再処理施設分析廃液配管の腐食原因の調査

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カテゴリ: 第11回
1.緒言
東海再処理施設 分析所(昭和48年竣工)は、1 階に 工程管理、核物質計量管理のため分離精製工場等から採 取された放性の分析試料を分析する分析セル、グロー ブボックス、ヒュームフード、実験台等の分析設備を備 えた高放射性分析室、中性分析室、低放射性分析室 などが設置されている。分析作業により発生した分析廃 液は、放射能レベルに応じて放射性溶液配管(以下、「排 水配管」という)を介して、分析設備から地下1階のセ ル内に設置されている廃液中間貯槽に移送される。このうち、グローブボックスで分析した放射性物質を 含む分析廃液を移送する排水配管について、平成24年 度に腐食孔の発による放射性物質の漏えい事象が1 階の床面に敷設されている排水配管(図1参照)と地下 1階の天井付近に敷設されてい水配管(図2参照) の異なる2系統で発生した。これらの腐食孔付近の排水 配管を切り出して原因調査を行った。また、その他の類 似排水配管についてフェーズドアレー搭載型の超音波 探傷器による非破壊点検を行ったのでその結果を報告 する。
図2 地下1階天井付近の排水配管の腐食部及びその周辺
図1 1階床面の排水配管の腐食部及びその周辺 2.腐食の原因調査 排水配管の材料は、1階及び地下1階ともステンレス 鋼であることから、腐食の原因調査として材料及び施工 状況、排水配管の使用履歴、切り出した排水配管の腐食 孔及び周辺の詳細観察及び腐食に寄与する因子の調査を 実施した。 なお、切り出した排水配管には放射性物質が内包され ているため、配管サンプルの加工、観察、測定等はグロ ーブボックス内にて実施した。 2.1 材料及び施工状況調査 腐食孔が確認された排水配管の材料及び施工状況の調 査結果を表1に示す。1階の排水配管は、冷間仕上自動 アーク溶接配管(電縫溶接配管)の直管部で配管傾斜度 は、1.0%(下り勾配)であった。地下1階の排水配管は、 曲がり部は曲がり加工により敷設されていて、配管の傾 斜度は腐食孔が確認された曲がり部の上流側は2.0%(下 り勾配)、下流側は0.2%(下り勾配)であった。 表1 排水配管の材料及び施工状況 2.2 排水配管の使用履歴 腐食孔が確認された2つの排水配管は、ともに1階の 別々のグローブボックスに接続されているが、共通事項 として表2のとおり、塩素系分析試薬を流した実績があ った。また、接続している上流側グローブボックスの用 途の変更より、廃液等の排水を停止してから10年以上が 経過していた。 2.3 腐食孔及び周辺の詳細観察 (1)全体観察 2つの排水配管の一部を敷設箇所から切り出し、上下 半分に切断したところ、1階の配管下部内面には黒褐色 の付着物を、地下1階の配管下部内面には茶褐色の堆積 図3 排水配管内表面の様子 (2)マクロ・ミクロ観察 腐食孔及び周辺の配管外表面・内表面について、光学 顕微鏡により観察したところ、1階の排水配管外表面の 腐食孔の位置から下流側に約4cm 離れた位置の内表面に、 管軸方向の複数の亀裂と、周辺に微細な腐食孔が観察さ れた。地下1階の排水配管外表面の腐食孔は、茶褐色で 虫食い状に広がっており、貫通していることを確認した。 光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡による腐食孔断面部 の金属組織の観察結果からは、両排水配管とも、金属の 物が確認されたため、スクレーパー等による堆積物の除 去回収と水による洗浄後に、配管内表面を観察した結果 を図3に示す。1階の配管は、配管外表面の腐食孔の位 置の配管内表面は平滑であり、腐食による貫通孔等は確 認できなかったが、配管下流側の内表面には数箇所の微 細な孔が認められた。地下1階の配管は、腐食孔部の配 管内表面に直径約0.4mm 程度の腐食孔とその付近には管 軸方向に延びる直線状の微細な傷が観察された。 - 128 - 表2 排水配管上流側グローブボックスの使用状況 結晶粒界部分の選択的な浸食による脱粒や粒内を伝播す るような割れは確認されなかった。1) (3)1階の排水配管腐食孔の貫通試験 1階の排水配管外表面の腐食孔の位置の配管内表面に は貫通した食孔が確認できなかったことから、配管外表 面の腐食孔より水滴をシリンジで注入し、配管内表面の 貫通孔の位置を調査したところ、腐食孔の約4cm 下流側 の内表面の微細な食孔から水滴を確認した。(図4参照) 図4 腐食孔の貫通試験 2.4 腐食に寄与する因子の調査 ステンレス鋼配管の腐食に寄与する因子の調査として、 腐食成分の分析、排水配管の肉厚測定、浸透探傷試験、 放射線透過試験、硬度調査及び腐食部周辺の応力評価を 実施した。 (1)腐食成分の分析 腐食成分の分析は、腐食孔部と腐食孔が確認された配 管内部の堆積物及び腐食孔が確認された配管に接続され ているグローブボックス廃水設備内滞留水について、イ オンクロマトグラフ分析及び高周波誘導プラズマ発光分 析装置による元素分析を行った。結果を表3に示す。両 排水配管の腐食孔部及び配管内の堆積物から塩化物イオ ン(Cl-)が検出されるとともに、ステンレス鋼の成分(Fe、 Cr、Ni等)を中心とした元素が確認された。なお、グロ ーブボックスの主材質であるステンレス鋼の成分が観察 されるとともに、地下1階の配管内部の堆積物において 分析試薬由来のものと推定されるアルミニウム(Al)が 認められた。 (2)排水配管の肉厚測定 腐食孔が発生した排水配管系統について、肉厚の減少 の有無を確認するため、超音波厚さ計により、肉厚測定 を行った。その結果、両排水配管とも材料調査で確認さ れた厚さ(1階:3.0mm、地下1階:2.8mm)に対して、 図5 排水配管外内表面の浸透探傷試験の結果 (4)放射線透過試験 両排水配管の腐食孔を含む底面部についてエックス線 による透過写真を撮影し、その映像から異常部の範囲と 肉厚の確認及び配管断面内部の様子について評価を行っ た。図6にそれぞれの配管底面の写真とその透過写真を 示す。 JIS2)に基づく許容差内(厚さ2mm以上 ±10%)であった。 表3 腐食成分の分析結果 両排水配管の腐食孔部位周辺の配管外表面と内表面に ついて、表面に存在する欠陥の有無を調査するため、浸 透探傷試験を行った。その結果を図5に示す。地下1階 の配管内表面の写真は、腐食孔部より下流側を細断した ものである。 1階の排水配管の外表面については、腐食孔以外の有 意な欠陥指示は確認されなかった。また、腐食孔の位置 の内表面については、欠陥指示が確認されなかったが、 約4cm下流側に複数の赤色指示を確認した。地下1階の 排水配管の外内表面についても、腐食孔以外の有意な欠 陥指示は確認されなかった。 - 129 - (3)浸透探傷試験 1階の排水配管について、配管外面(底面部)の腐食 孔位置を含んだ管軸方向に約6cmの長さの空隙が確認さ れた。この空隙は、配管内面の貫通孔位置(外面腐食孔 から約4cm下流側)も含んでおり、配管外面と内面の貫通 を裏付ける結果となった。さらに、この長い空隙の周辺 には小さな空隙が認められ、これらは長い空隙とは貫通 しておらず独立して存在しているようであった。また、 試験体を側面から撮影して腐食孔の断面の形状について 評価したところ、上記の空隙は配管断面の中央付近に位 置していることが確認された。配管上面の分割部からは、 溶接線を示す直線状の支持以外に亀裂等の欠陥は確認さ れなかった。 地下1階の排水配管については、底面部の腐食孔以外 に亀裂等の欠陥は確認されなかった。 3.フェーズドアレーによる排水配管の点検 原因調査結果を踏まえ、分析所の1階及び地下1階に 敷設されている排水配管について、外観検査で配管表面 の異常(有害な傷、錆、変色及び変形)が無いことを確 認した後、過去に塩素系分析試薬を排水したことのある 図6 排水配管内表面と放射線透過試験の結果 排水配管について、フェーズドアレー搭載型の超音波探 傷器を用いた非破壊検査により、配管内表面及び配管部 (5)腐食部周辺の応力評価 材内の欠陥の有無について点検を行った。 排水配管に発生した腐食部に対して、施工時又は使用 中に荷重が加えられることにより引張応力が発生し、腐 3.1装置及び配管試験片 食孔の発生に寄与していた可能性(応力腐食割れ)を調 点検に使用した装置本体は、OLYMPUS 社製 EPOCH 査するために、配管の切り出し前後におけるひずみの差 1000iで、プローブ(接触子)は同社製 5L16-A10である。 を汎用箔ひずみゲージで測定した。 フェーズドアレー超音波探傷法は、プローブ(接触子) 腐食部については引張応力はなく、いずれの配管につ から発生させる超音波(縦波)を配管中に伝搬させたと いても応力腐食割れではなかった。3) きに、配管の示す音響的性質を利用して、配管内部を厚 さ方向に画像処理し、配管内表面の凹み、減肉、配管部 2.5 腐食原因の特定 材内の空隙等の有無を評価するものである。6) 腐食部位の状況や要因解析により抽出した調査項目を 点検に際しては、排水配管と同材質及び同寸法相当の 評価した結果、1階及び地下1階の排水配管の腐食原因“ “再処理施設分析廃液配管の腐食原因の調査 “ “田中 直樹,Naoki TANAKA,諏訪 登志雄,Toshio SUWA,西田 直樹,Nai NISHIDA,久野 剛彦,Takehiko KUNO,伊波 慎一,Shinichi INAMI
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