東海再処理施設における分析設備の保守
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カテゴリ: 第11回
1.緒言
東海再処理施設の主な工程は、ウラン・プルトニウム 分離精製工程、MOX 粉末製造工程、高レベル廃液ガラス 固化工程等から構成されている。各工程における分析業 務は、運転状況を把握するための工程管理分析や核物質 の計量管理分析など、様々な目的に応じて実施されてい る。 作業は、分析試料の放射能量や性状に応じ、設備 の異なる分析室にて実施しており、高放射性試料分析用 のセルライン設備、低放射性試料分析用のグローブボッ クス設備、極低レベル試料分析用のヒュームフード設備 などがある。これらの設備は使用開始から長いもので37 年が経過しており、日々の保全管理の重要性は年々高ま っている。また、近年では、2011年の東北地方洋沖 地震発生後の設備の健全性確認も実施しており、新たな 保全形態に対応してきている。本報告では、これまで実施してきた多種多様な分析設 備する保全実績として、幾つかの作業実例を報告す る。
2.保全形態の考え方
設備保全を形態別に区分すると、予防保全と事後保全 に大別される。 予防保全は、日常的な巡視点検や定期的な点検・検査 の結果に基づいた設備の状況把握によって実施してい るものと、過去の運転実績から耐用年数や耐用時間を定 め、計画的に実施しているものがある。 事後保全は、設備に不具合が生じた後に、施設に与え る影響、作業に必要とされる期間、要員などを考慮しな がら実施している。 本来、トラブル予防の観点から予防保全が望ましいが、 放射性物質を取扱うという特殊性の観点から予防保全 と事後保全の形態を状況に応じて適用している。 以下に主だった保全機器と形態を述べる。 (1)分析機器 ・予防保全(日常保全、予知保全):各機器の特徴に 合わせた点検整備(日毎、2~12回/年) ・事後保全:部品の交換、制御機器の修正 (2)分析セル・グローブボックス ・予防保全(日常保全):負圧、表面線量率、グロー 連絡先:鈴木 久規 〒319-1101茨城県那珂郡東海村村松4-33 日本原子力研究開発機構 ブ汚染検査及び定期交換 ・事後保全:筐体の経年劣化、線量上昇による更新 (3)ヒュームフード 核燃料サイクル工学研究所 ・予防保全:風向量確認 E-mail: suzuki.hisanori@jaea.co.jp (4)マニピュレーター ・予防保全:作動点検 - 214 - ・事後保全:機器破損による交換 (5)換気設備(フィルター) ・予防保全:線量確認、圧力損失 ・予防保全:線量上昇による更新 ・予防、事後保全:ビニルバッグの交換 (6)配管 ・予防保全:外観、肉厚、線量 ・事後保全:腐食、孔食、変形、漏えい (7)気送管設備(試料移送) ・予防保全:線量確認 ・事後保全:線量上昇による更新 (8)建屋 ・予防保全:外観確認 ・事後保全:コンクリートのひび割れ、剥離・ 剥落、扉の腐食 3.保全実績の紹介 本報告では代表として分析セル関連作業、グローブボ ックス関連作業、建屋関連作業、震災後に係る作業につ いて紹介する。 3.1 分析セルインナーボックスの更新作業 (1)概要 分析セルラインは、使用済み燃料の溶解液など核分裂 生成核種が多く含まれる高線量試料を取り扱う設備で ある。構成は、閉じ込め機能を有したインナーボックス の周りを鉛遮へい体が覆っており、分析作業は、マニピ ュレータによる遠隔操作となる。本工事では、高放射性 分析試料室分析セルライン(図1)に設置されている老 朽化した塩化ビニル製インナーボックスをステンレス 製のインナーボックスに更新した。 図1 分析セルライン 搬出容器 図3 インナーボックス撤去概略図 この作業で重要となることは、高線量環境下における 作業員への被ばくである。作業員の被ばくを抑えるため 作業時間を厳密に制限した。併せて作業員は鉛材の防護 具を着用した。 - 215 - (2)作業内容 図2にインナーボックス更新作業フロー概略を示す。 インナーボックス除染 グリーンハウス設営 模擬インナーボックスに よる寸法確認 旧インナーボックス撤去 使用前検査受験 マニピュレータ、上部遮 へい体、ユーティリティー 設備の復旧 新インナーボックス据え 付け復 旧 グリーンハウス解体 マニピュレータ、上部遮 へい体、ユーティリティー 設備の復旧 図2 インナーボックス更新作業フロー 作業箇所は、汚染の拡散を防止するためグリーンハウ スで覆う(4m×4m×4m)。また、この中は負圧が担保 されるよう、排気設備を設け、汚染レベルの低い方から 汚染レベルが高い方向へ空気の流れを起こし、閉じ込め 機能を高めている(図3)。 インナーボックス(1m×1m×1m)は、グリーンハウ スに取付けた手動式チェーンブロックにより遮へいセ ルから引き上げ、遮へいセル前面に用意した搬出容器に 搬入し撤去した。 新規インナーボックスの取り付けは、本設する前にイ ンナーボックスを固定する受け座や廃水口との寸法位 置が正確であることの確認を行うため、実寸を模擬した テンプレートを据え付け、設計と現状寸法との誤差の確 認を行った。模擬ボックスにより得られたデータは、新 規インナーボックスの加工に反映した。 フィルター ファン グリーンハウス インナーボックス空気流線廃水口 遮へいセル インナーボックス 発生のリスクが高く、グリーンハウス等の汚染拡大防止 インナーボックス本体の線量を低減するために、更新 作業前に内部の除染(洗浄)を行った。特に線量が高い の対策が望ましい。しかし、設置されている場所は、高 底面や廃水口の部分は除染液を一定時間浸漬させ除染 所や狭小空間であり、グリーンハウスの設置は困難であ 後の線量を約1/20に低減させた(図4)。また、撤去作 る。このような状況を踏まえ、本報告ではこのフィルタ 業時には、廃水口を遮へい材(鉛)で覆い、付近の空間 交換作業を安全に且つ小規模な作業体制で実施した作 線量を下げることや直接対象物に触れないよう遠隔工 業手順を紹介する。 具を利用し被ばくの低減を図った。 これらの作業は、長年メーカー請負にて実施してきた 排 気 フ ィ ル タ が、近年では、施設従業員による作業分担も取り込み、 工事コストの削減と経験からの技術の習得・知見拡大に 努めている。 1 0 0 908070線 量 線60量低下5040率30% 20100図5 グローブボックス概略図 0回目 1回目 2回目 3回目 4回目 除染回数 (2)作業内容 作業フローを図6に示す。 図4 除染による線量低下率 新フィルタと排気ダクト接続ビ ニルバッグの取付及び旧ビニ (3)所要日数と人工数 ルバッグ撤去 所要日数は、準備作業(遮へい体及び付帯機器の撤去 等)に 20 日、インナーボックスの撤去・据え付けに 20 日を要し、復旧を含め全体で50 日である。 作業員の人工数は700 人工(準備:200 人工+インナ ーボックス交換:400人工+復旧:100人工)である。被 ばくの低減を優先した作業方法のため工期、人工数共に 多くなっている。 3.2 グローブボックス排気フィルタの交換作業 (1)概要 グローブボックスは、低放射性分析試料を取扱う設備 であり、施設内で最も多い設備である。この内部は、給 気系統と排気系統からなる換気を行っており、グローブ ボックス内部を設置室の気圧より300Pa程低い負圧状態 に保ち、閉じ込め機能を高めている。また、グローブボ ックス内の放射性物質は高性能エアフィルタで捕集し、 環境への放出を防いでいる(図5)。 このエアフィルタは、日常管理として表面線量率の測 定とフィルタ前後に生じる差圧値から目詰まり度合を 確認しており、定期的にフィルタ本体の交換を実施して いる。放射性物質を捕集したフィルタの交換作業は汚染 1旧フィルタと排気ダクト接続ビ ニルバッグの切り離し 42旧フィルタ撤去 5 3新フィルタ取付 接続ビニルバッグ 完 了 溶着線3本中心線から切断 1ダクト 旧フィルタ 排気ダクトとフィルタを接続しているビニルバッグを高周 波シーラーにて溶着線をつくり切断する。 旧フィルタ 2ダクト 撤 去 フィルタ左右のビニルバッグを切り離し、旧フィルタを撤去 する。 旧ビニルバッグを撤去 3新フィルタと接続用新ビニルバッグ(手付)を取付ける。 - 216 - 新フィルタ 右も同じ 本工事では、幾つかの条件を満たすため、扉の屋外側 4右も新フィルタ 同じ に一時管理区域を設定し、外部との間仕切りとなる仮設 部屋を設け、この室内で扉の更新を実施した。 溶着し切断 旧ビニルバッグを撤去 新ビニルバッグに手を入れ、旧ビニルバッグをダクトから 引き出す。不要となる手形部分と旧ビニルバッグを切り 離す。 5ダクト 新フィルタ 接続バッグ 全体の取り付け状態を確認し作業完了となる。 図6 作業フローと図解 ビニルバッグを介して行うこの方法は、当該部の気密 を維持した状態(?汚染防止)で簡便に実施できるため、 少ない作業日数、低コスト、省スペース、少人数で対応 できる作業性に優れた方法である。 一方、フィルタの交換周期は従来、経年劣化の有無に 係わらず、5年毎の交換を目安としているが、実際には フィルタ差圧、表面線量率に変化はなく、健全なものが 多い。分析施設以外では、構成部材の経年劣化を考慮し て 10 年を交換周期としている場合もある。そこで、フ ィルタ本体の性能劣化が見られず、且つ接続バッグに変 色や硬化等の異常が生じていない場合には、点検結果 (差圧・表面線量率上昇の有無)を反映して交換時期を 延長している。 (3)所要日数と人工数 本作業は、準備を含め2日(交換作業0.5日)で完了 し、5人工/日で10人工である。汚染物を取扱うメンテ ナンスとしては、小規模の作業で実施可能である。 3.3 非常用扉の更新作業 (1)概要 管理区域には、異常時に直接屋外へ退避できるよう、 図7のような非常用扉を数ヶ所に設けている。このうち 海岸からの風の影響を受け易い扉に塩害腐食が発生し、 更新が必要であった。 この扉は、管理区域と非管理区域(屋外)の境界に位置 するため、工事期間中、管理区域の雰囲気を屋外へ晒す ことを防止することや建屋換気(負圧)状態を常に維持 する必要があった。また、当該扉の役目である非常時の 退避口としての機能も維持しなければならなかった。 更新扉 汚染検査エリア 更衣 エリア 図8 作業フローと作業エリア概略図 撤去した扉は、両開きタイプで内部に遮へい鉛を含め ており、重量は 1.6tであった。撤去は、重機の搬入が 困難であったため、細断により外板と鉛を取り崩して行 った。新規扉は、狭いスペースでの取り付けを可能とす るために鉛量の低減で軽量化(0.3t)を図り、小型玉 掛け用具で吊り上げ、取り付けを行った。 なお、鉛低減後の管理区域境界の実効線量基準値(< 1.3mSv/3ヶ月)は、更新工事後も十分に担保してい る。 - 217 - 図7 非常用扉外観 (2)作業内容 作業フロー及び作業エリアの概略を図8に示す。 屋外仮設間仕切り部屋の設置 旧扉の外板撤去 屋外仮設間仕切り部屋内養生 屋内グリーンハウスの設置 屋外部屋の一時管理区域設定 屋外部屋の一時管理区域設定 一時管理区域 (仮設部屋) グリーン ハウス 枠部の整備 扉の交換 補修塗装 試験・検査 一時管理区域解除 仮設間仕切り部屋及びグリーン ハウス解体 更新扉 管理区域 (グリーンハウス) 管理区域 一時管理区域 屋(仮設部屋) 外 屋内 (3)一時管理区域の放射線管理 本作業の一時管理区域は、汚染発生の可能性が極めて 低いエリアである。一方、建屋側の管理区域は、既存の 分析設備があるため、汚染発生の可能性が高い。よって、 扉を境界に作業班を分別し、両エリアを作業者及び物品 が往行しないように管理し、汚染の拡散防止を図った。 結果として、作業を通して、両エリア共、汚染の発生 はなかったが、厳重な汚染管理により、作業を円滑に進 めることができた。 (4)所要日数と人工数 所要日数は 17 日、人工数は、平均 8 人工/日で 136 人工であった。この作業は、扉を境に管理区域側と一時 管理区域側作業を分担したことで、作業日数及び人工数 共、効率的に進めることができた。 3.4 東北地方太平洋沖地震後の設備健全性の確認 (1)概要 平成23年東北地方太平洋沖地震発生に伴い、分析設備 への影響を確認した。 地震直後の点検では、分析セル、グローブボックス等 の負圧、汚染の有無を確認し、異常は認められなかった。 その後、対象設備の細部に渡る健全性を確認するため、 各設備毎の点検要領を策定し点検を実施した。 点検対象は、グローブボックス、分析セルライン(イ ンナーボックス含む)、ヒュームフード、配管等であり、 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律 に基づく「再処理施設及び工事の方法の認可」に該当す るものとした。 点検方法は、地震による設備の損傷形態を整理した上 で、点検方法を機種毎に選定した。これを基に各機種の 部品構成、使用状況等を考慮し実施する点検項目を選定 した。その例を図9に示す。 機種の中で同類の仕様が多数存在する配管類について は、設計仕様、使用条件等を考慮し代表を選定して点検 を実施した。また、設置状況や被ばくの影響等により設 備全体やその一部について、点検の実施が困難な設備に ついては、代替設備、または代替部位の点検により評価 した。 マニピュレータ 鉛ガラス 図10 分析セル点検箇所 対象 要求機能 要 因 現 象 損失機能 損失形態 分析セル(A) 遮へい ライン 遮へい体の 損傷 接続ボルトの損傷 インナーボックス インナーボックス 本体応答過大 基礎ボルト応力過大 基礎ボルトの損傷 (A) 1基礎ボルトの損傷 本体応答過大 基礎ボルト応力過大 基礎ボルトの損傷 (A) 1基礎ボルトの損傷 脚応力過大 脚の損傷 脚応力過大 脚の損傷 接続ボルト応力過大 接続ボルトの損傷 本体応力過大 本体の損傷 付属品応答過大 付属品応力過大 付属品の損傷 (A) (A) (A) (A) (A) (A) (A) (A) (A) 2脚の損傷“ “東海再処理施設における分析設備の保守 “ “鈴木 久規,Hisanori SUZUKI,永山 哲也,Tetsuya NAGAYAMA,堀籠 和志,Kazushi HORIGOME,石橋 篤,Atsushi ISHIBASHI,北尾 貴彦,Tahiko KITAO,駿河谷 直樹,Naoki SURUGAYA
東海再処理施設の主な工程は、ウラン・プルトニウム 分離精製工程、MOX 粉末製造工程、高レベル廃液ガラス 固化工程等から構成されている。各工程における分析業 務は、運転状況を把握するための工程管理分析や核物質 の計量管理分析など、様々な目的に応じて実施されてい る。 作業は、分析試料の放射能量や性状に応じ、設備 の異なる分析室にて実施しており、高放射性試料分析用 のセルライン設備、低放射性試料分析用のグローブボッ クス設備、極低レベル試料分析用のヒュームフード設備 などがある。これらの設備は使用開始から長いもので37 年が経過しており、日々の保全管理の重要性は年々高ま っている。また、近年では、2011年の東北地方洋沖 地震発生後の設備の健全性確認も実施しており、新たな 保全形態に対応してきている。本報告では、これまで実施してきた多種多様な分析設 備する保全実績として、幾つかの作業実例を報告す る。
2.保全形態の考え方
設備保全を形態別に区分すると、予防保全と事後保全 に大別される。 予防保全は、日常的な巡視点検や定期的な点検・検査 の結果に基づいた設備の状況把握によって実施してい るものと、過去の運転実績から耐用年数や耐用時間を定 め、計画的に実施しているものがある。 事後保全は、設備に不具合が生じた後に、施設に与え る影響、作業に必要とされる期間、要員などを考慮しな がら実施している。 本来、トラブル予防の観点から予防保全が望ましいが、 放射性物質を取扱うという特殊性の観点から予防保全 と事後保全の形態を状況に応じて適用している。 以下に主だった保全機器と形態を述べる。 (1)分析機器 ・予防保全(日常保全、予知保全):各機器の特徴に 合わせた点検整備(日毎、2~12回/年) ・事後保全:部品の交換、制御機器の修正 (2)分析セル・グローブボックス ・予防保全(日常保全):負圧、表面線量率、グロー 連絡先:鈴木 久規 〒319-1101茨城県那珂郡東海村村松4-33 日本原子力研究開発機構 ブ汚染検査及び定期交換 ・事後保全:筐体の経年劣化、線量上昇による更新 (3)ヒュームフード 核燃料サイクル工学研究所 ・予防保全:風向量確認 E-mail: suzuki.hisanori@jaea.co.jp (4)マニピュレーター ・予防保全:作動点検 - 214 - ・事後保全:機器破損による交換 (5)換気設備(フィルター) ・予防保全:線量確認、圧力損失 ・予防保全:線量上昇による更新 ・予防、事後保全:ビニルバッグの交換 (6)配管 ・予防保全:外観、肉厚、線量 ・事後保全:腐食、孔食、変形、漏えい (7)気送管設備(試料移送) ・予防保全:線量確認 ・事後保全:線量上昇による更新 (8)建屋 ・予防保全:外観確認 ・事後保全:コンクリートのひび割れ、剥離・ 剥落、扉の腐食 3.保全実績の紹介 本報告では代表として分析セル関連作業、グローブボ ックス関連作業、建屋関連作業、震災後に係る作業につ いて紹介する。 3.1 分析セルインナーボックスの更新作業 (1)概要 分析セルラインは、使用済み燃料の溶解液など核分裂 生成核種が多く含まれる高線量試料を取り扱う設備で ある。構成は、閉じ込め機能を有したインナーボックス の周りを鉛遮へい体が覆っており、分析作業は、マニピ ュレータによる遠隔操作となる。本工事では、高放射性 分析試料室分析セルライン(図1)に設置されている老 朽化した塩化ビニル製インナーボックスをステンレス 製のインナーボックスに更新した。 図1 分析セルライン 搬出容器 図3 インナーボックス撤去概略図 この作業で重要となることは、高線量環境下における 作業員への被ばくである。作業員の被ばくを抑えるため 作業時間を厳密に制限した。併せて作業員は鉛材の防護 具を着用した。 - 215 - (2)作業内容 図2にインナーボックス更新作業フロー概略を示す。 インナーボックス除染 グリーンハウス設営 模擬インナーボックスに よる寸法確認 旧インナーボックス撤去 使用前検査受験 マニピュレータ、上部遮 へい体、ユーティリティー 設備の復旧 新インナーボックス据え 付け復 旧 グリーンハウス解体 マニピュレータ、上部遮 へい体、ユーティリティー 設備の復旧 図2 インナーボックス更新作業フロー 作業箇所は、汚染の拡散を防止するためグリーンハウ スで覆う(4m×4m×4m)。また、この中は負圧が担保 されるよう、排気設備を設け、汚染レベルの低い方から 汚染レベルが高い方向へ空気の流れを起こし、閉じ込め 機能を高めている(図3)。 インナーボックス(1m×1m×1m)は、グリーンハウ スに取付けた手動式チェーンブロックにより遮へいセ ルから引き上げ、遮へいセル前面に用意した搬出容器に 搬入し撤去した。 新規インナーボックスの取り付けは、本設する前にイ ンナーボックスを固定する受け座や廃水口との寸法位 置が正確であることの確認を行うため、実寸を模擬した テンプレートを据え付け、設計と現状寸法との誤差の確 認を行った。模擬ボックスにより得られたデータは、新 規インナーボックスの加工に反映した。 フィルター ファン グリーンハウス インナーボックス空気流線廃水口 遮へいセル インナーボックス 発生のリスクが高く、グリーンハウス等の汚染拡大防止 インナーボックス本体の線量を低減するために、更新 作業前に内部の除染(洗浄)を行った。特に線量が高い の対策が望ましい。しかし、設置されている場所は、高 底面や廃水口の部分は除染液を一定時間浸漬させ除染 所や狭小空間であり、グリーンハウスの設置は困難であ 後の線量を約1/20に低減させた(図4)。また、撤去作 る。このような状況を踏まえ、本報告ではこのフィルタ 業時には、廃水口を遮へい材(鉛)で覆い、付近の空間 交換作業を安全に且つ小規模な作業体制で実施した作 線量を下げることや直接対象物に触れないよう遠隔工 業手順を紹介する。 具を利用し被ばくの低減を図った。 これらの作業は、長年メーカー請負にて実施してきた 排 気 フ ィ ル タ が、近年では、施設従業員による作業分担も取り込み、 工事コストの削減と経験からの技術の習得・知見拡大に 努めている。 1 0 0 908070線 量 線60量低下5040率30% 20100図5 グローブボックス概略図 0回目 1回目 2回目 3回目 4回目 除染回数 (2)作業内容 作業フローを図6に示す。 図4 除染による線量低下率 新フィルタと排気ダクト接続ビ ニルバッグの取付及び旧ビニ (3)所要日数と人工数 ルバッグ撤去 所要日数は、準備作業(遮へい体及び付帯機器の撤去 等)に 20 日、インナーボックスの撤去・据え付けに 20 日を要し、復旧を含め全体で50 日である。 作業員の人工数は700 人工(準備:200 人工+インナ ーボックス交換:400人工+復旧:100人工)である。被 ばくの低減を優先した作業方法のため工期、人工数共に 多くなっている。 3.2 グローブボックス排気フィルタの交換作業 (1)概要 グローブボックスは、低放射性分析試料を取扱う設備 であり、施設内で最も多い設備である。この内部は、給 気系統と排気系統からなる換気を行っており、グローブ ボックス内部を設置室の気圧より300Pa程低い負圧状態 に保ち、閉じ込め機能を高めている。また、グローブボ ックス内の放射性物質は高性能エアフィルタで捕集し、 環境への放出を防いでいる(図5)。 このエアフィルタは、日常管理として表面線量率の測 定とフィルタ前後に生じる差圧値から目詰まり度合を 確認しており、定期的にフィルタ本体の交換を実施して いる。放射性物質を捕集したフィルタの交換作業は汚染 1旧フィルタと排気ダクト接続ビ ニルバッグの切り離し 42旧フィルタ撤去 5 3新フィルタ取付 接続ビニルバッグ 完 了 溶着線3本中心線から切断 1ダクト 旧フィルタ 排気ダクトとフィルタを接続しているビニルバッグを高周 波シーラーにて溶着線をつくり切断する。 旧フィルタ 2ダクト 撤 去 フィルタ左右のビニルバッグを切り離し、旧フィルタを撤去 する。 旧ビニルバッグを撤去 3新フィルタと接続用新ビニルバッグ(手付)を取付ける。 - 216 - 新フィルタ 右も同じ 本工事では、幾つかの条件を満たすため、扉の屋外側 4右も新フィルタ 同じ に一時管理区域を設定し、外部との間仕切りとなる仮設 部屋を設け、この室内で扉の更新を実施した。 溶着し切断 旧ビニルバッグを撤去 新ビニルバッグに手を入れ、旧ビニルバッグをダクトから 引き出す。不要となる手形部分と旧ビニルバッグを切り 離す。 5ダクト 新フィルタ 接続バッグ 全体の取り付け状態を確認し作業完了となる。 図6 作業フローと図解 ビニルバッグを介して行うこの方法は、当該部の気密 を維持した状態(?汚染防止)で簡便に実施できるため、 少ない作業日数、低コスト、省スペース、少人数で対応 できる作業性に優れた方法である。 一方、フィルタの交換周期は従来、経年劣化の有無に 係わらず、5年毎の交換を目安としているが、実際には フィルタ差圧、表面線量率に変化はなく、健全なものが 多い。分析施設以外では、構成部材の経年劣化を考慮し て 10 年を交換周期としている場合もある。そこで、フ ィルタ本体の性能劣化が見られず、且つ接続バッグに変 色や硬化等の異常が生じていない場合には、点検結果 (差圧・表面線量率上昇の有無)を反映して交換時期を 延長している。 (3)所要日数と人工数 本作業は、準備を含め2日(交換作業0.5日)で完了 し、5人工/日で10人工である。汚染物を取扱うメンテ ナンスとしては、小規模の作業で実施可能である。 3.3 非常用扉の更新作業 (1)概要 管理区域には、異常時に直接屋外へ退避できるよう、 図7のような非常用扉を数ヶ所に設けている。このうち 海岸からの風の影響を受け易い扉に塩害腐食が発生し、 更新が必要であった。 この扉は、管理区域と非管理区域(屋外)の境界に位置 するため、工事期間中、管理区域の雰囲気を屋外へ晒す ことを防止することや建屋換気(負圧)状態を常に維持 する必要があった。また、当該扉の役目である非常時の 退避口としての機能も維持しなければならなかった。 更新扉 汚染検査エリア 更衣 エリア 図8 作業フローと作業エリア概略図 撤去した扉は、両開きタイプで内部に遮へい鉛を含め ており、重量は 1.6tであった。撤去は、重機の搬入が 困難であったため、細断により外板と鉛を取り崩して行 った。新規扉は、狭いスペースでの取り付けを可能とす るために鉛量の低減で軽量化(0.3t)を図り、小型玉 掛け用具で吊り上げ、取り付けを行った。 なお、鉛低減後の管理区域境界の実効線量基準値(< 1.3mSv/3ヶ月)は、更新工事後も十分に担保してい る。 - 217 - 図7 非常用扉外観 (2)作業内容 作業フロー及び作業エリアの概略を図8に示す。 屋外仮設間仕切り部屋の設置 旧扉の外板撤去 屋外仮設間仕切り部屋内養生 屋内グリーンハウスの設置 屋外部屋の一時管理区域設定 屋外部屋の一時管理区域設定 一時管理区域 (仮設部屋) グリーン ハウス 枠部の整備 扉の交換 補修塗装 試験・検査 一時管理区域解除 仮設間仕切り部屋及びグリーン ハウス解体 更新扉 管理区域 (グリーンハウス) 管理区域 一時管理区域 屋(仮設部屋) 外 屋内 (3)一時管理区域の放射線管理 本作業の一時管理区域は、汚染発生の可能性が極めて 低いエリアである。一方、建屋側の管理区域は、既存の 分析設備があるため、汚染発生の可能性が高い。よって、 扉を境界に作業班を分別し、両エリアを作業者及び物品 が往行しないように管理し、汚染の拡散防止を図った。 結果として、作業を通して、両エリア共、汚染の発生 はなかったが、厳重な汚染管理により、作業を円滑に進 めることができた。 (4)所要日数と人工数 所要日数は 17 日、人工数は、平均 8 人工/日で 136 人工であった。この作業は、扉を境に管理区域側と一時 管理区域側作業を分担したことで、作業日数及び人工数 共、効率的に進めることができた。 3.4 東北地方太平洋沖地震後の設備健全性の確認 (1)概要 平成23年東北地方太平洋沖地震発生に伴い、分析設備 への影響を確認した。 地震直後の点検では、分析セル、グローブボックス等 の負圧、汚染の有無を確認し、異常は認められなかった。 その後、対象設備の細部に渡る健全性を確認するため、 各設備毎の点検要領を策定し点検を実施した。 点検対象は、グローブボックス、分析セルライン(イ ンナーボックス含む)、ヒュームフード、配管等であり、 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律 に基づく「再処理施設及び工事の方法の認可」に該当す るものとした。 点検方法は、地震による設備の損傷形態を整理した上 で、点検方法を機種毎に選定した。これを基に各機種の 部品構成、使用状況等を考慮し実施する点検項目を選定 した。その例を図9に示す。 機種の中で同類の仕様が多数存在する配管類について は、設計仕様、使用条件等を考慮し代表を選定して点検 を実施した。また、設置状況や被ばくの影響等により設 備全体やその一部について、点検の実施が困難な設備に ついては、代替設備、または代替部位の点検により評価 した。 マニピュレータ 鉛ガラス 図10 分析セル点検箇所 対象 要求機能 要 因 現 象 損失機能 損失形態 分析セル(A) 遮へい ライン 遮へい体の 損傷 接続ボルトの損傷 インナーボックス インナーボックス 本体応答過大 基礎ボルト応力過大 基礎ボルトの損傷 (A) 1基礎ボルトの損傷 本体応答過大 基礎ボルト応力過大 基礎ボルトの損傷 (A) 1基礎ボルトの損傷 脚応力過大 脚の損傷 脚応力過大 脚の損傷 接続ボルト応力過大 接続ボルトの損傷 本体応力過大 本体の損傷 付属品応答過大 付属品応力過大 付属品の損傷 (A) (A) (A) (A) (A) (A) (A) (A) (A) 2脚の損傷“ “東海再処理施設における分析設備の保守 “ “鈴木 久規,Hisanori SUZUKI,永山 哲也,Tetsuya NAGAYAMA,堀籠 和志,Kazushi HORIGOME,石橋 篤,Atsushi ISHIBASHI,北尾 貴彦,Tahiko KITAO,駿河谷 直樹,Naoki SURUGAYA