応力評価のための配管ひずみセンサーの開発
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カテゴリ: 第11回
1. 緒言
プラントにおける小口径配管は、内部流体やポンプ の振動によって振動する。この振動が大きい場合、溶 接部近傍で疲労破壊を起こすことがある[1]。そこで、 この疲労破壊を予防するために、多くのプラントで、 小口径配管の溶接部近傍での、振動による応力が評価 されている。この応力評価方法には、加速度計で測定 した加速度から応力を算出する方法[2]、変位計で測定 した変位から応力を算出する方法[3]、及びひずみゲー ジで測定したひずみから応力を算出する方法などがあ る。加速度計で測定した加速度から応力を算出する方法 では、予め測定対象となる配管やサポートをモーダル 解析ができるようにモデル化し、そのモデルに測定し た加速度を与えることで、モデル全体の応力分布を計 算することができる。しかしこの方法では、モデル化 のために特定すべきパラメータが多い上に、摩擦係数 や減衰係数などのパラメータは、特定するのが容易で は無い。また非線形要素がある場合などは、特に高度 な専門知識を有することが必須で、応力算出するまで に多大な労力を要する。 変位計で測定した変位から応力を算出する方法は、 測定から算出までを、簡便に行うことができる。しか しプラント環境の中では、三次元的な変位を測定する ことが難しいため、その多くが二次元的な測定となる。 またレーザー変位計などを用いる場合、振動による応 力が高くなる配管は高温配管に多いが、その高温配管 への適用が難しいという問題もある。 ひずみゲージを配管に接着してひずみを測定し、そ の測定値から応力を算出する方法は、その測定値が正 確で、かつ応力算出も極めて簡単であることから、弊 社の現在の小口径配管振動点検工事でも採用されてい る。しかしこの方法では、対象となる箇所を研磨し、 脱脂してから、接着剤でひずみゲージを正確な位置に 接着する必要がある。このため、測定準備に多くの労 力と高い熟練度を必要とするだけでなく、測定対象周 連絡先: 高濱 庸道 〒550-0001 大阪市西区土佐堀 1-3-7 (株)原子力エンジニアリング りに、研磨接着をするための作業スペースが必要で、 狭隘部では測定できないことがある。また測定後には、
ひずみゲージを剥がし、再度研磨して接着剤を剥がす
6 作業も必要となる。さらに原子力プラントにおける被 軽量である。配管呼び径 15A 用のものを、アルミ ばく線量の高い場所では、多くの時間を要する接着作 合金で製作した場合 80g 程度、耐熱性温度が 270°C 業自体が困難となることもある。 程度である PAI 樹脂(ポリアミドイミド樹脂)で製作 この他、接着剤を用いない摩擦型ひずみゲージを使 した場合、50g 程度となる(共に、ひずみゲージリー 用する方法[4]などがあるが、ジグ重量が大きく測定時 ド線重量を除く)。 の振動モードが通常時と変わってしまう、ジグのサイ 7 小型である。配管軸方向に 10mm 程度、配管径方 ズが大きく狭隘部での測定が困難などの問題がある。 向には幅 80mm 程度(呼び径 15A の場合)のスペース そこで筆者らは、接着されたひずみゲージと同等の があれば、設置可能(図 1 参照)。 測定精度を持ちながら、対象とする配管に簡単に装着 して配管のひずみを測定できる「配管ひずみセンサー」 弾性体と ひずみゲージ 小口径配管(呼び径 15A) を開発した。本稿では、この配管ひずみセンサーの測 送りナット 定精度―従来通り接着されたひずみゲージによるひず 送りネジ み測定値との差―について報告する。 2. 配管ひずみセンサー 2.1 概要 筆者らは、配管の振動によるひずみを簡単に測定で きる配管ひずみセンサーを開発した(特許 5541759)。本 センサーはひずみゲージを利用したものであるが、従 来の測定方法とは異なり、測定対象に直接ひずみゲー ジを接着する必要が無く、以下のように使用する(図 1 ブラケット 参照)。 測定対象となる小口径配管サイズに応じた配管ひず みセンサーを用意し、ブラケット部を、固定用ネジで 固定する。配管ひずみセンサーの設置位置が確定した 図 1 配管ひずみセンサー(配管呼び径 15A 用) ら、送りネジで送りナットを配管中心へ向かって移動 3. 試験方法 させ、ナット先端にある弾性体を配管の表面に押し付 ける。弾性体表面にはひずみゲージが接着されており、 3.1 静ひずみの測定値比較試験の方法 弾性体が配管に押し付けられることで、ひずみゲージ 図 2 に、静ひずみの測定値比較試験の概要を示す。 が配管表面に密着する。この状態で、従来と同等の方 水平に片持ち状態で固定された配管(呼び径 15A、肉 法で、ひずみを測定する。 厚 3.0mm、材質はステンレス鋼 SUS304TP)の先端に静 荷重を与えた。静荷重が与えられた状態で、配管根元 2.2 特徴 近辺の静ひずみを配管ひずみセンサーで測定し、その この配管ひずみセンサーは、以下のような特徴を持 対面に接着されたひずみゲージによる測定値と比較し つ。た。六角ソケットで配管を延長して、与える静荷重の 1 設置時間が数分と極めて短く、再設置も容易。 位置を変えたり、静荷重の大きさを変えたりすること 2 配管に直接接着しないので、同一のひずみゲージを で、種々のひずみ測定値を得た。 (損傷するまで)何度でも使用できる。ゴミも出ない。 ここで、配管ひずみセンサーは、配管の天側を測定 3 四半円点のうちの任意の点での、正確な 90 度毎の できるように設置されており、その対面の地側の配管 ひずみ測定が可能。 表面に、ひずみゲージを接着している。よって理想的 4 撤去も容易で、接着のための研磨や接着剤の除去を には、両測定値は正負逆で絶対値が等しくなる。 する必要が無いので、配管へ与えるダメージも無い。 また対照試験として、配管の天側と地側の両方にひ 5 高温配管(200°C以上)にも適用可能。 ずみゲージを接着し、天側と地側の測定値の関係が、 約 60mm 約 80mm- 172 - 固定用 ネジ ひずみゲージの リード線 配管ひずみセンサーを用いた場合と同等になるか否か を確認した。 3.2 動ひずみ測定値比較試験の方法 図 3 に、動ひずみの測定値比較試験の概要を示す。 静ひずみの試験と同様に、水平に片持ち状態で固定 された配管(呼び径 15A、肉厚 3.0mm、材質はステンレ ス鋼 SUS304TP)の動ひずみを、配管ひずみセンサーで 測定し、その対面に接着されたひずみゲージによる測 定値と比較した。測定の際には、配管の先端をハンマ ーで打撃し、打撃直前からのひずみ波形を記録した。 ここで、配管ひずみセンサーは、配管の天側を測定 できるように設置されており、その対面の地側の配管 表面には、ひずみゲージが接着されている。よって理 想的には、両動ひずみの時間軸波形は正負逆で絶対値 が等しくなる。 図 3 に示す配管構成の場合、1 次モード以外の振動 モードが表れにくい。そこで、2 次以上の振動モード でのひずみ測定値の比較を行うため、六角ソケットを 介して配管を延長した配管構成で、同様の試験を行っ た(図 4 参照)。 また対照試験として、配管の天側と地側の両方にひ ずみゲージを接着し、天側と地側の測定値の関係が、 配管ひずみセンサーを用いた場合と同等になるか否か を確認した。 図 2 配管ひずみセンサーによる静ひずみ測定値(天側)と 配管に接着されたひずみゲージによる静ひずみ測定値(地側) の比較試験 図 3 配管ひずみセンサーによる動ひずみ測定値(天側)と 配管に接着されたひずみゲージによる動ひずみ測定値(地側) の比較試験―配管の延長なし― 延長配管 ひずみ測定箇所(天側)センサーによる (注)六角ソケット ひずみゲージによる 接着された 静荷重 ひずみ測定箇所(地側) 図 4 配管ひずみセンサーによる動ひずみ測定値(天側)と 配管に接着されたひずみゲージによる動ひずみ測定値(地側) の比較試験―配管の延長あり― 40mm 4. 試験結果 4.1 静ひずみ測定値比較試験の結果 測定対象配管 図 5-1 に、静ひずみの測定値比較試験の結果を示す。 配管ひずみセンサー (呼び径 15A) (一部のみを描写) 横軸は接着されたひずみゲージで測定された地側の静 ひずみ測定値の正負を反転させた値を、縦軸は配管ひ (注):対照試験では、同じ位置に ひずみゲージを接着する ずみセンサーで測定された天側の静ひずみ測定値を示 す。両者の値はほぼ等しいが、比例係数は1.025となり、 配管ひずみセンサーで測定された天側の静ひずみ測定 値が、わずかに高いひずみ測定値となることがわかる。 また同一静荷重での 2 回の測定値(静荷重を増やし ていく際と、減らしていく際とでの測定値)が良く一致 - 173 - センサーによる ひずみ測定箇所(天側) (注)ハンマーによる 打撃 接着された ひずみゲージによる ひずみ測定箇所(地側) 六角ソケット 40mm 配管ひずみセンサー (一部のみを描写) 測定対象配管 (呼び径 15A) (注):対照試験では、同じ位置に ひずみゲージを接着する ハンマーによる 打撃 ひずみ測定箇所(天側) センサーによる (注)延長配管 接着された ひずみゲージによる ひずみ測定箇所(地側) 六角ソケット 40mm 配管ひずみセンサー (一部のみを描写) 測定対象配管 (呼び径 15A) (注):対照試験では、同じ位置に ひずみゲージを接着する しており、再現性が高いことも確認できる。 図 5-2 に、静ひずみの測定値比較の対照試験の結果 を示す。横軸は地側の静ひずみ測定値の正負を反転さ せた値を、縦軸は天側の静ひずみ測定値を示す。両者 はともに、接着されたひずみゲージで測定された値で ある。この対照試験の場合も、両者の値はほぼ等しいが、 比例係数は 1.020 となり、天側の静ひずみ測定値が、 わずかに高いひずみ測定値となることがわかる。 地側の接着されたひずみゲージによる測定値に対し て、配管の天側の静ひずみを; ・配管ひずみセンサーで測定すると、 約1.025倍 ・接着されたひずみゲージで測定すると、 約1.020倍 となり、両者の差は約 0.5%である。 これに対して、本試験で使用したひずみゲージの、 メーカーが指定するゲージ率許容差は±1.0%である。 また天側と地側では、配管支持部の境界条件が異な るため、厳密に絶対値が一致するわけではない。 これらのことを考えると、両者の差は有意ではなく、 配管ひずみセンサーで、ひずみゲージを接着する場合 と、同等の静ひずみ測定値が得られたと判断できる。 4.2 動ひずみ測定試験結果 図 6-1 に、動ひずみの測定値比較試験の結果を示す。 配管ひずみセンサーによる天側での測定波形と、接 着されたひずみゲージによる地側での測定値の正負反 転波形が、一致していることがわかる。 またこの対照試験の結果である図 6-2 からは、接着 されたひずみゲージによる天側での測定波形と、地側 での測定値の正負反転波形も、一致することがわかる。 図 7-1 からは、1 次モード以外の振動モードを多く 含む場合でも、配管ひずみセンサーによる天側での測 定波形と、接着されたひずみゲージによる地側での測 定値の正負反転波形が、一致していることがわかる。 また、この 1 次モード以外の振動モードを多く含む 場合の対照試験の結果である図 7-2 からは、接着され たひずみゲージによる天側での測定波形と、地側での 測定値の正負反転波形も、一致することがわかる。 これらの試験結果より、振動モードに関わらず、配 管ひずみセンサーは、ひずみゲージと同等の動ひずみ 測定値を得られたと判断できる。 接着されたひずみゲージによる地側のひずみ測定値(μSt)×(-1) 図 5-1 配管ひずみセンサーによる静ひずみ測定値(天側)と 配管に接着されたひずみゲージによる静ひずみ測定値(地側) の相関 図 5-2 対照試験結果 配管に接着されたひずみゲージによる 静ひずみ測定値(天側と地側)の相関 配管ひずみセンサーによる天側のひずみ測定波形 接着されたひずみゲージによる地側のひずみ測定波形×(-1) 図 6-1 配管ひずみセンサーによる動ひずみ測定値(天側)と 配管に接着されたひずみゲージによる動ひずみ測定値(地側) の比較(図 3 に示す打撃時の動ひずみ測定値) 2001501005000 10 20 30 40 -50時間(mS) 接着されたひずみゲージによる地側のひずみ測定値(μSt)×(-1) - 174 - 接着する必要があるが、本センサーによるひずみ測定 接着されたひずみゲージによる天側のひずみ測定波形 接着されたひずみゲージによる地側のひずみ測定波形×(-1) では、その必要が無い。そのため、本センサーを用い 200ると、測定前の準備から測定後の撤収までの作業量を、 1900/05/29大幅に軽減できる。 100本センサーを試験した結果、伸縮方向のひずみは、 50動ひずみ静ひずみ共に、接着されたひずみゲージによ 0る測定値と同等の結果を得られることが確認できた。 -500 10 20 時間(mS) 30 40 今後はせん断ひずみ(ねじりひずみ)の測定に適用で きるか否かを試験で確認した後、機会があれば実機で 試用し、振動中の配管に装着できるか、耐久性や現場 での使用感に問題が無いかなどを検討していく。 参考文献 [1] 例えば、関西電力株式会社 “美浜発電所2号機の 化学体積制御系統の空気抜き配管溶接部からの 漏えいに係る原因と対策について”、関西電力プ レスリリース、2010, 関西電力ホームページ、 50 http://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2010/0402-2j.htm 0l -50[2] 田中守、 猫本善続、 松本一博 “配管振動診断 システムの開発”, 三菱重工技報、Vol. 33, No.4, 1996-7, pp.278-281. [3] 辻峰史、 前川晃、高橋常夫 “非接触型変位計を 用いた振動応力測定方法の開発(第 5 報) ―分岐 配管を用いた振動実験による精度確認―”、INSS JOURNAL, Vol.20, 2013, NT-6, pp.95-108. [4] 森圭史、“小口径配管の疲労寿命診断技術”、プラ ントエンジニア、 Mar 2011、pp.16-24. 図 6-2 対照試験結果 配管に接着されたひずみゲージによる 動ひずみ測定値(天側と地側)の比較 (図 3 に示す打撃時の動ひずみ測定値) 配管ひずみセンサーによる天側のひずみ測定波形 接着されたひずみゲージによる地側のひずみ測定波形×(-1) 2001501000 10 20 30 40 時間(mS) 図 7-1 配管ひずみセンサーによる動ひずみ測定値(天側)と 配管に接着されたひずみゲージによる動ひずみ測定値(地側) の比較(図 4 に示す打撃時の動ひずみ測定値) 接着されたひずみゲージによる天側のひずみ測定波形 接着されたひずみゲージによる地側のひずみ測定波形×(-1) 2001501005000 10 20 30 40 -50時間(mS) 図 7-2 対照試験結果 配管に接着されたひずみゲージによる 動ひずみ測定値(天側と地側)の比較 (図 4 に示す打撃時の動ひずみ測定値) 5. 結言 筆者らは、配管の振動によるひずみを簡単に測定で きる、小型軽量の配管ひずみセンサーを開発した。 従来のひずみ測定では、測定対象にひずみゲージを - 175 -
“ “応力評価のための配管ひずみセンサーの開発 “ “高濱 庸道,Tsunemichi TAKAHAMA,西村 一真,Kazuma NISHIMURA,二宮 聖一郎,Seiichiro NINOMIYA,松本 善博,Yoshihiro MATSUMOTO,原田 豊,Yutaka HARADA
プラントにおける小口径配管は、内部流体やポンプ の振動によって振動する。この振動が大きい場合、溶 接部近傍で疲労破壊を起こすことがある[1]。そこで、 この疲労破壊を予防するために、多くのプラントで、 小口径配管の溶接部近傍での、振動による応力が評価 されている。この応力評価方法には、加速度計で測定 した加速度から応力を算出する方法[2]、変位計で測定 した変位から応力を算出する方法[3]、及びひずみゲー ジで測定したひずみから応力を算出する方法などがあ る。加速度計で測定した加速度から応力を算出する方法 では、予め測定対象となる配管やサポートをモーダル 解析ができるようにモデル化し、そのモデルに測定し た加速度を与えることで、モデル全体の応力分布を計 算することができる。しかしこの方法では、モデル化 のために特定すべきパラメータが多い上に、摩擦係数 や減衰係数などのパラメータは、特定するのが容易で は無い。また非線形要素がある場合などは、特に高度 な専門知識を有することが必須で、応力算出するまで に多大な労力を要する。 変位計で測定した変位から応力を算出する方法は、 測定から算出までを、簡便に行うことができる。しか しプラント環境の中では、三次元的な変位を測定する ことが難しいため、その多くが二次元的な測定となる。 またレーザー変位計などを用いる場合、振動による応 力が高くなる配管は高温配管に多いが、その高温配管 への適用が難しいという問題もある。 ひずみゲージを配管に接着してひずみを測定し、そ の測定値から応力を算出する方法は、その測定値が正 確で、かつ応力算出も極めて簡単であることから、弊 社の現在の小口径配管振動点検工事でも採用されてい る。しかしこの方法では、対象となる箇所を研磨し、 脱脂してから、接着剤でひずみゲージを正確な位置に 接着する必要がある。このため、測定準備に多くの労 力と高い熟練度を必要とするだけでなく、測定対象周 連絡先: 高濱 庸道 〒550-0001 大阪市西区土佐堀 1-3-7 (株)原子力エンジニアリング りに、研磨接着をするための作業スペースが必要で、 狭隘部では測定できないことがある。また測定後には、
ひずみゲージを剥がし、再度研磨して接着剤を剥がす
6 作業も必要となる。さらに原子力プラントにおける被 軽量である。配管呼び径 15A 用のものを、アルミ ばく線量の高い場所では、多くの時間を要する接着作 合金で製作した場合 80g 程度、耐熱性温度が 270°C 業自体が困難となることもある。 程度である PAI 樹脂(ポリアミドイミド樹脂)で製作 この他、接着剤を用いない摩擦型ひずみゲージを使 した場合、50g 程度となる(共に、ひずみゲージリー 用する方法[4]などがあるが、ジグ重量が大きく測定時 ド線重量を除く)。 の振動モードが通常時と変わってしまう、ジグのサイ 7 小型である。配管軸方向に 10mm 程度、配管径方 ズが大きく狭隘部での測定が困難などの問題がある。 向には幅 80mm 程度(呼び径 15A の場合)のスペース そこで筆者らは、接着されたひずみゲージと同等の があれば、設置可能(図 1 参照)。 測定精度を持ちながら、対象とする配管に簡単に装着 して配管のひずみを測定できる「配管ひずみセンサー」 弾性体と ひずみゲージ 小口径配管(呼び径 15A) を開発した。本稿では、この配管ひずみセンサーの測 送りナット 定精度―従来通り接着されたひずみゲージによるひず 送りネジ み測定値との差―について報告する。 2. 配管ひずみセンサー 2.1 概要 筆者らは、配管の振動によるひずみを簡単に測定で きる配管ひずみセンサーを開発した(特許 5541759)。本 センサーはひずみゲージを利用したものであるが、従 来の測定方法とは異なり、測定対象に直接ひずみゲー ジを接着する必要が無く、以下のように使用する(図 1 ブラケット 参照)。 測定対象となる小口径配管サイズに応じた配管ひず みセンサーを用意し、ブラケット部を、固定用ネジで 固定する。配管ひずみセンサーの設置位置が確定した 図 1 配管ひずみセンサー(配管呼び径 15A 用) ら、送りネジで送りナットを配管中心へ向かって移動 3. 試験方法 させ、ナット先端にある弾性体を配管の表面に押し付 ける。弾性体表面にはひずみゲージが接着されており、 3.1 静ひずみの測定値比較試験の方法 弾性体が配管に押し付けられることで、ひずみゲージ 図 2 に、静ひずみの測定値比較試験の概要を示す。 が配管表面に密着する。この状態で、従来と同等の方 水平に片持ち状態で固定された配管(呼び径 15A、肉 法で、ひずみを測定する。 厚 3.0mm、材質はステンレス鋼 SUS304TP)の先端に静 荷重を与えた。静荷重が与えられた状態で、配管根元 2.2 特徴 近辺の静ひずみを配管ひずみセンサーで測定し、その この配管ひずみセンサーは、以下のような特徴を持 対面に接着されたひずみゲージによる測定値と比較し つ。た。六角ソケットで配管を延長して、与える静荷重の 1 設置時間が数分と極めて短く、再設置も容易。 位置を変えたり、静荷重の大きさを変えたりすること 2 配管に直接接着しないので、同一のひずみゲージを で、種々のひずみ測定値を得た。 (損傷するまで)何度でも使用できる。ゴミも出ない。 ここで、配管ひずみセンサーは、配管の天側を測定 3 四半円点のうちの任意の点での、正確な 90 度毎の できるように設置されており、その対面の地側の配管 ひずみ測定が可能。 表面に、ひずみゲージを接着している。よって理想的 4 撤去も容易で、接着のための研磨や接着剤の除去を には、両測定値は正負逆で絶対値が等しくなる。 する必要が無いので、配管へ与えるダメージも無い。 また対照試験として、配管の天側と地側の両方にひ 5 高温配管(200°C以上)にも適用可能。 ずみゲージを接着し、天側と地側の測定値の関係が、 約 60mm 約 80mm- 172 - 固定用 ネジ ひずみゲージの リード線 配管ひずみセンサーを用いた場合と同等になるか否か を確認した。 3.2 動ひずみ測定値比較試験の方法 図 3 に、動ひずみの測定値比較試験の概要を示す。 静ひずみの試験と同様に、水平に片持ち状態で固定 された配管(呼び径 15A、肉厚 3.0mm、材質はステンレ ス鋼 SUS304TP)の動ひずみを、配管ひずみセンサーで 測定し、その対面に接着されたひずみゲージによる測 定値と比較した。測定の際には、配管の先端をハンマ ーで打撃し、打撃直前からのひずみ波形を記録した。 ここで、配管ひずみセンサーは、配管の天側を測定 できるように設置されており、その対面の地側の配管 表面には、ひずみゲージが接着されている。よって理 想的には、両動ひずみの時間軸波形は正負逆で絶対値 が等しくなる。 図 3 に示す配管構成の場合、1 次モード以外の振動 モードが表れにくい。そこで、2 次以上の振動モード でのひずみ測定値の比較を行うため、六角ソケットを 介して配管を延長した配管構成で、同様の試験を行っ た(図 4 参照)。 また対照試験として、配管の天側と地側の両方にひ ずみゲージを接着し、天側と地側の測定値の関係が、 配管ひずみセンサーを用いた場合と同等になるか否か を確認した。 図 2 配管ひずみセンサーによる静ひずみ測定値(天側)と 配管に接着されたひずみゲージによる静ひずみ測定値(地側) の比較試験 図 3 配管ひずみセンサーによる動ひずみ測定値(天側)と 配管に接着されたひずみゲージによる動ひずみ測定値(地側) の比較試験―配管の延長なし― 延長配管 ひずみ測定箇所(天側)センサーによる (注)六角ソケット ひずみゲージによる 接着された 静荷重 ひずみ測定箇所(地側) 図 4 配管ひずみセンサーによる動ひずみ測定値(天側)と 配管に接着されたひずみゲージによる動ひずみ測定値(地側) の比較試験―配管の延長あり― 40mm 4. 試験結果 4.1 静ひずみ測定値比較試験の結果 測定対象配管 図 5-1 に、静ひずみの測定値比較試験の結果を示す。 配管ひずみセンサー (呼び径 15A) (一部のみを描写) 横軸は接着されたひずみゲージで測定された地側の静 ひずみ測定値の正負を反転させた値を、縦軸は配管ひ (注):対照試験では、同じ位置に ひずみゲージを接着する ずみセンサーで測定された天側の静ひずみ測定値を示 す。両者の値はほぼ等しいが、比例係数は1.025となり、 配管ひずみセンサーで測定された天側の静ひずみ測定 値が、わずかに高いひずみ測定値となることがわかる。 また同一静荷重での 2 回の測定値(静荷重を増やし ていく際と、減らしていく際とでの測定値)が良く一致 - 173 - センサーによる ひずみ測定箇所(天側) (注)ハンマーによる 打撃 接着された ひずみゲージによる ひずみ測定箇所(地側) 六角ソケット 40mm 配管ひずみセンサー (一部のみを描写) 測定対象配管 (呼び径 15A) (注):対照試験では、同じ位置に ひずみゲージを接着する ハンマーによる 打撃 ひずみ測定箇所(天側) センサーによる (注)延長配管 接着された ひずみゲージによる ひずみ測定箇所(地側) 六角ソケット 40mm 配管ひずみセンサー (一部のみを描写) 測定対象配管 (呼び径 15A) (注):対照試験では、同じ位置に ひずみゲージを接着する しており、再現性が高いことも確認できる。 図 5-2 に、静ひずみの測定値比較の対照試験の結果 を示す。横軸は地側の静ひずみ測定値の正負を反転さ せた値を、縦軸は天側の静ひずみ測定値を示す。両者 はともに、接着されたひずみゲージで測定された値で ある。この対照試験の場合も、両者の値はほぼ等しいが、 比例係数は 1.020 となり、天側の静ひずみ測定値が、 わずかに高いひずみ測定値となることがわかる。 地側の接着されたひずみゲージによる測定値に対し て、配管の天側の静ひずみを; ・配管ひずみセンサーで測定すると、 約1.025倍 ・接着されたひずみゲージで測定すると、 約1.020倍 となり、両者の差は約 0.5%である。 これに対して、本試験で使用したひずみゲージの、 メーカーが指定するゲージ率許容差は±1.0%である。 また天側と地側では、配管支持部の境界条件が異な るため、厳密に絶対値が一致するわけではない。 これらのことを考えると、両者の差は有意ではなく、 配管ひずみセンサーで、ひずみゲージを接着する場合 と、同等の静ひずみ測定値が得られたと判断できる。 4.2 動ひずみ測定試験結果 図 6-1 に、動ひずみの測定値比較試験の結果を示す。 配管ひずみセンサーによる天側での測定波形と、接 着されたひずみゲージによる地側での測定値の正負反 転波形が、一致していることがわかる。 またこの対照試験の結果である図 6-2 からは、接着 されたひずみゲージによる天側での測定波形と、地側 での測定値の正負反転波形も、一致することがわかる。 図 7-1 からは、1 次モード以外の振動モードを多く 含む場合でも、配管ひずみセンサーによる天側での測 定波形と、接着されたひずみゲージによる地側での測 定値の正負反転波形が、一致していることがわかる。 また、この 1 次モード以外の振動モードを多く含む 場合の対照試験の結果である図 7-2 からは、接着され たひずみゲージによる天側での測定波形と、地側での 測定値の正負反転波形も、一致することがわかる。 これらの試験結果より、振動モードに関わらず、配 管ひずみセンサーは、ひずみゲージと同等の動ひずみ 測定値を得られたと判断できる。 接着されたひずみゲージによる地側のひずみ測定値(μSt)×(-1) 図 5-1 配管ひずみセンサーによる静ひずみ測定値(天側)と 配管に接着されたひずみゲージによる静ひずみ測定値(地側) の相関 図 5-2 対照試験結果 配管に接着されたひずみゲージによる 静ひずみ測定値(天側と地側)の相関 配管ひずみセンサーによる天側のひずみ測定波形 接着されたひずみゲージによる地側のひずみ測定波形×(-1) 図 6-1 配管ひずみセンサーによる動ひずみ測定値(天側)と 配管に接着されたひずみゲージによる動ひずみ測定値(地側) の比較(図 3 に示す打撃時の動ひずみ測定値) 2001501005000 10 20 30 40 -50時間(mS) 接着されたひずみゲージによる地側のひずみ測定値(μSt)×(-1) - 174 - 接着する必要があるが、本センサーによるひずみ測定 接着されたひずみゲージによる天側のひずみ測定波形 接着されたひずみゲージによる地側のひずみ測定波形×(-1) では、その必要が無い。そのため、本センサーを用い 200ると、測定前の準備から測定後の撤収までの作業量を、 1900/05/29大幅に軽減できる。 100本センサーを試験した結果、伸縮方向のひずみは、 50動ひずみ静ひずみ共に、接着されたひずみゲージによ 0る測定値と同等の結果を得られることが確認できた。 -500 10 20 時間(mS) 30 40 今後はせん断ひずみ(ねじりひずみ)の測定に適用で きるか否かを試験で確認した後、機会があれば実機で 試用し、振動中の配管に装着できるか、耐久性や現場 での使用感に問題が無いかなどを検討していく。 参考文献 [1] 例えば、関西電力株式会社 “美浜発電所2号機の 化学体積制御系統の空気抜き配管溶接部からの 漏えいに係る原因と対策について”、関西電力プ レスリリース、2010, 関西電力ホームページ、 50 http://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2010/0402-2j.htm 0l -50[2] 田中守、 猫本善続、 松本一博 “配管振動診断 システムの開発”, 三菱重工技報、Vol. 33, No.4, 1996-7, pp.278-281. [3] 辻峰史、 前川晃、高橋常夫 “非接触型変位計を 用いた振動応力測定方法の開発(第 5 報) ―分岐 配管を用いた振動実験による精度確認―”、INSS JOURNAL, Vol.20, 2013, NT-6, pp.95-108. [4] 森圭史、“小口径配管の疲労寿命診断技術”、プラ ントエンジニア、 Mar 2011、pp.16-24. 図 6-2 対照試験結果 配管に接着されたひずみゲージによる 動ひずみ測定値(天側と地側)の比較 (図 3 に示す打撃時の動ひずみ測定値) 配管ひずみセンサーによる天側のひずみ測定波形 接着されたひずみゲージによる地側のひずみ測定波形×(-1) 2001501000 10 20 30 40 時間(mS) 図 7-1 配管ひずみセンサーによる動ひずみ測定値(天側)と 配管に接着されたひずみゲージによる動ひずみ測定値(地側) の比較(図 4 に示す打撃時の動ひずみ測定値) 接着されたひずみゲージによる天側のひずみ測定波形 接着されたひずみゲージによる地側のひずみ測定波形×(-1) 2001501005000 10 20 30 40 -50時間(mS) 図 7-2 対照試験結果 配管に接着されたひずみゲージによる 動ひずみ測定値(天側と地側)の比較 (図 4 に示す打撃時の動ひずみ測定値) 5. 結言 筆者らは、配管の振動によるひずみを簡単に測定で きる、小型軽量の配管ひずみセンサーを開発した。 従来のひずみ測定では、測定対象にひずみゲージを - 175 -
“ “応力評価のための配管ひずみセンサーの開発 “ “高濱 庸道,Tsunemichi TAKAHAMA,西村 一真,Kazuma NISHIMURA,二宮 聖一郎,Seiichiro NINOMIYA,松本 善博,Yoshihiro MATSUMOTO,原田 豊,Yutaka HARADA