 Transition of the time of the reflection peak Left:Full open Right:Oscillating (3)衝突の判定AEセンサを逆止弁に設置し、弁体が弁箱と衝突する音を捉えることにより、衝突しているかどうかを判定する。AEセンサは音響ピークが捉えやすいところに設置する。AEセンサの検出信号例をFig 6 に示す。Peak due to tapping Fig 6 Example of the signal by AE sensor 2.4 劣化状態診断スイング逆止弁において、弁体およびアームが動く状態にある場合、アームの回転部分や弁体ボルト、弁体ナットのような摺動部の摩耗が生じる。このような劣化が弁内部の主に駆動部分(アーム、弁体や回転部分)で進行した場合、健全な状態では接触しない部位での衝突がおこり、その結果、衝突による音響ピークの増加がみられる。その音響ピークの変化をとらえることにより、劣- 105 - 化状態を診断する。 ピーク解析については、計測装置に起因する雑音や計測時の周囲の環境に起因する雑音などが存在することから、有効な信号のみを識別して取り出し、信号処理を行う必要がある。本計測に基づく信号処理では、AEセンサの設置状況(弁との接触状況)などにより信号強度が変動することから、信号のRMS 値(root mean square)及びピークの振幅値に応じたしきい値を設定し、それを超えた信号の単位時間当たりのピーク個数をピーク数と定義し、算出した。 3.実機適用 国内原子力プラントの海水ポンプ潤滑水ライン逆止弁(計3台)において、分解点検前後に当社が開発した逆止弁診断を実施し、得られた診断結果と分解点検の点検結果との関係を比較した。なお、分解点検後はすべて新品のスイング逆止弁に交換されている。 Table 4 に逆止弁診断結果と分解点検結果を示す。作動状態診断に関しては、全開および衝突の弁が区別して診断することができ、衝突状態であった弁に関しては、いずれも分解点検の結果より摩耗劣化が生じていた。しかし、全開状態であった弁に関しては、分解点検の結果より異状がないことを確認している。したがって、作動状態を確認することにより、摩耗劣化が生じるかどうかを予測することが可能であると考えられる。 また、劣化が認められた弁に関して、分解点検前後のピーク数を比較すると、分解点検後において明確なピーク数の減少が見られ、摩耗劣化によるピーク数の増加が実機で確認できた。ピーク数をモニタリングすることで、直接的に摩耗劣化を評価することが可能であると考えられる。 Table 4 The inspection system results and overhaul results Valve Valve motion Peak rate measurement [min-1] (→after replacing) Overhaul (abrasion) A Tapping 10(→5) Disk nut and Disk bolt B-1 Full open 0.0 Nothing B-2 Tapping 40(→16) Hinge pin and arm 4.まとめ 1)AEセンサ及び超音波センサを用いた逆止弁診断システムを開発した。開発した診断システムは、スイング逆止弁の作動状態を診断する手法および劣化状態を診断する手法から構成されている。 2)実機での作動状態診断については、実際の弁の作動状態を正確に診断することができ、作動状態とその後の分解点検結果との関係性が明らかになった。作動状態を確認することにより、摩耗劣化が生じるかどうかを予測することが可能であると考えられる。 3)実機での劣化状態診断については、分解点検前後のピーク数を比較すると、分解点検後において明確なピーク数の減少が見られ、摩耗劣化によるピーク数の増加が実機で確認できた。ピーク数をモニタリングすることで、直接的に摩耗劣化を評価することが可能であると考えられる。 4)開発した逆止弁診断システムの有効な利用方法としては、以下のような方法が考えられる。 作動状態診断: 衝突等の不安定な状態にある弁に関しては、運転条件の変更(り流量の調整)や弁自体の交換等を実施するよう提案することが可能となる。 劣化状態診断: 劣化進展をモニタリングすることにより、最適な分解点検時期や取替時期を提案することが可能となる。 参考文献 [1] “check valve failure and degradation”, Institute of Nuclear Power Operations, October 15, 1986 [2] “Guidance on Developing Acceptable Inservice Testing Programs (Generic Letter 89-04), United States Nuclear Regulatory Commission, April 3, 1989 [3] 女川原子力発電所1号機 原子炉給水ポンプ吐出逆止弁、弁体ロックナット座金の摩耗http://www.nsr.go.jp/archive/jnes/atomdb/events-data/even ts-000526.html [4] 東海第二発電所 原子炉隔離時冷却系タービン排気ライン逆止弁損傷に伴う運転上の制限逸脱について http://www.nucia.jp/nucia/kn/KnTroubleView.do?troubleI d=9947 [5] 特願2014-058162, スイング逆止弁の診断方法 - 106 -“ “逆止弁診断技術開発 “ “松永 嵩,Takashi MATSUNAGA,江藤 淳二,Junji ETOH,稲川 聡,Satoshi INAGAWA,礒部 仁博,Yoshihiro ISOBE
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