L モードガイド波による配管減肉の位置と深さ推定..

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カテゴリ: 第11回
1.序論..
プラントの経年劣化に伴ってランダムに発生する配管減肉箇所の特定のため,管軸方向に高速かつ長距離に伝播可能なガイド波を用いた広域スクリーニング技術が注目されており[1],Flow Accelerated Corrosion(FAC)のようななだらかに配管肉厚が変化する楕円型減肉(Fig.1)を想定した形状推定手法の確立が期待されている.現状のガイド波を用いた減肉管理を考える上での課題としては速度分散性が挙げられ,伝播速度の異なる複数のモードが同時に励起されるため,検査信号の解釈が困難になるといった問題がある.そこで,速度分散性を表した分散曲線に基づき,特定のモードを選択的に励起することで解決する.また,減肉形状推定を行う上では,減肉による配管肉厚の変化に伴ってガイド波の群速度が変化する[2] ことに着目する. .. 本研究では,シミュレーションを用いて,速度分散性に基づいたガイド波の伝播速度を解析することにより減肉形状推定を行うことを目的とする.最初に,群速度分散曲線を導出する.励起するモードとしては,日本非破壊検査協会によって規定される[3]軸対称モードの中で減 .. 肉による伝播速度の変化が見やすいL モードガイド波を選択する.次に,数値実験を通じて,矩形型及び楕円型全周減肉を有する直管を伝播するL モードガイド波の群速度解析を行い,減肉部における群速度の変化から減肉の位置及び幅が導出可能であることを示す.最後に,減肉部における平均群速度を求め,群速度分散曲線と比較することによる減肉深さ推定手法を示し,その有効性を検証する. Pipe wall thinning Water current Orifice Fig.1 Schematic illustration of Flow Accelerated Corrosion(FAC).
2.分散曲線....
2.1..分散曲線の導出方法.. 本節では,本研究対象であるL モードガイド波にのみ言及し,無限長の円筒を伝播するガイド波を考える(Fig.2). 配管肉厚の内表面及び外表面における応力関係式(式(1-3))と自由境界条件(式(4))から,6!6 行列の行列式で与連絡先:中島 大岳 神戸大学大学院システム情報学研究科システム科学専攻 〒657-0013 兵庫県神戸市灘区六甲台町1-1 E-mail: hirotaka.nakajima@kojimalab.com - 21 - えられる周波数方程式(式(5))を得る[4]. ! rr = !““ (# 2 + k2 ) f + 2μ f ““““+ n(g““3 ! g3 / r + kg““1) r #$% &'(. (1) ! r““ =μ ! 2n( f ““! f / r) r !(2g““““ 3 !# 2g3 )! k n +1 r g1 ! g““1 #$ %& ()*+ ,-.. (2) ! rz =μ !2kf ““! nr g““1 + n +1 r !““ 2 + k2 #$ %& (g1 )* +,- .! nkg3 r /01 234. (3) ! rr =! r““ =! rz = 0. (4) Cij = 0, ( i, j =1, 2,..., 6 ). (5) .. この行列式はガイド波の各伝播モード(L,T,F モード) に関するk (波数),! (角周波数)の方程式となり,方程式を満たすk ,! から群速度(式(6))分散曲線を求める... v = !! / !k. ..................................................................(6) ここで,配管肉厚h がガイド波の伝播速度,角周波数! が励起するガイド波信号のモード選択に大きく関わるパラメータであることをおさえておく必要がある. .. r b a ! z h Fig.2 A traction-free, infinitely long hollow cylinder with inner radius a and outer radius b. ..2.2 群速度分散曲線の導出.. 2.1 節で述べたように,ガイド波はその振動形態に応じて伝播モードが多様に存在する.管軸方向の振動形態に応じて軸対称モードであるLongitudinal mode(L モード)及びTorsional mode(T モード),軸非対称モードであるFlexural mode(F モード)の3 つに大きく分類され,さらに肉厚方向の振動形態に応じて細分化される.その中でも本研究では,比較的減衰が少なく,反射強度の強いL モードに着目した.L モードに関する群速度分散曲線を導出するためには,式(5)において! 成分をゼロにすればよい.パラメータとして,配管肉厚を15[mm]と設定した場合の群速度分散曲線導出結果を示す(Fig.3).Fig.3 より, 低周波数領域においてガイドを励起することでモードの発生が少なく,L(0,1)モード及びL(0,2)モードガイド波のみ選択的に励起することが可能である.また,速度分散が大きく,ガイド波検査に有効なL(0, 2)モードガイド波を用いて群速度解析を行う. 0100020003000400050000 100 200 300 400 500 Group velocity[m/s] Frequency[kHz] L(0,1) L(0,2) L(0,3) L(0,4) Fig.3 Analytical group velocity dispersion curves for the longitudinal modes(L(0, m), (m=1,2,3,4)) in hollow cylinder with inner radius 50mm and outer radius 65mm(SS400). 3.L モードガイド波群速度解析実験.. 3.1..ガイド波検査配管モデル.. .. 本研究では,なだらかに配管肉厚が変化する全周減肉部が1 つあり,送信部,受信点,減肉部がこの順に配置される場合を対象とする.送信部ではコイルによるガイド波の励起を想定し,管軸方向に一様な外力を加えることで理想的なL モードガイド波が励起されることとする. 受信点は管軸方向に等間隔で複数配置され,各受信点では半径方向変位のみ計測されることとする(Fig.4)... .. r Measurement point z 0Transmitting area Pipe wall thinning Magnetostriction power .. Fig.4 Schematic illustration of simulation experiment model: transmitting area, measurement point and pipe wall thinning area is allocated in this order. 3.2..数値計算条件.. .. 本節では,数値計算時に設定した実験条件について説明する.減肉形状を楕円型とした場合の寸法をFig.5 に示す.ただし,本実験では配管端からの反射波の影響を無- 22 - くすため,配管長は十分に長く設定する.配管形状は直管とし,配管の物性パラメータはSS400 の値(ヤング率201!109 [Pa],ポアソン比0.3,密度7.9!103[g/m3])を用いる.入力信号はサインバースト波!ガウス窓とし,送信部では管軸方向に理想的な外力(式(7))が働くこととする... F = Fr F! Fz !““ #$== 0 0 G(t)sin(2““ ft) !““#$. (7).. ここで,G(t) はガウス型の窓関数であり,励起周波数f は75[kHz]とする.受信点は送信部から配管管軸方向に10[mm]間隔で配置する.減肉形状は矩形型及び楕円型全周減肉(数値計算上,階段近似により作成)とし,送信部より管軸方向に1450[mm]の位置に設定する.減肉幅,最大減肉深さは実験の都度変更可能とする... .. Transmitting area D 101450 W 10 10 Measurement point Pipe wall thinning Unit : [mm] 10015130 .. Fig.5 Longitudinal sectional view of test pipe model and its dimension(ellipse shaped circumferential defect). 3.3..群速度解析手法.. .. 本節では,数値実験により得られた信号を用いた群速度解析手法について説明する.群速度は波束が移動する速度であるため,最初に,各受信点毎の受信信号に対して包絡線処理を行う(Fig.6).次に,各受信点において基準となる2 点を選択し,受信信号のピーク時の2 点間の時間差t と距離d から群速度v が求まる(式(8))... v = d / t. ....................................................................(8).. また,群速度解析手法の様子をFig.7 に示す..... .. Amplitude[a.u.] Time[a.u.] Original signal Signal after envelope processing .. Fig.6 An example of signal after envelope processing. t[s] Time[a.u.] Amplitude[a.u.] ・・・10[mm] d[mm] Fig.7 Method for analyzing group velocity. 3.4..群速度解析結果.. 3.2 節に示した数値計算における実験条件に基づいて, 減肉形状を矩形型(W =300[mm],D =5[mm])と設定した場合及び楕円型(W =300[mm],D =8[mm](平均減肉深さ約5[mm]))と設定した場合の2通りでLモードガイド波群速度解析実験を行った結果をそれぞれFig.8,Fig.9 に示す. 0.0002Distance from transmitting area to measurement point [mm] 0.0001 0.0003 0.0004 0.0005 0.0006 Time[s] 000.000001L(0,2) L(0,1) 1500100005001905/06/22Pipe wall thinning 0.00000020.00000060.00000030.00000040.00000050.00000070.00000080.00000090.00000010.0007Fig.8 Results of group velocity measurement with longitudinal guided wave(notch-shaped pipe wall thinning). 0.0002Distance from transmitting area to measurement point [mm] 0.0001 0.0003 0.0004 0.0005 0.0006 Time[s] 000.000001L(0,2) L(0,1) 1500100005002000Pipe wall thinning 0.00000020.00000060.00000030.00000040.00000050.00000070.00000080.00000090.00000010.0007Fig.9 Results of group velocity measurement with longitudinal guided wave(ellipse-shaped pipe wall thinning). - 23 - 解析結果より,速度分散性がより大きいL(0,2)モードガイド波において,減肉部分で群速度が変化しており, その地点を読み取ることで管軸方向における送信部から減肉までの位置1450[mm],及び幅300[mm]が容易に導出可能である.また,減肉先端部分(1450[mm])に到達した後群速度が遅くなり,減肉終端部分(1750[mm])に近づくにつれて群速度が速くなることが確認できるが,これは減肉による直管の外表面と内表面で経路長の差が生じるためであると考えられる. 4.減肉深さ推定 4.1..減肉深さ推定手法.. .. 3.4 節の結果に基づいて,減肉先端部分と終端部分の2 点でTime-of-Flight を計算することにより,減肉部分の平均群速度を得る.また,群速度分散曲線において配管肉厚の変化に伴い群速度が変化することに着目すると,平均群速度から減肉部分における平均配管肉厚(Fig.10)が推定可能となり,減肉なし部分における配管肉厚(15[mm]) から減肉部分における平均配管肉厚を引くことで最大減肉深さを求めることができる. Average of pipe wall thickness r z 15[mm] Pipe wall thinning(Ellipse shaped) Fig.10 Schematic illustration of average of pipe wall thickness. 4.2..推定結果.. .. L モード群速度解析実験結果から得られる減肉部分における平均群速度と群速度分散曲線から求まる配管肉厚を10[mm]とした場合の75[kHz]における群速度を比較した表をTable1 に示す. .. Table1 より,減肉形状を矩形型とした場合は群速度が比較的一致しており,これより減肉深さ約5[mm]が推定可能である.しかしながら,減肉形状を楕円型とした場合は群速度により大きな誤差が生じた.原因としては楕円型を数値計算上において階段近似によって作成したことが考えられる.この点を考慮して誤差が解消できれば, 本手法の更なる発展が期待できるといえる. Table1 Group velocity comparison with group velocity measurement(Simulation Results) and group velocity dispersion curve(Analytical value). Shape of pipe wall thinning Notch Ellipse Group Velocity (Simulation Result) 5157.59[m/s] 4881.36[m/s] Group Velocity (Analytical value) 5169.52[m/s] 5169.52[m/s] 5.結論.. 本手法は,順問題解析の観点からガイド波を用いて矩形型及び楕円型全周減肉を有する直管における減肉形状推定手法を提案し,その有効性を示した.受信点を管軸方向に複数配置し,コイルを用いたガイド波の励起を行うことでL モードガイド波群速度解析実験を行い,直管内に存在する減肉の管軸方向における位置及び幅が導出可能であることを示した.また,群速度分散曲線を用いることで減肉部分における平均群速度から平均配管肉厚を求める減肉深さ推定法を示し,矩形型減肉における減肉深さ推定が可能であることを示した. 今後の課題としては,減肉形状を楕円型とした場合における本手法の推定誤差の解消に向けて検討していく. また,数値計算実験だけではなく,実際の環境下での実験を通じて,本手法の有効性の検証を行う. 参考文献 [1] D. N. Alleyne, P. Cawley, “Long Range Propagation of Lamb Waves in Chemical Plant Pipework”, Mater. Eval, 1997, pp.504-508. [2] 中村暢伴, S. Uribe, 荻博次, 平尾雅彦, “電磁超音波センサによるSH 板波のモード変換を利用したパイプの減肉検査”, J. N. D. I, vol.58, no.10, 2009, pp.452-458. [3] 社団法人 日本非破壊検査協会, “ガイド波を用いたパルス反射法による配管の探傷試験方法通則”, NDIS 2427, 2010. [4] D. C. Gazis, “Three-dimensional Investigation of the Propagation of Waves in Hollow Circular Cylinders. 1. Analytical Foundation”, J. Acoust. Soc. Am 35(5), 1959,“ “L モードガイド波による配管減肉の位置と深さ推定.. “ “中島 大岳,Hirotaka NAKAJIMA,古澤 彰憲,Akinori FURUSAWA,小島 史男,Fumio KOJIMA
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