局所レーザ加熱による金属構造材の高効率補修技術の開発

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カテゴリ: 第11回
1.はじめに
原子炉内構造物に発生したき裂の補修技術として、こ れまでレーザを用いた溶接技術を開発してきた[1。本技術 は炉内構造物に発生したき裂を除去した後に肉盛溶接を 行うものであり、原子炉内で部分的活性ガスの気中 環境を作ることで炉水を抜くことなく遠隔で補修溶接を 行う。また、TIG と比較して低入熱の溶接が可能であり、 原子炉内の材料に対しても適用性が高い。さらに広範囲 を短時間で補修することができれば工期短縮に寄与でき る。そこで、本研究では単位時間当たりの溶接面積(以 下、接面積)の拡大を目的とする。溶接面積を拡大す るには、レーザの加熱面積と溶接ワイヤ供給量の増加必要である。このため、矩形のエネルギー分布を持つレ ーザ光とワイヤを挿入前に加熱するホットワイヤの組み 合わせに着目した。本稿はその第一段階として溶接条件 の基礎的検討結果について報告する。
2.提案手法
レーザ溶接に加熱源として用いられるレーザ光は、加 工点で中心を最大としたガウシアン状に広がるエネルギ ー分布を有していた。従って、補修対象側への入熱はレ ーザ加工点の中心が高くなる。仮にレーザ光のスポット 径を広げることで加熱範囲の拡大を試みると、レーザ光 の照射範囲内で入熱に差が出てしまう。結果として、補 修対象側で温度勾配が発生してしまうため、溶接ワイヤ を挿入した際に十分に拡がらないことが予想される。 そこで、本研究では加熱源として、加工点が Fig.1 に 例として示すような矩形のエネルギー分布を有するトッ プハット型レーザ光に着目した。トップハット型レーザ 光を用いることで、補修対象側への入熱は一定の幅で均 一になると考えらえる。さらに、加工点へワイヤが供給 された際に加工点の温度降下を改善するために、事前に ワイヤを加熱するホットワイヤとの組み合わせを試みた。 これによって、ワイヤ供給時の加工点の温度低下を最小 限に抑えられる。本研究では補修後に最大40年間の運転 連絡先: 上野聡一、〒235-8523 横浜市磯子区新杉田町 を満足するための肉盛厚さとして、1mm以上を制約条件と 8(株)東芝、電話:045-770-2307、 E-mail: souichi.ueno@toshiba.co.jp した。従来補修技術の溶接面積の 2 倍以上である 50cm2/min 以上で行うことを目標とした。
Fig.1 The energy distribution of laser beam 3.熱伝導解析による検証 Fig .2 に熱伝導解析モデルを示す。被加熱体には一般的 な金属構造材であるステンレス鋼とし、形状は200mm× 200mm×50mmtである。加熱源であるレーザ光は、Fig.3 に示す様に出力 1kW のガウシアン分布のレーザ光を BB 断面と平行な方向に並列して 4 つ重ね合わせることで、 Fig.3 に示す矩形型のエネルギー分布を持つレーザ光を加 熱源とした。比較用として、加熱源領域の中心に出力4kW のガウシアン分布のレーザ光を照射した場合も解析を行 った。また、加熱源は Fig.2 の点線で示す 20mm×10mm の領域に与え、速度40cm/min で走査をさせた。解析開始 の初期温度は 20°Cとし、ステンレス鋼の比熱、熱伝達率 はTable.1に示すように温度依存を考慮した[2]。Fig.2に示 す加熱源の領域の中心を通り走査方向に平行な AA 断面 と、走査方向に垂直な BB 断面の温度分布を求めた。結 果をFig.4に示す。AA 断面の温度分布は矩形分布、ガウ シアン分布ともに加熱領域に差は見られない。一方、BB 断面はガウシアン分布と比較して、矩形分布がより広い 領域に高温域が分布していることが確認できる。従って、 レーザ光のエネルギー分布を矩形分布とすることで、加 熱領域拡大の効果が期待できることを確認した。 Fig.2 Analytical model Fig.3 Concept of oblong heat source Table.1 Analytical conditions 水中レーザ溶接ではガウシアン分布のレーザ光で被加 熱体の表面を加熱し溶融させ、溶融池にワイヤを挿入す る。ワイヤを雰囲気温度で挿入すると、ワイヤの溶融に よって溶融池側から熱量が奪われる。安定した溶接を行 うためには、この熱損失も考慮して加熱源となるレーザ 光の条件を決める必要がある。前章で述べた矩形エネル ギー分布による加熱領域拡大効果を最大限にいかすため に、本研究では挿入前に事前にワイヤを加熱するホット ワイヤとの組み合わせを検討した。これによって、ワイ ヤの溶融による熱損失を最小限にすることを試みた。 Temperature Specific heat Heat conductivity ? J/(g?K) W/(mm w K) 20 0.452 0.0146 100 0.494 0.0156 300 0.523 0.017 500 0.553 0.0197 700 0.578 0.0224 1400 0.620 0.0276 - 108 - Fig.4 The results of heat conduction analysis 4.溶接試験方法 Fig.5 に試験体系を示す。レーザヘッドはCOHERENT社 製の4kW ダレクトダイオードレーザ(DDL)を使用した。 DDL で成形される加工点の形状はバーンパターンから、 走査方向と垂直方向に15mm、平行方向に3mmであった。 ワイヤ供給後の表面の酸化を防ぐためにArガスをノズル で吹き付けた。試験体は材質 SUS304、サイズは 200mm×200mm×50mmtである。本試験片の化学成分表を Table.2 に示す。ワイヤ材質は 52M、ワイヤ径は φ1.2mm である。本試験で使用したホットワイヤは通電方式であ る。試験体にアースを取りワイヤ供給装置側を高電位に することで、ワイヤが試験片表面に接触した瞬間に電流 が流れる。この電流によるジュール熱でワイヤを加熱す る。本試験のパラメータはレーザ走査速度(cm/min)、ワ イヤ予熱電流(A)、ワイヤ供給速度(cm/min)である。 レーザ出力はワイヤ供給時に表面温度をより高温にする ため、最大出力の4kW とした。また、ワイヤ溶融後の肉 盛部の形状をFig.6に示すように半楕円と近似すると、厚 さ1mm以上の肉盛部断面積S(cm2)が1分間当たり50cm2 以上であるために、肉盛部の高さ h(cm)とレーザの走 査速度v(cm/min)は、以下の関係式 , を満たす必要がある。さらに、変形して得られる の関係式からレーザ走査速度が約30cm/min以上必要と算 出した。そこで、レーザ走査速度を30cm/min、40cm/min の 2 種類とした。また、このときの 1 分間当たりに形成 される肉盛部の体積から、最低限必要なワイヤ供給速度 を 700cm/min と算出し、両レーザ走査速度において肉盛 可能なワイヤ予熱電流値を、試験を複数回行うことで求 めた。その後、ワイヤ供給速度とワイヤ予熱電流をとも に増加させて、肉盛厚さ1mm 以上の溶接面積が最大にな る条件を求めた。各試験パラメータの変動範囲を Table.3 に示す。面積の評価方法は以下に記載する通りである。 Fig.7に示す様に肉盛部の型を取り、一定間隔で6つの領 域に区切る。各断面において厚さ 1mm 以上の幅を求め、 分割した 6 つの領域を台形と近似してそれぞれの面積を 算出し、その総和を求めた。最後にレーザ走査速度から 肉盛に要した時間を求め、溶接面積を求めた。 Laser scanning Gas nozzle Ar Specimen(SUS304) Chemical Composition (%) C Si Mn P S Ni Cr Mo ×100 ×100 ×100 ×1000 ×1000 ×100 ×100 - 5 43 110 32 2 807 1814 - Laser scanning Cross-section: elliptically-shape Fig.5 Experimental setup Table.2 Chemical composition Repairing area more than 1 mm in thickness Repairing area more than 1 mm in thickness Repairing area more than 1 mm in thickness h 15mm Table.3 Variation range of test parameters Parameter Unit Variation range Scan velocity cm/min 30 or 40 Feeding velocity cm/min 700 ~ 1300 HeatCurrent A 140 ~ 330 Fig.7 The way of evaluating area more than 1mm in“ “局所レーザ加熱による金属構造材の高効率補修技術の開発 “ “上野 聡一,Souichi UENO,椎原 克典,Katsunori SHIIHARA,福田 健,Takeshi FUKUDA
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