レーザー塗膜除去技術の原子力プラントへの適用可能性 に関する検討
公開日:
カテゴリ: 第11回
1.目的
土木・建築分野において橋梁等の塗装の現場除去を目 的として開発されたポータブルレーザー塗膜除去装置 [1](図1)は、処理速度の速さおよび二次次廃棄物量の 少なさから、原子力分野においても廃止措置の除染技術として適用できる可能性がある。本研究では、レーザー 塗膜除去技術の除染技術への適用可能性を確認するため、 鋼材表面のさびの除去(図2)や処理速度の推定など、 除染技術への適用に向けた基礎的な検討を行った。
図1 塗膜除去用に開発されたポータブルレーザー照射装置 図2 ポータブルレーザー照射装置を用いたさびの除去
2.実験
除染技術に適用した場合の処理速度を推定するため、 Yb ファイバーレーザーを搭載したポータブルレーザ ー照射装置を用いて、無垢の316 ステンレス表面への 照射実験を行い、レーザーフルエンス(単位面積あた りに注がれるエネルギー)をパラメータとして、鋼材 表面の除去量を測定した。 レーザーフルエンスは、図3に示すようにレーザー の出力 P[W]、集光径 φ[cm]およびスキャン速度 v[cm/s]からP/φv[J/cm2]のように設定できる。本実験で は、出力 500Wを一定とし、図4に示すように鋼材を 照射装置に対し斜めに固定して、スキャン速度25, 50, 100[mm/s]で走査させ、異なる集光径でのデータを同時 - 157 - に取得した。照射後に、3次元顕微鏡を用いて鋼材表 面の3次元形状を計測し、レーザーアブレーションで 表面が削りとられた部分の体積をソフトウェアで解析 し、単位時間当たりの除去量として導出した。 レーザーパワー P(W) スキャン速度 v (cm/s) 集光径 φ(cm) 距離 v X t (cm) (時間t(s)) stWP )()( × φ )()( cm ×cmvt = φ P v)/( cmJ 2 単位面積当たりに注がれる エネルギー(フルエンス) 図3 照射条件(レーザーフルエンス)の設定方法 500W 試料 SUS316 CoolLaserTM レーザーヘッド レーザー光 X軸方向スキャン 500W 一定 stWP )()( × φ )()( cm ×cmvt = φ P v)/( cmJ 2 レーザー光 X軸方向スキャン 図4 レーザー照射による鋼財表面の除去実験 3.結果と考察 3.1 レーザーフルエンスと除去量の関係 図5に、レーザーフルエンスと鋼材表面の除去量の 関係を示す。この図から、除去量はレーザーフルエン スとともに増加するが、図中の矢印で示すように、、特 異的に除去体積が大きくなるレーザーフルエンスの条 件があることが分かった。 60000000050000000040000000000 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 Fluence (J/cm^2) 3.E+08 25mm/s 50mm/s 100mm/s 200000000100000000図5 レーザー照射除去性能のレーザーフルエンス依存性 - 158 - 図6に、照射後の鋼材表面の写真と3次元形状を重 ねたものを示す。左が特異的に除去量が大きくなった 条件(除去量 5.5×108[μm3]、レーザーフルエンス 5000[J/cm2])、右がそれよりもレーザーフルエンスが少 し低い条件である。 図6 レーザー照射後の鋼材表面 左図では焦点が絞れて集光径が小さくなっており、右 図に比べ除去された部位を示す黒い部分が細くなって いる。対して、右図では黒い部分の外側に除去に至ら なかった熱影響部を示す青い部分が見られる。これよ り、熱影響部を生じず投入したエネルギーが全て除去 に使われるような条件(最適照射条件)で除去量が最 大になることが推測される。 3.2 処理速度の推定 ポータブルレーザー照射装置に市販の最大級出力を もつ10kWレーザーを搭載できたと仮定して、集光径、 スキャン速度を調整し最適照射条件にした場合におけ る処理速度を、除去深さをパラメータとして算定した。 i) 前項の実験から最適照射条件における 単位時間・単位除去体積あたりの投入エネルギー 500[W]÷5.5×108 [μm3/s] = 9.1×10-7 [J/μm3] ii) 除去深さD[μm]、対象面積1m2あたりに投入す べきエネルギー D×1012 [μm3]× 9.1×10-7 [J/μm3] =9.1×105 D [J] iii) レーザー出力 10kW で前項のエネルギーの投入 にかかる時間 9.1×105 D [J]÷104[J/s]÷60[s/min] = 1.5 D[min] 除去深さは10~150[μm]と言われており、仮に50 [μm]とすると、理想的な条件ではあるものの、1m2を 除染処理するために必要な時間は75 分となる。これよ り、10kW クラスのレーザーを搭載することができれ ば、実用化に向けた検討に値すると思われる。 参考文献 [1] 株式会社トヨコー. 樹脂塗膜剥離方法及びその装置. 特開2012-081455
“ “?レーザー塗膜除去技術の原子力プラントへの適用可能性 に関する検討 “ “稲垣 博光,Hiromitsu INAGAKI,藤田 和久,Kazuhisa FUJITA,沖原 伸一朗,Shin-ichiro OKIHARA,豊澤 一晃,Kazuaki TOYOSAWA,前橋 伸光,Nobumitsu MAEBASHI,高原 和弘,Kazuhiro TAKAHARA,鈴木 猛,Takei SUZUKI,黒柳 昭博,Akihiro KUROYANAGI,秋吉 徹明,Tetsuaki AKIYOSHI
土木・建築分野において橋梁等の塗装の現場除去を目 的として開発されたポータブルレーザー塗膜除去装置 [1](図1)は、処理速度の速さおよび二次次廃棄物量の 少なさから、原子力分野においても廃止措置の除染技術として適用できる可能性がある。本研究では、レーザー 塗膜除去技術の除染技術への適用可能性を確認するため、 鋼材表面のさびの除去(図2)や処理速度の推定など、 除染技術への適用に向けた基礎的な検討を行った。
図1 塗膜除去用に開発されたポータブルレーザー照射装置 図2 ポータブルレーザー照射装置を用いたさびの除去
2.実験
除染技術に適用した場合の処理速度を推定するため、 Yb ファイバーレーザーを搭載したポータブルレーザ ー照射装置を用いて、無垢の316 ステンレス表面への 照射実験を行い、レーザーフルエンス(単位面積あた りに注がれるエネルギー)をパラメータとして、鋼材 表面の除去量を測定した。 レーザーフルエンスは、図3に示すようにレーザー の出力 P[W]、集光径 φ[cm]およびスキャン速度 v[cm/s]からP/φv[J/cm2]のように設定できる。本実験で は、出力 500Wを一定とし、図4に示すように鋼材を 照射装置に対し斜めに固定して、スキャン速度25, 50, 100[mm/s]で走査させ、異なる集光径でのデータを同時 - 157 - に取得した。照射後に、3次元顕微鏡を用いて鋼材表 面の3次元形状を計測し、レーザーアブレーションで 表面が削りとられた部分の体積をソフトウェアで解析 し、単位時間当たりの除去量として導出した。 レーザーパワー P(W) スキャン速度 v (cm/s) 集光径 φ(cm) 距離 v X t (cm) (時間t(s)) stWP )()( × φ )()( cm ×cmvt = φ P v)/( cmJ 2 単位面積当たりに注がれる エネルギー(フルエンス) 図3 照射条件(レーザーフルエンス)の設定方法 500W 試料 SUS316 CoolLaserTM レーザーヘッド レーザー光 X軸方向スキャン 500W 一定 stWP )()( × φ )()( cm ×cmvt = φ P v)/( cmJ 2 レーザー光 X軸方向スキャン 図4 レーザー照射による鋼財表面の除去実験 3.結果と考察 3.1 レーザーフルエンスと除去量の関係 図5に、レーザーフルエンスと鋼材表面の除去量の 関係を示す。この図から、除去量はレーザーフルエン スとともに増加するが、図中の矢印で示すように、、特 異的に除去体積が大きくなるレーザーフルエンスの条 件があることが分かった。 60000000050000000040000000000 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 Fluence (J/cm^2) 3.E+08 25mm/s 50mm/s 100mm/s 200000000100000000図5 レーザー照射除去性能のレーザーフルエンス依存性 - 158 - 図6に、照射後の鋼材表面の写真と3次元形状を重 ねたものを示す。左が特異的に除去量が大きくなった 条件(除去量 5.5×108[μm3]、レーザーフルエンス 5000[J/cm2])、右がそれよりもレーザーフルエンスが少 し低い条件である。 図6 レーザー照射後の鋼材表面 左図では焦点が絞れて集光径が小さくなっており、右 図に比べ除去された部位を示す黒い部分が細くなって いる。対して、右図では黒い部分の外側に除去に至ら なかった熱影響部を示す青い部分が見られる。これよ り、熱影響部を生じず投入したエネルギーが全て除去 に使われるような条件(最適照射条件)で除去量が最 大になることが推測される。 3.2 処理速度の推定 ポータブルレーザー照射装置に市販の最大級出力を もつ10kWレーザーを搭載できたと仮定して、集光径、 スキャン速度を調整し最適照射条件にした場合におけ る処理速度を、除去深さをパラメータとして算定した。 i) 前項の実験から最適照射条件における 単位時間・単位除去体積あたりの投入エネルギー 500[W]÷5.5×108 [μm3/s] = 9.1×10-7 [J/μm3] ii) 除去深さD[μm]、対象面積1m2あたりに投入す べきエネルギー D×1012 [μm3]× 9.1×10-7 [J/μm3] =9.1×105 D [J] iii) レーザー出力 10kW で前項のエネルギーの投入 にかかる時間 9.1×105 D [J]÷104[J/s]÷60[s/min] = 1.5 D[min] 除去深さは10~150[μm]と言われており、仮に50 [μm]とすると、理想的な条件ではあるものの、1m2を 除染処理するために必要な時間は75 分となる。これよ り、10kW クラスのレーザーを搭載することができれ ば、実用化に向けた検討に値すると思われる。 参考文献 [1] 株式会社トヨコー. 樹脂塗膜剥離方法及びその装置. 特開2012-081455
“ “?レーザー塗膜除去技術の原子力プラントへの適用可能性 に関する検討 “ “稲垣 博光,Hiromitsu INAGAKI,藤田 和久,Kazuhisa FUJITA,沖原 伸一朗,Shin-ichiro OKIHARA,豊澤 一晃,Kazuaki TOYOSAWA,前橋 伸光,Nobumitsu MAEBASHI,高原 和弘,Kazuhiro TAKAHARA,鈴木 猛,Takei SUZUKI,黒柳 昭博,Akihiro KUROYANAGI,秋吉 徹明,Tetsuaki AKIYOSHI