2次元検出器方式による cosα法を用いた残留応力測定手法について

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カテゴリ: 第11回
1.緒言
一般に生産される機械金属の構造物や部品は,製造工 程のなかで機械加工や熱処理,溶接,表面処理など様々 な加工が施され,その際の引張りや圧縮といった残留応 力が生じる.この残留応力は,製品の強度や寸法精度に悪影響を及 ぼすだけでなく,応力バランスが崩れると変形や破壊に 繋がるおそれがあるため,大きな力が作用する箇所や形 状変化が起きやすい箇所は,残留応力の大きさ,作用す る方向や分布状況など正確に把握し,事前に事故やトラ ブルの対策を講じる必要がある.残留応力測定手法として,近年X線回折による残留応 力測定手法が注目を集めている[1-3].しかし,従来の計 測装置は,大型のX線照射装置や冷却装置を有すること から,広い装置設置面積を必要とし,更にセッティンや計測に多大な時間とコストを必要としながら,限定的 な範囲でしか使用できないという問題があった.現場に おいて残留応力値を容易に把握できるようになれば,品 質管理や安全対策,予防保全に大きく貢献することができる. そこで,可搬性に優れ,現場において残留応力値を容 易に計測できるX 線残留応力測定装置「μ-X360」の測定 原理の概要と,予測されるcosα法の有効性を考察して測 定精度を検証した結果を報告する.また,現場測定の一 例も報告する.
2.2次元検出器方式によるX線応力測定の有
効性 2.1 cosα法の概要 Fig.1 にcosα法の概要を示す.[4-8] Diffracted face normal angle 連絡先:野末秀和,〒431-1304 静岡県浜松市北区細江 町中川7000-35,パルステック工業株式会社 技術部 Fig.1 Outline of the cosα method E-mail: hide-nozue@pulstec.co.jp ここで,η はBragg 角の補角,? ?は試料面法線と入射 - 159 - D X線ビームとのなす角,D は測定試料から 2 次元検出器 までの距離とする. 回折環(以後,デバイ環とする)全体を取得し,無応 力試料を基準に測定試料のデバイ環の位置(歪θ)を求 めることで,残留応力を算出する. Fig.2 Acquire the full Debye-Scherrer ring. The magnitude of strain is determined from the detected position of the Debye-Scherrer ring Fig.2に示したように,デバイ環上の4 箇所のひずみの 組み合わせを利用して,中心角がαのときのひずみ εα, それと中心角πだけ異なる(π+α)方向のひずみεπ+α,-α 方向のひずみε-α,さらに,(π-α)方向のひずみεπ-αを用 いて,次式(1)のa1を求める. )} ( ) {( 21 1 α π α α π α ε ε ε ε - - + = - + - a (1) 横軸にcosα,縦軸にa1でグラフ化すると,Fig.3に示すよ うな単純な直線関係が得られる. Fig.3 xσ (cosα line) Fig.3 において,線形近似した傾きを M, E は縦弾性定 数,νはポアソン比として,次式(2)で応力 xσ を得るこ とができる. M E x ・ ・ ・ 0 sin21 sin21 1 ψ η ν σ + - = (2) P Normal 3cosα line - 160 - Fig.5 Advantage 2D Full data of Debye-Scherrer ring 2.4 測定の確からしさ 2 次元検出器の大きな特徴であるデバイ環全体のデー タ表示は,Fig.6 に示すように試料の組織状態が予測でき る非常に有効な情報である.集合組織や配向のような状 態が 1 回の計測で確認できるようになる.また,デバイ 環の乱れ具合も,数値化こそ難しいが,測定の確からし さを判断するのに有効な情報と考えられる. 2.2 試料距離:D の設置マージン cosα法は試料距離に応じて取得するデバイ環のサイズ が変化するが,Fig.4に示すように2次元検出器にデバイ 環が収まれば計測可能となり,試料のセットはおよその 距離で十分である.標準的な計測条件でも±5mm程度の 範囲を許容するため,試料もしくは装置のセットは簡易 である. Fig.4 cosα technique (Change sample distance) 2.3 取得データの信頼性 2次元検出器ではデバイ環全体(360度)のデータを取 得するため,高い再現性と信頼性を実現する.2次元検出 器で得られるデバイ環と結果表示イメージをFig.5に示す. Fig.6 Easy & quick visual analysis 2.5 小型・軽量・省電力 cosα法は X 線を単一入射させて計測する手法のため, 入射角度を変更させる高精度メカ構造が不要となり,従 来装置に比べて大幅な小型軽量化が実現できる(センサ ー部重量_約4kg,大きさ_W:311,H:154,D:124[mm]). また,低出力X 線管の採用で空冷方式を実現し,水冷装 置は不要である.さらに,消費電力が低いため,電源が 無くてもバッテリーによる計測が可能である. 3.4点曲げによるひずみゲージとの比較 炭素鋼S45Cの短冊状サンプル(長さ140mm,幅20mm, 厚さ3mm)に,裏面へひずみゲージを貼り四点曲げ負荷 を数段階加え,表面をμ-X360で計測して比較した.使用 したひずみゲージは 1G120 (KYOWA 製)とした.また, 周囲温度は25.5度,湿度は60%であった.ひずみゲージ で得た値[με]に対しては,ヤング率E = 206GPaを掛けて 応力換算した.結果を Fig.7,使用した治具を Fig.8 に示 す.また,表1にX線回折条件を示す. Fig.7 Correlation of strain gauge and μ-X360 μ-X360 Fig.8 4 point bending jig Table 1 Measuringconditions of X-ray equipment Characteristics X-ray CrKα Diffraction line, hkl 211 Tube voltage [kV] 30 Tube current [mA] 1 X-ray incident angle, ψ0 [deg] 35 Diameter of irradiated area [mm] 2.0 Young's modulus_E [GPa] 206 Poisson's ratio_ν 0.28 Diffraction angle 2θ[deg] 156.4 Exposure time[sec] 30 本報告の測定条件において,μ-X360がひずみゲージと 高い相関関係を持つことを確認した.またS45Cサンプル 加工時の残留応力と外的付加応力を含めた応力測定が可 能であった. 4.応用事例 『μ-X360』は「現場」での計測を実現する為に開発さ れた装置と言っても過言ではない.cosα法の採用と2次元 検出器の採用により,小型軽量,省電力,簡易設置を実 現した『μ-X360』の応用事例を示す. Sample - 161 - Strain gauge Load screw 4.1 溶接による残留応力計測例 溶接部には局部的な温度変化に伴う熱膨張や収縮が発 生するものの,周囲が拘束された状態となるため変形が 妨げられ,溶接部近傍に大きな残留応力が発生する.残 留応力が要因で変形や亀裂などの問題に発展する場合が あり,応力値の管理・把握,その制御が重要とされている [9].試料距離Dのマージンが広いことを利用して,測定 装置を自動制御ステージにて平行移動させて測定した溶 接部近傍の応力分布結果をFig.9に示す.ただし,応力方 向は溶接線と平行とする. Fig.9 Stress mapping (Only base material) 4.2 現場測定例 (a) Magnet jig Measurement inside the tank Tube_Welds,Heat treatment (b) Tank_Welds,Tempering effect - 162 - X 線回折による残留応力測定を,デバイ環全体を計測 して行う方法については,従来装置よりも小型軽量化, かつ低線量での測定において,ひずみゲージとの相関が 良く,測定に十分な性能が得られた.現場においても持 ち運びが簡単で,組織状態が容易に確認でき,測定の確 からしさを予測できるという特徴を有している知見を得 た. 今後は更なる小型軽量化,簡易測定に取り組み,現場 における品質管理や安全対策,予防保全に大きく貢献し ていきたいと考えている. 参考文献 [1] 平,田中,山崎,“細束 X 線応力測定の一方法と プレートの物理と先端放射線計測への応用”. [5] 吉岡靖夫,長谷川賢一,持木幸一,“位置検出型 比例計数管によるX 線応力測定”,日本材料学会, 1977. [6] B.B.He,“Two-dimensional X-Ray Diffraction,,” John Wiley & Sons,2009. [7] 佐々木敏彦,広瀬幸雄,“イメージングプレート による2次元検出回折像を用いたX線三軸応力解 析”,日本機械学会論文集(A編)61巻590号,1995. [8] 吉岡靖夫,大谷真一,新開毅,“イメージングプ レートの細束 X 線解析への適用”,非破壊検査, 第39巻,第8号 p667,1990 [9] 王,大城戸,波東,菊池,千葉,“X 線回折によ る溶接金属部の非破壊的残留応力測定技術の開 発”, 日本材料学会第49 回X 線材料強度に関す る討論会講演論文集37-43,2012. 5.結言 その疲労き裂伝ぱ問題への応用”, 材料27,p251, 1978. [2] 日本材料学会,X線応力測定法標準,養賢堂, 2002. [3] 田中啓介,鈴木賢二,秋庭義明,残留応力のX線 評価-基礎と応用-,養賢堂,2006. [4] 秀,南戸,“ラジオルミノグラフィイメージング
“ “?2 次元検出器方式による cosα法を用いた残留応力測定手法について “ “野末 秀和,Hidekazu NOZUE,内山 宗久,Munehisa UCHIYAMA,加藤 達也,Tatsuya KATO,渕上 静也,Seiya FUCHIGAMI
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