定電位エッチングによるオーステナイト系ステンレス鋼の 塑性ひずみ検出手法における電位および時間の最適化
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カテゴリ: 第11回
1.緒言
Manson の改良共通勾配法(1)により,塑性ひずみの付 与で低サイクル疲労寿命が減少することが知られてい る.そこで機械部品や構造物の健全性を評価するため, 与えられた塑性予ひずみを感度良く検出,定量化する 手法の開発が求められている. 帆加利(2)は炉水温度域を想定した 250°Cで 1%~ 22.5%の予ひずみを付与したオーステナイト系ステン レス鋼SUS316NGを対象に1N HNO3中での定電位エ ッチング(-600mVSCE,20min,35°C)を施すと,すべ り線を起点にしたエッチング痕(すべり線エッチング 痕)が現出し,またその単位面積当たりの本数(すべ り線エッチング痕密度)が予ひずみ量と一対一の相関 性を持つことを明らかにした.この手法は少なくとも 1%の予ひずみに対する検出感度を有する. しかしながら,すべり線エッチング痕は微小かつ密 度が高いため計数が容易ではない.そこで,本研究で はすべり線エッチング痕の計数に最適なエッチング条 件の探索を試みた.エッチング組織に影響を与え得る と考えられる溶液,温度,保持電位,保持時間の四つ のパラメータのうち,溶液と温度は先行研究(2)と同様と し,保持電位と保持時間についてすべり線エッチング 痕の計数に最適な条件を探索した. 2.試験方法 2.1 溶解速度の結晶方位依存性を最大とする保持 電位の探索 供試材として,予ひずみ除去のため溶体化処理 (1050°C,30 分間,水冷)を施したオーステナイト系ス テンレス鋼 SUS316L を用いた.供試材の化学組成を Table1 に示す. Table 1 Chemical compositions of SUS316L C Si Mn P S Ni Cr Mo Fe 0.012 0.67 1.19 0.027 0.001 11.93 17.25 2.04 Bal. 供試材をエッチング用の試験片に加工し,電解研磨 で表面の加工層を取り除いた後SEM 観察を行い, EBSD を用いて試験片表面約1.2mm四方の結晶方位を 測定した.次に後述の条件で定電位エッチング試験を 行い,Fig.1に示すような溶解速度の結晶方位依存性に より発生する表面の凹凸の高度差をレーザー顕微鏡を
用いて測定した.溶解速度の差が出やすい(1 1 1)面と(0 0 1)面間及び(1 1 1)面と(1 0 1) 面間の凹凸の高度差を各々のエッチング条件毎に比較し,生じた高度差が大
Fig.2 Surface of 13% pre-strained SUS316NG after electrochemical etching (-675mVSCE, 20min) きければ結晶方位依存性も大きいと考えられる. 定電位エッチング試験は飽和カロメル電極(Saturated Calomel Electrode; SCE)を参照極に用いて保持電位を -1000~-200mVSCE,保持時間を 10 分間または 20 分間と して行った. 2.2 すべり線エッチング痕密度の測定に最適な保持 電位,保持時間の検討 供試材としてオーステナイト系ステンレス鋼 SUS316NGを用いた.化学組成をTable2に示す.予ひず み除去のため溶体化処理(1050°C, 60分間, 水冷)を行い, 250°Cで真ひずみ13%を付与した. Table 2 Chemical compositions of SUS316NG C Si Mn P S Ni Cr Mo N Fe 0.016 0.51 1.36 0.025 0.001 11.30 17.51 2.05 0.11 Bal. 保持電位毎のすべり線エッチング痕密度を比較するた め,2・1 節の試験で溶解速度の結晶方位依存性が最大で あった保持電位-675mVSCE,結晶方位依存性が比較的大き かった電位の内,最も卑な-800mVSCE,先行研究(2)と同条 件である-600mVSCEで 20 分間の定電位エッチング試験を 行った.この際,定電位エッチングと電解研磨によるエ ッチング痕の消去を交互に行い,同一視野のエッチング 痕密度を測定した. 次に経過時間毎のすべり線エッチング痕密度を比較す るため,保持電位-675mVSCEで試験の開始から1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 12, 15分経過時に試験片を取り出し,エ ッチング痕密度を測定した. 3.結果および考察 3.1 溶解速度の結晶方位依存性を最大とする保持電 位の探索 Fig.3に(1 1 1)面と(0 0 1)面の高度差の測定結果を示す. -800mVSCE~-400mVSCEでは全ての条件で(1 1 1)面が凸に なっており,(1 1 1)面の溶解速度が小さいことが分かった. 保持時間20分間の場合,(1 1 1)面と(0 0 1)面間の高度差は 保持電位-675mVSCEで最大であった.よってこの電位で溶 解速度の結晶方位依存性が最大になっていると考えられ る.(1 1 1)面と(1 0 1)面の高度差についてもほぼ同様 の結果が得られた. 保持電位-600,-650,-700mVSCEのみ保持時間10分間で も試験を行った.この場合の高度差は保持時間20分間の 場合の60%前後であり,前半10 分間の方が高度差のつき 方が大きい.よって,高度差の増加に伴って凸部分が優 先的に溶解するようになる可能性が考えられ,保持時間 を延ばしていった場合に高度差が頭打ちになることが予 測される. -200mVSCE では結晶粒毎の高度差が生じなかったこと から溶解速度の結晶方位依存性が失われており,-1000, -900mVSCE では試験片表面の一部のみに高度差が生じた ため,これらの電位はすべり線エッチング痕密度を計測 する保持電位として不適と考えられる. Fig.3 Altitude difference between faces (1 1 1) and (0 0 1)vs. Potential Fig.1 Surface of solution annealed SUS316L after electrochemical etching (-600mVSCE, 20min) - 164 - 3.2最適な保持電位の検討 Fig.4 に 13%予ひずみ材,-600,-675,-800mVSCEでの 保持電位毎のエッチング痕密度,および帆加利(2)による1 ~22.5%予ひずみ材,-600mVSCEでのエッチング後のすべ り線エッチング痕密度測定結果を示す.-675mVSCE では, -600mVSCE と比較してすべり線エッチング痕密度が約 10%増大した.-600mVSCEではすべり線エッチング痕の計 数が不可能だったものの,-675mVSCEでは計数が可能にな った結晶粒が存在したためである.-800mVSCEでは,すべ り線エッチング痕密度が-675mVSCEの約1 / 7 に減少して おり,1%予ひずみ材,-600mVSCE の密度以下であった. よって,-800mVSCEは塑性ひずみ検出の感度が低く,すべ り線エッチング痕の観察には不適である.これらの結果 から,すべり線エッチング痕密度は保持電位毎に異なり, -675mVSCE で先行研究の条件よりも多くのすべり線エッ チング痕が観察できることが示された. Fig.5 Number of etched slip line per unit area vs. Potential 3.2最適な保持時間の検討 Fig.5に13%予ひずみ,-675mVSCEのエッチングにおけ る経過時間毎のすべり線エッチング痕密度と,帆加利(2) による 1%~22.5%予ひずみ材,-600mVSCE,20 分間エッ チング後のすべり線エッチング痕密度測定結果を示す. Fig.7 に試験開始から1,5,10,15分後の試験片表面の一 部を示す.すべり線エッチング痕密度はエッチング開始 から3 分経過まで増加し,3 分経過以降は減少していた. 途中で増加から減少に転じた理由としては,Fig.6 の右上 に位置する結晶粒のように時間経過と共にすべり線エッ チング痕が明確になっていく結晶粒が存在する一方で, Fig.6の左下に位置する結晶粒のように,ある時間以降は すべり線エッチング痕の幅が広く曖昧になり,すべり線 エッチング痕が計数できなくなる結晶粒が存在したこと が挙げられる.Fig.7 にこの2つの結晶粒表面に現出した すべり線エッチング痕の本数を示す.Fig.6 右上の結晶粒 は時間と共にすべり線エッチング痕の本数が増加し,左 下の結晶粒は 3 分経過時をピークに減少していることが 分かる. これらの結果から,すべり線エッチング痕を最大数観 察するためには 3 分間のエッチングを行えばよい.ただ し,エッチング開始から 3 分経過前後は急峻な勾配によ り最大値を取ることから,エッチング時の諸条件(現場 適用時には特に試験温度の調節が容易ではないと推測さ れる)の僅かな変化に対して敏感である可能性がある. よって,試験結果に安定性を持たせるために比較的勾配 が緩やかになる10分間が適していると考えられる. 4.結言 本研究ではオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lお よびSUS316NGを用いて,1N HNO3,35°C中での定電位 エッチングにおいて,現出するすべり線エッチング痕の 計数に最適な保持電位および保持時間の探索を行った. その結果,以下の結論を得ることができた. (1) 保持電位-800~-400mVSCE で試験片の全面に一様な 溶解速度の結晶方位依存性が観察され,これが最大とな る保持電位は-675mVSCEであった. (2) 保持電位-675mVSCE では,先行研究(2)で用いた -600mVSCE と比較して約 10%多くのすべり線エッチング 痕を計数することが可能となった. (3) すべり線エッチング痕密度は時間経過で変化し,3 分経過時に最大となりその後は減少した.3分経過前後は - 165 - Fig.5 Number of etched slip line per unit area vs. Exposure time (a)1min (b)5min (c)10min (d)15min Fig.6 Change of etched slip lines with exposure time - 166 - Fig.7 Number of etched slip line 5.謝辞 pp.154-169 on the crystal grains of Fig.6 vs. exposure time 時間経過に対するすべり線エッチング痕密度の変化が大 きく,3分経過以降の減少は漸近的であった.よって,先 行研究で用いた保持時間20分間より時間を短縮でき,か つ勾配が比較的小さくなる保持時間10分間が望ましいと 考えられる. 本報告の一部は中部電力(株)との共同研究として行われ た成果である.ここに記して感謝の意を表します. 参考文献 [1] Manson,S.S., ASTM STP, Vol. 942,(1988), pp. 15-39. [2] 帆加利翔太,鈴木明好,渡邉豊,日本保全学会 第 9 回学術講演会講演論文集(2012),pp.194-197 [3] 釜谷昌幸,日本機械学会論文集 A 編,Vol.77(2011),
“ “?定電位エッチングによるオーステナイト系ステンレス鋼の 塑性ひずみ検出手法における電位および時間の最適化 “ “山本 康平,Kohei YAMAMOTO,帆加利 翔太,Shota HOKARI,渡邉 豊,Yutala WATANABE
Manson の改良共通勾配法(1)により,塑性ひずみの付 与で低サイクル疲労寿命が減少することが知られてい る.そこで機械部品や構造物の健全性を評価するため, 与えられた塑性予ひずみを感度良く検出,定量化する 手法の開発が求められている. 帆加利(2)は炉水温度域を想定した 250°Cで 1%~ 22.5%の予ひずみを付与したオーステナイト系ステン レス鋼SUS316NGを対象に1N HNO3中での定電位エ ッチング(-600mVSCE,20min,35°C)を施すと,すべ り線を起点にしたエッチング痕(すべり線エッチング 痕)が現出し,またその単位面積当たりの本数(すべ り線エッチング痕密度)が予ひずみ量と一対一の相関 性を持つことを明らかにした.この手法は少なくとも 1%の予ひずみに対する検出感度を有する. しかしながら,すべり線エッチング痕は微小かつ密 度が高いため計数が容易ではない.そこで,本研究で はすべり線エッチング痕の計数に最適なエッチング条 件の探索を試みた.エッチング組織に影響を与え得る と考えられる溶液,温度,保持電位,保持時間の四つ のパラメータのうち,溶液と温度は先行研究(2)と同様と し,保持電位と保持時間についてすべり線エッチング 痕の計数に最適な条件を探索した. 2.試験方法 2.1 溶解速度の結晶方位依存性を最大とする保持 電位の探索 供試材として,予ひずみ除去のため溶体化処理 (1050°C,30 分間,水冷)を施したオーステナイト系ス テンレス鋼 SUS316L を用いた.供試材の化学組成を Table1 に示す. Table 1 Chemical compositions of SUS316L C Si Mn P S Ni Cr Mo Fe 0.012 0.67 1.19 0.027 0.001 11.93 17.25 2.04 Bal. 供試材をエッチング用の試験片に加工し,電解研磨 で表面の加工層を取り除いた後SEM 観察を行い, EBSD を用いて試験片表面約1.2mm四方の結晶方位を 測定した.次に後述の条件で定電位エッチング試験を 行い,Fig.1に示すような溶解速度の結晶方位依存性に より発生する表面の凹凸の高度差をレーザー顕微鏡を
用いて測定した.溶解速度の差が出やすい(1 1 1)面と(0 0 1)面間及び(1 1 1)面と(1 0 1) 面間の凹凸の高度差を各々のエッチング条件毎に比較し,生じた高度差が大
Fig.2 Surface of 13% pre-strained SUS316NG after electrochemical etching (-675mVSCE, 20min) きければ結晶方位依存性も大きいと考えられる. 定電位エッチング試験は飽和カロメル電極(Saturated Calomel Electrode; SCE)を参照極に用いて保持電位を -1000~-200mVSCE,保持時間を 10 分間または 20 分間と して行った. 2.2 すべり線エッチング痕密度の測定に最適な保持 電位,保持時間の検討 供試材としてオーステナイト系ステンレス鋼 SUS316NGを用いた.化学組成をTable2に示す.予ひず み除去のため溶体化処理(1050°C, 60分間, 水冷)を行い, 250°Cで真ひずみ13%を付与した. Table 2 Chemical compositions of SUS316NG C Si Mn P S Ni Cr Mo N Fe 0.016 0.51 1.36 0.025 0.001 11.30 17.51 2.05 0.11 Bal. 保持電位毎のすべり線エッチング痕密度を比較するた め,2・1 節の試験で溶解速度の結晶方位依存性が最大で あった保持電位-675mVSCE,結晶方位依存性が比較的大き かった電位の内,最も卑な-800mVSCE,先行研究(2)と同条 件である-600mVSCEで 20 分間の定電位エッチング試験を 行った.この際,定電位エッチングと電解研磨によるエ ッチング痕の消去を交互に行い,同一視野のエッチング 痕密度を測定した. 次に経過時間毎のすべり線エッチング痕密度を比較す るため,保持電位-675mVSCEで試験の開始から1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 12, 15分経過時に試験片を取り出し,エ ッチング痕密度を測定した. 3.結果および考察 3.1 溶解速度の結晶方位依存性を最大とする保持電 位の探索 Fig.3に(1 1 1)面と(0 0 1)面の高度差の測定結果を示す. -800mVSCE~-400mVSCEでは全ての条件で(1 1 1)面が凸に なっており,(1 1 1)面の溶解速度が小さいことが分かった. 保持時間20分間の場合,(1 1 1)面と(0 0 1)面間の高度差は 保持電位-675mVSCEで最大であった.よってこの電位で溶 解速度の結晶方位依存性が最大になっていると考えられ る.(1 1 1)面と(1 0 1)面の高度差についてもほぼ同様 の結果が得られた. 保持電位-600,-650,-700mVSCEのみ保持時間10分間で も試験を行った.この場合の高度差は保持時間20分間の 場合の60%前後であり,前半10 分間の方が高度差のつき 方が大きい.よって,高度差の増加に伴って凸部分が優 先的に溶解するようになる可能性が考えられ,保持時間 を延ばしていった場合に高度差が頭打ちになることが予 測される. -200mVSCE では結晶粒毎の高度差が生じなかったこと から溶解速度の結晶方位依存性が失われており,-1000, -900mVSCE では試験片表面の一部のみに高度差が生じた ため,これらの電位はすべり線エッチング痕密度を計測 する保持電位として不適と考えられる. Fig.3 Altitude difference between faces (1 1 1) and (0 0 1)vs. Potential Fig.1 Surface of solution annealed SUS316L after electrochemical etching (-600mVSCE, 20min) - 164 - 3.2最適な保持電位の検討 Fig.4 に 13%予ひずみ材,-600,-675,-800mVSCEでの 保持電位毎のエッチング痕密度,および帆加利(2)による1 ~22.5%予ひずみ材,-600mVSCEでのエッチング後のすべ り線エッチング痕密度測定結果を示す.-675mVSCE では, -600mVSCE と比較してすべり線エッチング痕密度が約 10%増大した.-600mVSCEではすべり線エッチング痕の計 数が不可能だったものの,-675mVSCEでは計数が可能にな った結晶粒が存在したためである.-800mVSCEでは,すべ り線エッチング痕密度が-675mVSCEの約1 / 7 に減少して おり,1%予ひずみ材,-600mVSCE の密度以下であった. よって,-800mVSCEは塑性ひずみ検出の感度が低く,すべ り線エッチング痕の観察には不適である.これらの結果 から,すべり線エッチング痕密度は保持電位毎に異なり, -675mVSCE で先行研究の条件よりも多くのすべり線エッ チング痕が観察できることが示された. Fig.5 Number of etched slip line per unit area vs. Potential 3.2最適な保持時間の検討 Fig.5に13%予ひずみ,-675mVSCEのエッチングにおけ る経過時間毎のすべり線エッチング痕密度と,帆加利(2) による 1%~22.5%予ひずみ材,-600mVSCE,20 分間エッ チング後のすべり線エッチング痕密度測定結果を示す. Fig.7 に試験開始から1,5,10,15分後の試験片表面の一 部を示す.すべり線エッチング痕密度はエッチング開始 から3 分経過まで増加し,3 分経過以降は減少していた. 途中で増加から減少に転じた理由としては,Fig.6 の右上 に位置する結晶粒のように時間経過と共にすべり線エッ チング痕が明確になっていく結晶粒が存在する一方で, Fig.6の左下に位置する結晶粒のように,ある時間以降は すべり線エッチング痕の幅が広く曖昧になり,すべり線 エッチング痕が計数できなくなる結晶粒が存在したこと が挙げられる.Fig.7 にこの2つの結晶粒表面に現出した すべり線エッチング痕の本数を示す.Fig.6 右上の結晶粒 は時間と共にすべり線エッチング痕の本数が増加し,左 下の結晶粒は 3 分経過時をピークに減少していることが 分かる. これらの結果から,すべり線エッチング痕を最大数観 察するためには 3 分間のエッチングを行えばよい.ただ し,エッチング開始から 3 分経過前後は急峻な勾配によ り最大値を取ることから,エッチング時の諸条件(現場 適用時には特に試験温度の調節が容易ではないと推測さ れる)の僅かな変化に対して敏感である可能性がある. よって,試験結果に安定性を持たせるために比較的勾配 が緩やかになる10分間が適していると考えられる. 4.結言 本研究ではオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lお よびSUS316NGを用いて,1N HNO3,35°C中での定電位 エッチングにおいて,現出するすべり線エッチング痕の 計数に最適な保持電位および保持時間の探索を行った. その結果,以下の結論を得ることができた. (1) 保持電位-800~-400mVSCE で試験片の全面に一様な 溶解速度の結晶方位依存性が観察され,これが最大とな る保持電位は-675mVSCEであった. (2) 保持電位-675mVSCE では,先行研究(2)で用いた -600mVSCE と比較して約 10%多くのすべり線エッチング 痕を計数することが可能となった. (3) すべり線エッチング痕密度は時間経過で変化し,3 分経過時に最大となりその後は減少した.3分経過前後は - 165 - Fig.5 Number of etched slip line per unit area vs. Exposure time (a)1min (b)5min (c)10min (d)15min Fig.6 Change of etched slip lines with exposure time - 166 - Fig.7 Number of etched slip line 5.謝辞 pp.154-169 on the crystal grains of Fig.6 vs. exposure time 時間経過に対するすべり線エッチング痕密度の変化が大 きく,3分経過以降の減少は漸近的であった.よって,先 行研究で用いた保持時間20分間より時間を短縮でき,か つ勾配が比較的小さくなる保持時間10分間が望ましいと 考えられる. 本報告の一部は中部電力(株)との共同研究として行われ た成果である.ここに記して感謝の意を表します. 参考文献 [1] Manson,S.S., ASTM STP, Vol. 942,(1988), pp. 15-39. [2] 帆加利翔太,鈴木明好,渡邉豊,日本保全学会 第 9 回学術講演会講演論文集(2012),pp.194-197 [3] 釜谷昌幸,日本機械学会論文集 A 編,Vol.77(2011),
“ “?定電位エッチングによるオーステナイト系ステンレス鋼の 塑性ひずみ検出手法における電位および時間の最適化 “ “山本 康平,Kohei YAMAMOTO,帆加利 翔太,Shota HOKARI,渡邉 豊,Yutala WATANABE