SPM 法による軸受診断の検証と保全の最適化への展開

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カテゴリ: 第11回
1.緒言
原子力関連施設における回転機器の保全は主に時間に 基づく保全(以降TBM)によって行われていたが、平成 21 年の新検査制度の制定以降、機器の状態に基づく保全 (以降CBM)を確立するための動きが強まった。 平成 23 年 3 月 11 日に起きた東北地方太平洋沖地震に より発電設備が長期停止状態となったが、換気空調設備 のように施設内の環境を維持する設備はその必要性から 運転を継続しており、従来通り機器の健全性維持が求め られている。また、設備の信頼性向上と保全の最適化を 目指し、CBMを確立するための技術拡充の取り組みは現 在も継続されている。 CBMを代表する手法として振動法、油分析、サーモグ ラフィが用いられており、特に振動法については知見が 多く機器全体の異常を検知できることから、機器の状態 を判断する手法として多くの施設で採用され、幅広く保 全に用いられてきた。ただし、その測定と評価には経験 と技術が必要であり、解析には専門的な知識と時間が必 要である。 発電所では多くの送風機やポンプが使用されており、 このような回転機器の不具合は軸受の寿命から来るもの がほとんどを占めていることがわかっている[1]。原子力 発電所全体として1プラントあたり 100 台以上の回転機 器が設置されているため、全ての回転機器に対して振動 法を実施しようとすると、測定点が膨大(各軸受に対し て3方向)であり、振動データの収集ならびに評価に時 間を要してしまうことから、測定および評価に時間のか からない技術、軸受の状態を確実に把握することが可能 な技術、軸受を管理する指標が明確な技術が求められて いる。 前述を踏まえ、原子力発電所の回転機器の実情に適応 する技術として SPM(Shock Pulse Measurement)法に着目 して検証を行ってきた。
2.SPM法について
SPM 法は Fig.1 のように金属同士が衝突した際に発生 する圧力波(ショックパルス)の周波数 32kHz 帯にセン サーの共振点を調整することにより、最も感度の良い箇 所でショックパルスを測定する方法である。
dB Fig.1 SPM 法の測定周波数帯 測定機器に内蔵された約 43000 種のデータベースと測 定結果を比較することで、軸受の油膜厚さの判断、軸受 異常の早期発見、軸受寿命の算出が可能な手法である。 測定機器は Fig.2 のようであり、機器名称と軸受 No、回 転数を入力し、プローブを押し当てて測定を行う。1つ の軸受に対し任意の1方向のみ約10秒で測定を完了する ことができる。 - 180 - Fig.2 SPM測定機器 SPM 法の原理はスウェーデンのSPM社によって開発 されたものである。試験によって得られた潤滑状態を示 すκ(カッパ値)と軸受回転数n(rpm)との関係から軸受内 の油膜厚が衝撃波の大きさに影響を受けることを掴み、 評価の元となる約43000種の主要な軸受の正常なデータ を収集したことで、実測定の現場で使用することを可能 にした。 測定によって得られるLR(Low rate of occurrence Range) 単位時間当たりの発生数が少なく強い衝撃波の平均値 (dB)とHR(High rate of occurrence Range)単位時間当たりの 発生数が多く弱い衝撃波の平均値(dB)から、潤滑状態と軸 受の潤滑・損傷の度合をそれぞれLUB(lubricant)と COND(condition)という値で定義している。 また、SPM社が各軸受の試験結果から独自に得た判定 基準により緑(正常)、黄(注意)、赤(要注意)の色によって 軸受の状態を判断することが可能である。 3.検証の実施 SPM 法の測定結果の精度を検証した結果を以下に示す。 3.1 検証方法 検証は中部電力浜岡原子力発電所にて2012年から 2013年にかけて行った。一年目はSPM法および振動変位、 温度の測定データを蓄積し原子力発電所における回転機 器の状態把握を試み、機器の再起動と潤滑状態との関係 性を見ることができた。二年目はデータの蓄積を行うと 同時に分解点検が行われた機器について軸受の分解調査 を実施し、その調査結果からSPM 測定データの精度を確 データの蓄積/軸受の分解調査 3.3測定・軸受分解調査 SPM 法は1つの軸受に対して、一箇所の測定で評価が 可能であることから、測定時間が振動法に比べ短時間で あること、他状態監視技術では評価が難しいケーシング 内に設置されている直接測定が行えない軸受についても、 ケーシングの側面からの測定で評価が可能であることが 分かった。 Table1 のうち、軸受の分解により典型的な軸受の異常 を確認することができた2-1 の軸受について各測定・調 査結果を以下に示す。 3.2調査対象機器の選定 測定対象の軸受は 2013 年度に分解点検が予定されて いる機器を含め軸受サイズ・タイプ・機器の駆動方式が 網羅されるよう、発電所に設置されている90 台(軸受に して 300 点)を選定し、データの収集を実施した。この 内、2013 年度に分解点検が行われ、調査を実施すること ができた機器はTable.1の送風機5台の軸受10点であっ た。 Table.1 分解調査実施機器 - 181 - 調査結果による測定データの精度の確認 SPM法の利点の列挙 SPM法の利点を活用した保全方法の検討 認した。さらに、本稿では二年間の継続した測定の中で 明らかとなったSPM法の利点を挙げるとともに、その利 点を活用した保全方法についての検討までを行った (Fig.3)。 Fig.3 検証の流れ 3.3.1測定 3.2 にて選定した機器について、月に1回、2~3日の 測定日を設け、測定を実施した。 Fig.4 に測定結果を示す。Fig.4 のトレンドグラフでは LR、HR、LUB、COND の時系列の変化を示している。 この軸受は、線の位置で分解点検を実施している。 分解点検前の測定でLR/HRの値が上昇し、COND が赤 (異常)となったことがわかる。異常が示される約二月前の 測定では正常な値であったことから、経年的な劣化事象 ではなく、この二か月の間に発生した偶発的な不具合の 可能性が高いと考える。 次に異常が確認された際の評価チャートをFig.5に示す。 評価チャートには LR、HR、LUB、COND の関係が示 されており、縦軸に LR-HR、横軸に HR、さらに中の三 角形の縦軸にCOND、横軸にLUB を取っている。プロッ トが LR-HR の低い位置の右側(HR 高)にあると潤滑状態 が悪く、COND 値が高くなると軸受が損傷している可能 性があると分かる。 Fig.5 では LR-HR が高く、右側にあることから軸受損 傷の可能性が高いということを視覚的に認識することが できる。 さらに、SPM 法で得られる振動加速度のスペクトルを Fig.6 に示す。スペクトルからは、振動法のスペクトルと 同様に異常が起きている部位を特定することができる。 今回測定されたスペクトルでは軸受異常を示すピーク がはっきりと表れていないが、わずかに保持器に異常を 確認することができる。 ← 赤い点線と一致する波形が 保持器の異常を示している。 分解点検実施 COND LUB LR/HR 異常値が確認された測定 異常が示された二か月前の測定 Fig.4 トレンドグラフ - 182 - Fig.6 SPM スペクトル 3.3.2 軸受分解調査 通常であれば廃棄されてしまう取り外された軸受を確 認することにより、SPM 測定結果の検証を実施した。調 査は軸受メーカの意見を元に内輪と外輪について表面粗 さ・目視による観察・マイクロハイスコープによる観察 を実施した。 目視とマイクロハイスコープによる観察結果は Table.2の通りであった。 表面粗さは新品の軸受の約26倍という結果であり、フ レーキングが起きた他の軸受に比べ、低い値であった(他 フレーキング発生軸受1-2:約278倍、3-1:225倍)。 他の軸受についても同様に調査を行った結果、軸受の タイプによって劣化の違いを確認することができた。 自動調心ころ軸受の特徴としては日常的に大きな負荷 がかかるため発生すると考えられる内外輪接触部の溝が 確認できた。また深溝玉軸受には停止中の微振動により 発生したと考えられる圧痕、自動調心玉軸受には保持器 Fig.5 評価チャート の鋭利部と外輪とが接触して発生したと考えられる円周 上の細いフレーキングを確認した。 Table.2 分解調査結果 内輪 外輪 目視で保持器に欠損と外輪のフレーキング・縁の欠け・起動面に溝、“ “SPM 法による軸受診断の検証と保全の最適化への展開 “ “南 明子,Akiko MINAMI,今治 由博,Yoshihiro IMAJI,名波 健,Takeshi NANAMI,谷口 祐司,Yuuji TANIGUCHI
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