女川原子力発電所1号機 高経年化技術評価について

公開日:
カテゴリ: 第11回
1.緒言
女川原子力発電所1号機は,1984年6月1日に営業 運転を開始し,本年6月に運転開始後30年を迎え た。今回,東北電力としては初めて,高経年化によ る技術評価(30年目)および長期保守管理方針 定し,保安規定の変更認可申請を2013年11月6日(補 正申請:2014年4月16日)に実施し,原子力規制庁 の審査を経て,2014年5月21日に保安規定の変更認 可を受けることができた。なお,高経年化技術評価を実施するにあたって は,2011年3月11日生した東日本大震災の経年 劣化事象への影響を踏まえた評価を行った。ここでは,女川原子力発電所1号機の高経年化技 術評価の概要および東日本大震災(以下,「震災」と いう)の影響等を踏まえた評価について紹介する。
2.女川原子力発電所1号機の概要
女川原子力発電所1号機の概要を以下に示す。 ・営業運転開始 1984年(昭和59年)6月1日 ・原子炉型式 軽水冷却型(沸騰水型) ・電気出力 524 MW ・原子炉熱出力 1,593 MW ・燃料 濃縮ウラン(燃料集合体368体) ・タービン くし形3気筒4流排気式 3.高経年化技術評価の概要
3.1 評価手順
高経年化技術評価は,原子力規制委員会で制定し ている「実用発電用原子炉施設における高経年化対 策実施ガイド」(以下,「高経年化対策実施ガイド」 という)および(社)日本原子力学会標準「原子力 発電所の高経年化対策実施基準」に準拠した社内要 領を作成し,図1に従って高経年化技術評価を行っ た。 連絡先: 野舘 和己、〒986-2293 宮城県牡鹿郡女川 町塚浜字前田1番、東北電力株式会社 女川原子力 発電所 保全部 保全計画G、 E-mail: nodate.kazumi.vp@tohoku-epco.co.jp 図1 高経年化技術評価の基本的な流れ - 185 - て前提にしている使用・環境条件から乖離し,経 女川原子力発電所1号機は,平成23年3月11日の東 北地方太平洋沖地震により設計どおり自動停止 年劣化事象の発生状況に影響するもの,および従 し,それ以降,原子炉が冷温停止状態であるため, 来の高経年化技術評価よりも経年劣化傾向の進展 高経年化対策実施ガイドに基づき,冷温停止状態が が考えられるものを抽出した。 維持されることを前提とした高経年化評価を行っ た。 具体的には,津波の影響を受けた取水口および 海水ポンプ室(除塵装置エリア)のコンクリート部 そのため,安全機能を有する機器・構造物のうち への塩分浸透によるコンクリートの強度低下が考 原子炉の冷温停止維持に必要な設備について,想定 えられたため,震災後,当該箇所から採取した供試 される経年劣化事象に対し,運転開始後30年を経過 体について,塩化物イオン濃度を測定した結果,津 する日から10年間,冷温停止状態で使用することを 波の影響を考慮しても塩分浸透による強度低下は 前提に技術的な評価を行った。また,現状保全の有 問題とならないことを確認した。 効性を確認したうえで,追加すべき保全策を抽出 し,長期保守管理方針として策定した。 (2)系統の運転状態の変化 上記(1)の他に震災の波及的影響によって,系統 なお,原子炉の冷温停止維持に必要な設備の抽出 の運転状態が変化したことで経年劣化傾向の変化 にあたっては,図2に従い実施した。 が考えられるものを抽出した。 具体的には,原子力発電所運転中であれば通常 待機状態である原子炉停止時冷却系統について, 震災後,一時的に連続運転となったことにより, 通常運転中は「待機状態」であった機器が「連続運 転」へ変化することに伴い,劣化傾向の進展が想定 される。 当該系統には残留熱除去系(海水系含む)およ び非常用補機冷却系(海水系含む)が該当してい たため,震災後の点検結果等を踏まえ評価した結 果,現状保全の継続により問題ないことを確認し た。 (3)主な経年劣化事象の想定期間の考え方 図2 安定停止の維持に必要な設備の抽出フロー 女川原子力発電所1号機については,震災以降, 原子炉が冷温停止状態となったため,冷温停止状 態でも劣化の進展を想定する事象・想定しない事 3.2 震災の影響を踏まえた経年劣化事象 象に区分し,劣化事象の想定期間を考慮した評価 女川原子力発電所1号機については,地震による を行った。主な事象等について以下に示す。 影響により長期停止しているプラントであるた め,通常運転中に想定される経年劣化事象および原 [冷温停止状態で劣化の進展を想定する事象] 子炉停止中に想定される経年劣化事象では,原子炉 ・炭素鋼製機器(熱交換器・原子炉圧力容器等) の状態変化に伴う運転状態を考慮すると,経年劣化 および配管等の全面腐食については,原子炉 傾向の変化が想定されることから,震災の影響とし の運転・停止に係わらず,流体と接液環境に て以下の観点で経年劣化事象を抽出し評価を実施 あるものなど,冷温停止状態でも劣化の進展 した。 が考えられることから想定する事象とした。 (1)震災による通常環境からの乖離 [冷温停止状態で劣化の進展を想定しない事象] 地震・津波の影響により,高経年化技術評価に ・ポンプ,容器,配管,弁,炉内構造物の疲労 - 186 - 割れについては,疲労解析に用いる熱過渡回 数(プラントの起動・停止により熱過渡を受 ける回数)が影響するが,震災以降プラント は停止していることから,震災を含めた熱過 渡回数とする。 ・炭素鋼製機器(原子炉圧力容器)のエロージ ョン・コロージョンについては,震災以降プ ラントは停止していることから,運開から震 災までとする。 ・中性子照射脆化および照射誘起型応力腐食割 れについては,震災以降プラントは停止して いることから,震災までの中性子照射量とす る。 3.3 地震の影響を踏まえた耐震安全性評価 高経年化技術評価における耐震安全性評価につ いては,評価対象機器に想定される全ての経年劣化 事象について,これらの事象が顕在化した場合,評 価対象機器の振動応答特性または,構造・強度上, 影響が「有意」であるか「軽微もしくは無視」でき るかを検討し,「有意」なものを耐震安全上考慮す る必要のある経年劣化事象として抽出し,耐震安全 上の影響評価を実施した。 また,耐震安全性評価を実施するにあたっては, 平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震(以下, 「3.11地震」という)および平成23年4月7日の宮城県 沖の地震(以下,「4.7地震」という)で得られた観 測記録の分析結果を踏まえた評価を行った。詳細に ついては,以下のとおり。 【建屋応答特性の変動による影響評価】 3.11地震および4.7地震で得られた観測記録の 分析結果として,女川原子力発電所2号機および3 号機において,原子炉建屋での観測記録の卓越周 期が耐震安全性評価(耐震バックチェック)に用 いた建屋解析モデル(以下,「設計モデル」という) の固有周期と比較し長周期化しており,建屋の応 答特性が変動していることが確認されたことか ら,建屋の地震応答解析モデルを見直した。 上記の地震応答解析モデルの見直しについて は,女川原子力発電所1号機についても同様に想定 されることから,耐震安全性評価においては建屋応 答特性の変動による機器の耐震性への影響を確認 するため,3.11地震および4.7地震の観測記録を再 図3 影響評価の概要 現できる地震応答解析モデル(以下,「シミュレーシ ョンモデル」という)により地震応答解析を実施 し,下記に示す簡易評価または詳細評価による影響 評価を実施した。 なお,影響評価の概要について図3に示す。 [簡易評価] 設計モデルの地震応答に対するシミュレーシ ョンモデルの地震応答比を算定し,これを設計 モデルでの発生値に乗ずることで建屋応答特性 の変動を踏まえた発生値を算出し,影響確認を 実施した。確認の結果,詳細評価が必要になる ものはなく,発生値が評価基準値を下回ること を確認した。 [詳細評価] 配管系については,スペクトルモーダル解析 法による評価が必要なため,初めから詳細評価 (疲労評価)により,また,配管解析結果を用い て評価する機器等(弁および配管貫通部等)は 建設時の評価と同様の詳細評価(疲労および破 壊評価)により発生値を算出し,影響確認を実 施した。確認の結果,発生値が評価基準値を下 回ることを確認した。 上記,簡易評価・詳細評価の結果,建屋応答特性 の変動を踏まえても各機器の耐震安全性に問題の ないことを確認した。 - 187 - 新しく制定され,原子炉の冷温停止状態が維持され 3.4 総合評価および長期保守管理方針 女川原子力発電所1号機のプラントを構成する機 ることを前提とした高経年化評価を行う等が追加 器・構造物のうち原子炉の冷温停止維持に必要な設 され,また,女川原子力発電所1号機は震災の影響 備について,震災の影響を踏まえ高経年化技術評価 を踏まえた評価が必要であったことから試行錯誤 を実施した結果,現状の保全を継続していくことに のうえ評価を行った。 より,運転開始後30年を経過する日から10年間,冷 温停止状態で使用することを前提としても,機器・ 評価の結果,震災による経年劣化事象への影響に 構造物の健全性が確保できることを確認した。 ついては確認されなかったが,今後の保全活動をよ り充実させるため抽出された保全策については,長 なお,今後の保全活動をより充実させるため,長 期保守管理方針として策定した。 期保守管理方針を策定した。内容および実施時期に 今後,長期保守管理方針については,計画的に実 ついては表1に示す。 施するとともに,知見の蓄積および拡充を図る観点 から,今後も最新知見等の成果が得られた時点で, その成果を随時保全計画等に反映していくことに 表1 女川原子力発電所 1 号機 長期保守管理方針 より,保全活動のさらなる充実を図っていく。 No 保守管理の項目 実施 時期※1“ “女川原子力発電所1号機 高経年化技術評価について “ “野舘 和己,Kazumi NODATE
著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)