定電位エッチングによる塑性ひずみ検出手法を用いた オーステナイト系ステンレス鋼の塑性変形メカニズムの調査

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カテゴリ: 第11回
1.緒言
機械部品や構造物の健全性を保証するため、感度良く塑性予ひずみを検出・定量化する手法が求められている。前々報[1]では室温で塑性変形を経験した316 系ステンレス鋼に定電位エッチングを施し、材料中の塑性変形における変形双晶を母材との溶解速度の相違に従い優先溶解させエッチング痕(変形双晶エッチング痕)として現出させ、その数密度に基づき塑性予ひずみを検出、定量化できることを示した。また、前報[2]では炉水温度域に近い250℃で予ひずみを付与した場合、変形双晶エッチング痕の密度は著しく減少し、それとは様相の異なる浅いエッチング痕が現出すること、浅いエッチング痕はすべり線を起点とした優先溶解(すべり線エッチング痕)であり、250℃においてはその数密度に基づき塑性ひずみを検出・定量化できることを示した。 本研究では、これらの結果を踏まえ、SUS316L に種々のひずみ条件で塑性ひずみを付与し、山本ら[3]により報告された最適化条件を用いた定電位エッチングを適用し、現出した変形双晶エッチング痕およびすべり線エッチング痕を現出させ、エッチング痕密度による整理を行うことによりひずみと密度の関係式を算出し、考察を行った。
2.研究内容
2.1 実験方法 供試材にはオーステナイト系低炭素ステンレス鋼SUS316L を用いた。化学組成をTable1 に示す。供試材は溶体化処理後、平板試験片および丸棒試験片に加工した。溶体化条件は1050℃/60min である。 単軸引張により試験片に塑性予ひずみを付与した。引張試験機付設の電気炉により所定の試験温度で1 時間以上保持してから一定の変位速度でひずみを付与している。予ひずみ付与条件はTable 2 に示す。公称ひずみ速度は0.1%/s である。その後、溶体化材と塑性予ひずみ付与材を定電位エッチング用の試験片に加工し、山本ら[3]が示した最適条件である試験溶液:1N HNO3, 電位:-675mVSCE, エッチング時間:10min, 温度:35℃、の条件で定電位エッチングを施した。参照電極には飽和カロメル電極を用いた。
エッチング後、金属顕微鏡を用いて表面の観察を行い、単位面積当たりに現出したエッチング痕の計測を行った。 Table.2 Strain condition 2.2 実験結果 2.2.1 エッチング痕密度による整理 Fig.1 にエッチング後の溶体化材(a)、室温(30℃)17% ひずみ材(b)、300℃17%ひずみ材(c)の表面をそれぞれ示す。以前の結果[1][2]と同様に、溶体化材ではほとんどエッチング痕が観察されず、室温ひずみ材では変形双晶エッチング痕が多数、300℃ひずみ材ではすべり線エッチング痕が多数観察され、変形双晶エッチング痕はほとんど観察されなかった。ただし、すべり線エッチング痕は室温ひずみ材でも同様に多数観察されていることがわかる。 変形双晶エッチング痕密度と真ひずみの関係をFig.2 に、 すべり線エッチング痕密度と真ひずみの関係をFig.3 に示す。 双方ともこれまで報告した結果[1][2]と同様に、 300℃における変形双晶エッチング痕密度を除き真ひずみとエッチング痕密度の間に一対一の相関性があることが示され、前報で規定した最適エッチング条件を用いた塑性ひずみの検出・定量化が可能であることを示している。また、室温(30℃)でひずみ付与を行った場合でもすべり線エッチング痕は観察され、ひずみと一対一の相関性を持っていることがわかる。さらに、温度とエッチング痕密度の関係はFig.4 のようになり、すべり線エッチング痕密度に関しては大きく外れた点が2 つあるものの概ね温度と一対一の相関性を持ち、変形双晶エッチング痕密度は室温(30℃)~ 100℃で大きく減少し、その後は横ばいとなっている。大きく外れた2 点は試験の都合上、目標ひずみである8%に対し実際付与されたひずみが1%程度大きな値であった事によるものである可能性が高い。 (a) Solution annealed (b) 17% strain, 30℃ (c) 17% strain, 300℃ Fig.1 Optical micrographs after potentiostatic etching (SUS316L) Fig.3 Number of etched slip line per unit area versus plastic strain of the specimens Fig.2 Number of etched twin line per unit area versus plastic strain of the specimens - 168 - Fig.4 Number of etched lines per unit area versus straining temperature 2.2.2 エッチング痕密度の関係式の導出 2.2.1 で整理したひずみ、温度と変形双晶/すべり線エッチング痕密度の関係を計算式で近似する。まず、室温、300℃双方において良い相関性が見られたすべり線エッチング痕密度とひずみの関係に関して、最小二乗法にて近似直線を取ると、エッチング痕密度をDs(1/mm2)、真ひずみを.(%)とすると、室温においては . 85. . 268 S D ・・・(1) 300℃においては、 .166. .141 S D ・・・(2) という比例関係を持った近似式で示すことが出来る。式(2)は式(1)に比べ傾きが約2 倍になっていることから、30℃に対し300℃では塑性変形におけるすべりの占める割合が約2 倍になったことが示唆される。 8%ひずみ材における温度とすべり線エッチング痕密度の関係は摂氏温度をT(℃)として D .1.9T . 964 S ・・・(3) で示される。すべり線エッチング痕密度はひずみ付与温度が高くなる事に従って減少する事がわかる。 ひずみ付与温度の高低にかかわらず、ひずみ0%の状態でのエッチング痕密度は同一であることから、それぞれの温度域でのひずみ8%でのエッチング痕密度とひずみ0%での値を用いてそれぞれの温度域でのひずみとエッチング痕密度の関係式を算出し、その傾きk とひずみ付与温度T(℃)の関係を取ると k . 0.25T .16.14 ・・・(4) となる。これらの結果より、すべり線エッチング痕密度と温度、ひずみの関係は D . .0.25T .16.14.. .127.75 S ・・・(5) の式で近似できる。 この式を用いてFig.3に近似直線を追記したものをFig.5 に示す。概ね実験結果と良い近似が得られる。 また、室温における変形双晶エッチング痕密度DT(1/mm2)とひずみ.の関係は以下の近似式で与えられる D 13.1e0.2305. T . ・・・(6) 300℃においては8%以降ほぼ横ばいなので D 8.2e0.09. T . (.≦...) ・・・(7) . 19 T D (....) ・・・(8) となる。これらの近似直線をFig.2 に追記したものをFig.6 に示す。 変形双晶の体積率F は . . . . int ( ) 0. 1. .. . .. int . .. m F F e ・・・(9) (F0は最大体積率、.intは双晶開始ひずみ、...m は実験定数)で表されることが知られており[4]、線密度を計測している本手法の結果とは式の形が異なるのであるが、本手法で得られた近似式と同様の傾向を示す式であることがわかる。316 系ステンレス鋼においては双晶開始ひずみが式(6)(7)では双晶開始ひずみを考慮していないが、以前[1] 示したように、本手法は最低でも1%ひずみに対する感度を持っているため、最小でも1%以下となることがわかる。これは316L における双晶の開始が5%程度とする他の知見[5]と相反するものであるが、本手法では多数の結晶粒を観察していることから、巨視的には小さいひずみにおいてもわずかな結晶粒において双晶臨界応力に達するものが存在したことを反映している可能性がある。 また、8%ひずみにおける変形双晶エッチング痕密度DT と摂氏温度T の関係は T T D . 80.64e.0.018 (T≦100℃) ・・・(10) . 17 T D (100℃“ “定電位エッチングによる塑性ひずみ検出手法を用いた オーステナイト系ステンレス鋼の塑性変形メカニズムの調査 “ “帆加利 翔太,Shota HOKARI,山本 康平,Kohei YAMAMOTO,渡辺 豊,Yutaka WATANABE
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