長尺配管内壁面広域一括探傷のための マイクロ波探傷法の開発
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カテゴリ: 第11回
1.緒言
効率的な検査の実施は経済性の観点から極めて重要であり、短時間に広範囲を一括して検査が可能である、いわゆる広域一括探傷技術の重要性が近年ますます認識されるようになってきている。プラントの保全活動という観点からは、一般的に重要な役割を担っている配管の健全性をいかに効率よく担保することが出来るかということは重要な課題であり、このような課題の解決に資することを目的として、著者らはマイクロ波を用いて配管内壁面の一括探傷を行う技術を提唱し[1]、その高度化のための各種研究開発を行ってきた[2-5]。 当該技術は、配管内にマイクロ波を伝播させた場合、配管内の何らかの異物や不連続部の存在によりマイクロ波が反射しうることを利用して、管内を伝播するマイクロ波の反射の有無及び反射波の飛行時間、そしてその強度から、きずの検出と評価を行うというものである。マイクロ波は金属配管内部を低損失で伝播することが可能であるため、当該技術においてはプローブの移動を必要 とせず、配管内壁面の広域一括探傷が可能となるものと期待される。これまでの研究の結果、反射波の飛行時間 と強度はそれぞれきず位置及びきずの大きさと有意な相関を有することが明らかとなっている。さらに、管内を伝播するマイクロ波の分散を補償するための信号処理技術[3]、マイクロ波を検査対象とする配管内に効率的に入射させるための入射部製作技術[4]についても近年報告済である。しかしながら、従来検討は数m程度の短管を用いてのものにとどまっており、当該技術が目的とする広域一括探傷技術としての検討は不十分であった。 本稿においては、以上の状況を鑑みて実施された、マイクロ波を用いた配管内壁面広域一括探傷技術の長尺配管に対する適用性評価試験結果について報告する。
2.長尺配管内壁面一括探傷技術としてのマイ
クロ波探傷法の適用性評価 2.1 試験体系 試験体系を図1 に示す。対象は内径19mm の真鍮製配管であり、長さ1-2m の直管をフランジで接続することで、全長を31m としたものである。内径21mm、長さ50mm の短管を挟み込むことで管内壁面に発生した全周一様減肉を模擬し、短管を挟み込む位置、即ち模擬減肉の位置は、管端部から6、9、17mのいずれかとした。 マイクロ波の発振及び測定には、ネットワークアナライザ(Agilent Technology 社製E8363A)を用いた。ネットワークアナライザと被検査対象である配管の接続にはフ
レキシブルケーブル(潤工社製MWX051)及びセミリジットケーブル(アンリツ社製K118)を用い、セミリジットケーブルは配管に対して同軸かつ芯線が5mm 配管内に延長されるように、配管に取り付けられている。測定は周波数領域で実施し、用いた周波数帯は12~22GHz、等間隔6401 周波数で行った。最終的に得られた信号に対して逆フーリエ変換を施すことで、管端部においてパルス状のマイクロ波が入射した場合に相当する反射波の時間領域での評価を行った。尚、内径19mm の円管内に伝播するマイクロ波の、TM01、TM11、TM21、TM02モードにおける遮断周波数はそれぞれ、12.1、19.3、25.8、27.7GHz である。 図1 実験体系 2.2 試験結果 得られた試験結果を図2 に示す。図中縦軸は反射波の強度、横軸は反射波の飛行時間を表しており、横軸原点はマイクロ波が配管に入射した時刻としている。即ち、時刻0 で確認できる大きな反射波は、フレキシブルケーブル及びセミリジットケーブル内を伝播してきたマイクロ波が、セミリジットケーブルと被検査体である配管の接合部で反射された信号に対応している。また、いずれのきずに対する試験結果においても確認できる時刻300ns 付近におけるなだらかな信号は、配管端部からのものである。 図より、ほぼマイクロ波入射位置からの距離に応じた時刻にきずからの反射波が得られていることが確認できる。入射位置からの距離と共に反射波の強度は低下し、かつ反射波がなまったものとなっているが、これは管内を伝播するマイクロ波の分散と減弱のためである。また、時刻0~50ns の間にて得られている複数の小さな反射波は位置的には配管の接続部からのものである。上述のように配管はフランジを用いて接続されているために接続部の空隙はごくわずかなものであり、よってこれらの試験結果は将来的に本手法が割れのような体積がほぼ0 であるきずに対しても有効である可能性を示唆しているものと考えられる。 図2 マイクロ波反射信号 3.結言 マイクロ波を用いた配管内壁面広域一括探傷技術の開発状況について報告した。31m の直管を用いた試験の結果は、マイクロ波の入射部から17mの位置に設置した模擬減肉を明瞭な信号をもって検出することが可能であるというものであり、もって当該技術の広域一括探傷技術としての有望性を確認することが出来たと言える。 参考文献 [1] K. Sugawara, H. Hashizume, and S. Kitajima, “Development of NDT method using electromagnetic waves”, JSAEM Studies in Applied Electromagnetics and Mechanics, Vol. 10, 2001, pp. 313-316. [2] K. Abbasi, S. Ito, and H. Hashizume, “Prove the ability of microwave nondestructive method combined with signal processing to determine the position of a circumferential crack in pipes”, Int. J. Appl. Electromag. Mech.s, Vol. 28, 2008, pp. 429-439 [3] Y. Sakai, N. Yusa, and H. Hashizume, “Nondestructive evaluation of wall thinning inside a pipe using the reflection of microwaves with the aid of signal processing”, Nondestr. Test. Eval., Vol. 27, 2012, pp. 171-184. [4] 佐々木、遊佐、若井、橋爪、”マイクロ波入射部最適
12、2013、pp. 81-86. - 16 -
“ “長尺配管内壁面広域一括探傷のための マイクロ波探傷法の開発 “ “橋爪 秀利,Hidetoshi HASHIZUME,佐々木 幸太,Kota SASAKI,遊佐 訓孝,Noritaka YUSA
効率的な検査の実施は経済性の観点から極めて重要であり、短時間に広範囲を一括して検査が可能である、いわゆる広域一括探傷技術の重要性が近年ますます認識されるようになってきている。プラントの保全活動という観点からは、一般的に重要な役割を担っている配管の健全性をいかに効率よく担保することが出来るかということは重要な課題であり、このような課題の解決に資することを目的として、著者らはマイクロ波を用いて配管内壁面の一括探傷を行う技術を提唱し[1]、その高度化のための各種研究開発を行ってきた[2-5]。 当該技術は、配管内にマイクロ波を伝播させた場合、配管内の何らかの異物や不連続部の存在によりマイクロ波が反射しうることを利用して、管内を伝播するマイクロ波の反射の有無及び反射波の飛行時間、そしてその強度から、きずの検出と評価を行うというものである。マイクロ波は金属配管内部を低損失で伝播することが可能であるため、当該技術においてはプローブの移動を必要 とせず、配管内壁面の広域一括探傷が可能となるものと期待される。これまでの研究の結果、反射波の飛行時間 と強度はそれぞれきず位置及びきずの大きさと有意な相関を有することが明らかとなっている。さらに、管内を伝播するマイクロ波の分散を補償するための信号処理技術[3]、マイクロ波を検査対象とする配管内に効率的に入射させるための入射部製作技術[4]についても近年報告済である。しかしながら、従来検討は数m程度の短管を用いてのものにとどまっており、当該技術が目的とする広域一括探傷技術としての検討は不十分であった。 本稿においては、以上の状況を鑑みて実施された、マイクロ波を用いた配管内壁面広域一括探傷技術の長尺配管に対する適用性評価試験結果について報告する。
2.長尺配管内壁面一括探傷技術としてのマイ
クロ波探傷法の適用性評価 2.1 試験体系 試験体系を図1 に示す。対象は内径19mm の真鍮製配管であり、長さ1-2m の直管をフランジで接続することで、全長を31m としたものである。内径21mm、長さ50mm の短管を挟み込むことで管内壁面に発生した全周一様減肉を模擬し、短管を挟み込む位置、即ち模擬減肉の位置は、管端部から6、9、17mのいずれかとした。 マイクロ波の発振及び測定には、ネットワークアナライザ(Agilent Technology 社製E8363A)を用いた。ネットワークアナライザと被検査対象である配管の接続にはフ
レキシブルケーブル(潤工社製MWX051)及びセミリジットケーブル(アンリツ社製K118)を用い、セミリジットケーブルは配管に対して同軸かつ芯線が5mm 配管内に延長されるように、配管に取り付けられている。測定は周波数領域で実施し、用いた周波数帯は12~22GHz、等間隔6401 周波数で行った。最終的に得られた信号に対して逆フーリエ変換を施すことで、管端部においてパルス状のマイクロ波が入射した場合に相当する反射波の時間領域での評価を行った。尚、内径19mm の円管内に伝播するマイクロ波の、TM01、TM11、TM21、TM02モードにおける遮断周波数はそれぞれ、12.1、19.3、25.8、27.7GHz である。 図1 実験体系 2.2 試験結果 得られた試験結果を図2 に示す。図中縦軸は反射波の強度、横軸は反射波の飛行時間を表しており、横軸原点はマイクロ波が配管に入射した時刻としている。即ち、時刻0 で確認できる大きな反射波は、フレキシブルケーブル及びセミリジットケーブル内を伝播してきたマイクロ波が、セミリジットケーブルと被検査体である配管の接合部で反射された信号に対応している。また、いずれのきずに対する試験結果においても確認できる時刻300ns 付近におけるなだらかな信号は、配管端部からのものである。 図より、ほぼマイクロ波入射位置からの距離に応じた時刻にきずからの反射波が得られていることが確認できる。入射位置からの距離と共に反射波の強度は低下し、かつ反射波がなまったものとなっているが、これは管内を伝播するマイクロ波の分散と減弱のためである。また、時刻0~50ns の間にて得られている複数の小さな反射波は位置的には配管の接続部からのものである。上述のように配管はフランジを用いて接続されているために接続部の空隙はごくわずかなものであり、よってこれらの試験結果は将来的に本手法が割れのような体積がほぼ0 であるきずに対しても有効である可能性を示唆しているものと考えられる。 図2 マイクロ波反射信号 3.結言 マイクロ波を用いた配管内壁面広域一括探傷技術の開発状況について報告した。31m の直管を用いた試験の結果は、マイクロ波の入射部から17mの位置に設置した模擬減肉を明瞭な信号をもって検出することが可能であるというものであり、もって当該技術の広域一括探傷技術としての有望性を確認することが出来たと言える。 参考文献 [1] K. Sugawara, H. Hashizume, and S. Kitajima, “Development of NDT method using electromagnetic waves”, JSAEM Studies in Applied Electromagnetics and Mechanics, Vol. 10, 2001, pp. 313-316. [2] K. Abbasi, S. Ito, and H. Hashizume, “Prove the ability of microwave nondestructive method combined with signal processing to determine the position of a circumferential crack in pipes”, Int. J. Appl. Electromag. Mech.s, Vol. 28, 2008, pp. 429-439 [3] Y. Sakai, N. Yusa, and H. Hashizume, “Nondestructive evaluation of wall thinning inside a pipe using the reflection of microwaves with the aid of signal processing”, Nondestr. Test. Eval., Vol. 27, 2012, pp. 171-184. [4] 佐々木、遊佐、若井、橋爪、”マイクロ波入射部最適
12、2013、pp. 81-86. - 16 -
“ “長尺配管内壁面広域一括探傷のための マイクロ波探傷法の開発 “ “橋爪 秀利,Hidetoshi HASHIZUME,佐々木 幸太,Kota SASAKI,遊佐 訓孝,Noritaka YUSA